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賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒
ネイバー編

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第33話   帰郷






リタは奈緒を抱えて、瓦礫の街を抜けていった。



共に過ごした焔荘は、跡形もない。



わずかに残った訓練場も、地肌が抉れ灰や瓦礫が埋め尽くしていた。









王宮は、ヴァイリアの攻撃から逃れていた。




建物にかけられた強力な魔法で、かろうじて損壊しなかったのだ。





生存者は皆、王宮の広大な土地と有り余る部屋に迎え入れられ難民生活を行っていた。






そんな凄惨な街の様相を横目に、仮設テントに戻ったリタは奈緒を休ませた。









隣に座って一息つく。



傷が残った腹部をさすり、ズキンズキンと刺すような痛みを堪えた。






眠った奈緒の顔を、リタは寂しそうに見つめた。





もし――




もし、そのナオの価値の証明




ナオが、ナオたらしめる意味に





アタシも入っているのなら





いつかアタシも......










そうならない為に、守らなくちゃな。







いや。何言ってんだか。






「守る......か。っふ」




リタは下を向いてほくそ笑んだ。





何を守るって?





ナオの大切なものを守れなかったアタシが、




今更何ができるというんだ





アンセルと奈緒が笑い合う姿が脳裏を回った。




唇を強く噛み締めた。




強すぎた魔王




強大な力の前に、なす術なく、その場に座り込んだ




腸が出てくるのを恐れて



いや単に怖かったんだ






あの、魔王が









リタの膝に雫がポタリと落ちる。







「ごめんな...... ナオ。アタシ、何にも出来なかったよ」






膝の上で、拳を強く握った。





「アンタの隣にいる資格が、






                アタシにあるかな?」





震える唇で、誰にも聞こえないような声を溢した。






アンタを故郷に連れて行く。





それまでは......頑張るよ







隙間風が通り抜けるテントの中、二人は静かに過ごした。









翌日、早速出発した二人。




奈緒の表情は未だ冴えなかった。




あらゆる疑問、疑念、喪失感、そして憎しみ。




ぐちゃぐちゃな心でも、とりあえず平静を保てているのは、奈緒の強さのひとつだろう。






馬車の中で静かな時が流れる。





「道は、覚えているか?」




「うん、ここは覚えているよ」




「やっぱりサカさんに関する部分だけが、消えてるみたいだな」




「本当にそうみたいだね」




奈緒はそういうと、肩掛けのバッグの中から、一冊の本を取り出した。





「これ、アタシがつけてる日記なんだけどね」




ページを見開いて見せる。




「サカっていう人は、しっかりと書いてあるんだ」




奈緒をじっと見つめてリタは聞いた。


「それを毎日書いていたんだな。珍しい表紙だな。どこで買ったんだ?」




「え? えっと...... あれ? 思い出せないな。どこだろう」





日記をまじまじと眺めて、そう言った。






そんなこんなの会話をしていると、あっというまに見えてきた。




賑やかな街道。トライ村。



馬車は止まり、二人は降り立った。






「わぁ。流石に懐かしいな。覚えてる」




奈緒は少し、嬉しそうな顔をして、商店街を回った。



リタもそれをみて微笑んだ。






「お、おい。アンタ、ナオちゃんかい?」



村人が奈緒に話しかけた。



「ええ。お久しぶりです。魚屋のおばちゃん」




「うそ! 本当にナオちゃんだ! みんな! サカんところの娘が帰ってきたよ!」



「うお! まじか! うお! デカくね!?」


「なんかまた美人になってないか?!?」


「モデルさんじゃん!」


ゾロゾロと集まり始めると、奈緒はすぐに囲まれた。




「皆さん、お元気でしたか?」



まだ強張りの取れない笑顔で、奈緒は言った。



「あれ、なんだこの白髪の、彫刻のような美人は」


「天からの使いか?」





げ。



アタシのことだろうか......



リタの周りにもゾロゾロと集まると、絵画を見るように眺める人々。



「すごいな。なんだか情熱を感じる」


「熱意の中に、どこか暗い過去を感じるような......」



......どういう観察眼をしてるんだコイツらは。




「こちらはリタ。私の同僚。ていうか親友」



奈緒は微笑むとリタの肩に手を触れて言った。



「おい......」


リタは頬を赤らめた。






「なんだ! なんの騒ぎだ! ん? ドゥワ! 」



聞き覚えのある人をイラつかせる鼻にかかった声が聞こえた。




「お前...... ナオか? こっちにも美女が...... 一体なんだお前らは! ウチで働け! 今の10倍給料をやる」



また護衛を連れて道に真ん中を偉そうに歩いてきたカンに、


「わー久々みたー。カンだ」


と奈緒は感情なく言った。




「おい! 聞いているのか! 白髪の褐色の女。お前は俺の側近にしてやろう」



リタはギロリと睨む。



「なんだこの豚は。礼儀も知らんのか」





「ぶ、ぶた......」



カンは、魂を体から抜かした。



「貴様! カン様に向かって偉そうな口を!」



護衛の男達が、リタはの周りを囲んでいきむ。



「ほらもーやめときなさいよ。アンタ達じゃ百年かかっても傷一つつけられないわよ」



奈緒はリタと男達の間に自然に割って入ると、リタを連れてその場を離れた。




「ナオちゃん。さっさと、サカんとこいってやんな」




「はい」




魚屋のおばちゃんにそう返して、歩いて行った。





数分歩いて、街道の終わりが見え始めた頃、また村人に話しかけられた奈緒。




「奈緒......か? 奈緒だよな。どうしてここに?」



「あ、お久しぶりです。いろいろあってですね......」




駆け足で近寄ってくると、その男は懐かしそうに奈緒を見た。



「ほんと久しぶりだな! 元気だったか!」




「はい! 元気でした! えーっと、すいません、少し急いでいて......」



その村人の名前を思い出せなかった奈緒はその場を離れようとした。




「え? も、もういくのかい?」



何かを察したリタは声をかける。




「もしかして、貴方がサカ、さんですか?」




「あ、ああ。俺はサカだけど......」



困惑した表情のサカを見て、リタは悲しそうな顔で言った。









        「お話が、あります」

















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