第26話 伯仲
生温い風が肌に張り付いて、ビリビリと刺すような緊張感が漂う。
ラミアはそこに立ったまま、こちらの動向を伺う。
――こっちの攻撃をそのまま返される。迂闊に攻撃すれば手数を与えてしまう。
考えながら歩き、ラミアを囲む奈緒、ノクトン、ガルマハウンド。
位置についた瞬間、ラミアは高速で懐に入るとガルマハウンドの脇に強烈にミドルキックが刺さる。
吹っ飛んでいくガルマハウンド。ノクトンは木の檻を生成しラミアを覆った。
檻の大きさを徐々に狭めていき、身動きが取れないようしていったが、腕力のみで木を粉砕。
悠々と外に出た。
奈緒は俊足で近づくと、ラミア目掛けて拳を振り上げる。
しかしそのまま攻撃が帰ってくることを予感し、手を一瞬緩めた。
ラミアは、その隙に気づくと、瞬間的に奈緒を全力で殴りつけた。
奈緒は軽く後方へ下がったが、大きなダメージを受けなかった。
攻撃したはずの腕が逆に震え、ラミアは呟く。
「......防御力もケタハズレだな」
体勢を立て直した奈緒は思考する。
――埒があかない。こっちも向こうも攻撃が決めてに欠ける。
その時、奈緒の足元の地面が動く。
木の根がニョロニョロと動き、攻撃を警戒していると、根は地表で動きを止め、文字を書いた。
『 ど う す る ? 』
ノクトンの方を見ると奈緒をまっすぐに見ている。
奈緒は苛立った。
――普通に話せ!
でも、本当にそう。
どうすれば、勝てる?
当てても良い攻撃は、正直ノクトンか私のものだけ。
避けなきゃいけないのは、私の“全力”とガルマハウンドの“火”
特に火は、反転されたらほぼ終わり。
木属性のノクトンにあたれば、なす術がない。
どうすれば......
その時、巨大な拳が頭上から降ってきた。
「アンタまだ......」
「潰れろカスがあああああ!」
奈緒に直撃し地響きを起こすキーナの拳。
「くだらない麻痺魔法なんかかけやがって。そんなもん効くかよ」
キーナは空中から奈緒を押しつぶしたまま言う。
その巨大な拳が徐々に持ち上がる。
「アンタに構ってる暇ないのよこっちは!」
奈緒は半ギレで拳を掴んで持ち上げると円を書いて回し始める。
キーナは、そのまま空中でぐるぐる回り続ける。
「やめろおおおおおおお!」
奈緒は遠心力をそのままに、地面に叩きつけた。
地割れが広範囲に広がっていく。
キーナは一瞬意識が飛ぶが、なんとか意識を保ち、立ち上がってラミアの隣まで戻る。
「クソ! アイツの身体どうなってんの!?」
キーナは荒い呼吸をする。
ラミアは黙って何も言わない。
「やっぱりダメだ。このグローブの備え付きの魔法じゃ、強敵には全然効かない。なんか、アイツらの身体、魔力で覆われてる気がする......」
奈緒がそういうと、また地面の根が動く。
「 ⭕️ 」
「腹立つからやめてそれ!」
「 強い奴 魔力を纏って 身体を守る 」
「うん。そうみたいだね」
「 ボク たくさん 攻撃 する。 ラミア ボクの魔法 使ってくる 気をつけて」
「うん、わかった」
ガルマハウンドの足元にも同様の根っこが出ていた。
ノクトンは無数の木の枝を生成し、ラミアとキーナを一斉に攻撃し始めた。
ラミアとキーナは飛び出し、交わす。
ラミアは避けると同時に木に触れて、反転魔法を使い、同じ木の攻撃で3人を襲った。
奈緒たちも次々と襲ってくる木を避ける。
キーナは木を避けながら、生成された木を駆け上がると、脚を巨大化させガルマハウンドに踵落としを繰り出す。
「まずは犬っころ! テメェからだ!」
ガルマハウンドは木に囲まれ避けようがなく直撃。
「今度こそ殺ったろ! どうだ! ん?」
踵に熱を感じるキーナ。
「あっつ! あっつ!」
キーナは脚を元に戻す。
「はぁ? アイツはアイツでなんなんだよ!」
「奴は幻獣種。体自体が火だ。気をつけろ。アイツは他の魔法をも喰らい自分の力にできるようだ」
「面倒くさアイツら」
そう言った瞬間キーナの全身が火に包まれる。
「ぎゃああああああああああ!」
――そうか! アイツになら火も使える!
奈緒はそう思ったのも束の間、
「言わんこっちゃない」
ラミアはそう言うと、自らキーナに向かって走った!
「まずい火を止めて!」
ガルマハウンドはキーナについた火を急いで消した。
しかしラミアは止まらず、キーナの側に来ると、宙に浮いた残火。
火の粉を、ほんのわずかつかみ取った。
反転は発動した。
そしてその手を奈緒に向ける。
「え? 私――」
一気に発火する奈緒。
燃えたぎる火の中で、奈緒の身体は真っ黒に変わっていった。
一方、王都では。
転移が終わり、視界が広がった時には、虫のように沸く魔物が町中を覆い尽くしてた。
戦慄の表現を浮かべ、人々が逃げ惑う。
「トーマ!」
「約一万! 人間兵が数名! 団長と王宮にはまだ...... いや、なんだ......これ......」
トーマは冷や汗を滲ませる。
「いるんだな! こっちは任せたぞ!」
スイは走り出す。
「気をつけて! なにか...... 異質なものを感じる......」
スイは何も言わずに体を水に変えると、次に蒸発して白い蒸気に変化。そのまま王宮の方へ飛んでいった。
「片付けるぞ! リタ、トポ」
リタは最初からオーバーライドし、弓を形成する。トポは土塊を細かく浮かした。
リタとトポは一斉に弓と瓦礫を放ち、見渡す範囲に見える魔物全ての体を貫いて次々に倒していく。
ランパードとトーマは塔の上に写り全体を把握。
大型の魔物を見つけてはランパードは転移させ、国外遠くへと移していった。
目に馴染んだメイン広場で、リタは眼前の魔物をあらゆる武器で薙ぎ倒していく。
しかし次々と襲われて行く住人達の全てを守り切ることはできない。
昆虫型の魔物に背中を貫かれる人。
ゴブリンに八つ裂きにされる人。
倒れて行く人々を横目に気持ちばかりが焦っていく。
敵はあまりに数が多く、キリがないように思えた。
その時、奥の方で魔物が勝手に倒れていくのが見えた。
「うお!リタだ!」
「本当だ! きてくれたんすね!?」
「お前たち! 無事だったか!」
リタは思わず大声を出した。
現れたのは訓練生の一同だった。
それぞれ武器と鎧を着て、掃討に参加していたらしい。
「いきなり魔物現れるもんだからびっくりした!」
「でもお前がいれば百人力だぜ!」
「ああ。 色々説明したいが後だ! まずはここを凌ぐぞ! 住人を守りきれ!」
「俺たちも手伝うぜ!」
また奥からゾロゾロと来たのは、護衛軍2番隊の兵士達だった。
雷を纏う曲剣が飛んできて、リタの背後の魔物に突き刺さる。
「こんなの前代未聞だぜ。出番だ2番隊! 力を示せ!」
「おおおおおおお!」
ライカの鼓舞で、戦況は覆り始める。
「よし! この数なら!」
リタは気分の高揚を感じた。
訓練生と兵士一同、一丸となり防衛戦に身を賭していく。
王宮に着いたスイ。
体を具現化し、長い廊下を走っていった。
そこの先に見えたのは、ネイバー団長ギルバートとその腹心の兵士。そして、国王、ライブラ・マルチネス。
彼らが鎧の男に歩き詰められている場面だった。
「とまれえええええええ!」
スイは大声を出して手をかざす。
その鎧の男の周囲に、水分が集まると、針のような水の銃弾が、弾け飛び直撃する。
鎧の男はぴたりと動きを止め、ゆっくりと振り返ってスイをみる。
するとスイは動きを止め、心臓が締め付けられるような寒気に襲われた。
「お、お前は......」
鎧の男はただ立ち尽くし、首を傾げた。
「お前...... 魔王......か?」
寒気は強くなる一方だった。
力が抜けていくような感覚。
気づきもしなかった。
足元に広がる自身の大量の血にも。
大きく開いた、腹部の穴にも。
顔面を覆うバシネットの奥には、漆黒の瞳が座っていた。




