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賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒


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第25話   鏖戦




「開戦だ」





空中で全体を見通す。トーマ。



「うーん。怪しいな」


魔力で目を光らせて、怪しむ。



「トポ。一回流してみて」



トポは空中から手をかざし、遥か下の地面から土の大波を引き起こすと、大群に向けて放った。


大群の前衛数万が土に飲み込まれ消え去る。



ネイバーの一同が地面に次々に着地し、眼前一面に散らばる敵兵士に身構えた。




大群の奥の方から魔力の砲撃が無数に飛んでくる。



レッドは炎の巨壁を目の前に出現させ攻撃を燃やし尽くす。



相殺して視界が広がる。



そこには地面に埋もれたはずの敵兵がまたそこに出現していた。



「やっぱり幻術だね。術者は...... 右奥」



ガルマハウンドは、体を変化させ、燃えるような瞳をもつ巨大な犬に変身すると、その方角に敵兵を蹴散らしながら進んでいく。




「トーマが迷うか。かなり精巧な作りの幻術なんだね」





スイはそういうとゆっくりと目を瞑る。





スイの瞼の裏側には、真っ暗な世界に、幻術の兵士に魔力の流れが見える。


その奥に人間であろう兵士の血管の血の流れが浮き彫りになる。



その流れが、ピタリと止まる。



敵兵士は震え出すと、大群の数万の人間兵の腹部からから、切り裂かれたように血液が噴き出す。


そのまま大量の血液が幻術の兵士を、後ろから真横に真っ二つに切断していく。




ネイバーの前で血液は止まると、一点に集まり、そこから血のレーザー何本も射出。



残りの人間兵士を、次々に貫抜いていく。



「スイ。何か焦ってるの?」


トポは静かに聞く。



「...... まぁ、はやく片付けるに越したことはないからね」


スイは目を開け、敵兵が一気に減った戦場を前進する。



ガルマハウンドは、術者を見つけ出すと噛み砕き、放り投げた。




この一連の流れで30万の敵は、一瞬にしてその数を半減させる。



歩いて進むネイバー一同の上空に黒雲が漂うと、バチバチとスパークが光ると、巨大な雷が落下。




スイは、地面から水分を大量に抽出すると、水の防壁で雷を防ぐ。



水は雷を帯電し、上空で渦を巻く。



その渦は敵の上空に移動すると、雷を纏う水の矢となり、敵軍全体に降り注いだ。




敵兵は感電するどころか、強すぎる矢の水圧によって兜や鎧を貫いていく。







もはや立っている敵兵はほとんどいなかった。




荘厳に地を練り歩いていた大群は、いつのまにか、虫の息と化す。




そして、最後尾に悠々と立っている3人の人間が見えた。





「出たね」

トーマはまじまじと見つめる。



「あれがガーマの最強と言われる兵士か」

レッドは首を鳴らす。



「ダイ・ガロウ。風の魔術師。キーナ・マークウェル、巨大化魔術師。そして――」


ランパードは淡々と述べる。



一同が徐々に近づいていくと、その異常な魔力の圧力が一同の魔力とぶつかり合う。



「ラミア・ノート」



黒髪を団子にして結ぶその男は、何事もないようにそこにたったままだ。



大気が震える中、ネイバーとガーマの3人は無言で見つめ合う。




「雑兵じゃ時間稼ぎにもならないな!」



声を荒げてダイはネイバーに叫んだ。




「なぜ蜂起した! 目的はなんだ!」



ランパードも言い返す。



「そんなもの、私たちが知る必要はない!」

キーナは唸るように叫ぶ。



「そうだよね〜」

トーマは項垂れて言う。





「時間が惜しい」


スイは前進を続ける。





「悪いけど、――消えてもらえるかな」





目を見開いて、低いトーンで言う。




その場の全員がゾッとし、ガーマの3人は動きを止める。



その隙にリタと奈緒、ガルマハウンドは連携して飛び出し、3人をそれぞれ攻撃した。



しかし、何が起こったのか、3人の攻撃はそれぞれ自分に返ってきて、後ろに吹き飛ばされた。





「ほう。凄まじい力だな」




ラミアは奈緒の攻撃で痺れた腕を見つめる。


「使わせてもらおうか」



ラミアは奈緒と同様のスピードでスイの目の前にいくと、顔面を思いきり殴りつけた。





「嘘。 スイが“当たる”なんて」



トポが驚いている隙に、ダイは強烈な突風を一同に浴びせ全員を吹き飛ばす。




「調子のんじゃねえぞ!」

レッドは吹き飛ばされながら、ラミアに火をつけ燃やす。



燃え上がるラミア。痛みでもがいているように見えた。



しかしすぐに火は消えた。



「雑魚は黙ってろ」

ラミアがそう言うと、体勢を立て直したばかりのレッドが、燃え出す。




「なに!? ぐあああああああああ!」


レッドは発狂し暴れ狂う。




「ちっ! 」

スイはすぐに水を生み出そうとするが、ラミアがまた現れ、スイの動きを止めると、奈緒のような力で殴り飛ばす。




――これは俺の血液操作魔法だ。攻撃はナオちゃんのもの。





「面倒な魔法使いやがって...... 」



スイは苛立ちを隠せない。






トポは土でレッドを包もうとするが、強風で土を吹き飛ばす。それどころか、大量に送られた酸素によって、レッドの炎はより勢いを増した。



「ぐあああああああああああ......」




徐々にレッドから声が消え、その場に倒れる。



火が消えると、ボロボロの真っ黒な何かがその場に残る。





奈緒とリタは動揺を隠せない。





「貴様ああああああ!」



ランパードは魔法を発動し、ラミアを上空1万メートルへ転移させる。




ラミアは上空で凍り始める体を、弱い炎で包み、地面に向けて落下。




体勢を整えたところで、ランパードの転移魔法を発動し、すぐに地面に戻ってきた。





「な、なんという......」

ランパードは言葉を失う。



膝をついて着陸したラミア。平然と立ち上がる。




「バケモンかよ。こいつ......」


トーマは冷や汗を流して続ける。



「反転魔法...... 自身に受けた攻撃を一時的に自分のものとして使用できる。今の状況から見るに、複数の同時使用が可能...... 制限時間は......」




「2分だ」



ラミアはトーマに言い返すと、転移魔法を発動し、後方にある建物ごと魔法陣で飲み込んだ。



そして建物は消えたが、一向になにも起こらない。





スイはすぐにハッとした。




「これが狙いか......」





「......左様」






スイの予感は的中した。






「ランパード! すぐに転移を始めろ! トーマ、トポ、リタ! 一緒に来い!」




「何処へですか!?」




「王都だ! 」




ランパードは肝を冷やす。





「させるかよ!」

瞬時に巨大化したキーナが、山のような拳をランパードに向かって放つ。


ノクトンは大木を数本生成し、拳をせき止める。




「転移持ちのテメェさえ殺せば、もうライブラは終わりだなんだよ!」




リタはキーナの巨大な拳を駆け上がると、顔面に向けて剣を振り下ろす。


しかしキーナは一瞬で小さくなり、攻撃を避ける。






ガルマハウンドは犬型のまま、レッドの近くで唸り声を上げていた。



ランパードを執拗に攻撃するダイに向かって走り出そうとしたとき、レッドの腕が動いたように見えた。



その掌からは微かな火の灯りが見える。



ガルマハウンドはレッドの匂いを嗅ぎながら、その灯を口に入れると、全身を太陽のように燃え上がらせた。


人と獣の間。獣人にまで形態変化すると、燃え上がる身体で魔力を放出。


獣の叫び声をあげ、そのままダイに突進していった。



「っは! テメェも燃えカスになれや!」



突風を送り、ガルマハウンドの炎の勢いが増す。炎の柱となり天高くまで登ったが、一切苦しむ様子はなくそのままダイの元へ着くと、炎を纏う強烈なボディブローを入れる。



「ぐはあ!」



胃液を吐くダイ。



「オレは幻獣ヘルハウンドの混血だ。火は常に、我と共にある」


そう言ってダイの首を掴むと、その屈強な筋肉で持ち上げる。



「貴様が殺したレッドの火。お前も味わうといい」



ガルマハウンドは、そのまま自身ごと火で包み、ダイを強大な炎で包んだ。


この世のものとは思えない叫び声をあげて、一瞬にしてダイはチリとなった。






「よくもダイを! 貴様ああああ!」


キーナは拳だけを巨大化させてガルマハウンドを上から叩きつけた。


その隙に奈緒はキーナの背後に回る。



「アンタらが殺ったからでしょ」



無表情で奈緒はキーナを殴り飛ばし、遥か向こうまで吹っ飛ばした。






ラミアはスイとの攻防戦を続けていた。




「君しつこいね」


ラミアとスイの体術はほぼ互角だった。


魔法を逆手に取られるため迂闊には使えない。


しかしラミアにはまだランパードの転移のストックが残っている。



殴るように見せかけ、腕の一部を転移させるとスイの後頭部目掛けて、空間に出た魔法陣からパンチを喰らわせる。



拳はスイの頭を貫いた。


その瞬間スイは身体を水に変化させ、ラミアの背後に水が移動するとそこにスイは実体化。


腕を回して首を絞める。




「ちゃんと遊んであげたいけど、時間切れだ」



ラミアは腕を振り解き、肘をぶつけようとするが、スイは交わし、ラミアの腹部に水の塊を作ると一気に爆発させ、吹っ飛ばす。



ランパードは転移を発動し一同を1箇所に集める。



「ナオ、ノクトン ガル。ここは君たちに任せたい。転移された敵がどれほどのものか分からないから」

スイは冷静に話す。


「し、しかし、ラミア相手に3人で太刀打ちできますか?」



「やるしかない」

リタの心配に、トポは無常に言う。



リタはトポを睨んだ。


「一人死んだんですよ? 下手すりゃ残った仲間死ぬんじゃないですか?」


「仕方ないことよ」



リタは赤眼を見開く。



「ナオが死んだら、アンタ殺しますよ」



「やれるもんなら」



「言ってる場合か! とにかく私たちが優先すべきは王都の安全だ! 主力を分散せざるを得ない!」

ランパードは怒鳴りながら魔法を発動。



「ナオ。頼めるかい?」

スイは優しく言う。




「はい。任せてください」

奈緒は不思議と緊張しなかった。



「ナオ!」


「大丈夫よリタ! 向こうをよろしくね」


微笑んでリタの肩に手をかける。



「ああ」



魔法陣は光り転送が始まる。




「ナオ。王都で会いましょう」

トポはそう言い残すと、4人は消えた。







静まり返った戦場。





ラミアはすぐそこに立っていた。






奈緒は拳を握って構える。






果たすべき目的は、もう理解できていた。




旗取り合戦。



私たちがこいつを倒して王を捕えるのが先か。



副団長が負けてライブラ国王が捕えられるのが先か。






「来い」





ラミアの全てを悟った言葉は、第2回戦目の幕を上げた。







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