第24話 焦眉
数日後、緊急戦線会議に呼ばれた奈緒とリタ。
その窮屈な会話が始まる前の間、みんな世間話が絶えない。
「そうそう、あのデートの最中また“ボーナス”が来たのよ」
「まじか。また強くなったのアンタ」
リタはため息をついて言う。
「いや、今回は何故か報酬を選べてね、経験値か、お金か、アイテムだった」
「何を選んだの?」
「お金。見てよこれ」
奈緒はバッグの中の100万マニーの紙幣束を見せる。
「おお。しまえしまえ。強盗みたいじゃんアンタ」
「豪遊できるぜ......」
「え、でもおかしくないか。確かボーナスの周期は1週間じゃなかった?」
「そうなのよ。で、考えてみたんだけど、最初にキメラ倒した時が約2週間くらいで、アンタと戦った時が1週間だった。んで今回も多分2週間くらいなのよね」
「なるほど。2週間と1週間を繰り返してる可能性があるか」
「うん。なんでかなーって考えたら、まぁ就職して一回目のボーナスなんか貰えないようなもんだから。そういうもんかなーとか。だから冬のボーナスまで2週間、翌年の夏まで1週間みたいな」
「ふーん。なるほど」
――スキル自体も徐々に力が強くなっていくとしたら、今後報酬も上がっていくかもしれないな。
「はぁ。楽しかったなー」
「デートか? まぁあいつは悪い奴じゃ無かったしな。辛い経験を経てもなおしゃんと生きる男だった」
「辛い経験? なんで知ってるの? アンタにもう話したっけ?」
リタはギクリと冷や汗をかく。
「いいいいや、あの〜落ち着いてるから辛い経験してそうだなって思っただけだ」
「あぁ、うん。そうなんだよね」
奈緒は遠くを見ながら言う。
――あっぶにーー。
軽い口笛を鳴らすリタ。
「それでどうなったんだ? 正式に付き合うのか?」
「いや、今回は焦らした」
「焦らした? なんで?」
「だって一回のデートで決めるには早すぎるじゃん? せめて2回は会いたいよね。でも次はちゃんと答えるつもりだよ」
「そうか」
リタ寂しそうに言う。
「いろいろ考えなきゃいけないことはあるけど、今の感情に従ってみようかな」
奈緒は前を向いて言う。
「付き合うよ。私」
――まぁ、あいつなら、いいか。
リタはそう思うと、奈緒のまっすぐな目を見て、何も言わずに微笑んだ。
ギルバートが奥の扉から入室する。
全員起立して、世間話を一斉にやめる。
「皆、日々の勤務ご苦労。緊急で申し訳ない。時間が惜しいから早速内容に入るが、ガーマ独立国、挙兵の連絡が入った」
一斉にざわつく会議の出席者達。
「何故このタイミングなんだ」
「いつもいつも奴らは何を考えてるかわからん」
団長の隣にいたスイは立ち上がって話し始める。
「サンサ帝国を事実上壊滅させ、地権の吸収と、政治インフラ整備に忙しい今を狙ったものと思われる。独立国家で、あらゆる国と敵対しているガーマからすれば、次に狙われるのは自分たちだという焦りもあるに違いない」
「しかし、我々のみに向けて進軍など、あきらかに異常だ。奴らになんのメリットがある?」
ヤジのように言葉を投げる参加者。
「分からない。これまで威嚇攻撃を幾度も行い、火蓋を切る大義名分を探してるような国だ。思考回路なんか考えるだけ無駄かもしれない。それにしても急な蜂起。なにか裏があるかもしれないし、警戒は強めるべきだ」
「うむ。よって前回同様、ネイバーは総員でこれに当たってもらい、早期終息を目指す」
「ちっ。また2番隊は居残りかよ」
ライカは足を机に乗せる。
「大事な役目だよ。もし敵の剣先が国に届くことがあれば、君達は最後の要だ」
「分かってるよ」
――お前がネイバーになってから、そんなこと起こったことねぇじゃん。
ライカは不貞腐れる。
「ネイバー出撃は明朝。守備部隊はさっそくいつもの手順で守備を固めよ。以上だ」
参加者の全員が慌ただしく動き出す。
各政治部署の参加者は、文句や反論があっても、団長の指令通り連携をとっていく。
「さ、出番だね。二人とも」
スイは奈緒とリタの肩に手を置く。
「しっかり準備しておいで」
「はい!」
奈緒とリタも颯爽とその場を離れた。
「ライカ」
「なんだ」
その場に座ったまま動かずに答える。
「どうもきな臭い。団長を......こっちは任せたよ」
「珍しいな。お前がそんなこと言うなんて。お前......変なフラグ立てんじゃねえよ」
「はは。そうだね。.......絶対...... 死ぬなよ」
スイは真面目な顔をして言う。
「やめろ! 俺死ぬんか!?」
「はは! 冗談だよ! じゃ頼んだよ」
微笑んで去っていくスイ。
「ったく。悪めねぇ奴」
ライカはそう言ってダルそうに立つと、会議室を出た。
焔荘にて準備を始める奈緒とリタ。
「ナオ、これ使いな」
リタは黒いグローブを奈緒に渡す。
「麻痺グローブだ。ちょっと改良したから、これで殴れば人間なら2日は起きないだろ」
「わぁ凄い! ありがとう! これで殺さなくてもなんとかなるのかな」
「ああ。恐らくな」
リュックに荷物を詰めながら二人は話す。
「また、戦争なんだね」
「ああ、気を引き締めないとな」
「帰ってきたら、打ち上げと、デート! そしてこの金で、今度はアンタの買い物する!」
「そうだな」
二人はリュックに、緊張感と希望も一緒に詰め込んでいった。
すぐに明朝は来た。
教会に集まったネイバー全員は、いつものように落ちつている。
「いくぞ」
ランパードがそういうと魔法陣を光らせ転移を開始した。
移動先は荒野の高台。
朝日が少しだけ山の頂上から大地を照らし、そのうねりに陰影を生み出す。
ガーマ軍の強大な大群は、波のように揺れて列をなして歩いている。
「ほぉー。かなりの大群だ。敵さん本気だね」
トーマが軽い口調で言う。
「30万以上か」
レッドは敵を眺める。
奈緒は不思議に思った。
「なんで敵は私たちみたいに転移とかで飛んでこないんでしょうか」
「転移魔法は希少だ。そんなにヒュイヒュイ使える奴がいたら、戦争の形は今とまるで違う」
ランパードは魔法陣を閉じる。
「そう。ネイバーはその魔法特性からも選んでる。希少性、相性、機動力、突破能力。僕らは攻撃力に特化してるからこういう戦略ができるけど、みんながそう出来るわけじゃない」
スイは後ろから歩いてきた。
「だが、奴らも未知の魔法を持ってる可能性は十分にある。こうして進軍する姿を見ると、移動に強い魔法は持っていない予測がたつよね」
「もしくは隠してるか」
トポはボソリと話す。
「何はともあれ、警戒は一瞬たりとも解かないこと。じゃないと、」
スイが話している間に、一同を包む程の大きな影が足元に広がる。
上空には山のようにも大きな岩石が、浮いており、急速に落下してきた。
「ほら、もうバレた」
トーマは笑顔で言う。
ノクトンは大木を地面から生み出し、しならせるように後方へ伸ばすと、一気に弾いて巨岩を打ち返すようにぶつけた。
岩の落下は外れていき、低地にいる敵軍の方へ落ちていった。
「開戦だ」
スイは悪戯な顔で言うと、一同は高台から飛び降る。
9人VS30万の戦は、合図を待たずに始まった。
敵軍の最後尾にいる男は、一才の動揺なく、無情な目でそれ見つめていた。




