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賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒


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第22話  正体



そよ風が心地よいライブラ国のノサ平原。


地平線の向こうまで続く草原の揺蕩いが、大地の息吹を感じさせる。



「流石にお腹減ったな」


アンセルはお腹を摩って言う。


「そうだね。あー、凄い冒険だったなぁ」


先ほどまでの幻想的な空間に酔いしれ、上の空で答える奈緒。




「あの木陰でご飯にするか」



「ん? どこかお店に入るんじゃないの?」


「今日はピクニックにしようかと思って」



「いいね! どこかで何か買う? 」


奈緒は浮き足だって喜んだ。



だだっ広い平原が見渡せる丘の上の木の影に二人は着いた。



アンセルはバッグからレジャーシートや、小型魔力コンロ、調理道具を出す。



「え! 色々持ってきてたの!? ごめん私、なんにも準備してないよ......」


あまりの準備の良さに少し焦る奈緒。


「いいっていいって! 今日はなんだか変なことに付き合ってくれてるし、俺に任せてよ」


笑顔で楽しそうに支度をするアンセル。



可愛らしいヒヤシンスの籠から、弁当を取り出した。


「お弁当まで作ってきてくれたの!?」



「もちろん!」



「もー言ってよ! 私だっていろいろ手伝えたのに......」


奈緒は申し訳なさと自分の準備のなさに少し不満げに言う。


「だから気にしないでって〜」


そういって弁当を開けると、ピカピカに光るおにぎりのようなものと、サンドイッチが綺麗に並んでいた。



「うわ、もう私立場ないわ......めっちゃ美味しそう」




奈緒はその場にがっくりと座る。



「ちょっと待っててね」



アンセルは水晶をセットしたコンロに火をつけると、網で焼き物を始めた。


「何を焼くの?」


「ロイアルバードの串焼き」


「あ、それジュアのメニューであったよね? でも高かったような......」



「あぁ、流石に俺も買えないからさ、店からパクってきた」



「なんでよ! 」



「食べたかったから」



「だからって......」

奈緒は呆れたような顔をしながらも、袋をもったり、食器を取ったりとアンセルを手伝う。



「食べて大丈夫なの? 返そうよ」



心配そうにアンセルに言う。



「大丈夫だって! 初めてじゃないし、どうせこれ高過ぎて売れ残ってるしさ。店長も、食材なかったら多分俺だってすぐわかる」


「それよくないじゃん」


「すいませんっした!って、言うからいいよ。あっはっは」


悪戯に笑って言う。



「もう......」

奈緒は心配と、無邪気な魅力に惹かれるような思いの狭間で、感情が揺らぐ。




「さ、出来たよ! 食べよう!」



「うん」




ささやかな、アンセルからご馳走を食べた。


景色も相まって、弾けるような美味しさに感動しながら、二人はピクニックを楽しんだ。









「現在、未確認の謎の物体を摂取。特に異常は見られない。毒ではない様子」



「了解、引き続き観察を」



訓練生は遥かに遠くにある木の上から、双眼鏡で尾行を続けている。




「クソ! どうやって、ポイントI(潜り担当)を瀕死にしたんだ。迂闊に近づけないぞ......」


「何やら遠距離魔法を放ったに違いない」


ポイントJの訓練生は怒る。



――勝手に溺れただけだろう......



リタは水晶から聞こえる無線の会話につっこむ。



「情報は武器。つってな! ワタシに任せな!」


そういった女性訓練生が、パチンコ取り出す。


「この小型盗聴水晶で、会話も筒抜けよ!」


ビー玉の様な水晶をパチンコから慣れた手つきで放つと、弧を描いて飛んでいき、水晶は奈緒とアンセルがいる木の枝に引っかかった。


「良くやった! エージェントα」


サムズアップをして訓練生一同が褒め称える。






全ポイントの水晶と同期し、奈緒とアンセルの会話に集中する。


リタも真面目な顔をして聞き入った。








「あー腹一杯だ。お口に合いましたでしょうか?」


アンセルはお辞儀するように言う。


「うん、凄く」


奈緒は照れくさそうに言った。



「あぁ、こんな毎日だったらなぁ」


奈緒は澄み渡る空を見上げて言う。



「楽しくないの?」


アンセルは端的に聞く。



「まぁ、楽しくなかったよ。私の毎日は」



仕事付の日々を思い出す。


暗い部屋で、テレビの明かりを頼りに一人で食べる夕飯。




「毎日働いて、寝て、起きて、働いて。頑張っても頑張っても認められなくて。ミスした時だけ吊し上げられて。上手にやれた時は当たり前だって」



奈緒は瞼を半開きで話す。



「なんだか、報われなくて。だから上手にサボろうとしたの。やり甲斐なんかなくていい。お金の為だって自分を奮い立たせてさ」


アンセルは心配そうに奈緒を見つめる。



「そしたら、何のために働いてたのか、何を求めていたのかも、わからなくなった。でも次も決めきれずに、なんとなくそこにいすわった。まるでダメな人生だよね」


少し笑って奈緒は言う。



アンセルは何も言わずに黙って聞いた。




「なんかごめん! いきなり愚痴っちゃった。これ色々準備してくれてありがとう。本当おいしかった! 今度は私がご馳走するからね」



申し訳なさそうに言った。



「ああ。じゃあ楽しみにしとくよ」


砂のついた手を払いながら、笑顔で言った。



「料理、得意なんだね。お母さんから習ったの?」



奈緒はハンカチを自然に渡す。



「いや、習ってないよ。自己流さ。小さい時からやってるからね」



「そうなんだ。好きだったの?」



「いや、どうだろうな。するしかなかったし」


アンセルの少し寂しそうな表情を見逃さなかった。



「どうして?」



「......俺、実は戦争孤児でさ。家族も何もなくて。拾ったもんかき集めて、よく料理してたんだ」



奈緒はハッとした。


「そうなんだね..... ごめん、きついこと、思い出させたよね。辛かっただろうに」


奈緒も寂しそうな顔をして言う。



「いやいや! ごめん。こんな話、今言うことじゃないよな」


わざとの様に笑ってみせる。



それを見て奈緒はアンセルの目をまっすぐ見る。



「いや、良ければ、話してくれないかな? 貴方のこと、もっと知りたい」



アンセルの顔が曇る。


「大した話じゃないよ。この世界じゃよくあることさ。戦争で孤独になった子供が、死にものぐるいで毎日を生きていく話。俺はとにかくその日その日が必死で。食物を漁っては食って、金になりそうなものは盗んで。そうやって1日、また1日をのり超える為に走り回ってたよ。昔は」



懐かしそうに話す。




「そしたら従業員募集の紙を見つけてさ、初めて働いたのがウェイターで。そこをずっと続けてたら、店が潰れて、新しく今のオーナーになってジュアに至る。みたいな。そう考えたらずっとあの土地にいるな俺は」



「そうだったんだね......」


奈緒はアンセルの悲しそうな目を見つめる。



「俺さ、ウェイターのあのシャキッとしたシャツ着るのが好きだったんだ。なんか自分が金持ちになった気分になって。店にくるお客さんは、みんな綺麗におめかししてさ。俺からすれば、あの仕事は、違う自分になれる場所。普通の世界の一員になれる、場所なんだ」



アンセルは嬉しそうに話した。



「だから正直、どうだっていいんだ。金が安かろうが、大したことない仕事だろうが。普通に生きていける。それだけで、俺には勿体無いくらいなんだよ」



奈緒は心に弓矢が刺さる様な痛みと、やんわりとした温もりを感じていた。



「未来とか将来とか、不安だってみんな言う。でも俺は、どうなるかわからない先のことに怯えて、今が苦しくなる方が嫌なんだよ。今を失う方が怖い。だから俺は、楽しんでる」


アンセルはまっすぐに奈緒を見て、花のように笑った。






「今が一番幸せなんだって、いつも言えるように」





奈緒の目の奥に光が灯る。



この人は――





奈緒の胸は締め付けられ、痛みと温もりが混ざり合う。



その笑顔にはあらゆる感情が含まれている様に見えた。


悲しみも、憎しみも怒りも。


それでもあまり余る、豊かな心。


どんな思いも過去も、全部ひっくるめて、受け入れて。






        彼は“今”を生きる







水晶越しに聞いていた訓練生の一同は、涙を流していた。


無線からは鼻水を啜る音だけが聞こえている。


リタも肩を揺らし、男泣きする。








「本当に強いね」



奈緒はにっこりと笑いながら涙を滲ませた。




「え! 泣いてるの!?」


「ううん! 泣いてないよ!」




私は、なんて小さいんだろう。



ないものねだりして、しょうもないことを気にして。



苦しい毎日、辛い日々。



全部、私次第だったんじゃないかな?








“自分の価値は、人や結果じゃなくて、自分が決めるものだ”






あの時、不意に出たあの言葉。




その意味と、その答えをきっと、



「ごめんよおおおおお!」

アンセルは慌てふためく。





この人は持ってる。





だから強い。ブレない。




自分の人生の本当の価値を、知ってるんだ。






奈緒は原っぱに寝っ転がった。




「大丈夫?」


アンセルは心配そうに言う。



「全然大丈夫だよ。むしろスッキリした」



「どゆこと?」




太陽も空も、いつもより透き通っていた。



アンセルが顔を覗く。



「だからどういうことなんだよ」




その顔をまじまじと見て、奈緒は頬を赤らめる。




あぁ。まずい。




私まずい。






アンセルの顔が近づいてくる。



真剣な顔をしていた。



甘い匂いもすぐ近くに感じる。




――え?



え!? 待って待って! 



確かにそうだけどまだそれは早いのでは!!




えええでもおおおお



このまま......




早まる心臓の鼓動。


相手にまで伝わりそうだ。



奈緒は目を瞑った。





やばいいいいいいいいいいいいい。













      

      『ボーナスステーーーーージ!』


煌びやかな音楽と共に、機械的なアナウンスが流れる。

『ここはボーナスステージ! ミニゲームをクリアしてボーナスを獲得しよう! 失敗すると?......ジジ、ジー』









「は?」








「はああああああああああああああ?」





真っ白な空間に、奈緒の声は響いた。





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