第20話 絆
「さて、降りようか。後は適当に。王様見つけたら教えて。僕が話す」
トポが手をかざすと、一団がいる上空に伸びた地面から、地表へ向かって階段が出来た。
ゆっくりと下って地表に降りると、それぞれが別々の方向へ歩き出した。
リタと奈緒は取り残され、とりあえず一緒に前に歩く。
二つに割れ残骸となった巨城の中庭を慎重に進む。
「ねぇリタ。正直もう何が何だか......」
「よせ。......とにかく終わるまでは、一切弱音は吐くな」
「そうだね......」
瓦礫が動く音がした。
「危ない!」
リタ目掛けて、隠れていた敵兵が斬りかかる。
間一髪でリタは剣でガードする。
その隙に奈緒は敵兵士を後ろから蹴り飛ばす。
「注意しろ。まだまだいるぞ」
「うん」
ゾロゾロと溢れ出てくる敵兵士。
奈緒とリタを100人ほどで取り囲んだ。
背中合わせになり警戒するリタと奈緒。
敵兵が一歩踏み出したのを合図に、戦闘開始。
リタはナイフを相手に投げて、怯んだ所を斬り伏せる。
奈緒も次々と襲いかかる敵の攻撃を全て交わしながら、隙をみてボディブローを入れ込んだ。
凄まじい勢いで飛んでいく敵を見て、奈緒は動揺する。
先ほどの消し炭になっていった兵士が頭を過ぎる。
――ダメだ。 もっと加減しないと、本当に私......
「死ねぇえ!」
そう叫んだ敵の剣が、奈緒の首に入った。
「ナオ!」
リタは応戦しながら叫ぶ。
しかし、剣は折れて飛んでいった。
「な、なんだお前!」
敵兵士はたじろぐ。
――多分私、強すぎるんだ。
奈緒は今、初めて自身の力の大きさを実感した。
奈緒は敵兵士の頭にデコピンをすると、敵はグルグル回って倒れた。
――これぐらいなら......
そうして奈緒は瞬足で敵の懐に入り込むと、次々とデコピンを叩き込んでいった。
弾け飛んでいく敵兵士。
リタも負けじと剣で叩き伏せていった。
「よし。もうちょっとだ!」
「うん!」
その時倒れていた兵士がいきなり発火する。
その他の気絶していた兵士も続々と燃えていった。
「ダメじゃないか。新人」
レッドは無表情で歩いてきた。
「ちゃんとトドメは刺さないと」
奈緒は胸の内が締め付けられる。
「も、もう動けませんよ! そこまでしなくても......」
「アナタ、それ本気で言ってるの?」
トポが地面を抉りながら歩いてくる。
グニャグニャを描き混ざる地面に敵兵士を巻き込むと、地中深くに埋めてしまった。
「ここは戦場。言い方変えようか?」
奈緒の近くに来ると、大きな黒い瞳で言い放つ。
「殺人が、許される場所なの」
奈緒はその女の子の非情な圧力に気圧される。
「おい。副団長が、サンサ王を捉えた。いくぞ」
ランパードが奥から歩いてきて言うと、転移魔法を発動。
スイがいる王宮の間の入り口へ全員を移動させた。
スイは怯えて腰を抜かしたサンサ王の前に立って話す。
「さ、教えてもらうか。魔物はどうやって操ってる?」
「しししし、知らない! この水晶に命令すると勝手に動くんだ!」
「へー。誰にもらった?」
「か、顔は見てない! 黒いフードを被り鎧も着てた! ただ援軍をやると、破格の値段で水晶をもらったんだ! 本当にそれだけなんだ!」
「ふーん。どういう経緯でそいつと知り合った?」
一団がスイの元へ向かって歩いているとき、残党が続々と走り込んで来ると、スイと男を取り囲んだ。
「スイさんが危ない!」
声を出して奈緒は走り出そうとしたが、一団は全く焦らず、ゆっくりと歩いて近づく。
敵兵はサンサ王を庇うように引きずって下げる。
スイを囲んで魔力を練り、大技を放とうと敵兵士は詠唱を始めた。
他の残党と魔物が一団の方へ向かってくる。
「抗うねぇ」
後ろにいたトーマが目を光らせると、敵兵士はその場で固まって停止。
互いに向き合うと、剣を喉を突き刺しあって一斉に倒れた。
しかしまだ敵兵は入ってくる。
ガルマハウンドは後ろから敵兵に斬られたが、刃が溶けて無くなっていた。
犬のような唸り声を上げるとその敵兵をぶん殴り、凄まじいスピードで吹っ飛ばした。
奈緒はまた加減し、デコピンで兵士を吹っ飛ばす。
一団のそれぞれは自身に降りかかる剣を捌きながら倒していった。
区切りがつき、奈緒はスイの方を見た。
スイを囲む敵兵は詠唱を終え、巨大な魔力を天井に溜めた。
今まさに放たれようとしたとき、囲んでいた敵兵の一人がバタリと倒れた。
一人、また一人と、それは連鎖していった。
胸を抑え、一瞬悶えたかと思うと、すぐに事切れる敵兵。
スイは何かしたそぶり一つ見せない。
「な、何が起きてるの?」
奈緒は声に出す。
「いつみても恐ろしいね。あんな爽やかな顔してさ」
トーマは頭の後ろで手を組んで言う。
「俺たちが優しく見えるぜ」
レッドもそう言って壁にもたれて休む。
スイを囲む最後の一人が、倒れると、またスイは話す。
「もう一回聞くね、どこで知り合ったんだ?」
「た、頼む。もう降参だ! 洗いざらい話すから、もうやめてくれ......」
「じゃ、僕らの国へご招待しましょう」
一団はスイの方へ歩いてきた。
「終わったよー帰ろっか」
笑顔で言うスイ。
ノクトンはサンサ王を木のツルで縛り上げる。
そのまま一向は王宮を後にして、中庭を通った。
死の異臭が、鼻を刺激する。
ボコボコに抉れた地面と、未だ煙をあげる死体。
丸焦げなものもあればまだ、赤い血がかろうじて見えるものもある。
焼け爛れ、朽ちて落ちている腕や足、人の一部。
奈緒は見ないように、目を瞑りながら歩いた。
「アナタ、戦場向いてない」
トポが前を向いたまま話しかける。
「すいません......」
奈緒は苦しそうに謝る。
「もし敵に同情したりとかしてるなら、正直、論外。迷惑」
「そうですよね......」
リタはそんな奈緒を心配そうな目で見ていた。
その時奈緒の足元の瓦礫が微妙に動いたのに気づいた。
そこから何か白く鈍い光が見えた時、
リタは突進してすぐに奈緒を押し飛ばした。
瓦礫からは鋭い剣が飛び出てきて、リタの肩に突き刺さる。
「くたばれこの悪魔がああああ!」
血だらけで腫れ上がった目で睨みつける敵兵士。
奈緒はすぐに気づいた。
刹那、奈緒は踏み出し、その兵士の顔面向けて拳を振りかぶった。
――何やってんだ私。バカよね。
分かってたじゃない。こんなこと。
こうなることくらい、簡単に想像できた。
ここじゃ私は兵士
もう事務職じゃない
私の今の仕事は
人を、殺すことだ
覚悟を決めて拳を振り抜こうとした。
その瞬間、パンチが放たれる寸前。
リタが音速の剣で敵の首を跳ねた。
コロコロと転がり落ちる首。
リタは大きな赤い目で睨み踏みつける。
「すまん。油断した」
リタはそう言うと、颯爽と歩いていった。
奈緒は何も言えなかった。
一団は何もなかったかのようにまた歩き始める。
「ほら言わんこっちゃない。アナタもうクビよ」
「勝手に決めないでよ。トポ」
スイは微笑んで言い返す。
テントに着くと各々すぐに荷物をまとめ始めた。
「まぁ、いい勉強になったんじゃない?」
俯いたままの奈緒にスイは言う。
「もし、あの一撃が、即死系の特性だったら。高火力の爆撃だったら。......わかるね?」
「......はい」
「その一瞬。その判断が全てを覆すことがある。そして戦場では大抵、その結果はもう取り戻せない」
奈緒の頬に涙が伝う。
リタは肩に回復薬をかける。染みる痛みで顔を顰めた。
「お互いその恐怖と残酷さの中、自分が後悔しない選択をする。それが、戦争というものだ」
「すいませんでした......」
声を裏返しながら奈緒は小さく言う。
「スイ。もうダメよこの子は。きっと限界」
トポは奈緒に聞こえないように言う。
「それは彼女が決めることさ」
スイは微笑んで言う。
「なぜこの子にそこまでするの? いつもならとっくに......」
「彼女の力はきっと、僕にまで届きえる.....」
そのスイの瞳を見て、トポは驚く。
この子、そこまでの......
ポタポタと涙を落とす奈緒の背中を、トポは見つめた。
一団は転移魔法で教会に戻りそれぞれすぐに解散した。
焔荘にもどり、二人が談話室に入った途端、奈緒は崩れ落ちた。
「ごめんリタ本当に、ごめんなさい......私」
「はいはいわかったから。アタシのことは気にするな」
リタはリュックを下ろして笑って答えた。
「だって......貴方の綺麗な肌に、こんな傷......」
リタの傷は完全に塞がっていた。しかし僅かに跡が残っている。
「こんなの大したことない。幼い頃からの鍛錬で、もっと酷い傷跡いっぱいあるぞ」
リタは奈緒の隣にかがみ、背中をさする。
奈緒はリタに強く抱きついて泣いた。
「本当にごめん。私が殺せなかったから...... 貴方が傷ついた...... 私が情けないばっかりに」
泣きじゃくって言う奈緒。
「アンタはそれでいいんだよ」
リタは微笑む。
「そういう役目はアタシに任せろと言ったはずだぞ? あのトポとかいうクソガキの事は気にしなくていい」
「でも...... でも......」
「ナオ。アタシはアンタに人殺しになることなんか望んじゃいない。ただ......」
ただ、アタシの隣に......
アンタの隣に......
言葉には恥ずかしくて出来なかった。
「優しいアンタでいていい。アタシにしたように、敵だろうが愛情もってぶっ叩く。それがナオでしょ?」
リタはイタズラな顔で奈緒の頬に手を添えた。
「ね?」
奈緒は涙腺が崩壊した。
「うわああああああああああああ」
「と、とにかく風呂入ってもう寝よう。アタシも今日は筋トレサボる」
二人の絆はとどまることを知らず深く結びついていく。
どんな戦場を跨いでも、その糸だけは消して切れないと、確信した夜だった。
サンサ帝国、跡地。
黒いマントを羽織る鎧の騎士が歩いていた。
「へーこんな感じか。あぁ、楽しみだなぁ」
騎士は飛んできたワイバーンに掴まると、そのまま赤黒い空の黒雲に消えていく。
男の笑い声が、まだ生暖かい空気の不安定な世界にこだました。




