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賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒


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19/29

第19話  戦火



「ナオ、準備はできた?」


リュックに荷物を終わったリタが言う。


「うん」


奈緒は背伸びをして言った。



ついにスイから招集がかかり、彼が言う“本物の戦場”にいく準備を整えた二人。


いつにも増して顔は強張り、緊張感に包まれていた。





集合場所は、街中心部にある教会。


二人がそこに着くと、スイと黒いマントを羽織る男が立っていた。



「よく来たね。二人とも」


スイのにこやかな挨拶に、


「お疲れ様です!」


二人はそう返した。




「彼はランパード。移動の手伝いをしてくれる。もちろんネイバーだ」



「初めまして。奈緒と言います。今日はよろしくお願いします」


「リタです」



「うむ。ではいこうか」


ランパードは、魔法陣を出現させると、四人を囲む大きさまで拡大した。



「じゃあ、行きながら説明するよ」



そうスイが言った瞬間、景色は一変した。




ドス黒い山々が、突き刺さりそうなほど鋭利に空へ伸びていた。


空は気持ち悪いほどに赤黒く、1秒前までいた壮観な白い教会と正反対の、荘厳で痛々しい世界が目の前に広がった。


肺に入ってきた、冷たく焦げたような匂いの空気は、現場の冷酷な状況を一瞬で悟らせる。



「定期的に僕らの国を襲ってくる魔物。その発生源を調べた結果、ここに辿り着いた。驚いたよ。ここにあるのは魔物の巣じゃなく、あれだった」


スイは示す先にあるのは、禍々しく捻れた巨城だった。




「ここはレクター地区。いま我が国と戦争中の、サンサ帝国の根城さ」




スイは真面目なトーンで話す。



スイが歩き始めると四人は黙ってついて行った。




「推測できるのは、魔物は闇雲に襲ってきてるわけじゃなく、“誰か”の指示のもと、計画的に動いている可能性がある」




四人は黙って聞きながら歩いた。



「今回その事実を明らかにする為。尚且つ、長期化していた紛争に見切りをつける為。国王からネイバー総員での襲撃命令が下った」




歩き続けると広めのテントが見えてくる。





「こんなの滅多にない機会だし、二人にもぜひきてもらおうと思ってね」



スイはテントを開けながら、笑顔で振り返る。




テントの中には6人いた。



6人はそれぞれが武器手入れをしていたり、本を読んでいたり、水晶で映像を見ていた。




「やぁ、レッド。久しぶり」




屈強な体つきをした、黒い肌のスキンヘッドの男に、スイは話しかけた。




「ああ。二年ぶりくらいか。スイ、こいつらが例の?」




「うん。ナオちゃんとリタちゃんだよ。いろいろ教えてあげてね」




二人はぺこぺこと頭を下げて挨拶した。





「みんな、自己紹介タイムだよ」




スイがそういうと、6人は視線だけをこちらに向けた。





「じゃあまず、彼はレッド。国一番の炎魔法の使い手だ」


レッドは何も言わずに筋トレをし始めた。



「次に彼はノクトン。木を操るのが得意。木としか話さない」


本のページをめくりながら、チラチラと二人をみている。



「遠隔操作魔法使いトーマ。彼は水晶依存症だ」



「よろしくね〜」


ヒラヒラと手を振る、若々しい男。



「ガルマハウンド。彼は魔獣と人間のハーフ」

牙が目立つ、無造作な髪型の男。座って外を見ている。



「彼女はトポ。魔力総量は僕に並ぶ、地形魔法の使い手。まぁ、大きい砂遊びしてる子だね」



「よろしく」

小型で暗い感じの女の子。





「じゃ挨拶して」



スイは奈緒とリタを見て言う。



「改めまして奈緒です! 頑張ります! よろしくお願します」



「リタです。精進します」


緊張した面持ちで言うと、



「よろしくー」


と全員から素っ気ない活力のない返事が返ってきた。






「よし。じゃあ早速いこうか」



スイがそう声をかけると、それぞれやっていたことを止め、すぐ立ち上がった。



「いくって、どこにですか?」




「戦争しに」




「えっ。もう今からですか!?」



奈緒は驚きのあまり口を開いた。




「うん。すぐ終わるしね」




――ま、まだ何もかも心の準備が......




リタと奈緒は内心ソワソワが止まらなかった。



「な、何をしたらいいですか?」



「んーまぁ、テキトーに合わせてみて」


リタが聞くと、スイは笑顔で言った。


その笑顔に逆に恐怖を感じた。




「スイ、流石に可哀想」

トポがボソッと呟く。


一団はテントの外に出ると、散歩するようにリラックスして敵城に向かって歩きだした。



「ごめんごめん。そうだね〜、まぁアドバイスするなら、仲間は助け合うこと。目的を最優先すること。それと、」



一団の先頭で、振り返ったスイは全員を見る。






「殺られる前に、殺れ」






そのあまりに無邪気で、底知れない凶暴な瞳にリタと奈緒は背筋を凍らせた。




しかし団員は何事ないように歩き続ける。




そして巨城の正門に続く、大きく開けた場所に出た。




――冗談だろ。正面からぶつかるのか? それとも何か秘策が......


リタと奈緒は動揺を隠せないまま、後列で一団に着いていく。





「反応あり。来るよ」


トーマは魔力で目を光らせて言う。



「数は?」

スイは聞く。


「ざっと10万。加えて魔物の反応あり。仕掛ける?」



「いや、動きを見ようか。レッド」



「ああ」



敵はあっという間に続々と城から這い出てくると、すぐに奈緒たち9名をその数で包囲した。




「何者だ!」



敵兵の一人が大声で語りかけてくる。




スイたちは一切何も答えない。




レッドは不気味に笑うと、目を赤く光らせた。




すると、9人を囲む敵兵士、2万、3万が突発的に燃え始めた。



火の勢いは一瞬で何十メートルも空に登り、黒い煙を登らせていく。




「レッド、暑い」

トポは表情変えず言う。


「文句言うな」

レッドは口角を上げて答える。



奈緒は微動だにできなかった。





           

        ――ああ、これって.......






魔物、じゃない。




人間、なんだよね。




人が、目の前で燃えているんだ。







            “殺人“






そりゃそうだ兵隊だもん分かってる。




分かってる、......つもりだった。





激痛に悶え苦しむ敵兵の、地獄の呻き声が、心内を抉り返す。



心臓の鼓動は早まり、異常な冷や汗が全身から噴き出る。




足が震えて、腹の底から胃液が上るのが分かった。




必死に我慢する。



邪魔だけはしないという意地を守り通すだけで限界。




故に何一つ、言葉に出来なかった。









その時、炎を貫くように、矢が無数に飛んできた。


ランパードは魔法の空間で一団を包むと、囲んでいる敵兵士の上空にもう一つ空間を開けた。


その空間からは敵がスイたちに放ったはずの強弓が、雨のように降り注いでいく。



「トポ、片付けろ」

スイは淡々と言うと、トポは手をかざし、自分たちが立っている地面を練り上げるように上空へ持ち上げた。



そして一団を囲っていた敵兵士の全貌が見えると、その周囲から地面を波のように持ち上げて、大地の大津波で敵兵士を全て丸呑みにしてしまった。



「おっほー。壮観壮観」


スイは嬉しそうに言う。


上空にいるスイ達に、城の方からワイバーンが無数に飛んできた。



ノクトンは片手を伸ばすと、トポが練り上げた地面からいくつもの木を伸ばし、ワイバーンを串刺しにしていく。


敵を串刺しにした木がまた枝分かれしていく。それを繰り返すと、その上空一帯は木のあみが出来上がり、そこにワイバーンを閉じ込めた。



レッドは木の網に大火を放ち、巨大な火の玉を作ると、中にいるワイバーンを煮え立たせた。




またノクトンは木を1箇所に集中させると、巨城に勝るとも劣らない大木を一瞬で生成した。



そのままその大き過ぎる大木を上空からゆっくりと城に向かって倒す。



不気味な低い風切り音を立てて、大木は城へ直撃。




聞いたことのない爆音だった。



もはや逆に無音だとも錯覚するほど、衝撃波と共に土埃は地表を駆け巡る。



レンガの家が崩れるようにパラパラと、



いとも容易く、居城は真っ二つに、崩れ別れた。






ここまで僅か3分弱。




敵戦力の過半数を消し去った。





「これが、ネイバー......」


リタは言葉を漏らした。






        ライブラ国最高戦力



          

          “Neighbor”






      彼らはまだ、持てる力の半分も



        

          みせていない






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