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賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒


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第16話   訓練生奮闘



訓練場への道を奈緒とリタは歩いていた。


「もー、なんでそんな機嫌悪いのよー」


奈緒がリタに詰め寄っている。


「だって、昨日一人でジュアに行ったって......」


「だってアンタ寝てたもん! 起こしたら怒るでしょ?」


「おこ、るけど...... なんで誘ってくれなかったのよ」


口を数字の3にして小さく呟く。


「ごめんって。次は一緒に行こ! 今日行く?」


「いい」


「拗ねちゃってー」





そんなこんなで訓練場に着くといつもの訓練が始まる。



ネイバー入りした二人だったが、カイヤ渓谷での戦闘後は護衛団にめぼしい活動はなく、訓練に励めとのスイからの指示だった。


現在隊員のそれぞれが別々の任務についている為、団体として動くのはもう少し先だという。


訓練では、基礎体力、基礎魔法、組み手、演習など、曜日によってスケジュールを繰り返す。


リタと奈緒は組み手を繰り返す中で、お互いの課題を共に学習できる中にまで関係を築きつつあった。





午後の訓練が始まろうとした時、全体に招集がかかる。





「これから緊急任務にあたってもらう! 昨夜、ワイバーンの群れの横断によって、被害を受けた村が多数。救護班が向かっているが人手が不足している! 至急応援に行き、被災地の人々の手当て、物資の運搬、インフラの整備に努めよ! 5分後に出発する! 以上!」


「了解!」





整列した訓練生の張りのある返事と共に、忙しく準備が行われると、すぐに現場へ急行した。



現場の村に着くと、家は倒壊し、爆弾がいくつも弾けたように田畑は抉れて黒い煙を上げていた。

その様は魔物の横断の激しさを物語っていた。



「ひどいな」


「うん。横断ってだけでこんなになるのかな」


「きっと魔法をいくつも落としながら飛んでいったのだろう」


「迷惑だね......」


「アタシたちは、他に埋もれている人がいないか探して回るか?」


「うーん」


見渡すと奥の方に応急テントがいくつも張っているのに気がついた。

その中には苦しむ人の呻き声や、慌ただしく動く救護班の人々が見えた。




「とりあえず、話を聞いてみよう」




一同はテント内に入ると、救護班の数名が叫んできた。




「アンタたち! ボケっとしてないで仕事探しな!」


「水がもうない! だれかお湯を沸かして!」


「包帯持ってきたか!? 早く出せ!」


あらゆる乱暴な要求とその現場の様相で、緊迫感は極限まで膨らんでいた。




一刻を争う命の瀬戸際。





怪我人たちの酷く苦しい痛みが、自分にまで飛び火してき

そうな。


その切迫さに包まれ、訓練生は皆固まって動けなくなってしまった。



プラチナランク訓練生でさえも、ソワソワして何から動けばいいか判断がつかない。




奈緒は状況を見てすぐに口を開く。




――これはボサっとしてられないな。


「よし! 仕事を分けよう! 治癒魔法が使える人達はここに残って治療のサポートを。パワー系は物資を運んできて必要な人に分配を。そのほかは、炊き出しで食事と、臨時休憩テントの設営!」



奈緒はそう叫んだが、誰も動かない。




「......何でお前が仕切るんだよ」


「偉そうに言うな」



訓練生から罵声が飛ぶ。




「じゃあお前が指示出せば?」



リタは苛立って言い返すが、訓練生は何も言えない。





「そんなこと言ってる場合じゃない! とにかく出来ることやるしかないの! 」



奈緒はそういうと一人動きだし、バケツを持つと水を汲んできた。




「お爺さん、大丈夫ですか? 何処が痛みますか?」




横になっているお年寄りに話しかける奈緒。



「足が......動かないんじゃ」



奈緒は腫れた足を見ると



「治療魔法出来る人! 応急処置してあげて!」



そう叫んだが、訓練生は動かない。



「アタシが」


リタは横につくと、両手をかざした手が緑に発光し、足の治癒を開始した。


「あぁ、すごい。痛みが和らいでいくよ......」


「リタ、アンタほんと器用ね! 次いってくる!」


「いや、こっちは任せろ。奈緒、アンタはとにかく回復薬とか物資が乗った荷台をここまで運んできて」




「うん、わかった!」




奈緒はテントから走って出ると、村の入り口に置いていた荷台をすぐに運んでくると、荷物を下ろしはじめた。



ぼーっと突っ立っている訓練に苛立ちを隠せなくなった。



「アンタらも手伝ってよ!」



「俺はプラチナランクの兵士だぞ! こ、こんな雑用やってられっか!」


一人の訓練生が言い返すと、奈緒の怒りは頂点に達した。



「雑用!? ふざけんじゃないわよ! こういう仕事こそ一番大事だろうが! 仕事選べる身分かお前は!」





荷物を強く地面に置くと、その兵士の目の前に行って顔を近づける。




「アンタ自分の仕事何だと思ってんの!?」




「た、戦うことだ!」



「違う!」



「魔物を倒すことだ!」



「違う!」



奈緒は大きく息を吸った。





「人を、助けることでしょう!」







そう言って奈緒は物資を拾いに戻ると、その他のテントまで配達を始めた。



沈黙の後に訓練生の一人が呟いた。


「......ナオが、正しいと思う」


「......くそ。言われたままじゃ終われっかよ!」


「やるぞお前ら! ここでもアイツらに負けたらまじ立場ねぇぞ!」




ゾロゾロと動き出す訓練生。


それぞれは自分の能力を活かせる場所に向かいはじめた。




「アタシも手伝います!」


「リタ! どんなイメージで魔法かけてる?」




火は回るように、その動きはキビキビとしたものになっていった。




「....... 全回復させる必要はない。応急的に身体の重要な血管や健を繋いでいくイメージだ。あとは自然治癒でなんとかなるところまで。とにかく多くの人を治癒できるように魔力は使いすぎるな。回復薬が届いたら重症患者へとりあえず飲ませろ! 飲めないなら負傷部位にかけてもいい!」



訓練生はリタに引っ張られるように魔力を合わせていく。

 


「ナオ! 俺たちも手伝う!」



駆けつけてきた訓練生が声をかける。



「は!? 今更何よ! どっかで好きな仕事してきなさいよ!」


奈緒はイラだったままだった。




「悪かったって! だが人手は必要だろ!」


「今は協力すべきだろ!?」




奈緒はブチギレる。



「アンタらに言われたくなdじぇjfぁksjfjfs!」




奈緒にそう怒鳴り散られながらも、訓練生は次々と物資を運んで行った。


大体のテントに行き渡ると、使いやすいように物資を仕分けしていく。


奈緒は次に大きな鍋を用意すると非常食用の具材をいれて調理を開始した。


調味料を入れて、味を整えていく。



訓練生が勝手に鍋を味見してみる。


「うお! うまい!」

「まじで? どれどれ」

「すげぇ、ただの脳筋女じゃなかったんだ......」


「アンタらまじ殺すわよ! 一応花嫁修行を履修してるのよ私は!」



「じゃあ、もっとこうした方がいいぜ?」

訓練生の一人が魔法をかけた。



「活力と自然治癒強化魔法だ。ゆっくり体に効いてくる」


「じゃあ俺も異常状態打ち消しとか」




「た、足すな! 私の料理に!」


そう言い合いながら、皆の力を合わせて完成した鍋はまばゆい光を放った。



炊き出しに人を呼び込み、いざ食べてもらうと、声を唸らせ、たちまち元気にしていった。


そうして食事を提供して一刻。


炊き出しに並ぶ人が段々と減り、一区切りつきそうな時に、爆発音が鳴り響く。


爆発が辺りを一瞬明るくし、また黒い煙を上らせていった



「嘘だろ......ワイバーンだ! まだ残っていやがった!」



「一体じゃないぞ! 怪我人もいる!」


「どうする!?」


「俺たちで勝てるか!?」


訓練生は動揺してざわつく。




奈緒はおたまを鍋に戻して現場に向かった。


「まず怪我人の救出にいこう!」



一緒に走り出した訓練生は考える。



「いや、ナオ。君はワイバーンを討伐して被害を抑えろ! 救出と治療は俺たちがやる!」



「大丈夫なの?」



「アタシも賛成だ。アンタどうせ治癒魔法使えないじゃない。いってこい」

リタも奈緒に言った。




奈緒はリタと目を合わせると、頷く。




「わかった。 ちょっと殴ってくる!」




奈緒と訓練生は道を別れ、先を急いだ。




皆のもとを離れると爆速に加速しワイバーンの元へ向かう。




数秒後すぐに弾けるような音が空に響いた。




そして奈緒はすぐにもどってきた。






「終わったー!」






――はや! 頼もしいーーーーー。



訓練生一同は心の中で唱える。




そうして、被災地は次第に落ち着きを取り戻していった。



聞こえてきた苦しい呻き声は、今やスヤスヤと寝息に変わり、夜の村に静けさが戻ってきた。

救護班の人たちとも少し話しやっと少し打ち解けた。




「はぁー疲れたー」




椅子にもたれかかった奈緒は大きく息を吐く。


「良くやったな今日は」

リタはが奈緒の方に手を置いてもたれかかってきた。




「アンタって本当すごい。今度治癒魔法教えてよ」



「お前は火力だけ上げとけばいいんだ。他のことはアタシの役目」



リタと奈緒はクタクタな身体の不思議な解放感に包まれ、力のない表情で笑い合った。





「なぁ、お前ら」





訓練生がなにやら真面目な顔をして話しかけてきた。




「何? またなんか文句? もう疲れたよ私。みんなよく頑張ったでしょ? それでいいでしょ?」




奈緒はまた勘に触ることを言われそうで嫌がった。




「......すごいよ。お前ら」




訓練生はそう呟く。



「どうしたんだ?」


リタは目を丸くして言う。



「正直、見直した」



訓練生が周囲に集まりはじめる。



「こんな初めての応援任務で、あそこまでスイスイ動けるなんて。ナオの度胸も容量のよさも凄いし、それをサポートするリタの対応の幅も。俺たち、追いかけるので精一杯だったよ」



訓練生は次々に思いの丈を話しはじめた。



「.......羨ましかったんだ。私達と住む世界違うような感じがして。私達だって、努力はしてきたのに」



「そんなお前らにも、なにかダメなところがあるって思わなきゃ、やってられなかったんだよ」



訓練生は俯いて続ける。



「だから省いてた。見なくていいように。比べなくていいように。でも今日の貴方たちをみて気づいた。誰だってはじめては出来ないもんだって。大事なのは、突っ込んでみること。とりあえず動いてみせることだって」



訓練生は円になって奈緒とリタを囲む。



「今までの数々の非礼。本当にすまなかった。」




そう言って深々と頭を下げた。


「そ、そんなやめてよ急に! なんか新しいイジメ?」



奈緒はあたふたして言う。

訓練生は少し笑った。



「なぁ、帰ったらみんなで打ち上げしようぜ?」


「いいなそれ!」


「うおおおおおおおおおお!」



そう言って訓練生はリタと奈緒と腕を組み、無理やり連れて帰っていった。





ワイワイと話しながらあっという間に焔荘につくと、乾杯の音頭なんかなしに、ビールが渡された瞬間からグビグビと飲み干していく一向。




「ほら、リタさんとナオさんも!」




ビールを雑に渡されると自然と受け取ってしまった二人。


未だ慣れない空気感に驚いたが、流れのままビールを飲んでいく。



それを繰り返すうちに、リタと奈緒が無意識に作り上げていた“民意への障壁”は、霞んでいくようだった。





リタはそれが怖かった。




人が笑っている。


でも嫌な感じがしない。


笑顔が、私を向いている。


私を呼んでいるような。



何が違うんだろう。これまでと。




そう――きっと




朗らかな笑顔で他の訓練と笑い合う奈緒が見えた。




あいつだ




“人は、一人じゃ生きていけない”





“誰かと関わって生きていかなきゃならない”





奈緒の言葉が、酒と共に心にまで染みていく。



私一人じゃ、絶対に見れなかった景色


人と関わることから逃げずに、向き合った人だけが得られるもの。


リタは、自分のことのように嬉しく、そして満たされる何かを感じた。




奈緒と目が合った。




騒がしくて声は聞こえなかったが、奈緒は確かにアタシに言った。





――案外、悪くないでしょ?





リタは優しく微笑むと、深く頷いた。


      




      

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