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賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒


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第13話  嵐の前


女子会の数日後、さっそく戦線会議で決定した魔物掃討作戦が実行された。



50名にみたない護衛軍の各対が列を成して荒野を歩いている。

荷物を台車で運ぶ者や、剣と鎧を装備した戦士が列の端で周囲を警戒しており、気の緩みを許さない。



「ほー。こんな感じなのね。遠征って奴」


黒いリュックを背負う奈緒もその一列で歩いていた。


「ええ。ちゃんと準備してきた?」


隣を歩くリタが答える。


「うん。お弁当と、お菓子と、小説と、リップと、除菌シートと、水筒と......」


「遠足か!」


リタは唾を飛ばしながら言う。



「え? じゃあアンタは何を持ってきたのよ」


「そりゃ回復薬とか、薬草、携帯食料、砥石と、魔力便、ナイフ数本、メモ帳、ライト、替えの服、包帯って......こんなん基本だろ!」


「え! なんで言ってくれないのよ!」


「何も聞かなかったじゃない!」


「だって普通に準備しろっていうから!」


「どこの世界に戦場にお菓子持ってくる奴がいんのよ! てかこれ、消費期限切れてるじゃない!」





「お前ら静かにしろ! 少しは緊張感を持て!」





小声で言い争うリタと奈緒を、後ろの衛兵は注意した。

二人はサッと静かになった。



だんだんと奈緒はソワソワしてくる。


「......どうしよ...... あとで荷物チェックとかないかな? あー、恥ずかしいー」



奈緒は涙目でリタに言うと、


「はぁ、仕方ない。必要なもんは貸してやるから、なんとか乗り切れ......」



頭を抱えて答えた。



「神様......今度は私が奢ります」


上目遣いでリタを見つめる奈緒。


顔を顰めながらも、リタは頬を赤らめる。





「それにしても結構歩くのね、あとどれくらいなんだろう」



「まだまる1日は歩くな。魔物襲撃のポイントとなるカイラ渓谷まではこの森を突っ切るのが最速ではあるんだが」



「1日...... まぁそうよね......」



奈緒は眉をハの字にして息を溢す。



「きついか?」


心配したリタは言う。


「いや、暇だなと」


「なんだそれ」


「多分、ボーナスのおかげだよね。こんな距離、私に歩けるはずないんだけど、何ともない。なんなら、全力で何日も走り切れる気がするよ」


奈緒は拳を見つめて言う。


「それは凄いな」


リタは誇らしげに口角を上げた。




そんな会話をしながら、リタの言葉通り、丸一日歩き続けた。


荒野から森を抜け、草原からまた荒れた荒野。


あらゆる景観を通り過ぎていき、満月が真上にきたとき、全体に野営の呼び声がかかった。




「5人一組みでテントを張れ! 軽食を済ませて明日に備えろ! 日の出前に立つ! 遅れるな!」




呼び声と同時に台車からテントを持ってきて早速張り出した。


張り方が全然分からなかった奈緒はリタの後ろにちょこちょことついていった。



「はぁー疲れたわねー」


奈緒は切り株に座って項垂れた。


「アンタ何もしてないだろ」


薪を集めてきたリタが言う。



「おい。なにボサっとしてんだよ」



同じ組の2番隊の面々がゾロゾロと歩いてきては強い口調で言う。


「ちっ。なんで俺たちがお前ら黒金のルーキーと一緒なんだよ」

「実戦で何ができるってんだ......」

ぶつぶつと小言を言いながら男は食材を地面に投げおいた。


「ま、料理くらいしろよ」



「なん......」


リタの目つきが鋭くなる前に奈緒はリタを庇うように前に出た。



「料理、しますね!」



奈緒は笑顔でそういうと、食材を拾って応急的な木の台所

に持って行った。

包丁を手に取り、慣れた手つきで魚を捌いていく。


「なぜ止める? あんな奴ら瞬殺できる」


「リタ、言ったでしょ? 人は一人じゃ生きていけないって」


リタは黙って、作業をする奈緒を見つめる。



「こんなの大したことないよ。すぐ殺せるなら、アリと話してるようなもんじゃない。それなりに愛想よくやって、上手くいなすことで、自分の居心地をよくするのよ」



「......そういうもんなのか?」



「アイツらが言ってることはきっと間違ってる。でもだからっていちいち反論してちゃ、こっちが疲れるだけよ」


そういって捌いた魚の切り身を皿に乗せた。


「はい。持っていって?」

奈緒は笑顔で言う。


リタは困ったような顔で受け取ったが、また頬を赤ている。


次に予め用意されていた湯煎のシチューを鍋にいれて温める。

そして完成した鍋を焚き火の上に吊るす。


「おい。つげよ」


男は奈緒に器を渡す。


「仕方ないな。はーい」


奈緒は笑顔で応えると、器に丁寧によそった」


「はい、どうぞ」



奈緒が両手で器を差し出した瞬間、男はそれを乱暴に払い飛ばした。


熱いシチューが奈緒の服にぶちまけられる。



「熱くて食えねーよ」


周りの男達はクスクスと笑う。



「まぁでも、お前ら二人顔は悪くないよな」


そういって男は奈緒の頬を手で掴んで、自分に近づける。


「飯はいいから酒の相手してくれや」



「おい! 何して......」



庇おうとしたリタは、風に揺れた前髪の隙間にみえた奈緒の目を見てゾッとした。



感情のない、獣のように。


頂点捕食者が獲物を見定めているように。



いつでも殺せることを悟らせるような、殺意を超えた無の表情が、不気味ににっこりと笑ったように見えた。



「ヤバ......お前ら逃げたほ......」



リタがそう言いかけたとき、聞いたことのある声が響く。



「お前ら、何してんだ」


男どもをまとめて殴り飛ばしたのは、2番隊隊長、ライカ

だった。



「上下関係忘れたらお前らただのクズだぞ。一番隊ネイバーはお前らの上層にあるだろうが! 何をさせてんだ! 」



男たちは何も言わず口から出た血を拭う。



「ありえん。除隊だ。消えろ」


「ちょ、ちょって下さいよ! ライカさんだってこいつらのこと......」



「おい、二度は言わんぞ」



ライカの手からオレンジの魔力が漂う。


男たちはそれを見ると怯えて腰を抜かし、その場を走り去っていった。



「二人とも、本当にすまん。この通りだ」


頭を深々と下げるライカ。


「そんな、頭を上げてください」


奈緒は真剣な顔でそう言った。


ライカは驚いた顔をして奈緒を見る。



「怒りも見せずにそう言えるか。アンタ肝座ってんだな」



「まぁそうですね。ブン殴ろうかと思ったんですけど、たぶん加減できなかったんで、本当に息の根止めちゃうと思って」


奈緒は愛想笑いで答える。


「ちょっと見直したぜ。......ナオとリタ。だったな。こっちで一緒に飯食わねえか? さっき酷いことしちまったし、ご馳走様させてくれ」





「ほんと、酷いことしたよね......君たち」



落ち着いた声で静寂を切り裂くような雰囲気が刺さる。





ライカはすぐさま振り返る。



「スイ......」



「怒らせちゃいけない人を、君たちは怒らせた......」




スイは異様な笑みを浮かべると、飛び散ったシチューの器を拾い上げた。


拾い上げた器を持つ手が小刻みに震える。






「こんな可愛い子がよそってくれたシチューは残さず食べなきゃダメじゃないかーーーー! ああっはっはっははっは!」






大笑いし、カブカブと凄い勢いで汚れたシチュー食べるスイ。




リタと奈緒は衝撃受ける。




――この人読めねーーーー!




「二人ともついてきたまえ! 僕のテントで食事をしよう!」



スイは振り返ってキラキラした青緑の目で言う。



「ついておいで」



奈緒とリタは操られるように、猛ダッシュでスイについていった。




「なんやあいつら......」

ライカは一人、春の夜空に呟いた。








スイのテントは、外見よりずっと広かった。


中には簡易机と地図、書類が整然と並び、生活感より“作戦本部”のような空気が強い。




「さぁ、真面目な話しようか」



その静かな一言で、イケメンに酔っていた奈緒は熱が冷めて、自然と背筋が伸びる。




「君たちもみた通り、今の護衛軍はバラバラさ。でもこの国を取り巻く現状はそう甘くない。だから新人だろうと、力のある者はどんどん隊に入れる。一刻も早く戦力の向上と、チームワークを鍛えなければならない。今回の作戦はその為の、いわばレクリエーションみたいなものだと思って欲しい」



スイはコーヒーを二人に出すと椅子に座る。



「さっきみたいに、君たちのような飛び入りの大型新人を気に入らない奴も多い。だからこそ、君たちには、『私たちも仕事ができる』っていうのを証明して欲しいんだ。その為には、わかるね?」



コーヒーをグイッと飲むとリタは答える。



「簡単なことですよね。それ」




奈緒はコーヒーに息を吹きかけて言う。




「要は、目の前の魔物、ぜーんぶ私たちがぶっ飛ばせばいいんでしょ?」




「そゆこと」



スイはニッコリと笑って言った。


明日の嵐の前、その高揚感を沈めるにはカフェインが効きすぎたかもしれない。




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