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賞与ゼロの万年事務員、異世界ボーナス無双  作者: 海月 恒


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12/28

第12話  女子会①


焔壮から徒歩で10分。


メイン広場の端にある、こじんまりとして落ち着いた雰囲気のバール。


店の名前は“ジュア”


「わぁーいい感じじゃん! 正直こういうお店アンタ苦手だと思ってたよ」


柔らかい電球色の照明が全体に広がり、ほんのりと甘い香りが漂っている。

他の客はおとなしい感じの人達が2、3組いるくらいだった。


「まぁ、たまに飲みたい時くるくらいよ。ここしか、逆に知らない。人が少なくていい」



リタはそういうと、奥の席に歩いていき、奈緒もトコトコついて行った。



「いらっしゃいませ! お二人様ですか?」



若い短髪の男の子がハツラツと挨拶をしてきた。



「ああ。エールを二つ。あと、コールドフィッシュの干物、ピーバード炭火焼き」



「あいよ。少々お待ちを」



ニコニコとしてその男は厨房へ戻って行った。



「おすすめ料理? 何が有名なの?」


奈緒はおしぼりで手を拭いて言う。


「まぁ、大衆料理だな。近隣の海や森で取りやすい魔物の料理がある。ここは代謝に良くて魔力回復に良い酒と、筋肉の質を上げてくれるような効果を持つ小鉢があって。体作りに気を使う私でも割と気を抜いて楽しめる」



「流石ね。ちゃんと私生活から厳しく出来てるのね......」


奈緒は自分の怠惰を振り返って情けなさに萎える。




「あい、とりあえずエールね。お二人さん」



男は大きなジョッキ二つ置く。泡が少し溢れ、ガラスを滴っている。


リタがすぐに手に取り、飲もうとしたところを奈緒は慌てて止める。



「ストップ! まだ乾杯してないでしょ!」



「ん、なんだそんなもの必要か? 」


「はぁー。記念すべき同僚との初飯でしょ? ちゃんと祝わないと」


ジョッキを向かい合わせて奈緒は、リタのジョッキに強めに縁を当てる。


「乾杯!」



奈緒は笑顔でそういうと、男まさりの呑みっぷりで一気にジョッキを空にした。



リタは目を丸くしてそれを見ると、少し顔の強張りを解いて、優しく微笑んだ。



――そうだな。思えば私も、



初めて人と飲む、酒なんだな。



ゆっくり味わうようにエールを飲み始めた。



「美味しい......」


リタは奈緒に聞こえない程度に、そう言葉を溢した。




「うんめええ! 初異世界ビール最高おおおお!!」


「い、異世界?」


「あ」



――あまりの酒の美味しさに口を思い切り滑らせた奈緒



「い、イケメンビールサイコーっていったのよ!」



「言ってないだろ」



奈緒はソワソワしてお手拭きでテーブルを拭き出す。



「ナオ。さっきにアタシが自分に厳しいと言ったが、アンタは日々どんなトレーニングをしているんだ? その体も魔力も正直見たことないくらいのレベルだ。ぜひ参考までに聞かせてもらいたい」



「ト、トレーンング? そうね...... まぁ筋トレとか? ランニングとか! 瞑想とか? ヨガとか? 」



「あい! 炭火焼きと干物ねー」



ウェイターの男はルンルンで料理を置いていく。



「筋トレ? どんな筋トレなんだ? 何回くらい? ランニングは何キロ走ってる? 瞑想は座って? イメージしてるものは?」



リタは前屈みになって聞く。


「き、筋トレは...... 腹筋をじゅ、30回! 腕立てもそんくらいよ! ランニングは.......10キロとか? 」



「......少なくないか? 」




リタの顔が冷めていく。


――やっべー! 筋トレって30回やればいい方じゃないの? ランニングなんかやったことないから相場わかんないーーーー!



「うそうそ! 筋トレはね! あのー、あれ、腕立てを5万回くらいかな! ランニングは10万キロだった! 朝飯前よこんくらい!」



「ご、5万回!?  それならあのデタラメな腕力も説明がつく訳だ! ランニング10万キロって....... 一体どれくらいの距離なんだ....... 。さすがだナオ!」



リタは目を輝かせてビールをガブガブ飲む。


――ごめんね!?  アンタこんなにいい子だったの!?


こっちの胸が痛すぎるーーーー!



奈緒は後ろを向いて涙を流す。



リタは、雑に炭火焼きをグサっとフォークで刺す。


「アンタやっぱり凄いんだね......」


美味しそうに料理を食べるリタの姿に、羨ましさと申し訳なさを抑えられなくなる。



「ごめん。.......やっぱ嘘なの。さっきの全部嘘!」



「なに!? アンタまさかもっとハードなトレーニングを!」



「違うの! これには訳があってね......」



「もったいぶらずに教えてくれ! アタシはアンタの同僚なんだろ? 隠し事なんかするな!」


リタはフォークに刺さった炭火焼きをナオの口元に向ける。



奈緒はフォークに刺さったピーバードの炭火焼きをパクッと食べる。



「うう。美味しい。でももっと美味しく食べたい......」



奈緒は涙目でそういうと、おかわりしたビールを一口呑んだ。



「もう、アンタになら話してもいいよね?」




奈緒は真剣な顔をして、これまでのことを話した。

事務職をしていたことから、こっちに突然来たこと。

自分でもよく分かっていないこと。



そして“ボーナス”のことも。



「なんという...... 」


リタは動揺を隠せない。


「だからアンタの言う通り、めちゃめちゃ努力して強くなったって訳じゃないの。私にもよく分かってないの...... 裏切るような感じで、ごめん」



リタは黙って、表情を険しくした。



「渡り者......」



「え?」



「昔聞いたことがある。別世界からこの世界に突如現れて、その強大な力で世界をも変えてしまう存在。確か......」



リタはそういうと、お店の本棚に飾ってある本を持ってきた。



「ほらみて」



「これって......」



古い絵本だった。童話のような。


そこに書かれていた文字は見たことあるものと馴染みのある建物が並ぶ街が描かれていた。

ビルや車、電車などが淡い水彩画でデフォルメして描かれている。


――嘘。これって日本の現代の街並みじゃない。

そして日本語!? なんでこの言語が。



「言葉は読めないけど、解析された内容からすると、この物語は、一人の男の子とライオンというキメラのような生き物のお話なんだけど、異世界に移動した彼とライオンは最終的に......」




奈緒は最後のページをめくって一行を読んだ。




「世界を......滅ぼした」




周囲の客の声が聞こえなくなり、二人だけの空間にする。



「なぜ...... 読める?」



リタは驚いて奈緒を見つめる。



「ここよ。私の故郷」



奈緒は懐かしさを感じながら絵を指でなぞる。



「......こうして異世界に渡ってくる存在を、アタシたちは“渡り者”と呼んでいるの。そして、」



リタは目を瞑る。




「一説では、“魔王”も、渡り者だと言われている」




奈緒は鳥肌が止まらなかった。



「リタ。 私は......」



「分かってる」

動揺する奈緒の肩に手を置いてリタは優しく話す。




「......この眼はね、その能力故に相手の感情や人格の色を示すの」



リタの妖しげにも美しい赤眼は、真っ直ぐに奈緒を見つめる。



「アンタの色は綺麗な緑色。調和と穏やかさ、自然体を表す。アンタはそんなこと、絶対にしない」


リタには、奈緒の周りを漂う優しい緑のオーラが、彼女と、そして自分を包み込んでいるのが見えた。



――オーラが他人まで包んでる。奈緒らしいな。



「リタ......」



「ただの噂さ、気にするな。さ、さっさと食べよう? 冷めちまう」



リタはそう微笑むとパクパクと炭火焼きを頬張る。



奈緒も干物を食べる。


「美味しい...... そしてなんか余計腹減ってきたよ」


「じゃあピータでも食べよう」


「何それ」


「まるい形のパンに、いろいろ具材を乗せてだな......」


――ピザっすね! よっしゃ!



そこからはたわいも無い会話を楽しんだ。

時間を忘れて、笑い合った。

肴には困らなかった。



ひとときが経ち、テーブルには完食した大小の空の皿が幾つも並んでいる。

「しかし、羨ましいよ」


「ん?」


「ボーナスステージか。1週間ごとに莫大な経験値もらえて、強くなれる。もう追いつける気がしないな」


「でも、一応クリアしたら。だからね、失敗したらどうなるのか分かったもんじゃないよ......」


「あんな力だもんな。どんなペナルティがあるのか.......因みにどんなゲームなんだ?」



「なんか赤い箱が無数に出てきて、それをただ壊すだけ」



「それだけで!? ゲームになってない......」



リタは不思議に思う。


「箱って何個くらい? 時間は?」


「個数は分かんない。ほんといっぱい! 時間は一回目が5分? だったかな」



「無数か...... よくクリアできたな」


「ほんとよね。よく覚えてなーい」


奈緒もリタも酒に酔い、頬を赤らめていた。


リタはボーッとしながら考える。


一度目のボーナスのとき、ナオはまだ何の力も無かったはず。


無数の箱、たとえば数十個をそう表現しているなら理解できるが、仮に本当に無数にある箱だとしたら、一般人が5分で全てを破壊できるのか?




「...... それ、本当にクリア出来るものなのか?」




リタは聞いたが、奈緒はすでにテーブルに項垂れて倒れていた。



「アタシたち酒には弱いのかな。......お勘定お願い」



「あいよ」 

ウェイターは愛想よく請求書をおいた。





「安っ...... また来よう」




そう呟き、リタは奈緒を抱えて千鳥足で帰って行った。




人が少なくなったメイン広場。

街頭はぼんやりと揺れている。


季節がまだ過ごしやすいからか、夜風が妙に心地よかった。





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