第11話 戦線会議
日は落ちかけてオレンジ色の陽が差し込む。
騒ついた会議室の熱量は高い。
それぞれの施策と思惑はひしめき合って、まとまりに欠ける空間を作っていた。
午前、昼と、他の訓練生と同様に基礎トレーニングが終わった後、ギルバートから『戦線会議』という集まりにリタと奈緒は招集を受けて参加したのだった。
「で、あるからして、次のベイラム国の進軍までに、レイト地区に増援が必須であり......」
「いや、そこに軍事力を裂いてはだな......」
難しい単語と国の名前が飛び交う。
「ここが軍の方向性を会議する場だ。隣国の情勢の情報共有をして、軍事力の采配を決めているんだ」
隣の席で腕を組んで座るリタは言う。
「ほえー。なんだか、落ち着かない雰囲気だね......」
奈緒は空気感に慣れずにソワソワしている。
「そりゃそうさ。まぁ、大事なことはちゃんと指示があるから、それだけ聞いておけば大丈夫よ」
「頑張ります。リタは、もう何回も出てるの?」
「ああ。盗み聞きしていた」
「すごいわね......」
「えー、ここで一旦今年の黒金の二人。見事ネイバー入りを果たしたルーキーを紹介しておこう」
ギルバートは遠くの高い席から、こちらを見つめる。
「ナオ・ミツキと、リタ・ナイトロックだ」
二人は立ち上がり、軽く礼をする。
ヤジは直ぐに飛んできた。
「噂ほどなのか?」
「演舞だけじゃ分からん。フニャフニャじゃねえか」
「実戦は別だろ」
「つかそもそも女には重いだろ」
――ザ、女性軽視! 会社と変わらねえ!
「彼女らの実力は本物です」
全体に通る声質でそう言って立ち上がったのは視察にきていた3番隊隊長、カリムと、副長のネイサンだった。
「計りしれない力を持つ二人です。......恥ずかしながら、判明した数値だけでもすでに、我々3番隊の戦力を超えています」
会議室はまたも大きく騒めく。
「何。そもそも3番隊はこの情報収集部隊としての役割が大きいじゃないか」
「比較にならんぞ」
ヤジに対してカリムは言い返す。
「正直、2番隊の力をもってしても危ういと思われます」
「ッフン! アリエナイね!」
一際大声で視線を奪ったのは2番隊隊長の長髪の男だった。
「いくら水晶の数値が良いからって、俺たち2番隊の力を見誤ってもらっちゃー困るなぁ! こんな小娘に負けるほどヤワじゃあないね!」
「ずいぶん強気だな。ライカ」
ギルバートは口角を上げて言う。
「団長。何を考えてこの娘をネイバー入りさせるのか知りませんがね、私ども2番隊にもネイバーレベルの戦士はゴロゴロいる訳ですよ! なんでルーキーがいきなり.......」
「......そう言うところが、君が2番隊に落ち着いている理由だろ」
透き通っていて柔らかい声が、物陰から聞こえた。
「お前は...... なんで貴様が.......」
ライカは、苛立ちを隠せない。
「そんなに怒んないでよ。怖いなぁ。新人の顔見せだっていうのに、来ない訳ないじゃないか」
男は物陰から出てくると、奈緒とリタの前に歩いて行った。
ビー玉のように青緑に光る目で二人をジッと見つめる。
「これは...... すごいな」
スイは微笑んで話し続ける。
「僕はスイ・アクアドラム。1番隊の副隊長をしてる。いろいろ嫌な思いさせてごめんね。失礼な連中だろ?」
少年のように無邪気な笑顔だった。
「い、いえ! 問題ありません」
リタは冷や汗をかいて答える。
「あの、奈緒といいます。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」
奈緒は心が躍っていた。
イケメーーーン。カッコいーーー!
小柄だけど顔面国宝級ーーーーーー!
奈緒はときめく。
「うん、よろしくね」
可愛らしい笑顔で言った。
「あ、アタシも、頑張ります......」
リタは目を右往左往させて言う。
奈緒はリタの言動に気づく。
――こいつ意外とわかりやすっ! そんなに好きなんや!
「スイ。日々の常務ご苦労。こんな場に来るなんて珍しいな」
「ええ。お久しぶりです。団長。お元気でしたか?」
二人は穏やかに会話を始めた。
その隙に奈緒はリタの耳元で話す。
「リタ! アンタあの人のこと好きなの?」
リタは電気が走ったかのように背筋を伸ばし鳥肌を立てる。
「そそそそ、そんな訳ないだろ! 恐ろしいこと、い、いうな.....」
「図星じゃーーん」
イタズラな顔で奈緒は言う。
恥ずかしさに駆られ、リタは奈緒の太ももを叩く。
「痛っ! でもカッコいいよね! 何者なの?」
奈緒は少し笑って言う。
「彼が言った通りだ。ネイバーの副団長。1番隊として実際現場に出るのは主にスイさんなんだ。政治や軍議などの仕事はギルバートさん。裏で戦闘に関する仕事をするのは彼」
「ほえーそうんだ。どっちが隊長か分かんないね」
「そう。戦闘力だけで言えばギルバート団長をゆうに超えると聞く」
「団長より強いの? それってつまり......」
「ああ。事実上、彼は今、この国で最強の兵士だ」
にこやかに話すスイの顔が、やや不気味に見えてきた奈緒。
ギルバートとの話に区切りがつくと、全体の方を向く。
「さて、みんな今日は、一つ提案があって来たんだ」
会議室の全員がスイの方を見る。
「来週、北の方から魔物の大群がこの国めがけて進軍してくるとの情報が入った。今回は、規模がでかくてね、是非、2番隊の力も借りたいんだ」
「なに? 偉そうに! 何企んでるんだ!」
「俺たちの力なんかいらねえだろ」
2番隊の面々が、怒鳴り声をあげる。
「落ち着いて。何も企んでないよ! ただ今回は数が多くて厄介だから、この間のトライ村の件みたいに、魔物を逃しちゃ問題だろう? だから全員協力して、迅速かつ効率よく終わらせようって話」
スイは困った顔で話す。
「そして今団長と決めたところなんだけど。今回の防衛戦、武功を挙げたものには、この新人二人と入れ替わりでネイバーに入団できるってさ」
リタと奈緒は胸に爆弾が落ちたような衝撃だった。
2番隊のメンバーは怒鳴るのを止める。
「おい、まじか......」
「これチャンスだよな?」
批判的だった騒音は明るい色の会話へ変わっていく。
「気に入ったみたいで良かった。まぁ、1番隊は忙しいからね、いろんな国に行ってて全員は参加出来ないんだ。だから、」
スイは目の色を変える。
「1番隊は僕と新人二人、計三人しか参加しない。僕らより、大きな手柄をあげてみせてよ」
ライカは額に脈を浮立たせる。
「馬鹿にしてんのか? こっちに何人いると思ってる? 三人なんか、相手に何ねぇよ」
「.......精々楽しませてよ。
僕がいる限り、こっちが負けることなんてないんだからさ」
声色を変えて、スイは瞳をギラつかせると、会議室の全員が心臓を握られるような圧力を感じる。
「じゃ、また詳細はおって連絡しまーす。また、来週ね。リタちゃん、ナオちゃん」
「ではこれにて今回の戦線会議は終わりとする。まだ用があるものは各々終わらせるように」
ギルバートがそういうと、周囲の大人たちは忙しなさそうにはけていった。
次々と人は減っていく中、二人は座ったままだった。
「なぁ聞いたか今の」
リタは顔を前髪で隠して言う。
「ええ。なんかちょっと聞こえました」
奈緒は無表情で言う。
「絶対負けらんねぇ......」
静かに厳かな炎を燃やしたリタ。
「そうなの? 私はまだ状況についていけてないんだけど......」
「いくわよナオ! 作戦会議!」
颯爽と立ち上がって歩いていくリタに奈緒は駆け足でついていく。
「え待ってよ。どこいくのよ」
「アイツらに負けない戦略を立てるわ」
「えぇー。もうお腹減ったー休憩しようよ」
奈緒は腹部を摩って言う
「だらしないわね! 分かった! ほらこの間言ってたでしょ、ご飯連れてけって。そこで飯食いながら話そう。奢ってやる」
「まぁじ!? やった! 飲もー!」
奈緒はリタの腕に絡まるようにして密着して歩いて行った。
二人を遠くから見つめるスイ。
その眼はどこか渇いているようだった。




