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二人の修道女、サビーナとファンニ

その頃、ハイネの警備隊の事情調収に応じる事にしたルディガーとアゼルは兵士達と共に警備隊本部に向かっていた、警備隊本部はハイネ中央通りの南門近くにある。

治安維持の為に部隊が配備されていたが、その他にもハイネの近郊に警備隊の駐屯地が二箇所ほど設けられている。

ハイネ警備隊の常備兵力は全体で1000名程で治安維持と周辺地域の警備に当たっていた、非常時には40歳までの予備役を動員し最大5000近い軍事力を動員できる、だが動員には一週間以上の時間が必要とされていた。


ルディガー達を取り囲む警備兵は非常に身軽な軽装だ。

一行は警備隊本部に到着すると引き継ぎが行われ二人はある一室に通された、ここでも警備兵がルディガーの武器を預かる。


部屋は質素で無機的なまでに温かみが欠けている、だが二人は犯罪の容疑者と言うわけでは無い、それなりの身分と思われたのか粗雑な扱いではなかった。

やがて将校らしき三十代と思われる男と書記官らしき文官と警備兵二人が現れた。


その将校は一歩前に出て自己紹介をした。

ルディガーとアゼルはエルニアのエリカの魔術道具商ファルクラム商会の関係者であると名乗る、そしてアゼルが上位魔術師であると付け加えた。

アゼルが示した魔術師ギルドの金属製の証明章を見て、一瞬将校の表情が僅かに驚いた事を二人は見逃さなかった。

「お手数をかけるがこちらも公務でして了承していただきたい・・・防護魔法が存在したわけか」

最後は聞こえない程の小さな声で呟く。

そして全員着席後に将校が切り出した。

「あなたがたは剣を持った少女を探していると聞きましたが、その少女に殺人容疑がかかっています、ご存知でしたか?」

「なんだと!?殺人だと!!」

ルディもアゼルもこれに心から衝撃を受けていた、将校はその驚きが演技ではないと判断したようだ。

「ふむ、ご存知ありませんでしたか?」

「信じられません・・・」


「その少女とお二人はどのような関係ですか?」

「我らはラーゼからリネインの旅で彼女と知り合い随分親しくなりまして、つい気を許してしまい剣を盗まれました」

「少女について詳しくご存知ですか?」

「リネインの聖霊教会の孤児院の娘で、名前はコッキー=フローテンです」

「ハイネの野菊亭の宿泊客の名簿にある名前と一致します」

書記官が調書を取りながら将校を補足した、ルディガーは自分達が警備隊と入れ違いになっていた事に気が付いた。

「その娘はリネインの聖霊教会の孤児院の娘なのか?だからジンバー商会と接点があるわけだな、貴重な情報です」

将校は当然のように孤児特権を利用した後ろ暗いビジネスの存在を知っている。


「ところで、貴方は剣の盗難に関して捜査依頼を出しますか?」

これには裏の意味があった、犯人と交渉して取り戻すつもりなのか、法に任せるのかと二人に問うている。

殺人事件そのものは問答無用で捜査対象になるが、殺人の実行犯からすでに盗品を扱う組織に流れている可能性が高い。

貴重品や特殊な物の盗難に関しては裏交渉で穏便に取り戻す事を望む者がいる、更にいわく付きの物ならば表に出したくない事も多い、彼はそういった大人の事情に触れていた。


「剣の盗難に関して捜査依頼を出したいのです、我々はコステロ商会と商談を進めているので」

ルディガーはまだハイネ警備隊を信用できなかった、剣が捜査中に見つかりそのまま横領される可能性もあるため危険を承知で捜査依頼を出す事にしたのだ。

「なんですと!!コステロ商会ですか・・・なるほどあなた方は魔術道具商でしたね」

彼の表情からは彼の本心は伺えなかった。

ルディガーは敢えてコステロ商会の名前を出した、コステロに商売の話を切り出していたので話が通りやすい、もっともコッキーを操っている者達がコステロ商会やハイネ警備隊と関係があるかどうかまでは今の時点では知り用がなかった。

そこで初めてアゼルが口を開く。

「あれは簡単に換金できる物ではありません、私はテレーゼの外に持ち出されるのを怖れています」


将校はそれにうなずく。

「さてコッキー=フローテンについていろいろお聞きしたいことがあります、その後でその盗まれた剣の特徴などお聞かせ願いたい、剣は可能なかぎり捜査しましょう」

「お願いします、さてこちらも知る限りお話しいたしましょう」

だがルディガー達は本当に重要な情報を警備隊に教えるつもりなど全く無い。





教会の門を潜り抜けたベルサーレの視界に木造の簡素な造りの礼拝堂が飛び込んでくる、彼女は意を決して礼拝堂の門をくぐる。

そこはすぐ正面が礼拝所だ、内装は質素でとても狭い、礼拝所の門に飾られている退魔の聖人像も簡略化された木製の像で比較的最近造られたように新しい。


彼女が礼拝所に入るとそこに一人の若い修道女が祭壇を清めている、彼女は礼拝堂に誰かが入ってくる気配に気が付いたのか入り口を振り向いた。

「まあ、みなれない()ね」

若い修道女は優しく微笑んだ、薄いブラウンの髪に平凡な容姿だが、彼女の周りを温かい柔らかい空気が取り巻いているように感じさせる。


ベルサーレは高級使用人のドレスを纏っていた、そこですこし育ちの良い平民を意識する事にした。

「こんにちわ修道女様、友達を探しているのです」

「まあお友達ですか?」

「リネインの聖霊教会の孤児院にいた娘です、名はコッキー=フローテンと言います」

「ここに来ているかもしれないと思ったのね?」

「はい、そうです」


若い修道女は暫く考え込んでいたが

「そういう娘は知らないわ、私は午後の番なんだけどそんな娘は来なかった、午前の番の方に聞いてみますね」

その女性は礼拝堂の奥の部屋に入って行く。


その間にベルサーレは礼拝堂の中を観察する、柱や壁は質素な造りだが建てられてからそれほど経ってはいない。

礼拝殿の最奥の精霊王のレリーフも木彫だ、木彫りながら素朴で力強くそれなりに優れた職人の手で彫られたものだ。

やがて礼拝堂の奥の部屋の扉が開き、先程のブラウンの髪の修道女と、彼女より更に若い長い黒髪のほっそりとした清楚で美しい修道女が続く、その少女はベルサーレとほぼ同年代だ。


「こちらが午前の番だった、ファンニ=アルーン、私がサビーナ=オランドです」

「ぼ、私はベル=グラディエーターです、エルニアからご主人様と共にハイネに来ました、コッキーはリネインで知り合ってこの町まで来たのです・・」

ベルサーレは友達を心配するかのように俯いた、それは演技だが偽りのない本心だ。


「まさか、その娘が行方不明になったの!?」

サビーナとファンニが顔を見合わせた。

「そうなんです朝から姿が見えなくなって、手がかりも無いのでここに」

「たいへんだわね、申しわけないけど今日は知った人しかここに来ていないのよ」

サビーナとファンニが申し訳なさげな表情でこちらを見た。


「怖いわね最近誘拐事件が多くて、子供達が何人も行方不明になっているの、ここも孤児院があるから心配だわ」

サビーナが不安げにささやいた。

「新市街・・えーハイネの城壁の外の事だけど、新市街で特に誘拐がたくさん起きているの」

今度はファンニが不安げに言い添える。


ベルサーレは魔法街でコッキーが誘拐されかけた事を思い出した、ジンバー商会が誘拐事件に関わっている可能性にまで思い至った。

そしてコッキーの担ぎ屋業の元締めであり、その上ジンバー商会の者がコッキーらしき女の子に斬り殺された。


ベルサーレは一人の考えに耽っていたが重要な何かを思い出したように二人の修道女に向き直った。

「聖霊教会の裏の煙はなんでしょう?」

サビーナとファンニはまた顔を見合わせる、サビーナがとても言いにくそうに口を開いた。

「聖霊教会から少し離れた所に墓地があるのよ、でもね最近お墓を荒らす人達がいて、ご遺体を盗む者達がいるの」

ベルサーレはゲーラで見た死霊術で利用された屍体を焼く火葬の煙を思い出した。

「修道女様、ご遺体を盗んでどうするのでしょうか?」


再びサビーナとファンニはお互い顔を見合わせ、何かおぞましげに口を歪めながら今度はサビーナが話す。


「貴方は死霊術を知っているかしら?」

「ええ名前だけは」

「なら話は早いですわね、ご遺体とおなくなりなった方々の魂を利用する邪悪な術よ、最近ご遺体は火葬にするように命令がでているけどね、なかなかできるものではないわ、特に貧しい人たちにとって」

「あの煙は火葬の煙だったのですね・・・」

二人の修道女は無言で肯定する。


「でも不思議な事があるのよ、真夜中にお墓が荒らされるのだけど、誰も気が付かないのよ・・・」

サビーナが小さな声でささやく、誰かに聞かれたくないかの様だ。

「修道女様それは魔術でしょうか?」

「ええ私達もそうかもしれないと思いますが、調べたくてもここにはそんな優れた魔術師の方がおりませんの」

こんどはファンニが小さな声で答える。


ベルサーレは二人の態度から魔術師ではないのだろうと考えた。

そして気が逸りコッキーの手がかりを掴みたく一刻も早く動きたい。


「修道女様方お手数をおかけしました、他を探してみます」

「お友達が無事見つかることをお祈りますわ」


二人の修道女はベルとその友達の為に幸運の祈りを捧げた、そしてベルは教会を去ろうとする。

だが彼女は足を止めて振り返った。


「あ!!申し訳有りません、まだお尋ねしたい事がありました」

「「何かしら?」」


「ここから北西に黒い煙がたくさん昇っていましたが、あれはなんでしよう?」

サビーナが少し苦笑しながら答えた。

「あれは本当にすごいわね、あれは製鉄所よ、あそこで露天掘りの石炭が採れるの、ハイネの北のマインから鉄鉱石を持ってきてそれを鉄にしているのよ」


「いろいろありがとうございました」

そしてもう一つ忘れていた事があったのだ、ベルは精霊王の祭壇に近づくと隣りにある浄財箱にコインを入れて祭壇に礼拝する。

そして二人の修道女にぴょこんと一礼し聖霊教会を後にした。



「「気をつけてねー」」

サビーナとファンニの声が重なり合いながら駆け出し始めたベルの後から追いかけてきた。

ベルサーレはジンバー商会について情報を集める事にする、コッキーの足取りが新市街で途切れていたが、今は手掛かりが少なすぎた。





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