82 ハーフエルフっ娘の王都防衛3 ~ 激戦
合図と共に一斉に駆けるコエリーオ王国軍。
「突撃ぃぃぃぃぃぃ!」
その先頭を切ったのはサラマンダー隊だ。
サラマンダーに騎乗して、風のごとく荒野を駆け抜ける騎士達、その数は一〇〇〇を超えていた。
彼らの多くは強靭な肉体を誇る虎人や豹人たちだ。
その機動力は凄まじく、騎馬隊の三倍の速度で、あっという間に有刺鉄線地帯まで辿り着いた。
――ボコボコボコ
そして有刺鉄線をまるっきり無視して突き進むサラマンダーに支柱が耐えられず、次々と引き抜かれて行く。
だが次の瞬間、先頭を走るサラマンダーたちがいきなり倒れ、痙攣しだした。
そう、有刺鉄線に電流が流されたのだ。
異変に気付いた後続のサラマンダー隊員たちは、倒れた仲間たちを飛び越えて直進して行く。
そして敵陣まであと五〇メアトルまで近付いた時……
――ガチャァァァァァァン
あちこちでガラスの割れるような音が響き、突然現れた穴にサラマンダー隊が飲み込まれていく。
「なにぃ?落とし穴かぁ!?」
そう。それはフォーリィが東の砦で使った戦術。
土の魔石で強化したガラスの上に土を被せ、任意のタイミングで魔力供給を切り、上に乗っている者達諸とも穴に落とすトラップだ。
そして……
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」」」」
今回も悲痛な叫びと共に兵士たちが炎に包まれていく。
だが、彼等は百戦錬磨のサラマンダー隊。
穴に落ちたのは不意を突かれた先頭の集団のみで、残りは巧みにサラマンダーを操作すると、落とし穴を避けて更に突き進む。
それこそがフォーリィの狙いだった。
――ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダァ
銃架に固定されている重機関銃の内、四挺がいっせいに火を噴いた。
加圧室を三二室も搭載されているその武器の連射速度は、毎秒一六発。
「何故だぁ!なぜ鉛玉がサラマンダーのウロコを貫通できるんだぁ!?」
彼らを攻撃している重機関銃には、鉛弾ではなく貫通性重視の鉄の弾丸が装填されていた。
そして、未だに青い炎を上げている落とし穴を避けながら進むサラマンダー隊は容易に狙い撃ちができた。いや、正確には敵がそのような進路をとる事を計算に入れてフォーリィは落とし穴を配置したのだった。
重機関銃の前に、次々とハチの巣になっていくサラマンダー。
事前のフォーリィの指示により、射手は騎乗している兵士ではなくサラマンダーを集中して攻撃する。
彼女がそういう指示をだしたのは、死者をいたずらに増やすのを避けることによって戦後の遺恨を少しでも軽減するため、と言う考えも少しはあったが、どちらかと言うとサラマンダーを確実に潰した方が敵軍の機動力が激減するからだった。
「くそっ!」
深手を負ったサラマンダーから放り出された騎士たちは、急いでボウガンを構えて矢を放つ。
「!?」
だが、その矢は確かに射手たちに当たっているのだが、彼等は何事もなかったかのように戦い続けていた。
そう、彼等が着ているのは、ラトゥーミア王都攻略時にすでに実戦投入されていた特殊戦闘服。石の魔石で強化された石綿製の布と石綿を幾重にも重ねた戦闘服だった。
「何なんだ、あれは……。奴らが着ているのはどう見ても普通の作業着だろ?彼らは特殊な防御魔法でも会得しているのか?」
呆然と立ち尽くす騎士たち。
だが、戦場で足を止めるのは命取りだ。
こうして、サラマンダーを失った騎士たちは、次々とカデン軍のアサルトライフルもどきの餌食になった。
そして仲間たちがハチの巣になるのを見て、一部は無謀にも剣を抜いてカデン軍に向かって突進していき、また一部はその場で腹ばいになりガタガタと震えていた。
地上部隊がサラマンダー隊との戦いを繰り広げている時、空では新たな動きがあった。
「来たな。敵の騎竜隊」
防空を任されている隊長は、双眼鏡で敵のワイバーン部隊が飛んできているのを確認した。
「あ~、こちら対空部隊長。敵の騎竜隊を確認。竹飛竜部隊は準備せよ」
『了解!』
隊長が魔道音伝器を使って連絡すると、竹飛竜で控えていたパイロットたちから次々と返事が返って来た。
騎竜隊の数は、ざっと見たところ五〇〇ほどだった。
それが彼らを囲むような形で飛んできていた。
そして騎竜隊がカデン軍の陣営に近付き、ボウガンを手に今まさに突撃を開始しようとした時……
「撃てぇぇぇ!」
――ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダァ
隊長の合図とともに、四挺の重機関銃がいっせいに彼らに向けて掃射を開始した。
「「「うわぁぁ!!」」」
自分たちに向かってくる光る弾に、驚きながらもギリギリで避ける騎竜隊たち。
「な、何だ?この攻撃。なかなか近付けないぞ!」
敵の攻撃はやっかいだが、躱せない事はない。だが、これではボウガンが届く距離まで近付くことは……
「ぐわあぁぁ」
そんな事を考えていた騎竜隊の一人が、肩に走る激痛で顔を歪めた。
気付くと肩から血が流れていた。
「何故だ!避けたはずなのに!」
彼らは知らなかった。彼らが避けていたのは、鉛弾に混ざって射出されている単なる光る弾だったことを。
空中を縦横無尽に飛び回る敵に対しては、射手が敵の動きを予測して、敵がその場所を通過したときに弾丸が到着するように先回りする形で弾丸を射出していく。
だが、高速で飛んで行く弾丸を戦闘中に目で追うのは無理がある。
だから数発に一発は明かりの魔石を使った光る弾丸が射出されるようにしてあった。
そう、光の魔石ではなく明かりの魔石だ。
フォーリィは対空射撃用に、照明器具としては売り物にならない小さな明かりの魔石を魔改造し、内部の発光物質を数秒で一気に燃やし尽くして強い光を発するようにした。
後は、それと同じものをドワーフ達に量産するようにお願いしたのだった。
「くっ。このままではジリ貧だ。全員退却!」
隊長の号令で、騎竜隊は退いていく。
その頃には地上も一段落ついていた。
サラマンダーの数が半数まで減ったところで、退却を始めたのだ。
そして、サラマンダーを失った騎士達も、その後を追って走って行く。
もちろん、この時は背後から撃ったりはしない。
フォーリィの目的は敵の殲滅ではなく、自分の領地に入れさせないことだからだ。
しかし、敵は完全に退却せず、少し離れたところで止まるとクルリと振り返り、そこで動きを止めた。
その動きを双眼鏡で見ていたフォーリィは首を傾げるが、すぐに理解した。
「ああ、向こうは魔道音伝器がないから……」
フォーリィがそう呟いたとき、彼女の魔道音伝器から呼び出し音が鳴った。
「はい、こちらフォーリィ」
『伯爵様。ウルディカの門が開きました』
◆ ◆
一〇分前。
「急げ!」
コエリーオ王国軍の別動隊が山の虎に跨り、川沿いをひた走っていた。
川の左側はかなり高い絶壁だが、右側は五メアトルほどしかなく、それほど登るのが難しくはなかった。
「隊長、その先です。そこに色が変わった岩壁があるでしょ?その先を五分ほど進むと、敵の陣地のすぐ近くに到着します」
彼らは両側が岩壁に囲まれている川を上流に向かって南下していた。
川と言っても水かさは低い。
さらに、川の右側にまでは水は届いていないので、こうやって敵に気付かれずに山の虎で敵陣のすぐ近くまで来れる。
敵も、まさか自分たちが川から攻撃してくるとは思わないだろう。
「ここです」
事前にこの辺りの下調べを行っていた案内役の兵士の言葉に、隊長は部隊を停止させた。
「この上だ。急げ」
そして部下に指示を出す。
すると、事前の打ち合わせ通りに一〇名ほどの身の軽い者たちが素早く崖を登り、杭を打ち付けて縄ハシゴを取り付けると、それぞれ崖の下にハシゴを伸ばしていった。
「よしっ!全員、突撃ぃぃぃぃぃ!」
隊長の言葉を受け、兵士達が次々と五メアトルの崖を登っていく。
だが、彼等は気付くべきだった。
両側が岩壁に囲まれた川。
なぜ川が流れているところの両側が削り取られたような崖になっているのか。
遠くから聞こえてくる地響きのような音は何なのか。
「隊長ぉぉぉぉぉぉぉ!川がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
今まさに敵陣に切り込もうとしていた矢先、背後から聞こえた叫び声に振り返る隊長。
彼が見たのは、多くの部下たちの絶叫を飲み込んでいく濁流だった。
その中には板や丸太も多数含まれていた。
それを見た隊長は気付いた。
「奴らぁ!奴らぁぁぁぁぁぁぁ!!川をせき止めていやがったなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そう。隊長の言う通り、監視カメラで見ていた上流の部隊が、コエリーオ王国軍がやって来たのを確認すると、事前にフォーリィから指示されていた通り、川をせき止めていた木材を崩したのだった。
隊長は数分間、そこで怒りに震えていたが、意を決して残った者達に伝えた。
「こうなったら仕方がない。残った者達だけで行くぞ!目標は東の死神だ!」
「「「「おおぉぉぉぉ!」」」」
部下たちが雄たけびを上げて剣を抜くと、敵陣に向かって走り始めた。
――タタタタタタタタッ
だが次の瞬間、丸太を積み上げて作られた塀からカデン軍がいきなり出てきて、アサルトライフルもどきを連射し始めた。
彼らは陣地内の監視モニターで、塀の外側を監視していたのだ。
こうして、残りの兵達も全てカデン軍によって殲滅された。
◆ ◆
「くそっ…………くそっっっ!」
遠くで響く濁流の音に将軍は理解した。敵が起こした鉄砲水だと。
恐らく別動隊は壊滅だろう。
もうすでに、かなりの兵を失っていた。
どうする?撤退するか?
そんな考えが頭をよぎったとき、援軍到着の知らせが入った。
そして更に、上空には騎竜隊が再挑戦を行うべくやって来ていた。
「さあ、今度こそ敵の陣地を火の海に変えてやれ!」
騎竜隊長がそう言って、部下たちを鼓舞していた。
よく見ると彼等は重い鎧を身にまとっていた。
さらにワイバーンも鎧を付けていた。
普通、彼等はそんな重装備にはならない。
彼らの強みである機動力が大幅に削がれるうえ、ワイバーンがすぐ力尽きてしまい、短時間しか動けないからだ。
だが、それでも敢えてそこまで重装備にしたのは、カデン軍の新兵器の前では中々敵陣の上に辿り着けなかったからだった。
油が入った壺を抱えている仲間を敵陣の上まで届けることができれば、上空から火種付きで油を落とせる。
その思いで、敵の対空射撃の盾になるべく周りを固める重装備の騎竜隊。
だが、今回は対空射撃は来なかった。
代わりに現れたのは……
「へっ。来やがったな、竹飛竜とやら。さあ、お前たちのドンくさい動きで俺達を捉えられるかな」
騎竜隊長はそう言いながらも敵の動きに注意を払った。
だが、その緊張も、竹飛竜からの最初の一撃で吹き飛んだ。
バシュッと言う音と共に竹飛竜の両脇に取り付けられていた棒のようなものが飛んできたのだ。それほど早くない速度で。
これなら余裕で躱せる。
騎竜隊は左右に分かれて敵の槍?を余裕で避けた。
――ドオォォォォォォォン
その槍だか棒だか分からないものが、彼らの真ん中を通り過ぎようとした時、突然それは爆発した。
「「「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」
たくさんの仲間たちが爆風を受け、あるいはワイバーンと一緒に落下し、あるいはワイバーンから落ちて落下していった。
そして残された者は全員、炎に包まれた。
そう、対人爆弾のミサイルバージョンだ。
フォーリィは推進力として、魔改造した風の魔石を組み込み、超強力な風の力でミサイルを飛ばしたのだった。
「くそっ!」
騎竜隊の全滅を確認した将軍は忌々しそうな顔をしたあと、横で待機していた助っ人に顔を向けた。
「よろしくお願いします」
彼の言葉に助っ人たちは返事をするでもなく、無言で前に向かって歩き出した。
「緑鎧龍!?」
双眼鏡で敵の動きを見ていたフォーリィが驚愕の声をあげる。
コエリーオ王国軍が用意した助っ人は人間ではなく、ドラゴンだった。その数五〇頭。
全身を覆う鎧のような緑色の鱗は継ぎ目が見当たらず、日の光を反射して一見すると昆虫のようにも見える。
そしてその頭部はかなり特徴的だった。
緑鎧龍の頭には目や口がなかった。
頭部の形状は長いコップのようだった。
そして左右には赤く光るラインが走っていた。
緑鎧龍は他のドラゴンと同様に魔法攻撃をする。
威力はかなり強いが、短・中距離攻撃だ。
その攻撃は頭の先端、馬などでは鼻先にあたる部分がカメラのシャッターのように開き、光線兵器のような光の攻撃を放つのだ。
「何で?緑鎧龍は人に懐かないんじゃ……アレか」
フォーリィの目に入ったのは、緑鎧龍の後ろに佇んでいる赤黒いウロコに覆われた全長二〇メアトルのドラゴン。火竜だ。
高い知能を持ち、他のドラゴンたちを従える火竜がコエリーオ王国側についたのなら緑鎧龍が戦闘に加わっても不思議ではなかった。
「これはいよいよ、あの武器を使うことになりそうね」
渋い顔をしながらフォーリィが呟いた。
と言う事で、次回はフォーリィ Vs ドラゴンです。




