81 ハーフエルフっ娘の王都防衛2 ~ 戦闘開始
【カデン小話9】
リューヒトル家の長女、フォーリィの姉ルーフェは、まだ暫らく出てきません。
彼女は西の方にいます。
「また来てるわね」
フォーリィが双眼鏡で空を見ながら呟いた。
その視線の先には、騎士を乗せたワイバーンが空をパタパタと飛んでいた。
「そろそろ敵も動くでしょうか」
同じく双眼鏡で見ていたラントゥーナ補佐官が心配そうに訊ねる。
「たぶん今のが最終確認だから、ラントゥーナは第二防衛ラインに移って」
フォーリィの言葉に、彼女は一瞬目を見開くが、すぐに顔を引き締める。
「分かりました」
そう言って踵を返すラントゥーナ。しかし、数歩進んだところで足を止めて振り返った。
「そ……その……必ず生きて帰って来てください」
それは今までずっと彼女が言いたかった言葉。
これまでラントゥーナは戦場には連れて行ってもらえず、領主邸のテレビの前で心配するしかなかった。
フォーリィはいつも慌ただしく動き回っていて、気付いたら戦場にいた、そんな事の繰り返しだった。
ラトゥーミア王都攻略の時もそうだった。虹神の翼での空爆を指示した流れでそのまま竹飛竜に乗って行ってしまった。
だが、今回は急いで前線基地を設置しなければならず、物資の手配などにラントゥーナが必要だったから前線に連れてきてもらえたし、こうして戦闘が始まる直前まで彼女の側でサポートできた。
もちろん、ラントゥーナは自分が非戦闘員だという事は十分承知していた。
だからここに残してくれなどとは言わない。足手まといになることは目に見えているからだ。
でも、だからと言って心配してはいけない事はない。
そして彼女はようやく届ける事ができた。フォーリィを心配する言葉を。
これで少しは胸が軽くなるかと思った彼女だったが、逆に心配で胸が張り裂けそうだった。
「大丈夫よ」
そんな彼女に、フォーリィはニパッと元気な笑顔を向けた。
「コエリーオ王国軍も知らない秘密兵器をいくつも運び込んでるから。こちらが危険に晒される要素は微塵にもないわ」
彼女のその言葉は決して気休めではない。
東の砦での防衛戦でも、彼女が出した奇想天外な迎撃案は、その当時はとても実現可能だとは思えなかった。
でも彼女は、その案の通りに実行しきって、難なく敵を追い返していた。
しかも、各フェーズで失敗したときのリカバリー案や、思い当たる限りの敵の動きに対する対処法などを使うまでもなかった。
今回も大丈夫だ。
彼女が入念に用意した数々の防衛ラインやトラップ。負ける要素はなかった。
そう考えると、ラントゥーナの心は少し軽くなった。
「だから、この戦いが終わったら一緒にお風呂入ろう♪」
「それは嫌です」
フォーリィの唐突な提案を、ラントゥーナはキッパリと拒否する。
「くっ……あははっ」
「ふふふっ」
そして二人して笑いあった。
「ご武運を」
暫らく二人で笑いあったあと、最後にそう言い残してラントゥーナは第二防衛ライン行きのトラックに乗り込んだ。
◆ ◆
「あれが報告のあった柵か」
グレーチ将軍がサラマンダーの上から忌々し気にカデン軍の第一次防衛ラインを睨む。
「あれは……金属を細く加工した紐か?しかもトゲがたくさん付いてるな。確かに普通の歩兵なら突破は困難だろうな。だが、サラマンダーでは問題ないだろう」
将軍は虎人だ。
顔は人間だが耳は頭に付いているし、全身が虎のような毛で覆われている。
でも、特に遠目が効く訳ではない。強靭な肉体を持ってはいるが、五感は他の種族に比べて特出している部分はない。
だが問題無かった。なぜなら部隊はすでに肉眼でも敵を捉えられる距離で戦闘開始の合図を待っていたからだ。
カデン軍が築いている陣営は、木で作った簡易的な建物がいくつも並んでいて、その外側に丸太を組んだ簡単な柵が置かれていた。
その柵の外側が、三重に張られた有刺鉄線の柵だった。
カデン軍の陣営の西側は高い山があり、山を越えての奇襲は難しそうだった。
東側は大きな川が流れているが、そちらの方面は守りが手薄のように見える。
川が南東から北西に向かって流れていて、こちらからは川の流れに逆行しなければならないから、カデン軍も安心しているのか。
だが、その安易な考えが命取りだ。
報告によるとその川は、敵の陣営付近では狭くなっていて幅は二〇メアトルほどしかなかった。
そして、とても浅く、別動隊も余裕で渡れるとのことだった。
「そしてアレが鉛の弾を連続で撃ち込んでくる魔道具か?」
将軍が見ているのは、フォーリィが用意した銃架と呼ばれる支柱に固定された一〇挺の重機関銃だ。
「あまりアレには近付きたくないな。だが、鉛ならある程度距離を取れば、サラマンダーのウロコは貫通できまい。やはり第二案で行くか。皆にそう伝えろ」
将軍がそう言うと、伝令たちが各部隊長に伝えるべく一斉に走り出した。
「さあ、後は我々の仕事です。王は後方にお下がりください」
「分かった。頼んだぞ」
一緒に敵陣を見ていたコエリーオ王は、そう言い残し、ここから馬車で一時間ほど離れた所にあるストラペイオ侯爵領に元々あった打ち捨てられた砦に向かった。
ストラペイオ侯爵軍との戦いではそこまで後方に下がらなかったが、さすがにカデン軍相手となると油断はできないため、そこまで下がることとなった。
こうして、コエリーオ王国軍は慌ただしく戦闘準備に入った。
竜騎士団は油が入った壺を入念にチェックする。上空から敵の陣営に落とすためだ。
この油、もちろん特殊油ではなく、魔力を持たない人種が多い彼らが明かりに使っている油だ。
そして山の虎に騎乗する兵士たちがチェックしているのは、彼等が転生者の知識を元に作成したボウガンだ。
馬を遥かに凌ぐ山の虎の機動力に加え、この新しい武器の威力は画期的だった。
この武器のお陰で、ストラペイオ侯爵軍は彼らに手も足も出なかった。
そして多数のカタパルト。
敵の抵抗が激しく、なかなか突破できなくても、カタパルトから油が入った壺を大量に投げつけ、敵の後方を総崩れにできる。
そして三〇分後。
法螺のような音と共に、コエリーオ王国軍が一斉に突撃を開始した。
コエリーオ王国軍が味方につけているのは転生者の知識だけではありません。
ご期待ください。




