77 ハーフエルフっ娘の遊園地がピンチ2
―― ガッシャァァァァァァン
大きな音と共にレールが崩れ、トロッコースターが投げ出される。
それを見たフォーリィは顔色を変え、急いで駆け寄る。
「大丈夫?怪我はない?」
心配する彼女をよそに、トロッコースターに乗っていた男たちは、ハッハッハと清々しく笑う。
「俺たちが、これくらいでケガなどするものか」
それがやせ我慢などではなく、かすり傷ひとつ負っていない事を確認したフォーリィは、ほっと胸を撫で下ろした。
「ホント、ごめんね。強度の計算が甘かったわ」
トロッコースターに乗っていたのは全員がギガント。
今は新しいトロッコースター、『スリル』の強度テスト中だった。
乗車しているのが全員、身長三メアトルを超す巨人。彼らは石綿と魔石で強化された細い金属の網をミルフィーユ状に幾度も重ねた防御服を着て、同じく魔石で強化された色付きガラスのヘルメットを被っていた。
トロッコースターは、製作費と製作期間短縮のため、なるべく山の凹凸に合わせてレールを敷いている。だが、スリル感を増すためには、やはりレールを高く組まなければならない箇所も出てくる。
もちろん、魔石による金属強化も加えて、十分な強度を取っていたはずだった。それでも彼らの重量は耐えられなかったようだ。
それにしてもギガント達は頑丈だ。レールが壊れて投げ出されても怪我一つ負わないのだから。
筋肉の質がそもそも他の種族とは違う。ムキムキではないのに引き締まっていて硬い筋肉を持っているため、とても力持ちだ。
一般常識として彼らは魔力を持っていないとされている。現に彼らは魔道具を使えない。
だが一部の学者は、ギガント達は体内で無意識に強化魔法が発動していると考えている。魔力が内部で効率よく循環しているため体外に一切放出していないだけなのだと。
「もっとレールを太くするか……いや、いっその事オイル・ダンパーで支えて、あえてレールを揺らして衝撃を逃がすか……」
フォーリィはブツブツと独り言をつぶやきながら、頭の中で色々な可能性と実現性を考えていた。
今、カデン遊園地ではトロッコースター『スリル』の他にも『絶叫』や『インフェルノ』の建設も予定されていた。
と言うのも、開園から一か月以上経っても、未だ超満員状態が続いていたからだった。
暫らく考え事をしていると、ヴェージェがやってきた。
「フォーリィ。『ホラー・エレベーター』の無人テストが終わったそうよ」
こちらは、地球の遊園地にもある、例のエレベーターが激しく昇ったり降ったりするアトラクションだ。
今は、規定の乗員の1・5倍のギガントに相当する重さの土嚢を積んで、ワイヤーの金属疲労などをドワーフ達にテストして貰っていたところだった。
短期間で建築できるよう、サイズは小さくして、高さも三階建てにしてある。だが、エレベーターがまだ普及していない、この世界では、これでも十分のはずだ。
「分かったわ。みんな!休みなしで悪いけど、今度はホラー・エレベーターの試遊をお願いね」
フォーリィが振り向いて、ギガント達にそうお願いする。
「ああ、向こうで作っていたアトラクションか。朝から気になって仕方がなかったんだ」
「今度は、あれに乗れるのか?」
「まだ誰も遊んだ事がない乗り物で遊んで、それでいてお金も貰えるなんて。この仕事、楽しいな」
ギガント達が嬉々としてホラー・エレベーターに向かって行く。
遊園地はフォーリィの予想を遥かに上回る収益を上げている。
だが、その収益の全てを新しいアトラクションの作成と、馬車での来客のための道路や駐車場の整備、王都と遊園地の駅の整備、そしてカデン領都向けの鉄道工事に回していた。
それは、遊園地を拡大してもっと利益を上げるため……ではない。
未だにカオスとなっている遊園地内や駅、バス停をどうにかするためだった。
そう、予想を遥かに上回る集客となってしまったため、否応なしに事業を拡大する必要に迫られて、フォーリィが想定していた領地の運営費稼ぎが遠退いてしまったのだった。
「ユニ娘ちゃん電車の車両も追加発注して、本数を増やす必要があるわね」
遊園地に関しては赤字は出ていないが、暫らくは収益が領地に入って来ないため、領地運営コストの補填とはならない。
それに加え、カデン領があるホーズア王国の東側は、そもそも農業が盛んな地域なので、少なくとも初夏に入って夏の農作物の出荷が本格的になるまでは大きな税収は見込めなかった。
そんな状態なのに、カデン領としてはストラペイオ侯爵の暴走に備えて色々な物を創らせていて、借金が増える一方だった。
◆ ◆
「どう?うまくいった?」
遊園地の開発・拡張も順調に進みだしたので後はヴェージェに任せ、フォーリィは南カデンの工業化に力を入れることにした。
「お嬢ちゃん。うまくいった、なんて物じゃねえ。これは画期的ですぜ」
新たに立ち上げた半導体製造カンパニーのまとめ役が興奮気味に報告する。
「まさか、こんな簡単にヒヒイロカネを薄く、均一の厚みにする事ができるなんて」
そう言って、既に稼働中の工場に案内してくれた。
そこでは、フォーリィが工業機械カンパニーと一緒に創らせた機械がいくつも並んでいた。
その内、まとめ役が報告していたのは、直径二メアトルの大きな二つのローラーを、少しだけ離して設置して回転させている機械だ。
二つのローラーの隙間に赤く熱せられたヒヒイロカネが通過する事により、薄く、均一の厚みに形成されていく仕組みだ。
こういう機械は、地球でも製鉄業などで使われている。ただ地球のものと違うのは、ローラーの表面に魔力を流している点だ。
ヒヒイロカネの場合、こうしないと上手く形成できなかったのだ。
こうして、何度もローラーの間に通す事により、ヒヒイロカネ内の不純物も取り除かれていく。
そして、最終的には大量の水を使って冷却し、その先には溶けたアダマンタイトを乗せる機械が待っていた。
この機械も新しく創られたもので、無数の針が設置された板が自動で動き、溶けたアダマンタイトに針先だけを付けると、ヒヒイロカネの上に移動して、ベルトコンベアーと同じ速度で移動しながら溶けたアダマンタイトを乗せられるようになっている。
「お嬢ちゃん。どうにか成功したぜ」
続いてフォーリィが訪れたのは新設されたテレビパネル製造カンパニー。
彼等には、光の魔石を色々な鉱物と共に高温で溶かして、光の魔石と同等の物が創れないか研究してもらっていた。
「魔石とニジイロトマリを一緒に溶かしたら、見事に光ったぜ。しかも光の魔石の半分の魔力でだ」
「すごい!もうっ!あなたたち天才!」
フォーリィは嬉しさのあまり、彼らドワーフ達に抱きつくと、チュッチュッと頭にキスをした。
「これならカメラの小型化もできそうね」
今にも笑いながらクルクル回ってしまいそうになりながらも必死で堪えるフォーリィ。
「う~ん、それなんだが……この新素材を流し込むために縦横均一に並んだ穴を開けたパネル土台を用意しなければならないが、小さくするのがなかなか難儀でな」
「それだったら私に案があるわ。ここはね……」
こうして、南カデンの工業化はますます拍車が掛かっていった。
そして……
「ガネトムートさん。例の物はできた?」
「ああ、お嬢ちゃんか。出来たには出来たが、まだ調整が必要だ」
フォーリィはガネトムートに、ある特殊な物の開発を依頼していた。
「そう。どうにか間に合いそうね」
「でも、いいのか?これの開発に、すでに三〇〇〇万クセルも掛かってるぜ」
フォーリィの眉が嫌そうにピクリと動く。
「この分だと、完成までにあと二〇〇〇万クセル前後掛かることになるけど……」
そして少し顔色が悪くなる。
今のところ、これの開発費はフォーリィの私財から出ている。
だけど、領地防衛に関わる物だ。完成したらカデン領が買い取ることになる。
それを考えると、フォーリィは頭が痛くなる。
「どうも北の方がきな臭くなってきているからね。開発費は痛いけど、背に腹は代えられないわ。引き続き開発をお願い」
そう言い残して、フォーリィはガネトムートの工房を後にした。
戦争もそうですが、カデンの遊園地は客が殺到して別の意味でもピンチになっています。




