76 ハーフエルフっ娘の遊園地がピンチ1
「凄い。凄いわ♪」
フォーリィが歓喜の声を上げる。
「計算結果を記憶して、キーに割り当てられるようにしたのね。それに三角関数も使えるなんて」
相変わらず遊園地の運営で大忙しの日々。
フォーリィは各種特許申請と、商業ギルドへの各種依頼をするために、ラントゥーナと数人の側近を連れて王都に足を運んだ。
その時、王都の数学者がフォーリィに、見せたいものがあると声を掛けられ、王城内の研究室に連れてこられた。
この数学者、名前はオイティーと言って。最初に彼女が数字の導入を提案した時に否定的な発言をしていた純エルフだった。
たがあの日、彼女から計算機の概念を教わり、今ではすっかり計算機の虜になっていた。
「これなら次のステップに移れそうね」
「次のステップですか?」
口調も変わっている事から、どれだけ彼がフォーリィを崇拝しているのかが伺える。
「そう、次はいよいよシーピーユーよ」
「シーピーユー?」
初めて聞く言葉に、オイティーは胸を躍らせる。
「最初は四ビットのシンプルなシーピーユーからね」
そう言うと、彼女はメモ用紙を取り出してCPUの概念とロジックを説明していく。
彼女は前世で、この手のデジタル技術を徹底的に叩きこまれているため、人に分かりやすく説明するのは容易だった。
「ありがとうございました♪」
フォーリィから色々と教わり、メモ用紙をもらったオイティーは、高揚した顔で深々と頭を下げる。
そんな彼と別れ、フォーリィは王城の出口へと足を運びながら、そろそろハードディスクの設計に取り掛からなければと考えていた。
「ん?」
その時、彼女の魔道音伝器の呼び出し音が鳴った。
「もしもし」
「あ、フォーリィ」
ヴェージェからだった。
「ホーズア国王様からテレビ電話が入ってるんだけど」
「テレビ電話?今ちょうど王城にいるんだけど、どこに行けばいいか伺って」
「うん、分かった」
いよいよ『ウィーク』制度の導入かな?と、フォーリィはウキウキ気分で指定された執務室へと足を運ぶ。
◆ ◆
「戦争……ですか?」
執務室に入った途端、その場の空気で何となく察しがついていた彼女。
だからホーズア王から、戦争だ言われても、それほど驚かなかった。
執務室には、ホーズア国王やナルソシ宰相の他、マレクリン将軍たち軍のトップが集まっていた。
ちなみに、フォーリィの側近たちを執務室に入れると、かなり手狭になるため、ラントゥーナだけ同席させて、側近たちは外で待機してもらっている。
『ああ、そうだ。我が軍隊をもってすれば、コエリーオ王国なぞ三日もあれば制圧できる』
テレビ電話の向こうで鼻息を荒くしているのは、主戦派のストラペイオ侯爵だ。
「そうですか。私は参加できませんが、頑張ってくださいね」
『えっ?』
なんで自分が呼ばれたのか分からないと言う顔を向けるフォーリィ。
是非とも協力させて下さいと言ってくるものと信じて疑わなかったストラペイオ侯爵は、フォーリィのその反応に信じられないと言う顔をした。
対して、ホーズア王やマレクリン将軍たちはと言えば、彼女がそのような態度を示すだろうと分かっていたので苦笑いを浮かべているだけだった。
『そ、そ、そなたは!国家の一大事に傍観を決め込むつもりか!この非国民め!』
顔を真っ赤にしてワナワナと震える侯爵。
だが、フォーリィはそんな侯爵を見て首を傾げる。
「別に攻め込まれていると言う訳ではありませんよね?何をもって国家の一大事と言っているのでしょうか?」
『ふざけるな!貴様には愛国心がないのか!そもそも――』
彼女の質問に対し、侯爵は感情的に怒鳴り散らすだけだった。
これではまともな話はできないと、侯爵を無視してフォーリィはホーズア国王達に目を向けた。
「国王様もこの戦争には賛成なのですか?」
「うっ……うむ……」
彼女の質問に対して返って来たのは歯切れの悪い言葉。
大体の予想はついていたが、どうやら主戦派が勢いを増してしまい、国王はそれを抑え込めなくなったようだ。
「では、大義名分はあるのでしょうか」
一応聞いてみる事にしたが、大義名分などいくらでも、でっち上げられるため、それほど重要ではなかった。だが……
『大義名分?現に我が領土では村人がたびたび山の虎に襲われている。これは立派な宣戦布告だ!これを黙って見ていたら、我が国が近隣諸国から腰抜け呼ばわりされるのは必須!だからこそ、彼等には死をもって己の過ちを気付かせてやる必要がある!』
国王に対する質問に、侯爵が割り込んでまくし立てる。
これだけで、主戦派の発言力がどれだけ強くなっているかが分かる。
「あのぉ。それって普通に森に生息している生き物じゃないんですか?」
至極まっとうな彼女の指摘を、侯爵は鼻で笑う。
『これだから成人したての青二才は困る。いいか?奴らは山の虎を飼いならして軍隊にも取り入れている。つまりそれこそがコエリーオ王国軍が我が村人たちを襲っている動かぬ証拠なのだよ』
つまり、大義名分に余計な口を挟むなと暗に言っているのだった。
フォーリィとしては、そんな茶番に付き合っている暇はないので、さっさと話を切り上げる事にする。
「まあ、コエリーオ王国の軍隊がこちらに攻め込んで来たと言うわけでもありませんので、私は不参加とさせて頂きます」
『おいこら!こちらの話を聞いていたのか?国の存亡に関わることだぞ』
まだ喚き散らしている侯爵は無視して、フォーリィはホーズア王に顔を向ける。
「なんか、私のした事で色々とご迷惑をお掛けしているようで、申し訳ありません」
ペコリと頭を下げるフォーリィ。
それに対して国王は沈黙で返した。
フォーリィも分かっている。
ここで彼女の言葉に賛同れば、王は主戦派から平和主義者と言われ、ますます発言力を失う恐れがあることを。
だから彼女は何も言わず、両手でスカートを少し広げて挨拶をし、踵を返して執務室を出ようとした。
だがその態度は、侯爵を激怒させるに十分だった。
高貴な純エルフである自分が国のために戦おうと言っているのに、混ざり者の分際で自分たちの高貴で勇気ある行動に賛同しないどころか、こちらの言葉を聞こうともせず無視し続けている。彼の目にはそう映った。
だから彼は地雷を踏んでしまった。
『ふんっ!どうせ貴様は、腑抜けお兄ちゃんが外交に失敗した時にしか動こうとしない腰抜けだ』
「「「「!!」」」」
テレビ電話越しでは伝わらなかったが、執務室の全員がその異様な空気に言葉を失った。
冷たいなどと言う言葉では表現できないほどの、魂まで凍り付かせるかのような空気。
それが、ねっとりと自分たちの周りを取り囲み、ホーズア王達は空気を求めて口をパクパクと動かした。
そしてフォーリィはゆっくりと振り返ると、表情のない顔をテレビ電話に向けて静かに言った。
「私の戦力がないと戦争もできないような人は、家で大人しくしていた方がいいと思いますよ」
「ぷはっ……」
次の瞬間、彼等を取り巻いていた空気が一瞬で消え去り、国王達はようやく息をすることができた。
「国王様」
呼ばれてフォーリィに顔を向ける国王。
そこには、先ほどまでとは打って変わって、にこやかに微笑んでいる彼女がいた。
「私は今、とある事情から借金が八億クセルに膨れ上がってしまいました。戦争をしても借金が増えるだけなので、戦争への参加は激しく拒否させて頂きます。宜しいですね?」
「あ……ああ、構わぬ」
その笑顔とは裏腹に、彼女は報奨金がもらえなかった事を未だに怒っている。そう感じた国王は、これ以上彼女を刺激しないようにしようと思った。
彼女を本気で怒らすと怖いと言う事を、たった今体験させられたばかりなのだから。
なおも喚き続ける侯爵を置いて、今度こそフォーリィは執務室を後にした。
「相変わらず、お兄様が絡むと容赦ないですね」
王城の出口へと向かいながら、ラントゥーナはこめかみから汗を流して、そう言った。
「だってぇ。あいつ、お兄ちゃんを腑抜け呼ばわりしたのよ」
そこには、頬を膨らませてプンプンと怒る、いつもの彼女がいた。
ラントゥーナはそれを見て、少し安心する。
◆ ◆
「くそっ!あの混ざり者の腰抜け幼女がっ!」
テレビ電話を切ったあと、ストラペイオ侯爵は椅子を蹴り倒して叫んだ。
「侯爵様、どうします?彼女の竹飛竜がないと……」
テレビ電話には映っていなかったが、侯爵の領邸には主戦派の伯爵や子爵達も集まっていた。
「何を弱気になっている!あんな物がなくとも、我ら五万の兵をもってすれば、コエリーオ王国など簡単に落として見せる。それをもって軍事面で圧倒的に地位を築き、我らがホーズア王国の実権を握るんだ」
そう言うと、侯爵は高々と拳を上げる。
「その通りだ!そしてこの国の政治から混ざり者を追い出し、純エルフの国にするんだ!」
「エルフ主義バンザイ!」
次々と賛同の声が上がる。
だが、彼等は何も考えない楽観主義者ではない。
そもそも、そんな考え無しは貴族社会では生き残れない。
そう、彼等は待っていた。
侯爵が何らかの案を出してくれることを。戦争に勝てると言う保証を示してくれる事を。
そんな彼等の期待に応えるべく、侯爵は万一フォーリィの賛同が得られなかった時の事を考えて計画していた作戦を口にする。
「でも……そうだな。我らだけで戦うのも癪だ。適当に戦争を仕掛けたあと、コエリーオ王国軍に我が領地を素通りさせて、あの遊園地とやらに誘導してやろう」
北カデンの東側は直接コエリーオ王国と接しているが、遊園地がある西側はストラペイオ侯爵領に面していて、その更に北側がコエリーオ王国となっている。
フォーリィが北カデンの西側に遊園地を建設したのも、王都から近く、国境に面していなくて、優れた軍事力を誇るストラペイオ侯爵領が間に入っているからだったのだが、今回はその選択が仇となった。
「これで娯楽施設などに現を抜かしている、あの混ざり者の幼女も戦争に参加せざるを得ないだろう」
ニヤリと笑う侯爵。
「さすが、侯爵様。悪知恵が働きますな」
「あの幼女にも、我らのために働いてもらいましょう」
他の面々もニヤニヤと薄気味悪い笑いを浮かべる。
侯爵の案に彼らは心の中で安堵した。
そして、勝利を確信していた。
たった一日で敵国の王都を制圧できるほどの圧倒的な力を持った彼女に戦わせれば、絶対に戦争に勝てると。
さあ、フォーリィは戦争を回避できるか?




