75 ハーフエルフっ娘と遊園地3
「もう、この列車には乗れません。すみませんが、次の列車をお待ちください!」
王都の遊園地行き列車の駅では、乗客が殺到して衛兵が呼ばれる事態となったが、それでも手に負えずに騎士団が出動する事態となっていた。
「もう、このバスには乗れません。申し訳ありませんが、次のバスを……」
同じく、カデンの領都では遊園地行きのバス乗り場に人が殺到していた。
ちなみに、領都と遊園地を結ぶ道にはスライムは発生していないので、双方を結ぶ路線建設は後回しになっていて、暫らくの間はバス運行となっている。
そして遊園地では、もっとカオスになっていた……
「子爵様、各アトラクションで最低でも三時間待ちとなってます」
「ラントゥーナ。セントラル・シティの魔道自動車カンパニーに例のカートを急いで組み立ててもらって、こちらに運ばせて。アクセルもブレーキもいらないって言っておいて。一周回ったら魔力を切って止めるから。コースは板で囲った簡単なもので取り敢えず凌いで」
「フォーリィ。アトラクションで遊び終わった客が次のアトラクションに向かって走るから、怪我人が続出して治癒魔導士の魔力が尽きかけてるわ」
「お姉ちゃん。王都の商業ギルドに医者の緊急手配をして」
「カップル達がなかなか観覧車に乗れないと怒り始めてますわ」
「お義姉さん。西の丘の上に見晴らしのいい所があったわよね。裏方に頼んでチャペル風の舞台を作らせて、疑似結婚式を体験できるとしてカップルを誘導して」
「ユニ娘ちゃんヌイグルミが売り切れそうよ」
「ママは急いで領都に向かって、型紙を買い取って。そして王都の仕立て屋などにも依頼して。大急ぎの注文で。型紙のデザイン特許は私が出しておくから」
「フォーリィ。食堂の食材が尽きそうだ」
「お兄ちゃん。至急王都に行って、屋台を出している人達をこちらに誘致して」
矢継ぎ早に指示を出していくフォーリィ。
だが、予想を遥かに上回る客数に、手が回らない状態が続いていて、中締め日を過ぎても事態は変わらなかった。
そして6の月の月末の締め日、王城では……
「国王様。仕事を無断で休んで遊園地に行く者が続出しているそうです」
宰相からの報告に、ホーズア王は苦い顔をする。
「それで、経済効果の方は?」
「はっ。遊園地への出稼ぎ労働者の増加、遊園地で販売する商品の製造などで王都全体がかなり活気づきまして、今月の中締め日の税収は前年比で三割アップしています。この分だと、本日の締め日での税収はかなりの金額になりそうです」
この状況は、すでにフォーリィが予想していて、テレビ電話でホーズア王に相談していた。
「うむ……やはり『ウィーク制度』を導入する必要があるか」
ウィーク制度とはフォーリィが提案したもので、中締め日の翌日から次の中締め日までを『ウィーク』とし、『ウィーク』の初日、つまり中締め日の翌日を休みにすると言う制度だ。
休日制度が無いこの世界では、人々は雇い主にお願いしてお休みをもらっている。
それを、定期的に休みとする事で、国民の消費をうながそうと言うのだ。
締め日や中締め日でお給金をもらった人達は、翌日が休みになると財布のひもも緩くなるとフォーリィに力説された事を、国王は思い出していた。
「あと、給料を上げて欲しいとの要望が多数よせられています」
それを聞いて、国王が苦虫を嚙み潰したような顔をする。
「カデン製品の購入や遊園地での出費がかさんでいるからな。一般庶民の消費意欲が高まれば、そう言った弊害も出てくるか……」
「いえ、賃上げを要求しているのは、おもに城で働いている低級貴族たちです」
「なにっ?」
宰相の意外な言葉に国王は驚きの声を上げた。
「カデン商品を大量に購入した低級貴族たちは、家の中が手狭になり、もっと大きな家に移り住みたいと願うようになった結果、今の給料では満足できなくなったようです」
「なんと……それで不動産価格は?」
「ここのところ、日に日に値上がりしています」
「むむむ……」
国全体でお金の動きが活発になる。
それにより税収は上がるが、同時に色々と問題も出てくる。
かと言って、経済を抑制して停滞させるわけにはいかない。
地道に対応していくしかなかった。
対応していくしかなかったのだが……
「カデン子爵に相談してみるか。彼女の経営手腕なら、この問題を解決する案も思いつくかも知れぬ」
変革が急すぎて付いて行けないと判断した国王は、フォーリィに助力を求めることにした。
「国王様。ストラペイオ侯爵様からテレビ電話が入っています」
マレクリン将軍からの連絡に、ホーズア王は深いため息を吐く。
「いよいよ動くか……」
国王は、できれば彼を止めたかった。
だが、もはや誰も彼を止められなかった。
そう。先の戦いでフォーリィは勝ちすぎてしまったのだ……
◆ ◆
「それで、カデン子爵領の遊園地とやらはどうだった?」
その頃、コエリーオ王国の王城では、国王が間諜からの報告を受けていた。
「はっ。一〇日間にわたり、遊園地を隅々まで調査しましたにゃ」
調査報告をしているのは猫人の女性だ。
「施設内の乗り物は全て魔道モーターと言う、魔力を回転力に変換する魔道具で動いていますにゃ」
彼女からの話を聞いているコエリーオ王の眉がピクピクと動く。
その理由は、彼女の頭に乗っているユニ娘ちゃん帽子だ。
「中でもトロッコースターはスリル満点で、何度でも乗りたくなりますにゃ。あと、ゴーカートと呼ばれている魔道モーターで動く車も結構な速度で走り、とても爽快ですにゃ。あとあと……夕方の観覧車などはとても幻想的で、夢のような時間が過ごせませしたにゃ♪」
頬を染め、とろけるような笑顔で語る彼女。
「誰が遊んでこいと言ったぁ!」
「にゃぁっ!」
玉座のひじ掛けを思い切り叩いて激怒する国王に、猫人は驚いて飛び上がった。
「でも……でも……調査するには実際に乗ってみて、乗り心地などを確認しにゃいと……」
「そっちの調査じゃねえっ!」
顔を真っ赤にして怒る王に、猫人はガタガタと震える。
「もういい!下がれ!」
「し、失礼しますにゃ!」
逃げ出すように出て行った彼女の後姿を見て、国王は大きく溜息を吐く。
「国王様、申し訳ありません」
隣で控えていた将軍が頭を下げる。
「猫人なら隠密能力が高く、夜目も利くので調査にはうってつけだと思ったのですが……」
確かに、猫人は隠密能力は高かった。
だが、将軍は失念していた。猫人は目新しい物に興味深々となり、時として我を忘れてしまうと言う事を。
もちろん、間諜に選ばれるほどの人物だ。そういった事に心を動かされないように訓練を受けていた。
だが、カデンの遊園地は規格外過ぎたのだ。訓練を積んだ猫人ですら我を忘れるほどに。
「今度は別の種族を送り込め。そして遊園地とやらで使われている技術が我が国にとって脅威となるか、しっかりと確認させよ」
「御意」
コエリーオ王の命に、将軍は恭しく頭を下げ、その場を後にした。
◆ ◆
同じころ、ホーズア王国の西に接するヴェジェルータ帝国では、城で皇帝が密偵からの報告を受けていた。
「それで、竹飛竜を作れる職人は連れてこれたのか?」
ホーズア王国から商人を通じて購入したテレビで、竹飛竜の軍事的有用性を感じた皇帝は、いち早く密偵を送り込み、制作に関わっている職人達の誘致を命令していたのだ。
「それが……」
「ん?どうした?金銭の問題なら、今彼らがもらっている給金の一〇倍でも二〇倍でも出すぞ」
歯切れの悪い密偵に、皇帝は報告をうながした。
「そ、それが……我が国で竹飛竜を作るには、南カデンの三分の二に及ぶ職人を、工房ごとこちらに持って来る必要があります」
額に玉のような汗を浮かべて密偵が口にした言葉は、冗談としか取れないものだった。
「貴様。こんな時に何をふざけている」
冷たく見下ろす皇帝に、密偵は汗をポタポタとたらしながら弁明をする。
「い、いえ。決してふざけてなどいません。竹飛竜には、その、何十もの魔道具が使われていまして……」
「だったら、その魔道具を作る職人を全て連れてくれば良かろう」
密偵の言い訳に、怒気のこもった声で一蹴しようとする皇帝。
「その魔道具も、内部では別の魔道具が使われていまして……例えば機体の傾きを検知する『ジャイロ』なる魔道具には、内部に魔道モーターなる魔道具が使われています」
「だったら、その魔道具を作る職人も全て連れてくればいいだろうが!」
玉座のひじ掛けを叩き、大声を張り上げる皇帝。
いくら魔道具の中に魔道具が使われていても、たとえたずさわっている職人が数十人いようが、全員を誘致すれば全て解決することだ。そのために、お金には糸目をつけないと密偵には伝えていた。それなのに、たずさわっている職人が多いなどと言い訳をしてくるとは。
皇帝は、その密偵の態度に激しい怒りを覚えた。
「い、いえ、それだけじゃ無いんです。その魔道具を作るには特殊な工具や、別の魔道具が必要で、魔道具職人達はその作り方を知らないそうです。それで、その道具を作っている職人に話を聞くと、その道具も別の特別な道具や魔道具を使って作られているとかで……その……南カデンの工房の三分の二が何らかの形で関わっていました」
「なっ?」
密偵の報告に唖然とする皇帝。
作業の分散化は地球においては当たり前だが、この世界では前代未聞だった。
そもそも、そんなに複雑な道具が今まで存在していなかったので、今まではどのような優れた道具が出てきても、職人を誘致すれば事足りていた。
だが、カデン領ではそのような常識が通用しない異界と化していた。
そう、異界と化していた。
それは皇帝だけでなく、他の近隣諸国の王達も脅威と感じるほどに。
そしてそれは、近隣諸国が軍事力増強に走る引き金となっていた。
フォーリィが消費者相手に商売で戦っている時、近隣諸国では別の戦いが始まろうとしています。




