74 ハーフエルフっ娘と遊園地2
【カデン小話7】
遊園地のマスコットキャラは、当初カデンちゃんにする予定でした。しかし作中にもある通り、領主の名前でもある「カデン」はNGだろうと思い、執筆中に名前を変更しました。
【カデン小話8】
昇爵と陞爵。どちらにしようか迷いましたが、現在では「昇爵」と言う書き方をしている小説も結構あるようなので、字を見ただけで意味が理解できるように昇爵としました。
トロッコースターの角度調整とテストを繰り返しつつ、マスコットの決定や園内のレストランを筆頭とする各種店舗の準備などで大忙しの中、とある問題が発生していた。
「タイヤが破損?」
王都から遊園地に建築資材などを運んでいるトラックの運転手からの報告に、フォーリィは首を傾げた。
フォーリィ達が使っているタイヤは、輪切りにすると網の目状になっている。
この構造により、タイヤは重くはなるが、パンクはしない。
だから、これまでもタイヤの表面が摩耗して交換する事はあっても破損の報告はなかった。
「これです」
ヒューマンのトラック運転手に連れてこられ、フォーリィは破損して交換されたタイヤを見せてもらった。
「これって……溶けてるの?」
「交換した時は大きめの穴が開いている程度だったんですけど」
すでにタイヤの三分の一がドロドロに溶けていた。
「どう?原因は分かる?」
最初に報告を受けてからも、ほぼ毎日タイヤが溶ける事象が報告されたため、フォーリィは電動カー改め魔道自動車カンパニーのメンバーと、タイヤ製造カンパニーのメンバーを緊急招集し、彼等にタイヤを見てもらう事にした。
「これは……炎系の魔法を受けたのとは違うな」
「強力な酸か?」
「でも、放っておくとタイヤが完全に溶けて液体になるって話だぞ」
「そんな術式あったか?」
そんな事を話しながら、ドワーフ達は溶けた部分を触り、手で感触を確かめたり匂いを嗅いだりしていく。
「ひょっとして……」
そんな中、何か思い当たる事でもあるのか、タイヤ製造カンパニーのまとめ役、カイヤムートが自慢の赤茶色のアゴ髭を撫でながらポツリと言った。
「スライムじゃないのか?」
「ええ、タイヤは全てスライムゴムで作られてるけど?」
フォーリィは首を傾げる。
タイヤ製造カンパニーは自分たちでタイヤを作っているのだから、それくらいのことは知っていて当然なので、なぜ彼がそのような事を言い出したのか、フォーリィは理解できなかった。
「ああ、違う違う。そうじゃなくて、スライムがタイヤにくっついて溶かしてるんじゃないかって話だ」
「「「「「スライムがぁ?」」」」」
フォーリィを含め、その場の全員が彼の言葉に驚きの声を上げた。
「ほら、スライム・シートもスライムの壺に入れておくと溶けてなくなるだろ?」
「「「あっ」」」
ドワーフ達の内、三人だけが彼の言葉に反応した。
そもそも、作業台などに置かれているスライム・シートは長年使い込んでいても、普通はボロボロにならない。
そして、仮に親から引き継いだ工房で、スライム・シートがボロボロになったとしても、それをスライムの壺に入れようなどと思う者も殆どいないので、スライムがシートを溶かす事など知らなくて当然だった。
「これは……現地調査が必要ね」
翌日、フォーリィはカイヤムートを含むタイヤ製造カンパニーのドワーフ職人を三人連れて、南カデンから王都経由で遊園地に向けて車を走らせた。
王都経由なのは、元々グァニューム子爵領だった北カデンが東西に長く伸びていて、王都から北東に馬車で一日ほどで遊園地建設地に着いてしまう距離であったため、東カデンから整備されていない道を使って北カデンに行くよりは早く着けるからだった。
「ここからは速度を落として」
王都を出て北カデンに向かう道に入ると、フォーリィは馬車の速度の二倍ほどまでスピードダウンさせた。スライムが現れても見落とさないようにするためだ。
「むむむ……なかなか現れないわね」
延々と続く似たような道に、フォーリィたちは退屈していた。
北カデンに向かうこと四時間。途中、カデンの新領都に続いている道から逸れて遊園地建設地に向かう。
この辺りは村も無く、ぽつりぽつりと木が生えているだけの野原だった。
「止まって」
数時間におよぶドライブでドワーフ達の緊張が解け、注意力が散漫になってきた時、突然フォーリィが車を停止させた。
「お嬢ちゃん、どうしたんだ?」
さっさと車から降りるフォーリィに、カイヤムートが声を掛ける。
「なんか、水たまりの上を通ったような音がしたの」
そう言って、来た道を歩いて戻っていくフォーリィ。
彼女の言葉に、カイヤムートは振り返り、カンパニーの仲間に目を向けたが、彼等は揃って首を横に振る。聞こえたのは彼女だけだったようだ。
そして、彼女が歩いている先は乾いた道が続いていて、水のような音が聞こえるはずはなかった。
そう聞こえるはずはなかったのだ。
だが……
「あっ……」
フォーリィが足を止め、地面をギュッ、ギュッと踏みしめた。
すると、一見乾いた土に見える道から黒い液体がにじみ出て来た。
そして彼女が足を退けると、その液体はすぐに地面に吸収され、再び乾いた土に戻る。
「まさか、これが……」
更に詳しく調べてみると、ここから遊園地建設地まで、このように黒い液体がにじみ出てくる個所が多数、点在していた。
「全部スライムだったわ」
採取したサンプルの解析結果をカイヤムートから聞いたフォーリィは、新カデン領邸に全員集めてその結果を告げた。
全員と言っても、イペブラクオンと彼の部下数名は南カデンの運営のため、旧カデン領邸に残っていて、代わりにグァニューム子爵が残してくれた内政担当や徴税担当の者達が十五名加わっている。
「これでは建設のためのトラック輸送だけでなく、開園後のお客様の輸送にも支障を来たしますね」
ラントゥーナが心配そうな顔を向ける。
彼女が言っているのは、王都と遊園地を結ぶ運行バスだ。
フォーリィは宣伝効果も考慮に入れて、一目で遊園地のマスコットキャラであるユニ娘ちゃんだとわかるフォルムのバスを設計し、もうすぐその試作機が出来上がる予定となっていた。
「そんなぁ……」
フォーリィがガックリと肩を落とす。
「鉄道だったら、こんな問題は発生しなかったのにね」
ヴェージェの言葉に、フォーリィのエルフ耳がピクンと動いた。
「仕方がない。こうなったら鉄道よ。遊園地の開園を少し延ばすわ。そして大量の資材と作業員を導入して、どうにか一か月で王都から遊園地まで線路を引くわ」
フォーリィはそう決意すると、さっそくホーズア国王にテレビ電話で承諾を求めた。
鉄道は、特に軍事面でとても重要な役割を持っている。
国境の砦に迅速に兵士を輸送したり、各種補給物資の運搬で使えるからだ。
だから本来は、王都と各領地の領都を結ぶ鉄道の整備は、国王が行う事が決定していた。
だが、国家プロジェクトの鉄道網整備では、公爵領や侯爵領、そして好戦的なヴェジェルータ帝国に面した西側に向けた路線の建設は始まっているが、北カデン向けの鉄道は未着手だった。
だが、国王が線路を引いてくれるのを呑気に待って、遊園地の開園を先延ばしにする気は全くなかった。
そこでフォーリィが国王に提案したのは、カデンの領都までの鉄道路線は遊園地経由として、その建設費用はとりあえず全てカデン領が支払い、来年に国から建設費の半額を払ってもらって共同運営とする案だった。
カデン領としては、王都から遊園地に多くの客が訪れるため、一年もあれば鉄道の運賃で建設費用を回収できると予想していた。
その事をホーズア国王に説明すると、二つ返事で許可をもらう事ができた。
次にフォーリィは、自分の私財から追加で五千万クセルの借金をすると、商業ギルドに緊急の依頼を出した。
作業方法は王都と旧カデン領都を結ぶ鉄道を敷いた時と同じで、鉄道を使って建設が終わった場所まで資材と作業者を運ぶことにした。
それと並行して、フォーリィは鉄道車両カンパニーに予備の車両を改造させ、ユニ娘ちゃんっぽい車体にさせた。
こうして、紆余曲折と鉄道整備を含めた総額二億クセルの出費により、いよいよ遊園地のお披露目会まで、こぎつける事ができたのだった。
◆ ◆
『テレビの前の皆さん、こんにちは。今私達がどこにいるか分かりますか?なんと、明日開園するカデン子爵様が建設されました新しい施設、遊園地です』
国王や貴族達を招いて開かれたセレモニーは、テレビ中継される事となった。
「結局、借金が二憶クセル増える結果になっちゃったわね」
国王達の前で開園の挨拶を済ませたフォーリィは、遠い目をしてヴェージェ達に呟いた。
「ま、まあ、お客さんが一人二〇〇〇クセルくらい使ってくれたら、一〇万人で二億くらい稼げるわよ」
ヴェージェはそう言ってフォーリィを慰めるが、彼女の試算には遊園地の運営費などは含まれていなかった。
『この遊園地の最大の目玉は、なんと言っても、このトロッコースター。聞こえますでしょうか、この絶叫。私も先ほど乗ってみましたが、とてもスリリングで病みつきになります』
ただ、やはり多くの客に来てもらわないと、なかなか借金を返済できないため、こうしてテレビ中継までさせて、宣伝してもらっている。
『実はこのトロッコースター、鉱山で採掘されたオリハルコンなどを運び出すために使われているトロッコを元に作られたものなんです。子爵様はトロッコに大変興味を持たれ、自らトロッコに乗って遊んだところ振り落とされてしまったそうです。それで、安全に遊べるトロッコが欲しいと願いお創りになったのがこのトロッコースターです。いやあ、童心を持ったまま……げふんげふん……純粋な心を持ったまま大人になった人だからこその発想ですね』
もちろん、遊園地なのだからトロッコースターの他にも色々と用意されている。
『トロッコースターが苦手な人のためには、このアトラクション。冒険トロッコです。これは傾斜が緩やかなトロッコで、中では役者たちがちょっとした劇を演じていて、乗りながらその劇に入り込むような錯覚を覚えます。小さなお子様も楽しめるアトラクションです』
子供でもトロッコースターを楽しめるようにと、フォーリィが作らせたものだ。
役者が控えている個所ではトロッコースターはゆっくりと進み、プチ演劇を楽しめるようになっている。そして随所に魔道モーターで動く人形などを用意して、客を楽しませるようにしている。
『こちらは回転木馬です。南カデンの旧領都、セントラル・シティにお住いの方は誰もが知っている、公園の回転木馬を、魔力モーターを使って大人でも遊べるようにしたものです』
レポーターはそう言っているが、セントラル・シティの公園にある回転木馬は、回転する大きなリングの上に陸上競技のあん馬のような物が乗っているだけだ。
だがこの回転木馬は、地球の遊園地にあるように、回転しながら上下する馬や、馬車なども用意している。ただ、地球の回転木馬と違うのは、今や有名になったフォーリィ達が乗っている魔道自動車をデフォルメした物も一緒に回っている事だ。
『次はこれです。スカイ・ハイ。これであの有名な竹飛竜に乗っている気分を味わえます』
地球では飛行機をデフォルメした物に乗って、回転しながら上がっていく乗り物だが、この世界では虹神の翼はまだ一般公開していないし、先の戦争でテレビ中継された竹飛竜に国民が興味深々だったため、竹飛竜をデフォルメした物に変更されている。
『そしてカップルの皆さんにお勧めなのは、この観覧車です。これもセントラル・シティにある観覧車を大人でも遊べるサイズにした物ですが、なんと言っても一番天辺まで登った時の景色は素晴らしいの一言です。しかもそれが日が沈む前の夕日の時間なら、世界が赤く染まり、とても幻想的なんです。そんな場所でプロポーズされたら、私なら即OKしちゃいます♪』
直径二〇メアトルのこの観覧車は遠くからでも見える。
フォーリィのこだわりで、遊園地には観覧車は必須と、ドワーフ達と共に必死で強度計算をして製作した自慢の乗り物だ。
トロッコースター以外はセントラル・シティの公園にある遊具を大人向けに改造したと言うスタンスを取っている。
それは、この世界にない物を多量に導入して悪目立ちしたくないと言うフォーリィの思いからだが、すでにテレビや自動車などを世に出した彼女は悪目立ちしまくっているのだが、当人はその自覚が全くなかった。
現時点で、この遊園地のアトラクションはこれで全部だ。
人気が出れば他にも乗り物を用意できるようにと、わざわざ周りに何もない場所に遊園地を建設しているので、アトラクションを増設する余裕は十分持たせているが、なにぶん全く新しい施設で、この世界ではどのように受け止められるか未知数のため、それほど乗り物は増やしていない。
もっとも、建設期間二か月では、それほどたくさんの乗り物は用意できなかったのもある。
『そして、ここでしか手に入らない、この遊園地のマスコットであるユニ娘ちゃん関連商品の数々。特にお勧めなのが、このユニ娘ちゃんヌイグルミとユニ娘ちゃんが描かれたマグカップです』
その他にもユニ娘ちゃんが刺繍されたハンカチやユニ娘ちゃん帽子など、数多く揃えていて、園外では販売しないようにしている。
そして、夜には数百個の光の魔石を使って色とりどりの光に包まれた山車が楽団の音楽に合わせて移動する、エレクトリカルパレードもどきも用意されていた。
「これで客が来てくれればいいけど……」
不安そうな顔を見せるフォーリィ。
だが、彼女は知らなかった……
娯楽という娯楽があまりないこの世界に、こんな楽しそうな施設がある事をテレビを通じて国中に報道すればどうなるのかと言うことを……
こうして、カデン領の借金は八億クセルを突破しました(笑)
あと、次回は遊園地が大変な事になります。




