72 ハーフエルフっ娘と開発ラッシュ
「お父様、お父様♪」
上気した顔で王の執務室に入ってきたのは第三王女だった。
「おお♪アラマーダ。どうしたのじゃ♪」
彼女を溺愛しているホーズア国王の頬が緩む。
「今、テレビで紹介していました温風髪乾器が欲しいのです。ダメでしょうか?」
上目遣いでおねだりする少女。
その愛くるしさに思わず彼女を抱きしめ、その頭を優しく撫でる。
「いいぞ。一〇個でも二〇個でも買ってやるぞ」
「温風髪乾器ばかり、そんなにたくさん買ってもらっても使えませんわ」
くすりと笑って王の胸に嬉しそうに顔を埋める彼女。
「あと、パーソナル冷蔵庫も欲しいですわ。ねえ、お父様。お願いしますわ」
新商品が解禁されたフォーリィの各カンパニーは、これまで試作機止まりだった製品をこぞって発売した。
その内の一つが各種冷蔵庫で、昨年販売していた物と違って、冷却の魔石で常時冷やすタイプだった。
ただ、こちらはユーザーの魔力で動くのではなく、魔力コンセントから供給される魔力で稼働するタイプだった。
魔力会社と契約を結び毎月魔力使用料を支払うと、ダムで生成される魔力がエンチャントの魔石経由で、家庭に設置されている魔力コンセントに送られる仕組みだ。
月々、魔力料を支払わなくてはならないのだが、旧型と比べても使い勝手が雲泥の差であるし、何よりもヒューマンなど魔力を持たない人種でも使えるため、問い合わせが殺到していた。
ちなみにフォーリィからの指示で、昨年冷蔵庫を買ってくれたお客様には、望めば新型と交換するサービスも始めたところ、全ての顧客が交換を希望した。
「おお、いいぞ。買ってやる」
「嬉しいですわ。お父様、だぁぁぁい好き♪」
父親をギュッと抱きしめて嬉しそうな笑顔を向けるアラマーダ。
その笑顔を見て、ホーズア国王はとても満足そうに微笑んだ。
「お父様、テレビを観ました?私はあの『カデンお化粧セット』が欲しいですわ」
「お父様、お父様。ズカラーズの似顔絵集が発売されるそうですわ」
第一、第二王女も執務室に現れ、国王に抱きついておねだりする。
「いいぞ。何でも買ってやる」
今まで甘えてくれなかった彼女達に抱きつかれ、国王はニコニコ笑顔だった。
「国王様、観ました?お肌が一〇歳は若返ると言う『カデン基礎化粧品セット』ですって」
そこに王妃も加わり、国王を取り囲む形となった。
「おお、それも買ってやる」
彼女達が嬉しそうに抱きついてくる事に気を良くした国王は、彼女達の望む物を全て買い与えた。
それはもちろん、個々の値段がとても安いものだったのも大きかった。あくまでも国王の感覚でだが。
だがこの時、国王は知らなかった。フォーリィが仕掛けている、消費者の物欲を刺激する各種戦略の恐ろしさを。
こうして国王は、毎日カデン製品を買い続ける日々が続くこととなった・・・
◆ ◆
「トロッコの具合いはどう?」
北カデン領の改革として、フォーリィは二十日前からミスリル鉱山に複数のトロッコを導入していた。
採掘のために掘られているトンネルの傾斜が急なため、トロッコは魔道モーターを使ってワイヤーで引っ張るタイプだ。
そのため、一番長いトンネルでは途中で二回もトロッコを乗せ替えなければならないので、フォーリィとしては運用が大変だと文句が出るのではないかと気を揉んでいた。
「これは革命なんて生易しい言葉で言い表せるモンじゃありやせん。これぞ正しく神器ですぜ」
採掘監督のドワーフが、鼻息荒く説明する。
「これを導入して二日間は、鉱石をばらまいたりトロッコに轢かれそうになったりで危なっかしかったからスピードを落としての運用で採掘量は導入前とあまり変わらなかったんでさぁ」
「轢かれそうになった?大丈夫なの?」
安全性はフォーリィにとって最も気に掛るところだ。
自分が持ち込んだ物のために怪我人や死人など出したくはなかった。
「ああ、それは大丈夫ですぜ。今ではロープを張って、人がトロッコの線路に入れないようにしやした。するとトロッコの運用がスムーズになって、今では採掘量が五倍にも跳ね上がりやしたぜ」
「五倍?そんなに?」
フォーリィは驚いているが、今まではドワーフ達が鉱石を入れた籠を背負って、傾斜のキツい坂をゆっくりと進んで地上まで運んでいた。
それを考えると、採掘量五倍は決して驚くような数字ではなかった。
むしろ採掘量が上がると、通常は相場が下がる事が問題なのだが、それを回避するためもあって、フォーリィは次々と新商品を投入していたのだった。
「むしろ安全を確保できたんで、トロッコに乗って降りて行く者も出始めて大変でさぁ」
採掘監督が苦笑いを浮かべる。
「乗れるの?」
だがフォーリィはそれを聞くと、目を輝かせてグイッと顔を近付けて来た。
「ま、まあ一応、乗れはしやすが……」
相手はこの子爵領の領主様で、お貴族様だ。
怪我でもさせたら家族もろとも処刑されかねない。
「乗りたい」
好奇心を抑えられないと言った感じで詰め寄ってくるフォーリィ。
「で、でも安全とは言えませんぜ」
「乗りたい♪」
こうなっては仕方がない。
これ以上拒み続けるとかえって貴族に逆らったと言う事で処罰されかねなかった。
「こっちは準備万端よ。じゃあ、レッツゴー♪」
結局、子爵様には逆らえず、恐々と彼女を乗せてトロッコを下ろす事となった。
ガコンと言う音と共に、ワイヤーを巻き上げ装置のストッパーが外れ、トロッコが動き出す。
そしてトロッコがトンネルに入ると、その傾斜により徐々にスピードが上がる。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♪」
フォーリィの楽しそうな悲鳴がトンネル内から響いてくる中、採掘監督は額にビッシリと汗を浮かべながら、ワイヤー巻き上げ装置のブレーキレバーを握り続けた。
「ああ、楽しかった♪」
そんな彼の心配をよそに、フォーリィは下まで着き、伝声管から指示を出して引き揚げてもらう。そして地上に戻った途端、興奮収まらないと言った顔を採掘監督に向けた。
そんな彼女の表情を見て、採掘監督はとても嫌な予感がした。
「ねえ、ねえ。これってもっとスピード上げられるんでしょ?ねえ、今度はもっと早くお願い。ね♪」
これはもう止めようがなかった。
◆ ◆
「それでトロッコから投げ出されて、そんなボロボロになって帰って来た……と?」
怒りのオーラが立ち込めるラントゥーナ補佐官。
あの後、フォーリィがトロッコから振り落とされたと知るや、採掘担監督は青ざめて彼女の前で土下座をし、どうか家族は助けてくださいとお願いされた。
彼女としてはトロッコから落ちたと言っても、前世で培った受け身術でケガはなかったので、全然気にしていなかったのだが、彼のその姿を見て、さすがに自分の軽率さに気が付いた。
そのため、このことで採掘監督を含め、作業員やその家族には一切のお咎めはないと一筆をしたため、さらに最初から渡すはずだったブレーカーを十数機渡して、今後も採掘に励んでほしいと言い残してその場を立ち去った。
ちなみに、ブレーカーとは地球で道路補修などで使われているもので、杭などをガガガっと連続で打ち付けてアスファルトを砕くのに使われているものだ。フォーリィは採掘作業の効率化のため、アサルトライフルの技術を応用して、空気圧で連続して杭を打ち付けられるようにした機械を設計してカンパニーに作らせていた。
「いやぁ、急に傾斜がきつくなった途端、身体が宙に浮いたのには驚いたわ。ははは、はははは……はは……は…………あう……あう……」
鬼の形相で、無言で詰め寄るラントゥーナに、フォーリィは次第に血の気が引いていき、ガクガクと震えだした。
「子爵様……何か言う事はありますか?」
静かな口調。
だがそれが、かえって彼女の怒りを表していた。
「ごめんなざあぁぁぁぁぁい」
ラントゥーナが怒っているのは、今では妹のように可愛いと思っている彼女が危険な事をしたからだった。
そして、自分が彼女を思って一生懸命に貴族としての地位や品格を向上させようと努力しているのに、彼女はそれを分かってくれない。その歯がゆさも彼女の怒りを押し上げた。
「ごめんなざあぁぁぁぁぁい」
その後フォーリィは、ラントゥーナから一時間以上にもわたって、貴族らしい振る舞いについてのラーニングを受けされられる事となった。
◆ ◆
「と言う訳で、安全に乗れるトロッコを開発しました。名付けてトロッコースター」
彼女が満を持して紹介した遊具に、フォーリィの家族とラントゥーナ、そしてラトゥールの妻が目を見開いた。
ここは領都から西に馬車で二〇分ほど離れた場所。
領都と言っても、元のカデンの領都ではなく、元グァニュームの領都に移転された新しいカデン領都だ。
「また子供じみたことを……」
半ば呆れた顔をするラントゥーナとは異なり……
「まあ、まあ♪」
ジェットコースターを知っている彼女の母、アントゥーリアは興奮収まらないと言った感じだった。
「これ……本当に大丈夫なんでしょうね」
今まで彼女が創って来た物の危険性を知っているヴェージェはこめかみから汗が流れていた。
「…………」
そしてマヴァンダは放心していた。
こうして、世界初の遊園地がここに誕生した。
文字数が多くなりそうなので、ここで切ります。
次回はカデン遊園地の紹介です。




