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71 ハーフエルフっ娘、お金が無い!

【カデン小話6】

現在は四の月です。季節は地球の北半球とほぼ同じで、四の月は春となります。

四の月はクァトゥオルバーですが、これは基本的に<ラテン語の数字>+「バー」です。

しかし、一〇の月はdecemberですが、デケムバーと読まずディセンバーとするなど、一部は英語ライクにしています。

「私達にはお金がありません」

 領主邸の執務室で、フォーリィは開口一発、そのように発表した。


 そこに集められたのはフォーリィの家族の他、ラントゥーナ補佐官、イペブラクオン内政担当、マヴァンダ執務(パシリ)担当、そしてイペブラクオンの部下たちだ。


「ねえ、フォーリィ。私達にお金があった時って、無かったわよね」

 おずおずとそう言ったのはヴェージェ。

「ずっと借金が続いていますね」

 ラントゥーナが、何を当たり前のこと、と言った顔で答える。

「全くですわ。年中借金貴族が何を言いますの」

 続くマヴァンダ。

 そして、その他のメンバーは苦笑いを浮かべていた。


「いや、そうじゃなくて、領地拡大に比べて運営費の増加があまりにも少なすぎるって事よ。さすがに国王様も悪いと思ったようで、報奨金として五千万クセルを渡してくれたわ。でも元グァニューム領の運営費の三分の一しか無い状態では焼け石に水よ」

 その上、都市間を結ぶ交通網の整備もしなければならないし、現在グァニューム子爵に兵士を残してもらっている北側の国境に面した複数の砦も、順次カデン領の兵に入れ替えなければならないため、その補充および訓練も必要だった。


「まあ、いつものように何とかなるのではありませんの?」

 楽観視するマヴァンダの意見は無視して、フォーリィは言葉を続ける。


「そう、私達にはお金が無い。だから皆のお給金は三か月間無配給とします」

「な、何ですってぇぇぇぇぇ!?」

 とうとうその時が来たかと言う表情の面々とは逆に、驚きの声を上げたのはマヴァンダ。

 そのようすを見て、フォーリィがやれやれと言う顔をする。


「何を驚いているんですか?お金が無いので出したくても出せないのは当然でしょ?」

 批判の混じった声で告げるフォーリィ。

「で、でも、今まで通りに、あなたの私財から借金すれば……」

「現在、各カンパニーの売り上げが落ち込んでいて、カデン領に貸し出すお金がありません」

「なっ?」

 ラトゥールの妻であるマヴァンダは、男爵家の五女なので、お金が無いと言ってもどこからか湧いてくると思っていた節がある。

 つまり、親が娘に金銭的な苦労を掛けまいと甘やかせすぎた結果だった。


「じゃ、じゃあ、来月仕立てさせる予定のお洋服は……」

 このような状況で、まだ自分の服の事を心配している彼女に、フォーリィは少しイラっとしていた。


「あ、お義姉さんは部外者ですので、私達と同じ苦労をさせる訳にはいきません。ですので、カデン領が持ち直すまではご実家に帰って頂きます」

「何ですってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 驚きの声を上げるマヴァンダに、フォーリィはしれっとした顔で言う。

「さすがに男爵家の御令嬢に数か月間お洋服も仕立てられないようなご苦労をさせる訳にはいきません。ですから一時的にご実家にお移り頂きます」

「な……な……な……」

 マヴァンダはフォーリィの魂胆が分かっていた。

 兄から自分を引き離そうとしていると。


 だが、すぐに反論できなかったのは、彼女の中での葛藤があったからだ。

 数か月実家に戻って不自由のない生活を送るか、ここに留まって貧乏生活を送るか。

 勿論、ここで言っている貧乏生活とは彼女の価値観での貧乏生活であり、本当に貧乏な人が聞くと助走付きでキックを食らわされること間違いなしだった。


 そして彼女が出した結論は……

「ご心配に及びませんわ。私はここで『愛する夫』をお守りしますわ」

 実家に泣きついてドレスの仕立て代などを送金してもらう事だった。


「ちっ」

 マヴァンダの回答に、フォーリィは小さく舌打ちをして、諦めたように本題に入る事にした。


「えーと、実は今言ったことは嘘です。各カンパニーは業績を伸ばしていますので、暫らくは私の私財からの借金で運営は可能です」

「なっ……!」

 騙された事に顔を真っ赤にし、反論しようと口をパクパクさせているマヴァンダを放っておいて、フォーリィは皆に真剣な目を向ける。


「だけど、忘れないで欲しい。私達は現在、カンパニーの業績の上で首の皮一枚でギリギリの領地運営をしているってことを」

 彼女の言葉に、みんなの顔が引きしまる。


「その上で私から提案する打開策だけど。カデン領を南北で分けて北側を私たちが運営、そして南側はこれから新設する『フォーリィ・カンパニー』に運営委託しようと思うの」

 事前に相談していたラントゥーナ、スタニェイロ、アントゥーリア以外は、彼女の提案に驚きを隠せなかった。


「領土の一部を民間企業が運営するって、そんなこと可能なのでしょうか」

 心配そうな顔を向けるイペブラクオン。

 彼は今までカデン領の内政に心血注いで来ただけに、彼女の提案を不安視していた。


「制度上は問題ないわ。我が国には『運営委託制度』があるから」

「普通は農村の運営を村長などに委託する制度だけどね」

 フォーリィの言葉に、スタニェイロが補足する。


「エリアの大きさなどの制限はこの制度には明記されていなかったから、活用させてもらいましょう」

 言い放つフォーリィにラントゥーナはこめかみを抑える。


「イペブラクオンには引き続き、オブザーバーとして南カデンの内政を担当してもらうわ。その派遣料として毎月一千万クセルをフォーリィ・カンパニーから支出してもらう事とします」

「「「「一千万!?」」」」

 みんなが驚くのも無理はない。月一千万と言えば破格すぎる値段だ。


「まあ、イペブラクオンがいないと運営が成り立たないと言う名目で、私の私財からお金を吸い上げるためだけどね」

 しれっと、ぶっちゃけるフォーリィ。


「あと、フォーリィ・カンパニーは南カデンの、毎月五千万クセル以上の純利益を出している企業の税率を五割とします。これも私の私財からお金を吸い上げるためです」

 もちろん、一般企業に税収権はないので、名目上はフォーリィ・カンパニーが領主に申請して、領主が税率を上げる形となる。



      ◆      ◆


「と言うことが決まりました」

 あの後、フォーリィは各カンパニーを回って、状況を説明した。


「おいおい、それてって……」

 不安そうな顔を向けるカンパニーのドワーフ職人たち。


「安心して下さい。皆さんの給料に変更はありません。私の個人としての利益が減って、公人としての利益が上がるだけです」

 それを聞いて、ドワーフ達は安堵の表情を見せた。


「あと、封印していた製品は全て解禁します。製品化に向けて進んでください」

「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」」

 フォーリィの宣言に、各カンパニーの職人が歓喜の声を上げた。



 各カンパニーと異なり、今回の改革に異を唱えて領邸に集まって来たのは大店の主や両替商などだった。

「税率五割など、とても承服しかねます。これでは私たちは他領に移るしかありません」

 彼らの事をすっかり忘れていたフォーリィは、どうしようかと考え、そして出した結論は……


「税率五割は、あくまで拠点が南カデンにある企業です。つまり拠点が北カデンにある企業は、縦令(たとえ)本店が南カデンにあっても、税率は三割のままです」

「そ、それって……」

 フォーリィが苦し紛れにその場で考えた案だ、今の言葉で理解しろと言うのが無理だった。

 だから、フォーリィは慌てて補足する。


「つ、つまり、掘っ立て小屋でもいいのです。名目上、拠点として登録してある場所が北カデンにある企業は従来通りの税率になります」

 その説明に、彼等はますます困惑する。


「な、なぜ、そのような複雑な制度を……」

「それは、私が経営しているカンパニーが利益を上げ過ぎているからです」

 そう言われると納得せざるを得なかった。

 確かに彼等も感じていた。彼女が経営するカンパニーは驚異的な利益を上げていると。

 そして、それを妬ましく思っていた。

 だから彼女自ら、各カンパニーの税率を上げると言われると、反対する理由はなく、逆に率先して後押しする立場となった。


 こうして、カデン領の税制改革は順調な滑り出しを見せた。


 だが、北カデンの深刻な運営費不足はどうしようもなく、当面の運営費として更に二億クセルの借金をして、現在、カデン領の借金は六億クセルを突破していた……

カデン領、V字回復なるか?

次回は怒涛の開発ラッシュです。

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