表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/239

70 ハーフエルフっ娘と褒章式

【カデン小話5】

ロックムートやガネトムートなど、ドワーフ達の名前で既に気付かれていると思いますが、命名には種族ごとに法則があります。一部例外がありますが。

ドワーフは<鉱物名>+「ムート」で、エルフやハーフエルフは植物由来です。

今回出てくるグァニューム子爵は、どこかの国の木の名前「guanhuma」をもじってます。

 褒賞(ほうしょう)式は城の敷地内に設けられた特設会場で行われた。


 会場にはすでに数百人の民衆が集まっていて、そのようすがテレビ中継されている。


 式典を見に来た人々の多くは王都民だが、カデン領都と王都を結ぶバスの運行が昨日から開始されたお陰で、自領の領主が褒賞される姿を一目見ようと、カデン領民も多数集まっていた。


 そして、祝典会場にはホーズア国王や宰相(さいしょう)、将軍といった国家運営の重鎮(じゅうちん)の他、主だった上級貴族たちが集まっていた。


「あれっ?ラントゥーナ。あの筋肉モリモリの人は誰?」

 幕の向こうで呼び出しが掛かるのを待っていたフォーリィは、場違いな雰囲気を漂わせているマッチョな男が高級貴族と一緒に並んでいるのを見かけて、ラントゥーナに尋ねた。

 その男は、見た目は豪華なのに何故か袖がない白い服を着て、むき出されているその腕は、丸太のように太かった。そして赤マント。


 透き通るような金髪なので純エルフのようだが、ボディービルダーを彷彿(ほうふつ)させるその体つきにより、エルフらしさが微塵にも感じられなかった。


「あのお方はアールヴゥーレ男爵様です」

 フォーリィに問われたラントゥーナは、チラリとその人物を見て答える。

 あれだけ特徴的な身体だ、顔を良く確認するまでもなかった。


「アールヴゥーレ男爵?何で式典に参加しているの?」

「さあ、何故でしょうか」

 褒章式に参列している高級貴族の列の端に男爵が一人。彼がこの場にいる理由はラントゥーナも分からなかった。


 実はアールヴゥーレ男爵は、王都邸から早馬でやってきた彼の部下により、フォーリィが()()()()()()()()に本格的な軍事侵攻をするとの情報を得た。

 そして、国王への忠義心を示すため、またフォーリィに恩を売るため、急ぎ一〇日ほどで兵を揃え、物資をかき集めて王都に乗り込んで来たのが一昨日の事だった。

 つまり、とっくの昔にフォーリィがラトゥーミアの王都を制圧していた事に気付かず、のこのこと王城に現れたのだった。


 王都ではテレビの普及率は高く、酒場やホテルのロビー、ショッピングモールにも設置してあるため、都民は誰もがラトゥーミア国がフォーリィに滅ぼされた事を知っていた。

 だから突然大軍を引き連れて現れた彼に、都民は最初驚いたが、登城の理由が知れ渡るにつれ、酒場などで大いに盛り上がる事になったが、その事は連れてこられたアールヴゥーレ男爵の兵士達の耳には入ったが、男爵に伝えられる事はなかった。


 フォーリィを目の敵にして、テレビの購入を頑なに拒んだアールヴゥーレ男爵。その結果が、この赤面物の登場だった。


 そしてアールヴゥーレ男爵はと言えば、勇ましくホーズア国王の前に立ち、鼻息荒くラトゥーミアへの侵攻の先頭に立つ事を願い出たが、もうすでにラトゥーミア王国がなくなっていると聞かされ、暫し口を開けて放心する事になった。


 その後ホーズア国王にせっかくだからと勧められ、今日の式典への強制参加が決まった。

 その時、国王の口元がニヤリと僅かに吊り上がったが、アールヴゥーレ男爵はそれに気付く余裕はなかった。



『フォーリィ・ルメーリオ・カデン男爵』

 スピーカーを通じて、彼女を呼ぶ声が聞こえて来た。

 どうやらこの度の戦果などを、盛りに盛りまくった説明や、主だった者達の彼女を称える言葉が終わったらしい。

 ちなみにこの音響システム、フォーリィがテレビ技術を応用してドワーフ達に作らせ、国王に売り込んだものだった。


 名前を呼ばれると、城の者達が幕を寄せる。

 そしてフォーリィは歩き出し、幕の隙間から式典会場へと足を踏み入れた。


「「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」


 途端、会場が歓声で埋め尽くされた。


 そして、いつまでも続く歓声の中、フォーリィはゆっくりと進んで王の前まで来ると、ドレスのスカートを軽く指先で左右に広げてお辞儀をする。


「「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」


 すると、歓声がさらに大きくなる。

 彼女のその優雅な動き、そのドレスの美しさに民の興奮が頂点に達していた。


 このドレス、実は新しく仕立てた物ではない。

 国王より、急遽三日後に登城するようにとは言われたが、彼女は現在、ドレスを二着しか持っていないし、新しく仕立てて貰っているドレスも、完成にはまだまだ先だ。


 そして持っている二着のドレスも、すでに何度もテレビなどで皆に見せていて、この晴れの舞台にそんな物を着て立つわけにはいかなかった。

 そこで、カデンの領主となってすぐにドレスを仕立てて貰った仕立て屋に相談したところ、前回ドレスを仕立てた際にボツになった物がまだ手元にあるとの事だったので、フォーリィが細かい指示を出して二日で仕上げた逸品だが、前世のファッション技術を少しだけ取り入れて、この世界でもそれほど奇抜ではない仕上がりとなったこのドレスは、民衆の心、特に女性たちの心を掴んで離さないほどの芸術品となっていた。


『静粛に!静粛に!』

 数分待っても歓声が止まないため、城の者がスピーカーを通じて呼びかける。

 そして徐々に会場が静かになっていくと、一時中断していた褒章式が再開された。


「フォーリィ・ルメーリオ・カデン男爵よ。此度の働き、誠に大儀であった。其方(そなた)のような家臣を持って、()は大変嬉しく思うぞ」

 国王が席を立ちフォーリィの前まで来ると、(ねぎら)いの言葉を述べた。


「恐縮です」

 国王に勲章を着けて貰うと、彼女は腰を落として片膝を付く。

 そして、最初に褒章された頃と違い、テレビなどで何度も表舞台に立っていたし、国王に対しては今では結構自由な発言をしているフォーリィは、落ち着いたしぐさで王の前で頭を下げた。


「まさか、(わず)か半日ほどで敵国の王都を制圧して、敵国王を拘束するとは思わなかったがな。はっはっはっ」

 国王の冗談交じりのセリフに会場内は笑いに包まれ、堅苦しい雰囲気が一変する。


「さて、これほどの功績を上げた者に対する褒章が勲章だけでは近隣諸国の笑い者だ。よって、それ相当の褒美を与えたい。本来ならば其方が制圧したラトゥーミアの王都を其方の領地として与えたいところだが、せっかくあそこまで発展させたカデン領を手放せと言うのでは褒美ではなく罰になってしまうからな」

 それは、フォーリィが事前にテレビ電話で国王に伝えていた事だった。

 今のカデン領を離れろと言うのだけは止めてくれと。


 そして、王の言葉を聞いたカデンの民はそっと胸をなでおろした。

 ショッピングモール、街灯設置、バスの運行などのカデン領都の発展だけではない。フォーリィはガラスハウスを筆頭に、数々の開拓を行って来た。そんな彼女がこれからもカデン領の領主として留まってくれる。その事が彼らを安心させた。


「だが、其方の偉業は後世に語り継がれるほどの物だ。そんな其方を男爵位に留めておく訳にもいくまい。よって其方に子爵位を授けよう」


「「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」」」


 再び会場内が歓声に包まれた。


『静粛に!静粛に!』


 彼女の昇爵(しょうしゃく)は国民全員が納得するものだった。

 そして、彼等は新たな英雄の登場に酔いしれた。


「本当は伯爵への昇爵にも相当する功績なのだが、其方はそこまでの出世は望んでいないのだろ?」

「はい、さすがにそこまで広大な領地を与えられても開拓の手が回りませんので、謹んでお断りさせて頂きます」

 国民は彼女の謙虚さに感動した。

 そうなのだ、英雄は謙虚な存在なのだと。


 だが、フォーリィは別に謙虚な訳ではない。

 これまで、カデン領の発展に尽力した結果、すでに借金が二憶クセルに達していた。

 伯爵となって領地が広がれば、追加された街などからの税収が増えるが、軍事防衛的な観点から鉄道網を急ピッチで広げなければならない。そのため、領土が広がれば広がるほど支出額が跳ね上がるのが目に見えていたからだ。


「そして子爵に相応しい領土として、カデン領の北側に面する土地、現在グァニューム子爵が管理している領地を全て、其方の領地に加えよう」

 この領地拡大は、彼女に事前に知らされていなかった。

 だが、周辺の地図は把握している。

 グァニューム子爵の領地はそれほど大きくないので、開拓もそれほど負担にはならないだろうと思われる。

 そして、その土地はオリハルコン鉱山があるのだ。

 そう、魔道モーターも含め、彼女の製品には欠かす事ができない鉱物だ。


「はっ、ありがたき幸……せ?」

 そこで彼女は、その辺りの地理を思い出す。


「こ、国王様。現在のグァニューム子爵の領地がそのままカデン領に編入されますと、アールヴゥーレ男爵領はカデン領に囲まれてしまいます」

 そう、昨年まではアールヴゥーレ子爵領の北がグァニューム子爵領だったが、アールヴゥーレが男爵に降爵(こうしゃく)されて南側がカデン領になってからは、アールヴゥーレ男爵領はカデン領とグァニューム領に挟まれる形となっていて、カデン領から見れば北西と北東がグァニューム領に面していた。

 そしてグァニューム領がカデン領に編入されれば、カデン領の真ん中にアールヴゥーレ領が存在する形となってしまうのだ。


「何か問題でも?」

 何を気にしているのか分からないと言う顔をしている国王。

 だがフォーリィは確信していた。絶対に楽しんでいると。


 彼女の確信は、半分は正解だ。

 だが残りの半分は、パウトミーの問題だった。

 マルバーリオ将軍との会談がテレビで報じられ、今まで噂として広まっていたパウトミーの寝返りが事実として国民に知れ渡り、彼が今なお行方をくらましている事が明白になった今、このように間接的にアールヴゥーレ男爵に罰を与える事により、パウトミーの第一王子との関りから国民や貴族たちの目を(そら)らしたいと言う思いもあったからだ。


「アールヴゥーレ男爵。問題ないな?」

 ホーズア国王が男爵に顔を向け、白々しく確認を取る。


「はっ、全く問題ありません」

「ひっ……」

 清々しい笑顔を見せる男爵を見て、フォーリィは思わず小さな悲鳴を上げてしまった。

 なぜなら、男爵の両腕の筋肉が不自然にピクピク動いていたからだ。


 暫らく、アールヴゥーレ男爵とは仲良くなれない。フォーリィはそう確信した。


「グァニューム子爵には、彼女の代わりに元ラトゥーミア王都の運営をお願いする。領地は少し小さくなるが、今より発展した街だ。まあ、前王がアレだったから色々と荒れているが、其方なら見事立てなおしてくれると信じておる。宜しく頼むぞ」

「勿体なきお言葉。王の期待を裏切らぬよう、誠心誠意尽くさせて頂きます」

 式典に参列していたグァニューム子爵は、その場で片膝をついて頭を下げた。

 彼には事前にその事を伝えられていたため、特に慌てるような事はなかった。



「あとカデン子爵には、元ラトゥーミアの国庫に保管されている資金の半額を与えよう。それをもって、より一層、領地の発展に努めるがいい」

「あっ、ありがたき幸せ♪」

 これも、彼女には事前に知らされていなかった事だった。

 元ラトゥーミアが保管していた国の運営資金の半分。それだけあれば、カデン領の借金を全額返済しても、鉄道網の増設などに回せる資金に困らない。


 テレビ画面には彼女の満面の笑みが映し出されていた。


      ◆      ◆


『みんなぁぁぁぁぁぁ、今日は楽しんでねぇぇぇぇ』

 スピーカーから聞こえるフォーリィの楽しそうな声。


 あれから五日。

 今日は元グァニューム領都の住民などもバスで輸送して、ここ、カデンの領都で街を上げての昇爵パーティーが開催された。


 借金返済の目途がたった彼女は、大盤振る舞いで領民にタダで食事やお酒を提供し、二日間に渡って街中が大いに賑わった。



 そして更に五日後……


『カデン子爵。ほんっっっっとうにスマン!』

 テレビ電話でホーズア国王が両手を合わせてフォーリィに謝罪した。


『ラトゥーミアの前王は、王都の主だった大店や両替商に多額の借金をして贅沢三昧していたそうで、元王城の国庫は空だった』

「えっ……?」

 国王の言葉に、フォーリィは頭が真っ白になった。


『そんな訳で、其方に約束していた資金を渡せないどころか、グァニューム子爵も自領の運営資金の三分の二を持って、元ラトゥーミア王都に移転する事となった』

 つまり、彼女の借金を返済できると見込んでいた入金もなく、新しく編入された領地も含め、全ての運営を子爵が持っていた運営資金の三分の一で運営しなければならなくなったのだった。


 既に二日前、多額の入金を見込んだフォーリィは、彼女の私財から多額の借金をして、カデン領都から元グァニューム領都や、その更に北にある国境の砦に向けて、鉄道網の構築を発注したばかりだった。


「えぇぇぇぇぇ~…………」


 カデン領の借金、現在四億クセルを突破していた……


「えぇぇぇぇぇ~…………」

こうして、フォーリィは国王に上げて落とされました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ