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47 ハーフエルフっ娘と国王様1

 馬車の後ろに繋がれた馬。

 その異様な光景に、ホーズア王とナルソシ宰相(さいしょう)は驚きを隠せなかった。


「カデン男爵。こ、これは?馬で馬車を押しているのか?」

 ようやく言葉を絞り出し、質問をぶつけるホーズア王。

 しかしフォーリィは質問には答えず、世間話をするような口調で言った。


「いやぁ、さすがにカデンの領都からここまでは遠いですね。この魔道具でも六時間も掛かってしまいました」

「「六時間!?」」

 国王達の声がハモった。


 六時間掛かったと言うのは嘘ではない。

 砦防衛の時は領都まで三日掛かったが、それはライトメイルなどを装着して進軍している歩兵に合わせた速度で移動していたからだ。

 早馬を使って、馬を乗り換えての移動なら、それくらいの時間で領都からここまで来れる。


 だが、馬車となると話は別だ。

 馬を使いつぶすつもりで、休みなしで走らせ続けても、決してその日の内に到着などはできない。


「これは、魔道具なのか?そんなに早く走れるのか?これは」

 国王達は馬車の隅々まで見る。

 だが、どう見ても最近流行りのダンパーとやらが装着されたスライム・ゴムのタイヤの馬車にしか見えなかった。御者台に人はいなかったが。

 だが、相手は洗濯機や掃除機を発明した者だ。これが新しい魔道具である事は間違いなかった。


「こ、こ、これは……どのような仕組みで動くのか?」

 もし本当にカデンの領都からここまで六時間で来れるとなると、世界の常識が(くつがえ)るほどの発明と言わざるを得ない。

 はやる気持ちを抑えられない国王に、フォーリィは申し訳なさそうに言った。

「その説明はしますが……あの……そろそろ降りてもいいでしょうか。この場で待機していろと言われたのですけど、さすがに窓越しに国王様とお話しするのは、かなり無礼になるかと思いますので」


「あ、ああ。そうだな」

 国王が近くの兵士に向かって軽くうなずくと、その兵士は慣れた動作でフォーリィの車のドアを開けた。

 それに合わせて、反対側のドアからラントゥーナ補佐官が車から降りる。そして、後続の車に乗っていたイペブラクオン達も急いで車から降りて、フォーリィの車の扉を囲むように両脇に立った。

 そして最後にフォーリィが車から降りる。


「この度、国王様より召喚状を頂き、急いではせ参じました」

 フォーリィはスカートの両脇を指でつまんで左右に少し広げ、若干腰を落として頭を下げた。今回は軍人風ではなく貴婦人としての挨拶だ。

 それに合わせて、ラントゥーナもスカートを少し広げて頭を下げ、イペブラクオン達は片膝を付けて王の前で頭を下げた。


「此度は先触れも出さず、いきなりの登城となった無礼、どうぞお許し下さい」

「良い良い。許す。それで、この魔道具は……」

 フォーリィの儀礼的な挨拶を半ばスルーするような形で、電動カーの説明を求める国王。


「ここに謁見を求める文をしたためました。どうぞお受け取り下さい」

 フォーリィがそう言うと、隣のラントゥーナが封蝋(ふうろう)を施した羊皮紙を差し出した。

「お?お……おう」

 予想外の彼女達の行動に国王は面食らった。

 たが、フォーリィ達は決しておかしな事をしている訳ではない。

 本来は、先触れが領主からの文を城に届けて、城からの謁見日時を確認して領主に伝える。

 だがそれは王の前で行われる訳ではないので、ホーズア王が驚くのも無理はなかった。


「お預かりします」

 宰相はそう言って、羊皮紙を受け取る。


「後日、謁見日時をうかがいにまいります。では、本日はこれにて失礼致します」

 再びスカートを広げて挨拶をし、フォーリィは(きびす)を返して車に乗り込もうとする。


「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ……」

 突然の出来事に、ホーズア王は言葉にならない言葉を発してフォーリィの腕を掴み、それを阻止する。


「何でしょうか?」

 フォーリィは振り向き、首を傾げる。


「こ、こ、この魔道具の説明はしてくれないのか!?」

 血走った目で訴える国王に、フォーリィはニッコリと笑って返事をする。

「もちろん、説明させて頂きます」

 それを聞いて、ホーズア王は安堵の表情で彼女の手を放す。


「ですので、謁見の日取りが決まりましたら、お伺いします」

 そう言って、再び車に乗り込もうとするフォーリィ。


「待てぇぇぇぇぇぇぇ!」

 ホーズア王が、今度は両手でガッシリとフォーリィを掴む。


「な……何でしょう?」

 鬼気迫る国王の形相に、フォーリィは少し腰が引ける。


「……出す」

 荒い息をして、国王が微かな声を出す。


「はい?」

 そんな国王を、フォーリィは不思議そうな顔で見る。


「謁見の許可を出す。今すぐ謁見だ。宰相、いいな?」

 血走った目で、宰相に確認を求める。

「はい!かしこまりました。全然問題ありません」

 即答だった。

 王の命というのもあるが、宰相もこの乗り物について興味津々だったのだ。


「そ、それは願ったり叶ったりですが、いいのですか?その、他の人達を差し置いて、後々私がその人たちの恨みを買ったりは……」

「これは王の勅命(ちょくめい)だ。誰にも文句は言わさん。宰相、いいな?そのように手配しろ」

「かしこまりました」


 王達の決断に、フォーリィは心の中でほくそ笑んでいた。

 彼女は、クリスマス・ウィークの忙しくも楽しい期間、何日も領都を離れるのが嫌だった。

 だから、馬車で馬を引くパフォーマンスを演じたのだ。

 こうすれば、国王は絶対に一刻も早く説明を聞きたがると確信して。


 元々、馬は連れてくる必要があった。

 長距離でエンチャントの魔石を使った前例がなかったため、万一エンチャントの範囲外となっても馬で引いて王都まで行けるように。


 もちろん領都からここまで、車で馬を引きずり回すような可哀そうなことはしていない。

 王都までは、電動カーの後ろに取り付けた荷台で馬を運ぶ事にした。


 そして、王都を守る城壁の門を潜る前に荷台を外し、馬を電動カーの後ろにつなげて、わざと人目を引くように王城まで移動したのだ。


「では、謁見の間に移動する前に、ここでこの魔道具の説明をしたいのですが、宜しいでしょうか」

「ああ、構わん。早く説明してくれ」

 待ちきれないと言う顔で急かす国王。


「これは馬も使わずに自動で動く馬車。つまり自動車でございます」

「自動で動く馬車?」

 国王達の表情から、彼らが全く理解出来ていないと感じたフォーリィは、別の視点から説明することにした。

 

「国王様。私が王都で販売している掃除機や洗濯機はご存じですか?」

「ああ、知っておるぞ。有名だからな」

「これは、それらの製品に使われている物より遥かにパワフルな最新式モーターを使った乗り物です」

 フォーリィはイペブラクオン達に馬をどけてもらって、後ろの扉を開くと、ホーズア王にモーターを見せた。

「これがモーターか……」

 初めて見る機械という物に、国王と宰相は目を見開く。


「我がカデン領に建設した簡易ダムから送られてくる魔力を受け、電気というエネルギーに変換して、このモーターを動かしていますので、馬がなくても走る事ができるのです」

「ダムから送られてくる魔力?つまり、これを動かす人は魔力を供給しなくてもいいのか?」

「はい。現にこの自動車をここまで運転して来たのは、ここにいる魔力を持たない者です」

 フォーリィに紹介されて、馬車の内部を改造して取り付けた運転席に座っているヒューマンの男性が軽く頭を下げる。


「魔力を持たなくても動かせる乗り物……」

 馬を使わずに移動ができるだけでも画期的なのに、そのエネルギーがダムから送られてくると聞いて、その常識はずれな発想に、ホーズア王達は只々驚くばかりだった。


「乗ってみますか?」

「乗せてくれるのか!?」

「ひっ?」

 フォーリィの申し出に、触れそうなくらいに顔を近付け、嬉しそうな顔をする国王に、フォーリィは思わず数歩後じさった。


「え、ええ。ただ、この自動車の性能を感じてもらうために、馬が全速力で走るくらいの速度で走行したいのですが、そのような場所はありすか?」

 フォーリィの頼みに、宰相がすぐに中庭の封鎖を命じた。


 そして……


「あの……そろそろ終わりにしませんか?」

「もう少しだ、もう少し。なあ、もっと早く走れないか?」

 馬の全速力の約二倍の速さで中庭を回り続ける電動カーの中、フォーリィはこの後、一時間以上ホーズア王の横で引きつった笑みで耐え続ける羽目になった。


次回は色々な新商品が出てきます。

ご期待ください。

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