48 ハーフエルフっ娘と国王様2
「も……もう宜しいでしょうか……」
「うむ。この自動車とやらは大変素晴らしいな」
一時間以上も中庭を走り続けた電動カーから、疲れ切った顔で降りて来たフォーリィと、興奮冷めやらぬ感じのホーズア王。
「なあ、この自動車とやらを私にも譲っては貰えぬか?あと、軍用に一〇〇台は……いや、二〇〇台くらいは……」
目を輝かせ、鼻息荒くまくしたてる国王に、フォーリィは溜息をつくのを必死で抑え、顔を引き締めると静かに言った。
「その事も含め、色々と込み入ったお話がありますので、謁見の間で説明させて頂きたいと思います」
「お、おう。分かった」
彼女の深刻な表情から、魔道筒状兵器と同じく量産できないと言われると思ったホーズア王の笑顔が引きつる。
それを見てフォーリィは、国王に向かってニッコリと微笑んだ。
「ご安心下さい、量産はできます。だけどそれには、ある課題をクリアしなくてはなりませんので、国王様の協力が必要となります」
量産できると聞いてホーズア王は安堵したが、それと同時に、彼女からどんな協力依頼をされるのか、少し不安にもなった。
「それと、この自動車の他にもこの国を大きく変える色々な商品がありますので、その説明もさせて下さい。きっとこの自動車以上に興奮もののはずです。その中にはアレも含まれています」
「アレ……とは?」
無邪気な笑顔を崩さないフォーリィ。だが、こちらの手の内を見透かしているかのようなセリフに、緊張が走る。
「『大きな四角い箱がたくさんの人々を運んでいる』。そのように報告を受けたから急遽私を呼び出したんですよね?」
そう、13の月に入って、フォーリィは領都の中央通りなど幅の広い道でバスの運行を初めていた。電動カーの耐久試験とクリスマス・ウィークの活気付けを兼ねて。
王直属の複数の調査員達から見たままを伝えられた王は、その言葉だけでは何のことかさっぱり分からなかったため、フォーリィから直接話を聞くことになったのだ。
謁見の間に通されて形式的な挨拶を済ます。
そしてフォーリィは傍らの女性二人にチラリと目を向けたあと、王に向かって言った。
「では、色々と説明させて頂きますが……その前に、私の秘書二人がこの場の会話を記録することをお許し下さい。王様からの要望などを、間違いのないように遂行できるようにするために」
「ああ、構わぬ」
フォーリィが連れてきた秘書。
一人は彼女の姉、ヴェージェ。そしてもう一人はマレーラ。王都民たちが兎人と呼んでいるラビィーの少女だ。
マレーラは淡いピンクの綺麗な髪で、暗い紅色の目をした美少女だった。
そしてフォーリィが彼女を秘書に選んだ理由は、耳の良いラビィー達の中で、彼女は特に人の言葉を聞き取る能力が優れていたからだ。
その上、彼女は最大五人までの会話を同時に聞き取り、理解する事が可能だ。
王の許可を得て、イペブラクオン達が折り畳みの机と椅子を広げて並べると、秘書たちはその椅子に座り、持ってきた鞄からタイプライターを取り出して紙をセットする。
国王はそれを訝しげに見ていたが、特に何も言わなかった。
『13の月一〇日、王都、謁見の間』
フォーリィがそう言うと共に、ヴェージェ達がカタカタとタイプライターを叩き始める。
「なっ!?何だそれは?」
彼女たちの作業に、ホーズア王だけでなく、その場にいた全員が驚いた。
その反応はフォーリィの思惑通り……ではなく、全くの想定外だった。
彼女はこれからの説明が画期的すぎて、国王達が驚く姿を想像して、いたずらを仕掛けた子供のように笑いを堪えていた。そのため、タイプライターもこの世界では画期的なものである事は頭からすっぽりと抜け落ちていた。
「こ、これは……タイプライターと言う、文字を素早く記録できる機械です。そして彼女たちが文字を記録するのに使っているのはパペルと言って、植物でできた羊皮紙です」
フォーリィは、活字が開発されたらすぐに、その活字の技術を使ってタイプライターの作成を指示していた。
そして、今ではカデン領の行政でタイプライターは普通に使われていた。
「な、なんと……」
ホーズア王は玉座から立ち上がると、足早にヴェージェ達の元に足を運び、タイピング作業を覗き込んだ。
「ん?文字がバラバラに並んでいるな」
タイプライターのキーに刻印されている文字を見て、国王は首を傾げる。
「ああ、それは。文字表通りに並べると使い辛いからです」
説明しながら、フォーリィはヴェージェの机の上からパペルを一枚取り、万年筆で文字表を書き始める。すると……
「インクも付けずに文字が書けるのか?」
今度は万年筆に驚く国王。
次から次へと話が脱線していく状況に、フォーリィの顔から段々と笑顔がなくなっていく。
「これは万年筆と言う商品です。ペンの中にインクが入った小さな容器を組み込んでいるので、いちいちインクを付ける必要がないのです。後で万年筆と予備のインク。そしてタイプライターも差し上げますから」
「おおぉぉ、貰えるのか?」
喜びを露にする国王。
だが、もともと万年筆を献上する予定はなかったため、この場にあるのはフォーリィが使っているピンク色の可愛らしい物だけだった。
そして後日、ホーズア王は他の貴族たちの前で自慢げにその万年筆を使い、別の意味で貴族たちの注目を浴びる事になった。
「では、タイプライターの文字の並びについて説明します。ここに文字表があります。ではこの文字表通りにキーが並んでいたとして、『国王』と打ち込む場合はこうなります」
フォーリィは右手の小指で、文字表の文字に一文字ずつ振れる。
「このように、右手の小指だけで打ち込む事になります。これでは大変使い辛いのです」
「確かに」
「だから私は、頻繁に使う文字は中央近くに、そして左右均等に使うように考えてキー配列を考案しました。文字表とは違う並びになった分、習得に少し時間が掛かりますが、慣れると凄く早く打ち込むことができるのです」
そう説明している間も、ヴェージェ達はフォーリィの喋る速度でパペルに文字を打ち込み続けている。
「すごい速さで文字を記録しているな。なあ、これも量産できるのか?」
そのあと暫らく、ホーズア王や宰相からタイプライターについての質問が続き。既にフォーリィの顔から笑顔が完全に消えていた。
「では、そろそろ本題に入らせて頂きたく思います」
後は実際に使ってみて、自分で確認してくれとお願いし、フォーリィはやっと話を始めることができた。
「まずは、これをご覧ください」
フォーリィの合図とともに、イペブラクオン達が数枚のパペルを張り合わせて大きくした物を広げて、王に見せる。
そこには、領都を走るバスの絵が描かれていた。
「これは、バスと言いまして。先ほどの自動車の大型版です」
「まさか、これがあの『四角い箱』か?」
「はい、そうです」
その形を見て、だから四角い箱なのかと、国王は納得した。
「このバスはすでに領都で走っていて、領都内のあちこちにあるバス停と呼ばれる場所で止まります。その時、利用者がお金を払ってバスに乗り、自分の好きなバス停まで来るとバスから降ります。つまり、誰でも気軽に、安い価格で移動に使える乗り物です」
乗車賃は、計算がややこしくならないように、利用距離にかかわらず均一料金としている。
「……」
フォーリィの説明に、言葉が出ないホーズア王。
「国王様。これを王都にも導入してみてはどうでしょうか」
宰相の方は、早くも導入プランを頭の中で展開し始めていた。
「更にこれ!馬車型ではなく、完全なる個人用の自動車です」
次にイペブラクオン達が広げたパペルに描かれていたのは、地球でも売っていそうな自動車だった。
「「おおおぉぉぉ」」
神でも降臨したかのように、感動している二人。
だが、そんな二人をフォーリィは叩き落す。
「ですが、バスも自動車も王都で販売する事はできません」
「「なぜ!?」」
フォーリィの言葉に、王達は信じられないと言う顔を向ける。
そんな彼らに、フォーリィはキッパリと言う。
「これらの乗り物を動かすだけの魔力がないんです」
「「魔力!?」」
「お忘れですか?私が申請したダムの建設は、ここ王都では許可が得られませんでした」
「「!!」」
王都では、来年度予算でダムの建設をしようと言う話が持ち上がっているが、それだと建設が始まるのが来年度の冬以降になってしまうのだ。
「カデン領内で使う分には、カデン領にある簡易ダムから供給できますし。現在拡張中ですから、今後伸びる需要にも耐えられます。しかし、さすがに王都に回す余裕はありません。人口が多すぎますから」
そこで、とフォーリィは国王に提案する。
「今から王都でもダムを建設しませんか?来年の春先の完成を目指して。そうすればバスや自動車をこちらでも販売できます。更に、このような物も利用できるようになります」
フォーリィの言葉に合わせ、イペブラクオン達が打ち合わせ通り、ある『セット』を国王の前で組み始めた。
「これは?」
首を傾げる国王。
「これは列車と言う、高速移動用の乗り物です」
フォーリィはイペブラクオンから渡された三連結の列車の模型を、組み終わったばかりのレールの上に置く。そしてスイッチを入れると、列車の模型は勢いよく走り始めた。
「これが……乗り物?」
不思議な顔をする国王。だが、フォーリィは国王がなぜそんな顔をするのか分かっていなかった。
それに気づいたラントゥーナは、そっとフォーリィに耳打ちした。
「男爵様。これは模型だと説明しないと……」
「あ?ああっ!国王様。この上に人が乗って移動する訳ではありません。この箱一つ一つがバスと同じくらい大きくて、数十人もの乗客を一度に運べるものです」
「そんなにたくさんの人を運べるのか?」
フォーリィの追加の説明で、やっと理解出来た国王達。
「はい。しかも高速で移動ができます。ここからカデンの領都までなら三時間ほどで着くことが可能です」
「三時間?そんなに早くか?」
それは自動車とは別次元でとても画期的なものだった。
「これは金属で出来た二本のレールの上を走ります。このレールで国内の領地間を結べば……」
そう、物流が画期的に活発化する。
これは経済に革命をもたらすものだった。
「宰相。王都でもダムの建設を……」
「はい!すぐに手配させます!」
それを聞いて、フォーリィは心の中でガッツポーズをした。
「ちなみに、ダムは私の特許製品ですので、特許使用料は頂きます」
「「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」
王達は、目の前でニッコリと微笑む彼女が小悪魔に見えた。
王様との謁見はまだ続きます。




