46 ハーフエルフっ娘と次なる神器2
「トルマルートさあぁぁぁん♪トランジスターの開発状況ってどうなってるの?」
テレビ作成の目途がたったフォーリィが嬉々として訪れたのは、トランジスターやダイオードなどの電子部品の開発をお願いしている電子機器研究所カンパニーだ。
「おう、男爵のお嬢ちゃん。トランジスターの方はできてるぞ」
フォーリィの質問に自信満々に答えているのが、このカンパニーのまとめ役で、黒髪黒ひげの若きドワーフだ。
「えええぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
まさか、もう完成しているとは思わず驚きの声をあげるフォーリィ。
「この電気と言うやつは、本当に不思議だな。作っていて、とても楽しいぞ」
豪快に笑うトルマルートに案内されて、奥の部屋に入る二人。
そこには、魔力コンセントと電気の魔石がセットになった電力供給ユニット。
そしてユニットには電動モーターがつながれていて、その間にコインほどの大きさの三本の針金が付いた部品が置かれていた。
「お嬢ちゃんが欲しかったのは、こういう物だろ」
そう言って、トルマルートはその部品の三本目の足に繋がっている小さな電気の魔石の魔力線に魔力を流す。
すると、電動モーターが回り始めた。
「ちょっと、貸して」
目を輝かせ、フォーリィは魔力線を受け取る。
そして微弱な魔力を送り、その魔力を強めたり弱めたりして、モーターの回転速度が変わるのを確認する。
そう、フォーリィが欲しかったのはトランジスター。つまり三本目の足に微弱な電力を受け、その電力に応じて一本目の足から二本目の足に流す高出力の電流が変化する部品だった。
「凄い、凄いわ。これよ!私が欲しかったのは。もう、トルマルートさん天才♪チュッチュ」
フォーリィは喜びのあまり、トルマルートの頭を抱きしめて、その頭に何度もキスをした。
「ねえ、これってどうやって作ったの?」
単なる好奇心で尋ねるフォーリィ。
「ああ、これは純度の高いヒヒイロカネの上にアダマンタイトを少し乗せて魔力を流しながら金づちで叩くんだ」
「すごおぉぉぉい」
目を輝かせて聞き入るフォーリィ。その愛くるしい顔に若きトルマルートはドキドキしっぱなしだった。
(トランジスターって叩いて作るんだ。知らなかった)
などとフォーリィは心の中で思っていたが、地球ではトランジスターは叩いて作ったりなどはしない。
「ねえ、これを豆粒くらいの大きさにして次の締め日までに二〇万個作ってくれない?」
「えええぇぇぇ?」
あまりの無茶振りに驚くトルマルート。
「ダメ……かな?」
すがるような顔でお願いするフォーリィ。
その可愛さに……
「大丈夫だ。任せておけ」
トルマルートは二つ返事で引き受けた。
「ありがとう♪トルマルートさん、だあぁぁぁい好きぃぃ♪チュッチュ♪」
フォーリィは再びトルマルートの頭を抱きしめて、その頭にキスをした。
その後、トルマルートはカンパニーの職人達から激しく罵倒されたことは言うまでもなかった。
それでも職人達の努力で、大きなヒヒイロカネの板上にトランジスターを形成して細かくカットしていく制作方法が考案され、量産にこぎつける事に成功した。
◆ ◆
「どうにかクリスマス・ウィークに間に合ったわね」
領都の中央通りを移動中、フォーリィは街のようすに大満足だった。
「クリスマス・ウィーク。素敵なイベントね♪」
隣に座っているヴェージェも、街の様子に目を輝かせる。
この世界にはクリスマスなどはない。
だからフォーリィは二〇日間しかない13の月の第一中締め日(一〇日)から月末までをクリスマス・ウィークと名付けて、日頃お世話になっている伴侶や友人、恋人に贈り物をする日とし、中央通りを飾りつけしてお祭りムード一色にしたのだ。
そのクリスマス・ウィークに合わせて、中央通りには光の魔石による街灯が設置され通りの雰囲気を一変させた。
そして、中央通りで賑わいを見せているショッピングモールの入り口の横には、宣伝用に設置した大型のテレビ。
更に、本来は夏にしか手に入らない、ガラスハウスで作られている果実をたっぷりと使ったケーキなどを販売する店などで賑わっていた。
「男爵様、お客様のようです」
領主邸に近付いてきたころ、ラントゥーナが見慣れぬ馬車に気付いた。
「誰かしら?」
領主をやっていと色々な客人は訪れるが、街灯が灯るこの時間に来客は珍しかった。
「ただいまぁ」
領主邸の扉を開くと、目の前に女性が立っていた。
やや銀髪掛かった赤毛のハーフエルフ。
年のころは一七歳くらい。美人だが気の強そうな顔立ちだった。
「あら、やっと戻ってきたわね。貴女、ちょっと夜遊びが過ぎる……ぐわぁ!」
その女性の顔面に、足を高く上げたフォーリィの足の裏がめり込んだ。
「なっ!何をなさるの?」
「いや……何となく殺意が湧いたから。自分の恋人を横取りした恋敵にでも会ったみたいに」
と言っても、フォーリィは恋愛の経験はないので、何となくそう思っただけだった。
「あ、あ、貴女!本当に記憶喪失ですの?」
「?」
相手の言葉から、記憶を失う前にも同じような事をしていたようだが、今のフォーリィは全く覚えていないので、首を傾げる。
「フォーリィ。その人はマヴァンダさん。お兄さんの奥さんよ」
「!!」
ヴェージェの言葉に、フォーリィは直感した。この女は自分の敵だと。
その時、奥の方から一人の男性が現れた。
フォーリィの母親であるアントゥーリアと同じ、紅銀髪の長身。
美男子ではあるが、ジュアゼイルのような甘いマスクではなく、キリッと引き締まった顔をしていた。
「やあ。フォーリィはいつでも元気だな」
「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん♪」
フォーリィはそう叫ぶと、ダッシュしてその男の胸に飛び込んだ。
「わあぁぁ♪この匂い。お兄ちゃんだぁ♪記憶はないけど、何となく分かるわ」
グリグリと頭を押し付けるフォーリィ。
「はは、相変わらず甘えん坊だな」
フォーリィの兄、ラトゥールが彼女の頭を優しく撫でるとフォーリィは「にゅぅぅ」と可愛い声を漏らして、とろけそうな笑顔で更に強く頭を押し付けた。
「ちょっと、貴女!くっ付き過ぎじゃありませんの?」
そんな二人を、マヴァンダは目くじらを立てて引き剥がそうとする。
するとフォーリィは、引き離されないように更に強く兄を抱きしめる。
「兄妹だから、これくらい当たり前なの!」
キッと強くマヴァンダを睨みつけるフォーリィ。
二人の間に火花が散っていた。
そんな三人に、兄に甘えるタイミング失ったヴェージェが寂しい視線を向ける。
そしてラントゥーナ達は言葉を失い立ち尽くしていた。
「ま、まあ。久しぶりに会ったんだから、いいじゃないか」
やや引きつった笑顔を浮かべるラトゥールに、マヴァンダの眉尻が更に激しく吊り上がる。
「あなたは!前々から妹を甘やかしすぎなんですわ!私と妹のどっちが大切なんですの?」
マヴァンダの問いに……
(うわ、出た。定番の答えにくい質問)
心の中でフォーリィは少しうんざりしていた。
「そ、それはもちろん……」
しどろもどろに答えようとするラトゥール。
そんな兄を遮って、フォーリィはキッパリと言い放つ。
「夫婦愛と兄妹愛は全く別です!それともなに?貴女はお兄ちゃんを愛しているから貴女の親兄弟への愛情は全くなくなったとでも言うの?」
「うっ!そ……それは……」
フォーリィに痛いところを突かれて、返す言葉もなかった。
「ところで、お兄ちゃんは何で来たの?私に会えなくて寂しくなった?」
応接間に移動し、ソファに座ってからも兄の胸の中でニコニコ笑顔のフォーリィ。
そんな彼女をハンカチを噛みしめて睨み続けるマヴァンダ。
「国王直々に、お前の領地の外交アドバイザーとして援助するようにとの指示が下って、こちらに赴任して来たんだ」
「じゃあ、ずっとここにいるのね♪」
嬉しさに、グリグリと頭を押し付けるフォーリィ。
「ああ。だがお前は明日にでも王都に出発しなければならないぞ。国王様から呼び出しだ」
「呼び出し?」
一人その理由が思いつかないフォーリィを除き、とうとう来たかと言う顔のヴェージェや家臣たち。
「何でも領地の改革状況を説明して欲しいそうだ。俺も最初は理由が分からなかったが、街のあの状況を見て納得がいった」
「街の状況?」
フォーリィは中央通りを思い浮かべてみる。
街灯、ショッピングモール、テレビ、そして……
「ああぁ、呼び出されるわね。あれじゃあ」
フォーリィの言葉に、ヴェージェや家臣たちがコクコクと首を縦に振る。
◆ ◆
ある日の午後、のどやかな日差しの王都。
そこに現れた馬車の一行に王都中が騒然となった。
「国王様、大変です!カデン男爵様が!」
王の間で王が宰相と打ち合わせをしている時、突然家臣が慌てて飛び込んで来た。
「男爵様の馬車が馬を引いてやってきました!」
錯乱状態の家臣を、ナルソシ宰相が落ち着かせる。
「これ、落ち着かんか。馬に引かれた馬車じゃろ」
宰相が訂正する。しかし、家臣は首を横に振った。
「違います!馬車が馬を引いてやって来たんです!」
「「なにっ!?」」
「こ、これは……」
急いで城の入り口に足を運んだ王達が見たのは、馬車の後ろに繋がれた二頭の馬。
そう、フォーリィは馬車としても使えるハイブリッド電動カーで城までやって来たのだった。エンチャントの効果範囲の試験も兼ねて。
お話のテンポの都合上、詳しくは書けませんでしたが、テレビはドットを一つずつ読み取って、一対多のエンチャントの魔石で各テレビに送る、走査線のような方式で映像を送っています。
あと、この場を借りて、誤字報告して下さった方にお礼を申し上げます。(見方が分からなくて、気付きませんでした。すみません)




