45 ハーフエルフっ娘と次なる神器1
「皆さん!列に並んで。押さないで下さい!」
ショッピングモールのオープン初日、大通りには多くの人だかりができ、入場規制を掛けざるを得ない状態だった。
中央をくり抜いて吹き抜けとした四階建ての建物に、左右にはエレベーターガール付きのエレベーター。そしてエスカレーターまで設置した。
今まで、パン屋や仕立て屋が自分で作った商品を販売するのが普通だった。
その為、このように販売専門の店を一か所に集めたショッピングモールは、王都にも存在していない。まさに画期的なものだった。
このショッピングモールを開店するにあたって、フォーリィはセンスのいい仕立て屋を探し回り、販売専門の店をモール内に出店するようにお願いした。
その際、この世界で奇抜にならない範囲で、女性がより美しく見えるように地球のファッションを若干取り入れた服を仕立てるように指示していた。
そして何よりフォーリィが重要視したのはブランドだった。
彼女は仕立て屋達と綿密に打ち合わせ、人々の印象に残るインパクトのあるブランド名とブランド・ロゴを決めて、そこで仕立てた服に必ずそのロゴを入れるように指示した。
勿論ロゴは、デザインの一部としても良いし、内側の目立たないところに付けてもいいとした。
そして、ショッピングモールで扱う服は一点物ではなく、同じデザインの服を色違い、サイズ違いで色々と揃えるように指示して、地球のショッピングモールに近い形にした。
もちろん衣服の店だけではない。
装飾品を扱う店や、フォーリィの商品の実演販売する店も入っている。
「これは……次の中締め日以降も人が減りそうもないわね」
予想をはるかに上回る客数に、フォーリィは少し引き気味になっていた。
「当たり前じゃない。リーズナブルな価格でオシャレな服を売っている店がこんなにあるんだから。私だって仕事がなかったら毎日でも来たいわ」
それとは逆に、ヴェージェは興奮気味だった。
「男爵様、さすがです!これで男爵様の新たな借金も減るでしょう」
別の意味で興奮気味の領地運営アドバイザー、ラントゥーナ。
そう、この建物は元々領主の持ち物で、中のテナントは領主が各店舗に貸し出している。
つまり、テナント料は締め日ごとに領主の元に入ってくるのだ。
それでもまだ赤字運営の領地だが。
ちなみに、エレベーターとエスカレーターは、フォーリィが設立したカンパニーとリース契約を結ぶ形となった。
◆ ◆
「誰!?」
フォーリィ達が領主邸に戻ると、見知らぬ男がいた。
金髪青目。どうやら純エルフのようだった。
背丈はスタニェイロと同じくらいの長身で、かなりイケメンだ。
「忘れたのかい?僕は君のお兄さんだよ」
その男は、爽やかな笑顔でそう答える。
「お兄……ちゃん?」
「そうだよ」
「お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」
フォーリィはダッシュして、その男の胸に飛び込むと、嬉しそうに息を吸い込み、その匂いを堪能した。
そして……
「誰!?」
顔を上げて質問を繰り返した。
「い、嫌だな。お兄ちゃんだよ」
困った顔をする男からフォーリィはゆっくりと距離を取る。
「……誰?」
フォーリィの顔から少しずつ表情がなくなる。
それを見て、その男の顔が徐々に引きつり始める。
「ジュアゼイル。可愛い妹を騙さないで」
フォーリィの後ろからヴェージェが呆れた口調で言った。
「か、完全な嘘でもないだろ?来年には僕たち式を上げるんだし」
「式?」
ヴェージェの方に顔を向けると、彼女は少し頬を染めて、はにかんだ笑みを浮かべている。
「私の婚約者よ」
「お姉ちゃん、婚約者がいたの?」
初耳だった。
上の姉や兄は結婚しているのに、ヴェージェは浮いた話が全くなかったし、フォーリィが記憶を失って以降は、この男に会ったこともなかった。
「そう言えば……ジュアゼイルが私に会いに来る時、フォーリィは家にいなかったわね」
フォーリィが戦争に出向いている間も、何度か家に来ていたらしい。
「フォーリィが魔法騎士団に入った直後くらいに彼に会ってね、そして貴女が火竜討伐に出かける三日前に婚約したの。貴方もその時一緒に祝ってくれたのよ」
「そうなんだ~。で?プロポーズの言葉は?教えて、教えて♪」
その後フォーリィの質問攻めに、ヴェージェは顔を真っ赤にして答える羽目になった。
◆ ◆
「娯楽がない……」
ある日、ガネトムートの工房に遊びに行ったフォーリィは、ポツリとそう呟いた。
「娯楽って……最近だと紙で作った娯楽小説などがショッピングモールの本屋に並んでいるそうじゃないか。俺の孫娘も楽しそうに読んでたぞ」
パペルの大量生産と印刷技術により、庶民が買える値段で販売が始まった小説は飛ぶように売れていて、生産が追い付かない状態だった。
「シオリって私のペンネームなの……」
フォーリィはつまらなそうに、そう言った。
「えっ?何だって?」
彼女が何を言っているのか分からず、ガネトムートは聞き返す。
「だから、店頭に並んでいる全ての小説の作者はシオリ!つまり私のことなのよ」
「あ~。そりゃあ娯楽にはならないな。お嬢ちゃんにとって」
気の毒そうな顔をするガネトムート。
この娯楽の少ない領地では、他に娯楽は思いつかなかった。
「あぁぁ、テレビがあったらなぁ……」
「てれび?何だそれは」
新しい言葉にガネトムートが食いついてきた。
「人の姿や景色などを遠くに届けるものだけど……そんな魔道具とかない?」
「そんな物……王都にすらないぞ」
いつも突拍子もないことを言う彼女に多少は免疫が付いてきた彼だが、さすがに今回は驚いた。
「灯りの魔道具じゃなくて、魔力を流している間だけ光る魔石があれはいいのに」
彼女は別に質問していた訳ではない。
灯りの魔道具が普通に出回っていて、それは一度魔力を流すと内部の発光物質を一定量燃やすものであることは理解していた。
だから、テレビのように各点が明滅を繰り返すような場合には使えなかった。
(液晶シャッターを作るにしても、そもそも液晶の作り方も知らないし……)
「あるぞ」
「えっ?えええぇぇぇぇ?」
思わぬガネトムートの言葉に、フォーリィは驚きの声を上げた。
「魔力を流している間だけ光る魔石はあるぞ。でも、そんなもの何に使うんだ?」
「えっ?ウソ?あるの?」
フォーリィは腰を屈めて、ガネトムートに顔を近づける。
「お、おう……ハズレの魔石だから裏庭に……」
「そ、それ。今すぐ集めて!お願い」
幼いころの孫娘のようにお願いされたガネトムートは、頬を緩めて魔石を集めに裏庭に行った。
「よし、魔力線の設置が済んだぞ。これを握って魔力を流してみな」
ガネトムートに魔石を集めてもらい、それを横五〇個、縦二五個に並べてもらったフォーリィは手渡された魔力線を掴み、その魔力線の束に魔力を流す。
「おおおぉぉぉ♪」
全ての魔石が明るく輝きだした。
「よっ!はっ!とう!」
そして、楽しそうに魔力を流したり止めたりする。
そんな彼女を、ガネトムートは嬉しそうに見ていた。
「あとは、カメラね」
「かめら?」
彼女が何をしようとしているのか分からない。だが、彼女は今まで見たことがない物を作ろうとしているのは確かだった。
「どうやって作るんだ?」
ガネトムートが子供のように目を輝かせる。
「……ひょっとして、電気の魔石みたいに、この石も光を当てたら魔力を出力する?……ねえ、この魔石を二つ、魔力線でつないでみてくれる?」
「お、おう」
頭にハテナマークを浮かべながらも、ガネトムートは手早く魔力線をつなぎ、それぞれの魔石を小さな容器に入れてフォーリィに渡した。
「どうだ?」
「……うーん、光らないわね」
フォーリィは受け取った魔石の片方を窓の方に向けて、もう片方を見てみたが、光っているようすはなかった。
「ダメか……」
ガッカリして肩を落とすフォーリィ。
「……あっ、ひょっとして変換効率が悪いのかも」
「変換効率?」
「この布を借りるわね。ガネトムートさんは反対側の魔石を窓に向けてて」
そう言うと、彼女は近くにあった布を頭からかぶった。
「…………」
「ど、どうだ?」
反応がない彼女に、ガネトムートは恐る恐る声を掛けた。
「……やった」
「えっ?」
「やったわ♪光ってるわ♪」
フォーリィが布から出てきて、ガネトムートの頭をその胸に押し付けると、チュッチュと頭にキスをした。
「これでテレビが作れるわ」
「そ、そうか、それは良かったな」
まだテレビがどんなものか分かっていない彼は、戸惑いながらも、期待に胸を膨らませていた。
「あとはこれを電気の魔石で電力に変換ね。となると、電力の増幅が必要ね。トランジスターの開発を急がせなきゃ」
フォーリィは満面の笑みでクルクルと回りだした。
そして、ピタリと止まると、ニコニコと笑いながらガネトムートにお願いする。
「ねえ、これと同じようなもので、魔石を横四〇〇〇個、縦二〇〇〇個並べた物を作ってくれない?」
「お嬢ちゃん、そんな巨大なものが必要なのか?」
ガネトムートの額に汗が流れる。
「ううん、横幅一メアトル半くらで♪」
「できるかあぁぁぁぁぁ!」
「ええぇぇぇ?なんでえぇぇぇ?」
フォーリィ、無茶振りだった。
いよいよテレビが登場します。
このテレビ、今後の話で色々な役割を持つ事になります。




