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32 ハーフエルフっ娘と戦争1

とうとう戦闘の火ぶたが切られます。

と言っても、そのままだと0話と同じになってしまいますので、今度は敵側の視点で書きました。

「到着~♪」

 フォーリィは馬車から飛び降りると、体を伸ばして解放感を味わう。

 途中、ホーズア王国最東端に位置するアールヴゥーレ領の領都に立ち寄り、フォーリィを含めた女性陣の一部は宿屋などに宿泊したが、その後は永い移動生活を強いられたため、久しぶりに心休まる思いだった。


 だが、のんびりしていられない。

 暫らくするとマレクリン将軍が直属の部下を引き連れて魔道筒状武器(ライフル)を受け取りに来た。

 この魔道筒状武器(ライフル)とスライム化合物は鍵の掛かった倉庫で厳重に管理されることになっている。


「将軍。現在の敵の位置と状況って分かりますか?」

 フォーリィが尋ねる。

 敵の状況に応じて、今日これから行う事が変わってくるからだ。


「予定通りだと、敵はここから四日の位置を行進中だ」

 それを聞いてフォーリィは安堵する。

 今日はゆっくりと体を休めて、明日と明後日はカタパルトの調整をすれば十分間に合うからだ。


「マレクリン将軍!」

 その時、一人の兵士がこちらに走ってきた。

「どうした?」

 将軍の質問に、兵士は緊迫した顔で告げた。

「敵がここから二日の距離まで来ています!」

「なにっ?」

 兵士の言葉に、この場にいる全員の顔色が変わる。

「近道でも使ったのか?斥候は何て言ってる?」

「それが、気付いたらかなり離されていたそうです」

「そうか、ご苦労。しかしこれは、準備を急がないといけないな」

 神妙な面持ちで独り言ちる将軍。


 そしてフォーリィは、やや早口で将軍に要請する。

「将軍!最優先でカタパルトの設置をお願いします。二日の距離ということは、敵の騎馬隊はいつ来てもおかしくありません。急がないと敵の攻撃までに準備が間に合いません!」



      ◆      ◆



―― ガチャァァン


 カタパルトから射出された水の入った壺が勢いよく城壁にぶつかる。

「やはり、この角度だと城壁を超えられませんね」


 既に早馬で図面を送り、作成してもらっていたカタパルトを調整しているのだが、城壁の高さに苦戦していた。

「これ以上角度を上げると、城壁の少し先までしか届かないし……どうしたものか」

 将軍がアゴに手を当てて考え込む。


「こうなったら、いっそのこと(やぐら)を組んで、その上に設置しましょう」

「「「櫓?」」」

 フォーリィの提案に、将軍達が驚きの声を上げる。

「はい、高さ三メアトルくらいの頑丈な櫓を組んで、その上にカタパルトを設置するんです。そうすると、もう少し低い角度で射出できます」

「分かった。おい、お前たち!急いで櫓を組ませろ。カタパルトの射出に耐えられるくらい頑丈なやつだ!」

 将軍は振り返ると、カタパルトの調整を手伝っている兵士達に命令を飛ばす。



      ◆      ◆



「おや、そこにいるのは『獄炎の魔女』さんではありませんか」

 翌日、フォーリィが櫓の上でカタパルトの調整を手伝っていると、後ろから声が掛けられる。

 振り向くと、青い目をした一八歳くらいの美青年が立っていた。

 透き通るような金髪、つまり純粋なエルフのようだった。

 その男を含め、三〇人のエルフ達がフォーリィを嘲笑うような目で見ていた。

 全員、白いローブに金糸でグリフォンの刺繍が施されていた。


「えーと、あなたは?」

 彼女はその男たちと面識がなかった。少なくとも記憶を失った以降は。

 だが、何となく予想はついた。


「失礼『元獄炎の魔女』でしたね。今は魔法も使えないハーフエルフの面汚しとなり下がり、それでも見苦しくこのような玩具を用意するとは」

 フォーリィの質問を無視して、その集団はフォーリィを馬鹿にしたように笑う。

 エルフだけあって、エリート意識の高い集団だった。


「どこかで、お会いしましたかしら?」

 そんな男たちの態度など興味ないとばかりに、再度フォーリィは質問する。

 そんな彼女の態度に、その男は露骨に不愉快な顔をする。


「おやおや、戦友の顔をお忘れですか?ああ、貴方は功を焦って何もない所で転んで記憶喪失になったんでしたね」

 その男はニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる。


「そうなんですよ。だから貴方が誰かも分かりません。良かったらお名前を教えてください」

 対するフォーリィは、笑顔で返す。

 その態度は、その男の怒らせるに十分だった。


「私は魔法騎士団グリフォン隊のパウトミーだ!覚えておけ!」

 そう怒鳴ると、踵を返して離れていく。

 他のメンバーも慌ててパウトミーを追いかける。


「どうした?揉め事か?」

 振り返ると、反対側からマレクリン将軍が歩いて来ていた。

 どうやら、カタパルトの調子を見に来たらしい。


「いやぁ、どうも前に一緒に戦ったそうなんですけど、私はほら、記憶喪失じゃないですか。それで彼の事を知らないって言ったら腹を立てて……」

「う~む。どうもそんな雰囲気ではなかったような……」

「将軍。気にしすぎですよ」

 将軍は心配した顔を向けていたが、コロコロとした笑顔で答える彼女に苦笑を浮かべて、それ以上は追及しない事にした。


「しかし、魔法騎士団も参加するんですね。移動の時は一緒じゃなかったから、てっきり今回は参加しないのかと思ってました」

 彼女の言葉に将軍は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得のいった顔をして答える。

「フォーリィちゃんは記憶喪失だったな。魔法騎士団は高い戦力と高機動力を有しているから、戦闘直前くらいに到着するように日程を調整しているんだ」

「ああ、身軽な魔法騎士団が歩兵と共に進行するのは時間の無駄ですね。確かに」

 実際、魔法騎士団は身体強化魔法を使い高速で走るため、王都からここまでは七日ほどしか掛かっていなかった。


(でも、彼らの出番はあるのかな?)

 フォーリィがぼんやりと、そんな事を考えていた時、将軍からとんでもない要請を受けた。


「フォーリィちゃん。城壁の上で落下地点などを確認して、カタパルト部隊に指示を出してくれないか?」

 それに対してフォーリィは即答する。

「嫌ですよ。そんな危険な事」

 あっけらかんと言う彼女に、半ば呆れる将軍。

「観測手なんて、一番狙われやすい危険な仕事じゃないですか」

「観測手?」

 将軍の不思議そうな顔を見て、フォーリィは気付く。

 この世界には大砲などもないので、そもそも観測手と言う概念がないのだと。


 それなら、そうそう敵に狙われる事もないし、敵を退ける確率を少しでも上げるため、自分が観測手を務めるのがいいと判断したフォーリィは、将軍に条件を出す。

「安全なところでなら、いいですよ」


      ◆      ◆



「今度こそ。今度こそあの砦を落とすぞ」

 フロレーティオ軍の将軍マルバーリオは拳を強く握りしめる。

 そこには、これまで幾度となく味わった敗北と、今回の戦への自信が入り混じった複雑な思いがあった。


「大丈夫です。今回は、やっと手懐ける事ができたサイクロプスが五頭もいます。それに、国王陛下よりお預かりした重騎兵二千も加わり、大幅に戦力が上がっています」

 将軍の側近が、期待に満ちた目でそう答えた。


「うむ、そうだな。これでやっと、長年の夢がかなうな……ところで、だが」

 マルバーリオ将軍は先ほどから気になっていた事を口にする。

「城壁の上で先ほどから女の子が何やら叫んでいるが……あれは何だ?」

 将軍が言っているのは、城壁の上で叫び続けているフォーリィの事だった。



「えーと、断言はできませんが、矢が自分のところに飛んでくるからパニックになってるのかと……でも何で素人があんな所にいるのでしょうか」

「う~む……」

 将軍は暫し考えてから口を開く。

「ひょっとして、新人の魔術師か?それもかなり強い。まあ、一応気を付けておこう」

 そう考えるのも無理はない。観測手などいないこの世界では、城壁の上にいるのは部隊を指揮する者を除いて、弓士か魔術師しかいないのだから。


 それでも、将軍は自軍の勝利が揺るぎないものと確信していた。

 一万の軍勢。大量の城門破壊兵器。そしてサイクロプス。これで砦を落とせなかったら、それは軍人として無能と言わざるを得ない。


 常識ではそうだった。

 そう。火力と兵士の数が勝敗を決めるはずだった。

 常識では……


 変化が訪れたのはサイクロプスが城門まであと三〇〇メアトルまで近付いた時だった。

 突然何かがサイクロプスに向かって飛んでくると、太ももの辺りに火が付いた。


「あれは?」

 彼は、何かの魔法だろうかと考えた。

 でも、あんな小さな火ではサイクロプスにほとんどダメージを与えられない。つまり、全く無意味な攻撃だった。

「何かの、かく乱か?」

 マルバーリオ将軍が注意深く敵の動向を探る。

 そう、彼はサイクロプスの方には注意を払っていなかった。


「ぎぃああああああああああああああああああああ」

 暫らくすると、突然サイクロプスからの悲痛の叫びが響いてきた。

 将軍がそちらに目を向けると、サイクロプスが火だるまになって転げまわっている。


「何が起きた?」

「すみません。砦の方に注意を向けていたので」

 敵の魔法だろうか。

 でも、将軍達は砦の方からは、それらしい動きは検知できなかった。


「将軍!重騎兵隊が!」

 側近の叫びに、その視線の先を追いかけると、国王直属の重騎兵のうち先行させていた二〇〇名が火に包まれていた。

「何が起こっている?」

 その地獄絵図のような光景に、マルバーリオ将軍の理解が追い付かなかった。


「敵の魔法か?だがなぜ火を消さない?」

 重騎兵といえどもエルフやハーフエルフも大勢いる。強力な攻撃魔法は無理でも水を出すくらいはできる。

「いえ……消さないのではなく……消せないのです。見て下さい!」

 側近に言われて良く見てみると。確かに重騎兵たちは火に水を掛けている。だが、鎮火するようすは見られなかった。


「いったい……何が起きてる……」

「あっ、魔術師達が向かっています」

 見ると、十数名の魔術師達が走って向かっていた。

 不気味な現象だったが、将軍は取り敢えず考えるのは後回しにする。

「魔術師達が火を消して、治癒魔法を掛けたら、進行を続けさせろ……なに?」

 今度は消火に向かった魔術師達がパタパタと相次いで倒れていく。


「いったい何が起きてる?何なんだあれは?」

「わ、分かりません!」

「まさか……あの少女か?あいつが新種の魔法で攻撃しているのか?」

 未知の攻撃に、もはや戦略も戦術もなかった。

 近付けばいきなり発火して消火もできない。

 さらに突然なんの兆候もなしに人が死ぬ。

 将軍の心は次第に恐怖にとらわれていった。


「将軍!二番、三番、四番の城門破壊兵器も火に包まれています」

 すでにあちこちで火の手が上がり、複数の重騎兵の部隊が、数頭のサイクロプスが、そして城門破壊兵器が火に包まれていた。

 さらに多くの魔術師達が倒れていた。


 兵士達も恐怖に囚われて逃走し始めていて、戦闘継続はもはや不可能だった。


「退却だ……退却の合図をだせ」


 こうして、開始わずか五〇分足らずで戦闘初日が終わった。

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