33 ハーフエルフっ娘と戦争2 ~ 魔石の正しい使い方
今回、土の魔石がとても変わった使い方をされます。
「ひどいじゃないですか!アレのどこが安全な場所なんですか?」
「たまに矢が飛んでくるくらいは、私たちには安全なんだがな」
フォーリィに詰め寄られて困った顔をするマレクリン将軍。
「兵士による護衛もこのまま続けさせるから、引き続き頼む」
将軍は今回の戦いにおいて、彼女の功績を非常に高く買っている。
城壁の上で彼女と一緒にいたが、飛んでくる矢に騒いではいたが、的確な指示を出していた。
そう、的確なのだ。
落下地点だけでなく、タイミングとか順番が。
あたかも戦場全体を操作しているかのように。
将軍は、次回もしも自分が代わりに指示を出したとしたら、今日のような実績を出せる自信がなかった。
「むぅぅぅ」
彼の要請に、頬っぺを膨らませるフォーリィ。
本来は将軍の要請に、このような不敬な態度をとるのは大問題だが、彼はフォーリィのこのような態度に慣れてしまっていて、可愛いとさえ思えてしまっている。
「まあ……飛んでくる矢については対策を考えます」
そして、フォーリィは渋々承諾する。
彼女も分かっていた。他の者に観測手は務まらないと。
「その代わり、工房にも協力して貰いますからね」
「ああ。フォーリィちゃんの活躍で工房は暇だからな。今ならいくらでも使ってくれて構わないぞ」
こうして、いつ来るか分からない次の敵の攻撃までに、急いで準備しなくてはならなくなったフォーリィだった。
◆ ◆
砦の工房は割りとしっかりしている。
武器や防具の修理だけでなく、砦の修繕や備品の修理など何でも行う、砦にはなくてはならない場所だからだ。
「こんにちは~。って、あれ?ガネトムートさん一人?」
ガネトムートはカタパルトの作成や設置に尽力してくれた砦の工房長だ。
ドワーフには珍しく、炎のような赤色の髪と、同じ色の立派な髭を貯えていた。
「ああ、他の奴らは土嚢の用意にまわっている」
「土嚢?」
フォーリィは首を傾げる。
兵士達ならいざ知らず、なぜ工房が土嚢を用意するのか分からなかった。
「ああ。土嚢に土の魔石を埋め込むんだ。そして土嚢の外に伸ばした魔力線から魔石に魔力を流し込むと、土嚢が岩みたいに硬くなるって寸法よ」
「ウソ?凄い!土の魔石にそんな使い方があるの?」
目を輝かせて心底楽しそうに笑って称賛する彼女に、ガネトムートは上機嫌になった。
「ところでお嬢ちゃんは何しに来たんだ?今は忙しくないから何でも手伝うぞ」
普段、仏頂面の彼が珍しく相好を崩している。
「あ、そうだ。ねえ、確か金属を硬くする魔石ってあったよね」
「ああ。確かにあるが、あんな物を使うよりも、必要ならいくらでも硬い金属を用意してやるぞ」
「ちょっと、ある物を作りたくて」
そう言って、フォーリィはイタズラっ子のような笑顔を向ける。
「じゃあ、矢を放つぞ。魔力供給はいいか?」
「うん。もう、魔力を流してるから、いつでも良いよ」
ガネトムートが射ろうとしているのは、壁に掛けられた一メアトル四方に切った毛布に細い針金で出来た網を縫いつけたものだ。
ちなみに、毛布は彼女がどこかから無断で持ってきたものだ。
放たれた矢が魔石で硬度を上げた網に当たると、軽い金属音と共に威力を失ってその場で落下した。
「凄いな。針金には傷一つ付いてないぞ」
ガネトムートは針金を念入りに調べ、魔石による金属強化の効果を確認していた。
「板の方は?」
フォーリィに促され、彼は毛布めくってその裏に取り付けられていた薄い板を確認する。
「全然大丈夫だ。矢は裏側にまで届いてないぞ」
それを聞いて、フォーリィは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「しかし、これを何に使うんだ?」
「これを服の裏側に縫い付けるの。そうすれば重い鎧なんて装着しなくても、身体中をくまなく守れるでしょう?」
それを聞いて、ガネトムートは目を丸くする。
「凄いことを考えたな。こりゃあ、たまげたよ」
そう言って、彼は網が付けられた毛布の切れ端を手に取ってしげしげと眺めた。
「あれ?でもこれを服の裏に隙間無く取り付けたら結構な重さになるんじゃないか?」
彼の指摘はもっともだった。
そんな事すれば、毛布に身を包んでいるようなもので、鎧ほどではないにしろ、そこそこの重さになる。
「そんな事しないわよ。毛布を五センチメアトル四方で切って、均等な間隔を空けて縫いつけるの」
本当は毛布じゃなくて綿にしたかったんだけどねと、苦笑いを浮かべながらフォーリィは毛布を切っていく。
「後は頭をどう守るか、よね」
ガネトムートが金属の網を作成しているのを、ぼんやりと眺めながらフォーリィは思考を巡らす。
「頭部は兜で守るとして、顔はどうしようかな?いっその事シールドの魔石を改造して、顔を守る?」
そこでふと、土嚢に使うためにガネトムートが用意していた土の魔石が目にとまった。
「ふふっ……ふふふふっ……」
不気味な笑い声にガネトムートが振り返ると、後ろにフォーリィが不気味に笑みで立っていた。
「ど、とうしたんだ?お嬢ちゃん」
作業の手を止めて身構えるガネトムート。
何故なら彼女の手には、どこから持ってきたのかワインの瓶が握られて、今まさにそれを振り下ろそうとしていた。
そして……
―― ガッチャァァン
彼女が手を振り下ろすと、その瓶は作業台に叩きつけられて激しい音と共に割れた。
「うわっ!何をする?」
「きゃっ?」
ガネトムートだけでなく、当のフォーリィも驚いていた。
「ああああぁぁぁ。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい」
彼女はペコペコと謝ると。急いでホウキとちり取りを持ってきてガラスの破片を掃除し始めた。
「…………お嬢ちゃん。いったい何がしたかったんだ?」
ガネトムートは呆れた顔で言った。
「瓶に土の魔石を取り付けたかった?」
ガネトムートが驚くのも無理はない。
土の魔石は土を硬化させるのに使われるものだ。瓶などに使われた事はない。
「そうなの。土の魔石と一緒に瓶を握って魔力を流せば魔石の効果が発動すると思ったんだけど、魔石のイメージで視界が奪われるし、魔石の効果も発動しなかったの」
「お嬢ちゃん……魔石の表面に魔力を流しても効果は発動しないぞ。だから魔力線を付けるんだろうが」
ゴメンなさいと言って、頭を下げるフォーリィ。
いつもは凛としている彼女の可愛らしい耳がしぼんだように下がっている。
「ほれ、言われた通り瓶に魔石を取り付けたぞ」
瓶に土の魔石が触れた状態で固定するようにカバーを被せてスライムゴムで固定すると、それをフォーリィに渡す。
「わぁ、ありがとう♪」
さっきまで落ち込んでいた彼女が、嬉しそうに瓶を受け取った。
「しかし、瓶に魔石を取り付けて、どうするんだ?」
「それはね。こう使うのよ」
そう言って彼女は手に魔力を集中させる。
すると、カバーから魔力線を通って土の魔石に魔力が注ぎ込まれる。
フォーリィは、今度は軽く瓶で作業台を叩く。
そして、二度、三度、四度と徐々に力を強めて作業台を叩き続ける。
「やっぱり、瓶が硬くなってるわ」
「何だって?」
彼女の言葉に、ガネトムートは驚きの声を上げる。
だが、彼女の言葉が真実である事は、彼女が作業台を叩く音が証明してくれている。
「どう言う事だ?なぜ土の魔石でガラスが硬くなるんだ?」
首を傾げるガネトムートに、彼女はニッコリと笑って答える。
「ガネトムートさん。ガラスは何で出来ているかご存じですか?」
「!!」
言われて彼は気付く。ガラスの原材料は珪石などの砂である事を。
「さらに、こんな釘だって打てちゃうわ」
彼女は作業台の上にあった釘を手に取り、板の上で固定すると、瓶でおもいきり叩いた。
釘ではなく自分の指を。
「〇□▽×!!」
そして彼女は声にならない声を上げながら地面を転げまわった。
「本当に何をしたいんだ?嬢ちゃん」
◆ ◆
翌朝、敵襲を知らせる鐘が鳴り響く中、フォーリィは薄いピンクのワンピースという、とても可愛らしい恰好で城壁の上までやってきた。
そして頭には兜が被られていて、顔の部分はガラスで覆われていた。
そう。ワンピースの下には金属の網と、小さく切られた毛布が縫い付けられていて、頭を守っている兜の顔の部分は土の魔石により強化されたガラスが使われていた。




