28 ハーフエルフっ娘、戦いに備える3
いよいよ、0話に出てきたライフルを、王の前でお披露目します。
「武器だと?それも遠距離攻撃用の?」
ホーズア王が驚くのも無理はない。
この世界では長・中距離攻撃は弓か魔法位しかなかった。
だが、フォーリィが持っている武器は、弓とは程遠かった。
「はっ。弓とは異なる全く新しい武器であります」
それは、前世で彼女が慣れ親しんでいた割とメジャーな狙撃銃を模した物だった。
前世で彼女は、嫌というほどライフルの分解とメンテナンスをさせられていた。そのため、各パーツの細部な形状と、その役割を熟知していた。
彼女は、ロックムートと相談しながら、そのライフルをこちらの技術で再現可能なレベルに改変し、作らせたのだ。
ただ、火薬は作成できなかったので魔石で代用する事にした。
ちなみにスコープは、ロックムートの知り合いのガラス職人に無理言って作らせている。
フォーリィはゆっくりと魔道筒状武器を持ち上げて木箱の上で構えた。
狙うは三〇〇メアトル先の、先ほどカタパルトで狙っていた練習用のカカシだ。
この銃の有効射程距離はおよそ八〇〇メアトル程だが、弾丸を発射したあと、王様を引き連れて八〇〇メアトルも移動するのは時間の無駄と判断し、カタパルトと同じ的を使うことにした。
カカシには軍が支給しているライトメイルが装着されている。
フォーリィが狙うのは胸のど真ん中だ。
彼女はボルト――銃の横に付いているレバーのようなもの――を引いて弾丸を装填すると、足場を確認してから的をスコープ内に入れる。
次に、手のひらに魔力を集める。すると、手から魔道筒状武器内部の二つの魔石に魔力が供給される。
一つは装填された弾丸の後ろに設けられた高圧室に結界を張る魔石で、もう一つは結界内に空気を押し込む風の魔石だ。
結界内に超高圧の空気を溜め込んで、一気に解放する事により弾丸を発射するのだ。
エアガンと異なる点は、圧縮ボンベから空気を送り出すのではなく、小さな結界内に空気を溜め込んでから結界を解除しているため、ボンベの破裂のような爆発的な力を生み出せるのだ。
二秒ほどすれば十分な圧力を得られるが、どうせ弾丸発射まではそれ以上の時間が掛かるため、彼女はすぐに安全装置を外して引き金に指を掛けると、呼吸を整えて、指をゆっくりと引いていく。
―― パァン
弾丸の発射音と共にカカシがガチャンと音を立てて揺れる。
ついでにホーズア王の肩もビクンと震える。
形が違えど弓のようなものと思っていた所に、大きな発射音がしたため驚いたのだ。
「ほ……ほう、結構遠くまで風が届くのだな。だが、この程度の威力では兵士を吹き飛ばす事はできぬぞ」
「いえ、今のは風ではありません」
ホーズア王の感想に、マレクリン将軍は神妙な面持ちで訂正する。
「風ではない?だが……」
「とにかく、カカシをご確認ください」
首を傾げる王を促し、カカシに向かって移動を始める将軍達。
フォーリィは既に魔道筒状武器を木箱に立て掛け、十分離れた場所で休めの姿勢で待っている。
将軍はそれを見て、彼女は自分が持ち込んだ武器がこちらにどれだけの警戒心を生むのかを十分理解している事が分かった。
その上で、自分がどのタイミングでどのような立ち振る舞いをすれば、こちらが余計な緊張をせずに済むかを計算して動いている事に、彼はとても感心していた。
ただ、それはあくまでも将軍の知識の範疇でだった。
この世界ではまだ拳銃が存在しない。
もしもフォーリィが拳銃を作成して隠し持っていたら、王を暗殺する事は可能だろう。次の瞬間、自分も将軍達に首を跳ね飛ばされる覚悟をして挑めば。
国王御一行はゾロゾロとカカシに向かって歩いていく。
その後ろを少し距離をとってフォーリィが続く。
「ホーズア王。これをご覧下さい」
カカシの前まで来たマレクリン将軍は、カカシが装着しているライトメイルの胸の真ん中に開いた小さな穴を指さした。
「その穴がどうしたのだ?」
意図が分からず、その穴をしげしげと見つめる王に、将軍は少し緊張した声で告げた。
「この穴はたった今、彼女の攻撃で穿たれたものです」
「なっ?まさか!」
ホーズア王が驚きの声を上げて将軍に顔を向ける。
その顔は少し緊張気味で、とても冗談を言っているように見えなかった。
「どんな魔法を使ったと言うのだ?答えろ、マレクリン将軍!」
「そ、それは……」
「小さな金属の弾を高速で飛ばしました。先ほどの魔道具を使って」
将軍の代わりにフォーリィが答えた。
「金属の弾だと?」
「はっ。これと同じものであります」
彼女が指で摘んで見せたのは、魔道筒状武器用の弾丸だった。
大きさ、重さ、形状共に彼女が地球で使っていたものを再現させ、作らせた物だ。
「何を言っているのだ?そんな小さな物で鎧に穴など開けられるはず無かろう」
「確かに、人が投げた程度では無理であります。ですから――」
フォーリィは不敵な笑みを浮かべる。
「先ほどの魔道具を使って、それを可能にする速度で射出します」
◆ ◆
「例の武器は、二〇個提供してくれるそうです」
マレクリン将軍とホーズア王は、カタパルトの作成などの打ち合わせをしながら通路を歩いていた。
「二〇個?もっと提供するように要請できぬか?」
「それが……これをご覧下さい」
将軍が懐から魔石を取り出した。
「なっ?何だ、これは?」
ホーズア王がその魔石を見て驚きの声を上げる。
「私も彼女からこれを渡された時は大変驚きました。こんなものが、あの武器に組み込まれているそうです」
その魔石は、オリハルコン合金の魔導線が八本取り付けられていて、魔石の特定の場所を他の場所に繋げていた。
「彼女が言うには、これは魔改造と言う技術で、それにより風の魔石の威力を五〇倍ほど高めているそうです」
「五〇倍?それほど強力なのか……」
彼等にとって、全てが規格外だった。
魔石を改造すると言うのも前代未聞だし、魔石の威力を何十倍も高める技術も聞いた事がなかった。
「この改造だけでも結構時間が掛かるそうで、量産は無理だそうです」
「うむ……」
ホーズア王は顎に手を当てて暫し考えてから口を開く。
「その……魔改造だったかの?それを他の者に任せれば、準備できる数を増やせられるのではないか?」
王の問いに、マレクリン将軍は困った顔で廊下の奥の方を見ながら答えた。
「そう思って、すでに信頼のおける魔法研究家やドワーフ達にその技術を伝授するように要請したのですが……」
廊下にフォーリィの怒鳴り声が響いていた。
『だぁぁかぁぁらぁぁ!空気は目に見えないけど、私達の周りに充満してるの!』
『じゃから、それはエーテル論のようなものじゃろ?』
『ちっがぁぁぁぁぁぁう!そんなオカルトめいたものと一緒にしないで!私たちが息をする時に吸い込んでるでしょ?』
『息をする時に何か吸い込んだら、むせてしまいますわよ』
『気体だから、むせないの!』
「彼女はかなり特殊な哲学に基づいて理論を形成しているようで……」
「……」
魔道筒状武器は彼女以外の者に作らせる事はできない。二人はそう確信した。
『だから風はエレメントじゃなくて空気の流れなのぉぉぉ!』
結局、目に見えない物の存在を、この世界の人達に理解される事はできなかった。
フォーリィが前世で愛用していたのは、割とメジャーな狙撃銃「M24 SWS」のカスタム版です。
最初、もっと具体的かつ詳細な操作を描写していましたが、この小説の作風と合わなかったので、ごっそりとカットしました。




