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27 ハーフエルフっ娘、戦いに備える2

「何だね?将軍。極秘で見せたいものとは」

 マレクリン将軍からの強い要請に、ホーズア王はスケジュールを調整して中庭に足を運んだ。


 現在、中庭は厳重な警戒態勢がしかれ、誰も近づかないように、目視だけではなく魔法による監視が行われていた。


「この者が敵の侵攻を食い止める協力をしたいと、申し出てきました」

 将軍の紹介に、フォーリィは姿勢を正して敬礼をする。

「はっ。自分は王国魔法騎士団フェニックス隊に所属していました、フォーリィ・リューヒトルであります」

 フォーリィとしては魔法騎士団をクビになった事を連呼するのは決して愉快ではない。その上、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()

 だが、彼女が持ち込んだ物を国の上層部に評価して貰うためには仕方がなかったのだ。


 フォーリィの自己紹介にホーズア王の眉が微かに動く。

「フォーリィ?もしや、この娘が……」

「はい。『獄炎の魔女』、フォーリィ・リューヒトルです」

 呟きとも取れる王の言葉に、マレクリン将軍が答えた。

(何それぇぇぇぇぇぇぇ?)

 フォーリィは危うく口から出そうになった絶叫を何とか心の内に押し止めた。


(私って、二つ名持ちだったの?聞いてないよ!しかも『獄炎の魔女』って……何?その恥ずかしい名前は!しかも王様にまでその名前が知れ渡っているなんて。いったい何をしたの?記憶を無くす前の私)


 彼女が自分の二つ名を知らなかったのは無理もない。家族ですら知らなかったのだから。

 軍隊内の二つ名や活躍は、敵の間者のターゲットにならないように、基本的に外で話すことは禁止されている。

 但し、将軍のように高い自己防衛力を持っている者や護衛が付いている者は、逆に他国への牽制もかねて触れまわる事もある。


 フォーリィは記憶を失う前、()()()()()()()()して、より燃焼効率が高くて高温の青い炎を操った魔法を得意としていたため、『獄炎の魔女』の二つ名で呼ばれるようになった。


「このたび彼女は、敵を倒すための新兵器を作成しました。是非、王にも見て頂きたいと思います」

「極秘の武器?」

 ホーズア王は首を傾げた。

 元魔法騎士団と言うのは特に珍しい事ではない。

 何らかの理由で退団したが、敵の侵攻の噂を聞きつけて戻ってくるケースもある。

 だが、元魔法騎士団員が極秘の武器を作ってくると言うのは聞いた事なかった。


 そもそも彼女はハーフエルフだ。

 あらゆる鉱物に愛されているドワーフなら、折れにくい剣など作れるかも知れないが、ハーフエルフが武器を作れるとは思えなかったからだ。


「自分が提供する武器は三種類であり、その一つがここにある投石機……カタパルトであります」

 フォーリィが、後ろにある投石機が見えるように、一歩横に移動する。

 その投石機は、将軍に図面を提供して彼女の監修の元、急遽組み立てられたものだ。


「では、お願いします」

 彼女の合図とともに、将軍の腹心の部下達が投石機を操作すると、既に装填されていた大きな石が勢いよく発射された。

 その石は、大きく弧を描くと三〇〇メアトルほど離れた所に置かれた剣技練習用のカカシの近くに落下した。

 今回はデモンストレーションのためなので、それほど大きなカタパルトは作らなかった。だが、実戦投入するのはもっと大型の物にするように将軍にお願いしてある。


「おお……これは凄いな」

 ホーズア王が驚きの声を上げた。

 そして、逆に敵がこのような兵器をたくさん投入して来たらどうなるだろうかと考えた。

 敵に向かって突撃している最中、ひっきりなしに岩が降ってくるのだ。

 そのような状況で、はたして兵士達は士気を保ったまま進み続けることが出来るだろうか?自分はどうだろうか?

 ホーズア王は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。


「しかし、これでは直撃しなければ相手にダメージを与えられません」

 フォーリィの言葉に、ホーズア王は心の中で「これでもまだ不十分だと言うのか」と叫んでいた。


「そこで活躍するのは、こちらであります」

 彼女が指した先には、何やら赤い液体が入った大きな深皿だった。

「これは良く燃える油であります。では、お願いします」

 彼女の合図で、先ほど投石機を操作していた腹心達の一人が魔法で小さな火種を生み出して油に着火させる。

 程なくして油は勢いよく燃えだした。


「では、そこに水を掛けて火を消してみて下さい」

 将軍がすかさず部下に指示を出し、魔法で水をかけ始めた。

 それを見ていたホーズア王の顔が、徐々に驚愕に歪み始める。

「……火が……消えないだと?」


「はっ。この油の火は水を掛けても消えません。つまり、この油を壷に詰めて火種と共に先ほどのカタパルトで射出すれば、動きの遅い城門破壊兵器や重装備の部隊の足留めが十分可能であると考えます」

 彼女はそう言うが、それは足留めなどと言うレベルではないのは明白だった。


「さすがは……『獄炎の魔女』だな」

 王の呟きに、フォーリィの眉が嫌そうに微かに動く。

 彼女も分かっている。そんな物を大量に射出すれば、戦場は地獄絵図になる事は。

 だから、この油の提供量は絞ろうと考えていた。抽出に時間が掛かるなど、適当な言い訳を付けて。


「但し、この油にも弱点は有りま……」

 そこでフォーリィの動きが止まった。

「どうした?」

 不思議に思った将軍が彼女に問いかけた。

 すると ――


「どうして、そこの木の上の人はこちらばかり見ているんですか?外側は一切警戒せずに」

 言い終えてから、フォーリィはゆっくりと東側の一番左の木に視線を向けた。


「「「!」」」

 皆が一斉にそちらに目を向けると同時に、木の枝がガサリと音を立てて不自然に揺れた。


「取り押さえろ!」

 将軍の指示で数名の兵士が駆け出したが、追い掛けるのはほぼ不可能だった。

 そもそも、この場で間諜(かんちょう)に気付いたのはフォーリィだけであり、他の皆は視線を向けた途端に不自然に木の枝が揺れたから、そこに誰かいたのだろうと推測しているに過ぎない。


 だが、フォーリィにとっては敵のスパイなどは当たり前。

 逆に、明らかにスパイ活動をしている者と、それを追い掛けるように命じられた者――この場にいる事が必須でない者――が遠ざかってくれた事を内心喜んでいた。


「……よく分かったな」

「何がでしょうか?」

 マレクリン将軍の言葉に、フォーリィはキョトンとした顔で首を傾げた。


「先程の間諜だ」

 ここで将軍は、自分は分からなかったなどと軽はずみな事を言う男ではなかった。

 フォーリィの素性を疑っている訳では無いが、自分の探知能力や索敵範囲などを漏らすのは愚の骨頂だからだ。


「ここから、あの木までは五〇〇メアトルほどあるぞ」

 それを聞いて彼女は「ああ、その事か」と言う顔をする。


「女の子は、殿方の視線に敏感なんですよ。誰が自分を見ているか……とか、その……身体のどの部分を見ているか……とか」

 はにかんだように俯き、少し頬を染めて上目遣いで将軍を見るフォーリィ。

 その愛くるしさに将軍の鼓動は少し早まったが、どうにか気力で平静を保つ事ができた。


 一方フォーリィは、将軍に余計な詮索をされずに済みそうで、内心安堵していた。


「では、説明を続けさせて頂きます」

「あ……ああ」

 まだ間諜騒ぎが収まっていない中、何事もなかったかのように説明を続けようとする彼女にマレクリン将軍は驚いたが、王への説明を予定通り行う事にする。


「では、火を消して下さい」

「分かった」

 彼女の要請に、将軍の部下が魔法を使って油を凍りつかせる。


「このように、水ではなく冷却魔法だと火は簡単に消えてしまいます。魔術師達ならその考えにたどり着くのに、それほど時間は掛からないかも知れません。ですから、早い段階で魔術師を倒す必要があります」

 魔術師とは魔法が使える者の事ではない。

 そもそも、この国の半数以上を占めているエルフとハーフエルフは誰でも魔法を使える。

 だが魔法の効果範囲や出力、魔力量などは個人差がある。

 中には小さな火種位しか生み出せないほど効果範囲や出力が弱い人もいる。

 以前フォーリィが台所で出火騒ぎを起こした時にヴェージェが使った魔法は、平均的な範囲と出力だ。

 あの程度なら一般的に一日五回くらいは使える。


 そして、人より飛びぬけた火力や魔力量を持った者達は魔術師と呼ばれている。

 カタパルトから射出された油により広範囲に広まった炎を、試行錯誤しながら消すなんて、魔術師レベルの魔法行使力や余裕のある魔力量を持っていない限りは無理だった。


 勿論、その場にいる兵士達が揃って凍結魔法を使えば鎮火はできる。だがそれは、最初から凍結魔法を使おうと考えた場合だ。

 燃えだした時点で普通は水を掛ける。そこで火が消えなければ何度も魔法で水を掛ける。そうなると、凍結魔法を試してみようなどと考えるだけの魔力が残っている一般兵はいないだろう。


「そこで登場するのが三つ目の武器であります」

 そう言って彼女は将軍に目で許可を求め、将軍は軽く頷いた。

 三つ目の武器はフォーリィが直接操作するため、将軍の許可が必要なのだ。

 いくら武器の説明とはいえ、許可もなく王の前で武器に手を掛けると間違えなくその場で取り押さえられるし、下手をすると極刑もあり得るからだ。


 フォーリィは置いてあった木箱の前まで移動すると、ゆっくりとその武器を手にとった。

 この時、マレクリン将軍が王の隣りに移動していくのを彼女は視界の隅で捉えていた。

 その動きは、不自然に映らないように計算尽くされたもので、フォーリィはとても感心していた。

 そして、もし自分が突然この武器をホーズア王に向けたら、どのように迅速かつ的確に対応するのだろうか見てみたいと思った。


 勿論、そんな事はしない。

 そんな素振りでも見せれば、次の瞬間には確実に彼女の首が飛んでいるからだ。


「これは魔道筒状武器(ライフル)と言う遠距離攻撃用の武器であります」

 フォーリィがニヤリと不敵の笑みを浮かべた。

次回はいよいよスナイパーライフルのお披露目です。

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