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25 ハーフエルフっ娘、再びすべて失う?

「うわぁ。こう見ると壮大ね」

 ヴェージェは、妹が建築を依頼している水車小屋群を見て驚きの声を上げる。

 フォーリィが申請したのは二〇〇戸。でも結局許可が下りたのは八〇戸だった。

 その事にフォーリィは暫らく不貞腐れていたが。計画を変えて取り敢えずは商業向けの設備を販売する事にした。

 でも、規模が縮小されたとはいえ、現在建築が終わっている水車小屋五〇戸が並んでいる様子は圧巻だった。


 ヴェージェは妹の姿を見かけると、作業場に人が入らないように張ってあるロープをくぐって妹の元に足を進めた。

 すると、フォーリィが姉に気付き――


「お姉ちゃん!伏せて!」

「えっ?」

 突然、大きな岩がこちらに飛んでくるのが見えた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 咄嗟に頭を抱えてその場にうずくまると、岩が頭上を通り過ぎて大きな音と共に後ろに落下した。

 ヴェージェは、岩が頭をかすめたと錯覚したが、実際はそれほどギリギリを通過してはいない。

 フォーリィも、落下した岩が小石などを弾いて姉にケガをさせるのを恐れて伏せるように言っただけだ。


「な……な……?」

 何が起こったか分からず頭が真っ白になるヴェージェ。

 後ろを振り向くと、直径一メアトルほどの岩があった。それが直撃してたらと思うと、彼女は恐怖でガタガタと震えた。


「お姉ちゃん!大丈夫……?」

 急いで駆け付けたフォーリィが、姉を見て顔色を変えた。

「皆さん!お姉ちゃんにケガがないか、一四番水車小屋で服を脱がせて確認するから、誰も近付かないでね!」

 後ろに向かってそう叫ぶと、姉をお姫様抱っこする。

「えっ?ちょっ?」

 彼女にお姫様抱っこされている恥ずかしさで顔を真っ赤にしてヴェージェはうろたえた。

 しかしフォーリィはそんなことお構いなしに姉を抱きかかえて水車小屋に走って行く。

 そんな彼女に、ヴェージェはさらに驚いた。魔法が使えない彼女は肉体強化ではなく純粋に体力だけで姉を抱えているからだ。



「うっ、ぐすっ、ひくっ……」

 泣きじゃくるヴェージェを背中に、フォーリィは反対側を向いていた。

「え……えーと。お姉ちゃん、気付いてなかったのね」

「ううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 ヴェージェは顔を真っ赤にして、()()()()()()()()下着とスカートにクリーニングの魔法を掛けていた。


「な……何なのよぉ、アレは。死ぬかと思ったわよ」

「アレは投石機を使って岩を飛ばしたのよ」

「投石機?」

 初めて聞く単語だが、すでにヴェージェはその程度では驚かなくなっていた。

「その名の通り、岩を遠くまで飛ばせる道具よ。撤去した岩を運び出すのが大変そうだったから、急いで設計したの」

 勿論、その投石機も特許登録は済ませてある。

 ただ、フォーリィが頼んでいる水車小屋の建築作業では、特許使用料は免除してある。


「投石機を使うと職人さん達が岩を一つ一つ運んで撤去しなくても済むから、作業効率が上がるの」

 フォーリィにとって水車小屋の建築が最優先だったし、そもそも投石機で儲ける気はなかった。

「でも……あんな危険なもの……」

 ヴェージェは先ほどの事を思い出し、また涙声になった。

「あぁ~、一応人が入らないように、落下地点はロープで囲っていたんだけど」

「そんなの分かるわけないでしょ!」

「ご、ごめんなさい」

 実は、『岩石落下ポイント。危険だから入らないで下さい』との立札もあったのだが、そのことには触れずに素直に謝った。


「そ、そうだ。例の施設が昨夜から稼働しているんだけど、見に行く?」

 ヴェージェのクリーニングが終わり、下着とスカートを履き終わるのを見計らって、フォーリィが姉の機嫌をなおすために提案する。

「できたの?行く、行く♪」

 機嫌を良くした姉を見て、フォーリィはそっと胸を撫で下ろした。



      ◆      ◆


「うわぁ、凄い。こんなにたくさんの氷が……」

 ここはフォーリィが作らせた製氷場だ。

 もっとも、空き倉庫を買い上げて改装したので、時間とコストをだいぶ抑える事ができた。


 一応、壁一面に石綿を敷き詰めて、その上に更に板を張って保温性を高めている。

 そして、水車小屋一号機から三号機までの電力を魔力に変換して、エンチャントの魔石でこちらに送り、冷却の魔石を使って一晩掛けて氷を創り出している。


 ちなみに、電力を魔力に変換する方法はフォーリィの思いつきによるものだった。

 モーターの軸を回せば発電されるのなら、電気の魔道具に電気を流せば魔力が生成されるのではないか。そう思った彼女は試しに電気を流してみたところ、見事に魔力が作り出されたのだ。


「まあ、冬になると需要が減る施設なんだけどね」

 季節的に製氷場は遅すぎたな、と苦笑いするフォーリィだが、ヴェージェは目を輝かせて首を横に振る。

「そんな事ないわよ。冬でも冷蔵庫は使うから」

 実は、フォーリィは製氷場の稼働前に、既に氷を入れて冷やすタイプの冷蔵庫を販売していた。

 勿論、魔法でも一度にたくさんの氷を生み出せるわけではないので、買ったあとが大変だとの苦情が出たし、そもそも魔力があっても魔法が使えない人は買うこともできなかった。

 そのため、この製氷場は多くの王都市民に熱望されていた施設なのだ。


 あと、商業向けに製氷機能付きの大型冷蔵庫も販売している。

 これは、フォーリィが立ち上げた『魔力会社』と契約して毎月使用料を払う事により、水車小屋で電力から変換した魔力をエンチャントして供給される仕組みになっている。



「あっ、アイスクリーム♪」

 製氷場から少し離れたところに列ができているのに気付いたヴェージェが、嬉しそうにフォーリィの服を引っ張る。

「もうアイスクリーム屋を作ったんだね。氷の販売は今朝からなのに」

「アレはフォーリィが考案したお菓子だよね?もう一度食べたいな。ね?買いに行こう?」

 この世界では元々氷を作るのが大変だったため、氷菓子が存在しなかった。だから製氷場の開設と合わせて、アイスクリームのレシピを特許登録して販売したのだ。

 と言っても、一か月千クセル払えば誰でもレシピを使ったアイスクリームを販売できるので、これからもこういった屋台は増えていくだろう。




      ◆      ◆


 こうして、フォーリィの数々の製品や事業が軌道に乗り、順風満帆の生活が始まった。

 相変わらず、フォーリィは色々と開発し、色々と失敗し、そして一部成功したものを商品化したりと忙しい毎日を送っていた。


 そして秋に入り、そろそろ農作物の収穫が近づいたころ、事態は急変した。


「軒並みキャンセル?洗濯機も掃除機も?」

 フォーリィが驚きの声を上げた。

「それだけじゃありません。ほとんどの製品でキャンセルや販売の落ち込みが見られます」


 フォーリィが急いで他の委託店を回ったが、どこも同じ状態だった。


「ブルドゥさん!」

「あ、フォーリィさん。こんにちは、今日はどのような用事でしょうか」

「ブルドゥさんのところは販売が落ち込んでいたりしていない?」

 商業向けの大型設備は元々販売に大きな波があり参考にはならなかったので、彼に委託している馬車向けのオイル・ダンパーやタイヤなどの状況を確認しに来たのだ。

「うちは大丈夫です。かえって受注が増えているくらいですよ」

「受注が増えてる?」

 フォーリィは首を傾げる。

 明らかに販売数の変動が異常だった。


「おや、フォーリィさん。噂は聞いていませんか?」

「噂?」

 彼女はずっと事業のため走り回っていたので、噂話を耳にする機会はなかった。

「近々ラトゥーミア王国がこちらに攻めてくるそうですよ」

 ラトゥーミアはこの国の東に国境を接する隣国だ。

「ラトゥーミア?」

 フォーリィは驚いたが、そもそも両国は戦争状態だった事を思い出す。


「でも、ここ数年は停戦状態だったのに、何で急に?十分な備蓄が蓄えられて戦争する余裕が出来た?」

 これは質問ではなく完全に彼女の独り言だった。さらに、彼女自身自分が声に出していた自覚はなかった。

 でも、ブルドゥは自分への問いかけと思い、その質問に答えた。

「いえ、逆です。向こうは大変な飢饉だそうです。そのため、東の穀倉地帯を奪い取りたいみたいです」

「飢饉?今年は雨が少なかったけど、向こうはもっとひどかったの?」

 彼女の言葉にブルドゥは驚いた。

「何を言っているんですか?フォーリィさん表彰されたじゃないですか。この国を飢饉から救ったって」

「あ……水車?」

 王都には普段通り食材にあふれていたので、彼女はその事をすっかり忘れてた。


「そうなると、暫らくは洗濯機などの生産を減らさないといけないわね」

「なに呑気なことを言ってるんですか?」

「?」

 ブルドゥに呆れた顔で言われるが、何を心配しているのか分からなかった。


「東の穀倉地帯が敵に奪われたら、ここ王都まで目と鼻の先ですから、王都が急遽西の街に遷都することになるんですよ。そうしたら製品が売れないどころか、ここが戦場になってフォーリィさんの設備なども被害を受けるんですよ」

「えっ?」

(戦闘で水車小屋や製氷場などが焼け落ちる?いや、最悪ここ王都が敵の手に落ちたら施設を全て奪われる……)

 フォーリィは血の気が引いていくのを感じた。



      ◆      ◆


「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ。殺さないで!」

 夜中、フォーリィは叫び声と共に飛び起きた。

 寝巻は汗でびしょぬれだった。


「フォーリィ?」

 姉が慌てて部屋に入って来て、彼女を抱きしめた。


「また怖い夢をみたのね。ここのところフォーリィの製品は売れていないみたいね。でも大丈夫よ。もう少ししたら、また売れるようになるから」

 ヴェージェは彼女を落ち着かせるため、彼女が安心するために話しかけた。

 しかし、フォーリィが心配しているのは、そこではなかった。


 勿論、製品が売れないのは心配だが、それよりも今の生活を奪われるのが怖かった。

 東の穀倉地帯が奪われたら自分たちも西に逃げなければならないかも知れない。でもそこには既に人が住んでいる。家族仲良く暮らしていける保証は全くない。


(なんで…………こうなった…………)

ここから、0話に繋がる話になります。

ご期待下さい。

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