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24 ハーフエルフっ娘と電気4

「あのぉ。国有地の使用許可と施設の建築許可を頂きたいのですけど。あ、これが申請書と施設の図面です」

 王都の役所に訪れた青み掛かった銀髪のハーフ・エルフの少女が羊皮紙を数枚提出する。

「分かりました。では書類を拝見します」

 受付のエルフの女性は書類に目を通していき……

「えっ?」

 途中まで読んだところで驚きの声を上げて固まった。


      ◆      ◆


「局長。スタニェイロ視察官の報告によると東側の殆どの農村で、収穫量は平年どおりだそうです」

 エルフの女性に局長と呼ばれたのは、ヒューマン感覚で三〇歳位の金髪翠目の男性エルフだった。


「最初、彼が興奮気味に話を持って来た時は愛娘への身びいきかと思ったが、あの水車とやらは、なかなか良い結果を出してるようだな」

「はい、局長。これは他の地域でも本格的に導入を進める必要がありますね」

「そうだな。是非、来年度の予算に組み込もう。あと、スタニェイロ視察官の娘は表彰しなければならないな。何かいいタイトルはあるか?」

「それでしたら――」

 そこで二人の会話が途切れた。

 役所の一角で激しく言い争っている声が聞こえたからだ。



「なんでぇ?ケチー」

「ケチじゃありません。ヌァイル川をせき止めるなんて、許可できる訳ないでしょ!」

「だぁかぁらぁぁ!せき止めるのは冬の間だけって言ってるでしょ!」

「冬でも水車小屋は粉引きや木材加工をしています!」

「一日中せき止めないわよ!事前に調整して、夜間、作業がない事を確認してから止めるわよ」

「そんな事いっても、いつでも川をせき止められる施設なんて作られたら、いつ不適切な使い方をされるか分からないでしょ?」

「だったら国の監視員を常駐させればいいじゃない!」

「国の負担が増えるでしょ!どこからお給料が出てると思ってるんですか?」

「監視員の給料は私が払うわよ!」

「それじゃあ貴方が事実上の雇い主になるでしょ!給料を払ってくれる人を雇われた者が管理できるわけないでしょ!」



 このままでは役所の業務に支障が出かねない。局長は急ぎ足で騒ぎの元へと向かった。


「これこれ、何を騒がしくしているんだい」

「局長?」

「!」

 急に声を掛けられて、受付の女性と少女がビックリして振り向く。


「あ、あの。こちらの方がヌァイル川をせき止めるための施設を作りたいと……」

「ヌァイル川を?」

 ヌァイル川は王都の北側に流れている大きな川で、水車小屋の動力源や生活用水だけでなく、船を使った荷物の輸送や、東部の農村地区の大事な水源となっている。

 そんな大事な川をせき止めたいなどと言い出した者は今までいなかった。

 そう、彼女はヌァイル川が山に囲まれた所を通っている事に注目し、ダムを建設しようと計画したのだ。


 局長はカウンターの上の羊皮紙を手に取る。

「フォーリィ・リューヒトル?スタニェイロ視察官の娘さんかい?」

「にゃっ?」

 フォーリィは変な声を上げて驚くと、局長から視線を逸らす。

「ひ、人違いです」

「申請書に書いてあるけど?」

「よ、よく間違えられますけど、それはフウォーリーって読むんです」

 あまりにも露骨なごまかし方に、局長は口元に手を当ててククッと笑う。

「『デンキと言うエネルギーを生み出して、数千台の洗濯機などを魔力を使わずに動かせるようにする』。こんな発想をする人物がこの国に二人も三人もいないと思うけど?」

 局長の指摘にフォーリィは困った顔をしたあと、目に涙を溜めて上目遣いに局長を見る。

「なっ?」

 それを見て局長が怯む。

「パパを……クビにするの?受付けの人と喧嘩したから」

「しない、しない!こんな事でお父さんをクビにしないから」

「ホント?」

「水車の事を抜きにしても、君のお父さんは優秀だから辞められるとかえって困るから」

 それを聞いて、フォーリィは破顔する。

「そうなんだぁ。パパは優秀なんだ」


「しかし凄いな、この施設は。本当にこれだけのエネルギーを生み出せるのか?」

「発電機はまだ開発したばかりだから、このレベルなんです。改良が進めば、その数倍になるはずです」

「それは凄い。そのデンキと言うエネルギーは他のものも動かせるのかい?例えば粉引きや材木の切断などの水車が動かしているものとか」

 局長は興味津々に目を輝かせている。

「はい。発電機と同時開発した電動モーターを使えば可能です」

「他には何ができるんだい?そうだ。良かったら、奥の部屋で詳しく聞かせてくれるかな?」

「はい。喜んで♪」

 局長と秘書は、話を聞くべくフォーリィを連れて奥の部屋に入っていった。



      ◆      ◆


「ただいま。……って、どうしたの?フォーリィ。不貞腐れた顔をして」

「むうぅぅぅ」

 夕方、ヴェージェが帰宅すると、妹がソファーの上でクッションに顎を乗せて頬を膨らませていた。



「ヌァイル川をせき止めるなんて……とんでもない事を思いついたわね……」

「局長さんが、とても熱心に私の話を聞いてくれたから、これはイケると思ったのに、結局、川そのものは国王さま直轄だからダメだって。まったく、とんだぬか喜びだったわ」

 フォーリィはソファーの上でうつ伏せになると、苛立たしげに足をバタバタさせた。


「ああ、さすがに川自体は国王さま直轄だったのね」

 これはヴェージェも知らなかった。と言うか、知っている人は殆どいなかった。なぜなら川をせき止めたり流れを変えたいなどと言い出す個人はいなかったからだ。 


「一応、検討項目として取り上げてくれるらしいけど、国として動くとなると、来年の冬になっちゃうわ」

「でも話を聞いてくれたんでしょ?それってフォーリィのアイデアに興味を持ったって事じゃない。確かに来年になっちゃうのは残念だけど、光明が見えてきたんじゃない?」

 もし、国の事業としてフォーリィが考えている施設を建設してくれるなら、デンキと言う新しいエネルギーを王都中に送ることができる。それはつまり、今まで魔力がないため彼女の発明した道具を使いたくても使えなかった多くの『亜人』たちも、その恩恵を受ける事ができるようになるのだ。

 それはヴェージェにとって、とても喜ばしいことだった。

 だが、当のフォーリィは不服のようだった。


「私は、今、すぐにでもダムを作りたいの!」



      ◆      ◆



「いやぁ、この前のスタニェイロ視察官の娘さんの話は凄かったな」

 局長室で、書類の確認に疲れた局長が、先日の事を思い出して興奮気味に秘書に話しかける。


「まあ、確かに凄い発想でしたけど、結局は自分の発明品をもっとたくさん売りたいだけですよね」

 そんな局長とは相反して秘書の方は先日のフォーリィの説明に半ば呆れていた。

「うん、彼女はそうだろうね。だけどね、彼女のあの施設はこの国に莫大な利益をもたらすだろうね」

「どういう事でしょうか?」


 局長の言っている事が彼女には理解できなかった。

 確かに『ダム』と言う施設から生み出されるエネルギーは魔力を使わずに洗濯機を動かす事ができる。

 フォーリィから話を聞いた翌日、自分も局長と一緒に、フォーリィの資料にあった水車小屋に(おもむ)いてその時のようすを聞いてきた。

 水車小屋で働いている人達によると、フォーリィたちは水車小屋一戸だけで一二台の洗濯機を動かしたらしい。それも魔力を一切使わずに。

 それは今までの常識を覆すものだった。

 だが、それができたとして、利するのはスタニェイロ視察官の娘だけだ。

 それが、どのように国の利益につながるのかが分からなかった。


「ほら、ここ王都では木材は西の山岳地帯からここに運ばれて、穀物は東の農村から運ばれてくるだろう?」

「は、はい?」

 フォーリィの製品とは全く関係のない、いきなりの話に彼女は面食らった。

「そして運ばれてきたものは一度、北の水車小屋に運ばれてから王都に戻ってくる。そうだよね」

「そ、そうですね」

「つまり……」

 局長がニヤリと笑みを浮かべた。

「その新しいエネルギーを使えば、材木や穀物は直接職人区に運び込んで、その場で粉にしたり板として加工できる。つまり作業の効率化が飛躍的に進むってことだよ」

「なっ?」

 そこまで読んでいたとは。秘書は改めて局長の先見の明に驚かされた。


「これは、是非とも計画書をまとめて来年度の予算に組み込まないといけな――」

「局長!」

 その時、大きな音と共に扉が開き、先日の受付の女性が血相を変えて入ってきた。

「あなた、入るときはノックを――」

 そんな彼女を秘書が(たしな)めようとするが、彼女には秘書の言葉が耳に入っていなかった。

「局長!スタニェイロ視察官の娘さんが水車小屋の設置許可を求めてきました!」

「水車小屋?何か申請に不備でもあったのかい?」

 局長は首を傾げた。

 それ位でなぜ彼女が血相を変えて直接自分のところに来たのかが分からなかったからだ。


「でも書類の不備くらいなら、そちらで対処――」

「彼女が許可を求めているのは水車小屋二〇〇戸です!」

 受付の女性はそう言うと、ゼイゼイと肩で息をする。


「「なっ?」」

 局長と秘書は驚きのあまり頭が真っ白になった。


 やがて……

「くっ、あはは、あははははは」

 局長がお腹を抱えて笑い出した。


「はははは。いつも彼女は、我々の予想の斜め上を行くね」

 そして、局長の笑いがしばらく部屋に響き渡った。

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