23 ハーフエルフっ娘と電気3
「電気も手に入ったから、いよいよモーターを作らないとね」
「「モーター?」」
フォーリィの言葉にヴェージェ達が首を傾げる。
「モーターって、掃除機などに使われているアレか?」
既にあるものを、何故わざわざ作るのか不思議がるロックムート。
「違う、違う。今度作るのは電動モーターよ」
「電動?電気で動くやつも作れるのか?」
「そう。そしてそれが――」
フォーリィがニカッと笑う。
―― 魔力を持たない人でも使える掃除機や洗濯機を生み出せるのよ ――
予期せぬ彼女の言葉に、ヴェージェ達が目を見開いた。
「「魔力を持たない人でも?」」
それは二人にとって衝撃的だった。
今までの魔道具は、シンプルな着火の魔道具からフォーリィが作った掃除機まで全て魔力を必要とする。
例外としては南の国で使われている風車や、フォーリィが販売している水車など、自然の力を利用した大掛かりな設備しかなかった。
魔力持たない人でも使える『魔道具』。もし実現出来たら、今までの常識を覆す画期的な物になることは間違えなかった。
「ロックムートさん。さっきと同じようにもう一本鉄の棒を地面に刺してくれる?」
ロックムートに指示を出しながら、フォーリィは先ほど実験で使った針金を、今度は適当な金属の塊に巻き付けて作業台の上に置いた。
「ほれ、お嬢ちゃん。刺したぞ」
「ありがとう♪」
フォーリィは、電気の魔道具に取り付けられているクギの片方につながっている針金を、今度は新しく地面に打ち込んだ金属の棒に巻き付けた。
つまり、新しく刺した金属から伸びた針金が魔道具の左側のクギにつながり、魔道具の右側から伸びている針金は作業台の上に置いてある金属にコイル状に巻き付けられて、更にその先は最初に刺した金属につながっていた。
「魔力を必要としない道具を作るには、まずは電磁石なの」
「「電磁石?」」
初めて聞く言葉に、ヴェージェ達は首を傾げる。
「電磁石と言うのはね、電気を流している間だけ磁石になる物よ。こんな風に」
そう言って魔道具に魔力を流すと、近くにあったクギをつまんで、先ほどコイル状に針金を巻き付けた金属に近付けた。
バチィィ
「きゃっ?」
小さな火花とともに軽く感電したフォーリィが慌ててクギを離した。
「フォーリィ!大丈夫?」
信じられないと言う顔をして固まった妹を心配して、ヴェージェが声を掛ける。
「え……ええ、大丈夫……だけど……」
フォーリィは何が起こったのか理解できなかった。
(感電?電磁石って帯電してるものだっけ?)
「いや、そんなはずない。針金がダメだったの?でも……それだと……だから……」
何やらブツブツと喋りながら考え込んでいる妹を見て、ヴェージェは取り敢えずケガなどはなさそうだと胸を撫で下ろした。
「……(前世では)確かエナメル線……あっ」
何かに気付いたフォーリィ。そしてすぐ俯いてしまう。
頬に少し赤みがさしている。
(何かミスに気付いたのね。そして今、どうやって誤魔化そうかと一生懸命考えている顔ね)
さすが姉。ヴェージェは妹の事を良くわかっていた。
そう、フォーリィは気付いてしまった。エナメル線は銅線をエナメル被膜という絶縁体で覆ったものだと。
そもそも電磁石を作るには、電気が金属の回りをコイル状に流れる必要がある。
絶縁していない電線を巻き付けたら、電気が金属を通ってまっすぐ反対側に抜けるだけで、コイル状に流れないのだ。
(ああっ♪私の妹、マジ天使。昔から変わらないわね。言い訳を考えている時のこの頬を赤くした可愛い顔は)
ヴェージェ、結構シスコンだった。
そして隣で顔を赤くして妹に見惚れているロックムートを視界の隅で捉えて、ヴェージェは妹を自慢したい気持ちと、妹を独占したい気持ちが入り混じった顔をした。
暫らくすると、フォーリィの耳が少し下がった。
(あっ、言い訳するのを諦めたみたいね)
そんな妹を、ヴェージェ微笑ましく見守る。
「……ロックムートさん……この針金、何らかの方法で電気が外に漏れないように絶縁できる?例えばスライム・シートを薄く塗るとか……」
「あ、ああ。できるぞ、ちょっと待ってな」
ロックムートは針金を受け取ると、モイト・ヤニなどを混ぜ合わせた物を針金に塗り付けた。
さすが、あらゆる物質に愛されたドワーフ。先ほどの電気の体感から、どの物質をどのように加工したら絶縁体になるかを既に理解しているようだった。
「で……では、気を取り直して」
絶縁加工を施してもらうと、実験を再開した。
フォーリィは電気の魔道具に魔力を流すと、今度は慎重にクギを作業台の上の金属に近づけて、クギが触れる直前に手を離した。
カチャ
小さな音とともに、クギは見事に金属に吸い寄せられた。
それを見て、フォーリィは姉たちに気付かれないように小さく胸を撫で下ろした。
「このように、電気を流すと磁石になるの。そして電気をカットすると……」
魔道具への魔力供給を絶つと、クギは金属から離れて作業台の上に落ちた。
「「……」」
ヴェージェ達は言葉が出なかった。
これは凄いなんてものではなかった。
これだけでも世界の常識を覆すほどの物だった。
彼女達は、今まで磁石の存在は知っていた。だが、何かの条件により磁石になったり、そうで無くなったりするなんて、実際に目の当たりにしても信じられなかった。
そんな彼女達を見て、フォーリィは嬉しそうに笑う。
「まだまだ、驚くのはこれからよ」
「「!!」」
これ以上、どんな驚くことがあるのか。ヴェージェ達は暫らく無言で立ち尽くした。
「できた……電動モーターができた……」
感激に震えるフォーリィ。
あのあと、フォーリィは固まっているロックムートを促して、この日のために買っておいた磁石を渡してモーターを作るべく彼に色々と指示を出した。
そして出来上がったのが、二つの永久磁石と電磁石で出来たシンプルなモーターだ。
一応、モーターの回転が分かりやすいように、小さな扇風機の羽のようなものを取り付けてある。
「じゃあ、電気を流すね♪」
フォーリィが電気の魔道具に魔力を流して羽を少し動かすと、モーターが回り始めた。
「す……すげぇ。お嬢ちゃん、これ本当に魔石を使わずに動いてるのか?」
「全然使ってないわよ。ロックムートさん、これを組み上げた時に魔法石使わなかったよね?」
「あ……ああ、そうだな」
彼は別に疑っていたわけではない。ただ目の前に起きている事が常識から外れすぎて理解が追い付いていないだけだ。
「フォーリィ。凄い、凄いわ。あなたは歴史に名を残す偉業を成し遂げたのよ!」
目をキラキラさせて喜ぶ姉に、フォーリィは苦笑いを浮かべる。
「い、いやぁ、別に有名になりたいわけじゃなく、皆が私が作った製品を使ってくれれば嬉しいかな……」
「何言ってるの?こんな素晴らしい物を作った貴方は十分称賛されるべきよ!」
「分かった。分かったから落ち着いて」
興奮気味な姉を落ち着かせるフォーリィ。
「あれ?でもこれって、結局は電気を作り出すのに魔力が必要じゃないのか?」
ロックムートがふと疑問に思った事を口にする。
「あっ」
フォーリィはここで初めて、自分が発電について完全に失念していた事に気付いた。
「……」
フォーリィ。本日三度目の『天使の赤面』中。
その可愛らしい仕草に、ヴェージェとロックムートが見入っていた。
(発電所ってどうやって発電しているんだっけ?いっそのこと核分裂できる魔石を探す?)
危ない事を考えているフォーリィ。
だが彼女は知らなかった。核分裂できたとしても、そこで作れるのは高温であって電気ではないことを。
(たしか、火力発電所や水力発電所はタービンを回して発電していたわね。タービンってどうやって動いてるの?)
彼女の前世の記憶を総動員しても、発電の仕組みは出てこなかった。
数秒間考え込んだあと、フォーリィが口を開いた。
「は、発電については、これから考えるところよ。取り敢えずは電気で動かせる道具ができた。これは大きな一歩だわ」
フォーリィは開き直った。
「そうね。確かにこれだけでも凄いことだわ。焦る事はないわ。フォーリィだったらきっと作れるから。電気を作る道具を」
「おう、そうだな。取り敢えずはこれで扇風機を作ってみるか」
フォーリィの意見はもっともなので、二人とも素直に彼女の業績を称賛する。
「しかし、発電かぁ。どうすれば良いかなぁ」
フォーリィが悩みながら、いじっているのは卓上サイズの小さな扇風機だった。
あれからロックムートは小さい扇風機の筐体を作り上げ、今は組み込んだ電動モーターの配線を行っていた。
(タービンかあ。前世でタービンの仕組みを勉強しておけば良かったな)
そんな事を考えているが、転生する事を前提に人生を送っていた訳ではないし、彼女もその事は十分承知していた。それを承知で、ただ思ってみただけだった。
そしてフォーリィは、考え事をしながら無意識に扇風機の羽を手で回した。
―― パチッ
「うわっ」
ロックムートが驚きの声を上げたため、フォーリィが思考を中断した。
「どうしたの?」
「いや、配線中の針金の先から火花が出て……」
「火花?」
フォーリィは首を傾げる。
電気を流していない配線から火花が出るなんてあるはずがないからだ。
「電気の魔道具に魔力でも流したの?」
「そんな事するわけないだろ。まだ組み立て中なんだから」
そもそも、まだ電気の魔道具につなげてもいなかった。
「ん?」
不思議そうに電線を見つめるフォーリィ。
「まさか……」
何かに気付いた彼女は、ミニ扇風機から出ている電線の一つを手に取り、羽を回しながらもう一本の電線に近付けた。
―― パチッ
再び小さな火花が弾ける。
「これよ……これなのよ♪」
歓喜の声を上げるフォーリィ。
「何?どういう事?」
「何が起こってるんだ?」
事態を把握していない二人にフォーリィは説明する。
「つまり、電動モーターは電気を供給すると回転するけど、逆にモーターをこちらから回してあげれば電気を生み出してくれるのよ」
「「それって、つまり……」」
ヴェージェとロックムートが固唾を呑む。
「発電機ができたのよ!」
フォーリィ、満面の笑みでそう答えた。
「凄い、凄いわ。フォーリィ、やったわね」
「これで魔力を持たない人達も掃除機や洗濯機を使えるようになるな」
新たな時代の幕開けだと、ロックムート達は確信した。
フォーリィが生み出した便利な道具は、今まで魔力を持った人達しか使えなかった。それが、この国の全ての人達が使えるようになるのだ。
いずれ、どの家庭でも洗濯機などがあるのが当たり前となる時代が来る。
彼らの目の前で今、その幕開けとなる発明がなされたのだ。
(まさか、モーター自身を回転させると電気を生み出すなんて。私って天才?前の世界だったらノーベル賞間違え無し?)
などとフォーリィは考えているが、この現象は前の世界では既に知られている事だった。
「ロックムートさん。今回は天然の磁石を使ったけど、製品に組み込めるように決まった形のもので、これより大きな永久磁石って作れる?」
「おお!お安い御用だ!他に足りないものはないか?」
「後は、発電用に更に大きな電動モーターを用意して欲しいの。あっ、洗濯機などに組み込む電動モーターは必ず同じ方向に回るように……」
矢継ぎ早に改良点などの指示を出していくフォーリィを見て、彼女の凄さを改めて実感するヴェージェ。
まさか、妹がこんなに凄いとは思っていなかった。
ヴェージェはそんな妹の姿に胸か高鳴り、体が熱くなるのを感じていた。
(これが、私の自慢の妹……)
◆ ◆
「お嬢ちゃん。洗濯機では一二台が限度たな」
「ええぇぇぇぇ」
ロックムートの言葉に、激しく落胆の声を上げるフォーリィ。
あれから数日後、材木加工の工房にお願いして水車小屋を借り切り、発電用のモーターを取り付けて実験をした。
結果は、水車の限界が発電機三機で、それ以上は水車の動きが極端に悪くなり十分な発電ができなかった。
そして、発電機一機あたり洗濯機が四台までしか同時稼働ができなかった。
「つまり、電動モーターを組み込んだ洗濯機を一二〇台売るたびに水車小屋を一〇戸作らなければならないの?」
全然現実的ではなかった。
電動モーターと発電機の発明により、家電が幅広く浸透すると確信していた彼女は大きく失望した。
(何でこうなった……)
今回彼女が作ったのは学校の実験などで良く知られるシンプルで分かりやすいモーターで、決して効率がいい物ではありません。
あと、科学小説を目指している訳ではないので、モーターの仕組みなどの描写はとことん省いています。(直流・交流の問題解決も省いています)
ちなみに、裏設定として、後にドワーフさん達が磁界などを理解して三極誘導電動機を開発したりしますが、本作品には出てくる予定はありません。




