22 ハーフエルフっ娘と電気2
今回は危ない電気の実験です。
皆さん、くれぐれも真似をしないで下さいね。電圧が低くても条件が揃えば感電死する場合もありますから。
「えぇー?何でぇ?ケチー。ちょっとビリッてするだけよ」
ロックムートに電気の体験を断られて拗ねるフォーリィ。
「ケチじゃねえよ。今のを見て、試してみたいなんて思うやつ居るわけないだろ!見てみろ、そこ」
作業台の上には、先ほど電気の魔道具を試した時のショートによる過負荷で少し溶けた銅線があった。
「いやぁ、まさかこんなに高出力だとは思わなかったから。次は魔力を抑えるわ。だから、ほら」
「だから、じゃねえ。完全に安全だと分かるまでは、そのデンキとやらに触らねえぞ!」
ロックムートは青くなって怯えている。
それを見てフォーリィは自分が少し焦り過ぎていた事に気付いた。
無理もない。彼等にとって電気とは雷そのものだ。
元の世界でも雷は怖いものだった。避雷針もなく、雷の正体も分かっていないこの世界では尚更だ。
彼等にとって雷とは、空からいきなり落ちてきて生き物を殺し、火事を引き起こす恐怖の象徴で、人が到底操れるものではないのである。
「しょうがないわね。じゃあ、そこの鉄の棒を床に突き刺して。そうねぇ、三〇センチほど埋まればいいかな」
火を扱っているため、工房の床は剥き出しの土だ。そのため細めの金属の棒を突き立てるのは容易だ。
「何をするんだ?」
ロックムートが金づちで棒を叩く音が響く中、フォーリィが適当な針金を見繕っていた。
「電気の楽しい実験よ」
そう言ってフォーリィはイタズラっ子のように笑う。
フォーリィは電気の魔道具に取り付けたクギの一本を、今突き刺して貰った鉄棒に細い針金で繋げて、魔道具のもう一本のクギを自分の足首に巻き付けた針金の先に繋げた。
そして束ねて上げていた髪を下ろし、スライム・シートを床に敷いてその上に立った。
「さあ、お立会いの皆さん、フォーリィのマジックショーの始まりよ」
「「魔法のショー?」」
魔法と言う言葉に、声を揃えて驚くヴェージェとロックムート。
ロックムートは意味が分からず首を傾げ、ヴェージェは目を輝かせている。
「フォーリィ、魔法が使えるようになったの?」
「ち、違う、違う。魔道具を使ったショーだから」
「あ……そう言う意味ね……」
ヴェージェが落胆の色を浮かべる。
そんな姉を見て、フォーリィは自分の発言が不適切だった事に気付く。
元の世界では魔法も手品も『マジック』だ。だが一般常識として魔法は空想上の事象とされているため、マジックショーと言えば手品の事だった。
でもこの世界では逆に手品が存在しない。マジックショーと言えば魔法を使った大道芸と言う意味になってしまうのだ。
「ま、まあ見てて。これから起こることに二人ともビックリするから」
失言は取り消せない。だからフォーリィは早々に気持ちを入れ替えて、これから起こることで姉を喜ばせる事にした。
「それ、危なくないの?」
今フォーリィが足に繋げているのは、先ほど派手にショートを引き起こした魔道具だ。心配するのも無理はない。
その心配を払拭するために、フォーリィは明るく笑顔で答える。
「電気はね、流れなければ少々出力を上げても危なくなんてないわよ。まあ、見てて」
そして、右手に持った魔道具にゆっくりと魔力を流し始める。
「えっ?何これ?」
「な、何だこれは?」
ヴェージェ達が驚きの声を上げる。
フォーリィの髪が静電気でバサバサになってきたのだ。。
「フォーリィ!?」
「あっ、近付かないで。危ないから」
妹の異変を目の当たりにして、とっさに彼女に触ろうとしたヴェージェをフォーリィは制した。
「私は足下のスライム・シートが電気の流れを阻んでいるから痛くも痒くもないけど、お姉ちゃんが触れると私とお姉ちゃんを通じて電気が地面に流れるから危険よ」
この実験は直流電気だからできる事だ。交流なら絶縁体の上に乗っていても感電する。
なお、フォーリィはスライム・シートがゴムっぽいので絶縁素材だと思って足下に敷いたが断定はせず、少しずつ確認しながら電圧を高めていた。ゴムっぽくても電気を遮断するとは限らないからだ。
そして、本来こういった実験は素人が行うのは大変危険だ。だが彼女には十分な知識があったので問題なかった。
そして…
―― バンッ!
「きゃっ?」
彼女が左手を前に出すと、その指先から小さな雷のような光が放出される。
「全然大丈夫だから。近づかないでね」
平然とした顔でそう告げるフォーリィ。
ヴェージェがそんな妹を心配そうに見つめる間も、続けて二回、三回と紫電がパンパンと放出される。
彼女は電気の特性や、人体のどこにどのような電流を流せば危険かなどを熟知していた。
だから、今行っている実験は一見危険そうに見えるが、十分な安全マージンを取っている。
「あーはっはっはっは~。勇者たちよ!我を止めることができると本気で思っていたのかぁぁぁ!」
そう、十分安全なのだ。例えアブナイ人に見えても……
「我が実力を、ほんの少しだけ見せてやろう。力の差に絶望するがいい!」
フォーリィ、ノリノリだった。
「フォーリィ……」
そんな彼女を、姉は心配そうに見ていることしかできなかった。
「もう、ビックリしたわよ!安全だと言ってたけど、頭に影響したんじゃないかって」
ヴェージェ、おこだった。
「ごめんなさい……」
少々やり過ぎたと感じ、シュンとするフォーリィ。
元の世界では電気がどのような時に危険か、感電したらどうなるかなどは一般常識としてある程度広まっている。
だが、この世界ではそういった知識が全くない。姉が心配するのも無理はなかった。
「ま、まあ。このように安全だから、ロックムートさんも体感してみて」
「ま、まあ。確かに大丈夫そうだな……」
ロックムートは渋々といった感じで、電気を体感する事となった。
勿論、怖くなくなった訳ではない。それどころか、わずかながら足が震えている。
だがたった今、自分よりはるかに年下の女の子が平然と電気を体に受けていたのだ。怖いから嫌だとは言えなかった。
そして、ロックムートがスライム・シートの上に立ち電線をつなげると、フォーリィが少しずつ魔道具に魔力を流し始める。
「うわっ」
「こ……これは……」
フォーリィとヴェージェがロックムートを奇異の目で見る。
そう。彼は、髪の毛だけでなく、ドワーフ自慢の立派な髭も静電気で大変な事になっていた。
「お、おい。これ本当に大丈夫か?」
ロックムートはビクビクしながら訪ねる。
「だ……大丈夫よ……見た目以外は……」
そう言って、フォーリィが目を逸らした。
「そ……そうかもね……見た目以外は……」
続いてヴェージェも目を逸らした。
「おい。なんだよ。見た目がどうしたんだよ」
フォーリィ。もう二度とドワーフで静電気の実験をしないと心に誓うのだった。




