21 ハーフエルフっ娘と電気1
やっと電気が登場します。
「暑いわねぇ」
ロックムートの工房で、フォーリィは額に玉のような汗を浮かべながら椅子の上でだけらけていた。
「まあ、ここは火を扱うからな」
ロックムートは答えながら、彼女に頼まれた新しい製品の試作品を組み立てていた。
「あ、いや、ここが暑いとかじゃなくて。いや、ここは暑いんだけどね。そうじゃなくて夏になったなぁ、と思って」
8の月に入って本格的な夏が訪れると、やはり欲しくなるのはアレだ。
「ほれ、できたぞ」
「おおおっ♪待ってました」
組み上った製品を受け取ると、フォーリィは早速エンチャントの魔石が埋め込まれているバンドを腕に巻いた。
「今度の製品は何に使うんだ」
興味深々の目を向けるロックムート。
「これはね、こう使うの」
彼女がバンドに魔力を流すと、羽根が回り出す。
そう、扇風機だ。
「あ~、涼しい♪」
フォーリィは顔を近づけて風を堪能する。
「おおっ、何だこれ?」
「扇風機よ。風を送って涼しくする道具」
やっと暑さが凌げ、ひと心地ついたフォーリィは――
「ワレワレハ、ウチュウジンダ」
扇風機の前で、誰もが一度はやってみる遊びをした。
「な……なんだ?」
勿論、そんな遊びを知らないロックムートは、彼女の奇行にどう反応していいのかが分からなかった。
「声が変わって面白いでしょ?」
「ああ、不思議だな。でも、ウチュジンって何だ?」
宇宙に地球と同じような星がある事を知っている者がいないこの世界。彼女はそれを説明する気力も必要性もなかった。
「何でもいいのよ、例えば――」
『ユウシャ ヨ!ヨク キタナ!ワガ マオウ ノ シロ ヘ』
フォーリィ、迫真の演技だった。
「おおっ、すげえ。面白いな、これ」
「でしょ♪」
「ところで、思ったんだけどよ」
暫くして新製品の興奮が治まったころ、ロックムートがふと疑問を口にした。
「これ、魔道モーター使わずに直接、風の魔石で風を送った方が良くないか?」
「なっ?」
身も蓋もなかった。
「で、でも、これは……ほ、ほら……この出っ張りを押すと首を振るのよ」
「まあ、確かに風の魔石だけじゃ首振り出来ないかな……」
「で、でしょ」
懸命に弁明するフォーリィだった。
「まあ、でもこれは売り物にならないんだけどね」
暫くしてフォーリィがポツリと言った。
「売り物にならない?何でだ?」
ロックムートの疑問に、フォーリィは眉尻を下げて答える。
「誰か一人が、皆のために魔力を供給し続けなくちゃならなくなるからよ」
洗濯機はまだいい。主婦が家事の片手間に洗濯できるのだから。でも扇風機は違う。家族内、仲間内の力関係で魔力供給を強いられる者が出るのは目に見えていた。
自分が楽をしたい。ついでに他の人達も楽させたい。そんな気持ちで開発しているフォーリィにとって、それは許容できない事だった。
「やはり、早く電気が欲しいわね」
「俺は雷に打たれないぞ!」
身構えるロックムートに、フォーリィは笑って答える。
「もう、そんなこと言わないわよ。さすがに雷は危険だし」
「ほ、本当か?」
「…………」
「な、なぜ黙っている?」
「いやぁ、雷以外で電気を体感させる方法はないかな……なんてね」
「それ以外の方法も却下だ!」
諦めきれないフォーリィだった。
「でも、あれから結構魔石を解析したけど、電気の魔石は見つからなかったのよね」
ロックムートの工房の裏庭にあった魔石は全て確認したが、目的のものは見つからなかった。
「そもそも電気ってどんな現象なんた?木に雷が落ちると焼けるから炎系に近いのか?」
フォーリィが切望している電気。だが、そもそもそれが何なのか分かっていないロックムートは、彼女の力になりたくても何もできない。そんなもどかしさを感じていた。
だから、せめてどんなものか分かれば、ひょっとしたら彼女が探している魔石を見つけられるのではないかと思ったのだ。
「違うわ。あれは雷という高出力の電気が流れた結果、木が燃えているだけよ。さらに厳密に言うと、電気という事象ではなく電子の移動……あっ」
「どうした?」
何かに気付いた顔をして固まったフォーリィにロックムートが声を掛けるが、彼女はそれに答えず目を伏せた。
頬がほんのりと赤みをさしている。
(かわいい……)
そんな彼女に、ロックムートは心臓が止まりそうになった。
今まで見た中で、一番の可愛さだった。
ロックムートがフォーリィに見惚れる一方、彼女の思考はフル回転していた。
(うおぉぉぉ。なんという失敗。電気の魔石なんて探して見つかるはずなかったわぁぁぁ)
電位差があれば、電子はマイナス側からプラス側に流れて電流が生じる。これが電気だった。
そう、彼女が探さなければならないのは電子を動かす電位差を生み出す魔石であって、電気を流す魔石ではない。
そして、そもそも電線につながっていない状態、つまり電気が流れる道がない状態で、電気の流れを生み出している魔石を探しても見つかるはずがなかったのだ。
今まで自信満々に電気の事を語ってきた手前、実は電気の基礎部分を失念していたなんて、彼女はとても言えなかった。
そんな彼女の心の内など知らないロックムートは、頬を染めている彼女に自分が抑えられなくなっていた。
椅子に座って扇風機に当たっている彼女の顔は、立っている彼の顔の位置とほぼ同じ。
「フォーリィ……」
「ロックムートさん……」
二人の視線が合った。
◆ ◆
「ふふっ。いきなり訪ねたらビックリするかな?」
今日はヴェージェの非番の日。
今までフォーリィは、自らあちこちの工房に掃除機や洗濯機のパーツ制作の依頼をしたり、出来上がったパーツを組み立て専用の工房に運んだりしていたため、ほぼ一日中荷馬車で移動していた。
そのため、ヴェージェが妹の仕事している姿を見る事はなかった。
でも最近はブルドゥの人脈を通じて輸送面を丸投げして、ロックムートの工房で何やら作っていると聞いていたので、妹の様子を見に行こうと思ったのだ。
もちろん、開発途中の製品も気になっていたのも理由の一つだ。
「フォーリィ、ビックリするかな?」
焼いたばかりのビスケットが入ったかごを手に、ヴェージェは工房の前に立った。
「フォー……」
そしてそこで彼女の動きが止まり、思考が真っ白になった。
『ロックムートさん……そこしゃないわ……もう少し上……』
『ハアハア……そんなこと言われても……こんなこと初めてだから……』
『私だって……初めてよ……』
『ハアハア……ここか?』
『うん……ゆっくり入れて……』
「!!」
我に返ったヴェージェが、工房のドアをおもいきり開けた。
「あなたたち!何やってるの?」
「うわっ!なに?」
ヴェージェの目に映ったのは、玉のような汗をかいて針金とハンダ鏝を手に作業台に向かっているロックムートと、同じく汗をかきながら作業台の魔石に手を置いている妹だった。
「あなたたち……何やってるの?」
さっきと同じセリフだが、その意味は全く違っていた。
「魔改造?」
今まで聞いたことがない言葉に驚くヴェージェ。
そう、先ほどフォーリィとロックムートの目が合った時、フォーリィが言った言葉。
―― え……え~と、そ……そうだ、いま閃いたんだけど、電気の魔石がなければ作ればいいのよ
その彼女の一言でロックムートの胸のトキメキは一瞬で吹き飛んでしまった。
何故なら、魔石をゼロから作るにしろ、別の魔石を変化させて作るにしろ、そのような事を行ったという話は聞いたことがなかったからだ。
そしてフォーリィは急いで裏庭に行き、一つの魔石を探してくると、ロックムートに改造をお願いした。
「それで魔石に穴を開けて細いクギを付ける……ね」
ヴェージェが不思議そうに見ている間も、フォーリィ達は作業を進めていた。
ちなみにロックムートは、作業の精細さに先ほどから喋る余裕がなかった。
「ハアハア……やっと取り付けたぞ……ああ~疲れた」
「お疲れ様。ありがとう、ロックムートさん♪」
フォーリィはロックムートの頭を抱きしめて感謝する。
「ちょっ……何してんの?」
ヴェージェがギョッとして二人を引きはがす。
「何って、感謝のハグ?」
キョトンとして首を傾げるフォーリィ。
「ハグって何よ?とにかく、そんなはしたない事は止めなさい」
「はしたなく無いよ。そんな事より……」
何に怒っているのか理解していない彼女の興味は、完全に、出来たばかりの魔道具に向いていた。
「さっそく試してみましょうか♪」
そう言って、銅の針金を短く切って作業台に乗せると、魔道具に魔力を流す。そして魔道具に取り付けられた二本のクギを針金に近付けると――
バチイイィィィッッッ
「うわっ!」
「「きゃあぁぁ!」」
クギが針金に触れたとたん、派手な音と共に火花が散った。
彼女が行ったのは、電源コンセントの二つの穴を針金で繋げたのと同じ事だった。つまりショートしたのだ。
「……あぁ、ビックリした」
「「それはこっちのセリフだ(よ)」」
フォーリィの言葉にヴェージェ達がツッコんだ。
「ま、まあ。これで電気の魔道具が手に入ったわ」
「おめでとうと言っていいのかしら?どう見てもこれかなり危険なものよね」
妹がずっとデンキと言うものを求めていたのを知っているヴェージェは。本来なら彼女におめでとうと言いたいところだが、先ほど派手な音と火花を目せられた後では、心配の方が勝っていた。
でも、そんな心配をよそに、フォーリィの心はさらに先に行っていた。
「と、言うわけでロックムートさん♪」
彼女が天使の笑顔を向けてロックムートに手を差し伸べた。
「ちょっと、これでピリッとしてみて♪そして電気を体感してみて♪」
彼女は、ロックムートに軽く感電してもらい、電位差を生み出す魔石を見つけられるようにしてもらおうと考えていた。今後、電気を使った製品を開発するにあたって、ロックムート達ドワーフが魔石を見つけられれば、製造を丸投げできるからだ。
「嫌だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして、ロックムートの叫びが工房に響き渡る。




