16 ハーフエルフっ娘、お尻を守る1
「こんな感じでいいか?お嬢ちゃん」
「うん、ありがとう」
お尻の痛みに耐えられなくなったフォーリィは、安い中古荷馬車を購入して改造を依頼した。
つまり、細長い板を何枚も組み合わせ、アーチ状に荷馬車の底に設置してもらい、そのアーチの頂点に金具を着けて車輪の軸を支えるようにしてもらったのだ。
「本当にこれで良かったのか?」
「大丈夫、大丈夫。これで地面からの衝撃が結構和らぐはずだから」
フォーリィは待ちきれないといった様子で、自らも手伝って馬を馬車に固定していく。
「では、しゅっぱあぁぁぁぁぁつ♪」
馬の固定も終わり、フォーリィが喜んで乗り込むと、御者に出発を命じた。
「お、おおぅ、凄い、凄い♪」
進みだした馬車は、以前とは段違いに乗り心地が良かった。
地面に凹凸があってもお尻に衝撃が来ないのだ。
嬉しくなったフォーリィはそのまま城壁に向かうように命じると、そのまま城壁を抜けて外へと向かった。
「うえぇぇぇぇぇぇ。ぎもぢわるいぃぃぃ」
工房に戻ってきた彼女は青い顔をしていた。
「常に上下にユサユサ、ユサユサ。これ、激しく酔うわぁ」
荷馬車の上に寝させられたフォーリィは、頭に濡れた布を乗せられながら吐き気と戦い続けた。
◆ ◆
「と言うわけで、オイルダンパーを作って下さい」
「何を作れって?」
フォーリィが相談に向かったのは、金属の精密造形が得意な金属職人のロックムート。
ヒューマン感覚で六〇歳くらいに見えるドワーフだ。
顔には深いしわ。そして顔を覆いつくさんばかりに立派な髭を蓄えていた。
「あと、バネも作って下さい」
「だから何を作れって?」
この世界での機械は、フォーリィのサイクロン掃除機が初めてだ。つまり、バネなどはまだ存在していなかった。
「バネは、らせん状に形成された太い針金よ。力を加えると伸びたり縮んだりするけど、すぐに元に戻るようにしてちょうだい」
「うーむ、どのくらいの強度にするんだ?」
「強度?一〇年以上は使用に耐えられるのが望ましいわ」
「あぁ」
ロックムートはフォーリィ返答に対して、ガリガリと頭を掻く。
「耐久性じゃなくてだな。どのくらいの強さで押し返すか、とか……ああ、もう、とにかく何処に設置して、どのように使うんだ?」
フォーリィに細かい事を聞いても必要な情報を得られないと判断したロックムートは、フォーリィがどのような結果を望んでいるかを確認し、それに応じて素材や焼き入れの仕方などを決めていこう考える。
「えーと、ね。外に荷馬車があるでしょ?で、その荷馬車は今、アーチ状の板で車軸を支えていて、地面の衝撃を和らげているの。それを今度は金属のバネで代用したいの。出来る?」
説明しながら、フォーリィはロックムートと一緒に外に出る。
「これは凄い発想だな」
ロックムートは目を輝かせて荷馬車を見ていた。
「うん、大体わかった。いくつか試作してみるよ。で?さっき言ってたダンパーとか言うやつは?」
「オイルダンパーはね。金属の筒を油で満たしたものよ」
「油?それはどんな油でもいいのか?ゴラン豆の油とか?」
ゴラン豆はこちらの世界での大豆に似た豆だ。
「ううん、植物からとった油じゃなくて、石油」
「セキユ?」
ロックムートが首を傾げる。
「え?石油を知らないの?」
「聞いたことないな」
「地面から湧き出る黒い油だけど・・・」
「地面から油が湧き出る?」
ロックムートの反応に、フォーリィは驚愕した。
なんと、この世界には石油がなかったのだ。
それはつまり、この世界ではガソリンエンジンなどは作れないし、プラスチック製品も作れないのだ。
もっとも、石油があったとしても、フォーリィにはそれらの製品を作り出す方法を知らないのだが、今のフォーリィにはそこまで考える余裕はなかった。
「あれっ?なんかおかしくない?確か私の掃除機や洗濯機も、ギアの滑りを良くするために油を刺していたはずよ」
それを聞いて、ロックムートは納得したと言う顔をする
「その油か。あれはスライムだよ」
「スライム?」
フォーリィのスライムの知識は、前世のものしかない。
つまり、ブヨブヨしていて半透明でコアを持った生き物だ。
それがどう油に結びつくのかが分からなかった。
「ちょっと待ってな」
そう言って、ロックムートは工房の隅に置いてあった壺を持ってきた。
「ほれ、これがスライムだ」
中には黒い液体が入っていた。そしてその匂いは――
「石油だ」
それは機械油そのものだった。
「これ、本当にスライムなの?生きてるの?」
「まあ、動物や虫とは全然ちがうけど、一応移動するから生き物なんだろうな。だから一旦熱してから使っている。そうすると動かなくなるからな」
何でも、スライムは地面に溜まっていて、気付くと別の場所に移動しているそうだ。
(ヒトデみたいにゆっくりと移動しているのかな?でもこれって、スライムと言う生き物と言うよりは、石油成分を取り込み、蓄積している微生物の集まりかしら?)
そこまで考えてフォーリィは考えるのを止めた。
使えれば、その正体はなんだろうと関係がなかったのだ。
フォーリィはその後、オイルダンパーの作り方を教えて、ロックムートに丸投げする事にした。




