17 ハーフエルフっ娘、お尻を守る2
「おおぉぉぉぉ♪」
出来上がったオイル・ダンパーとバネを前に、フォーリィは感嘆の声を上げた。
「ダンパーの方は、オイル漏れとか大丈夫?」
フォーリィは、ダンパーを手に取って細かくチェックしていく。
「ああ。漏れないように少しずつヤスリで削って慎重に作ったぞ。特に内部の……」
「早く付けて♪付けて♪」
待ちきれないなくて仕方がないフォーリィの耳には、最早ロックムートの言葉は入って来なかった。
だが、言葉を遮られた彼は特に気にしていなかった。それどころか、子供みたいに無邪気に目を輝かせておねだりする仕草に鼓動が早くなるのを感じていた。
「おう、待ってな。すぐ取り付けてやる」
「凄い、凄い!近代的だわ」
バネとダンパーが設置された馬車を前に、今にも小躍りしそうな笑顔で喜ぶフォーリィ。
そんな彼女にロックムートは、『近代的じゃなく斬新だろ』などと無粋な事は言わない。その代わり、彼女の背中を軽く押す。
「さあ、乗ってみてくれ。調子が悪い所があったらすぐ直すから」
「分かった♪」
フォーリィは御者を急かして自分も乗り込む。
「しゅっぱぁぁぁつ!」
フォーリィの掛け声とともに馬車は進む。
それを見送っているロックムートは、地面が凹凸しているにも関わらず荷台が殆ど揺れていないのを見て声を漏らした。
「おおおぉ。すげえな、これは」
これこそダンパーの恩恵である。
バネは確かに地面の凹凸から来る衝撃を、バネ自身が伸び縮みする事で吸収する。
だがバネが伸びる、または縮むと暫くの間は伸縮を繰り返してゆっくりと元に戻る。つまり、その間はバネ自体が荷台を揺さぶり続けるのだ。これではかえって乗り心地が悪くなる。
そこで活躍するのがバネの中心に設置された棒状のダンパー。
ダンパーが抵抗力となってバネの伸縮を抑えるので、早く揺れが収まるのだ。
「ロックムートさぁぁぁん。これ、最高だわ♪」
戻って来たフォーリィは馬車から飛び降りると、喜びのあまりロックムートに抱きついた。
しかし、まだ一四歳とはいえ長身美形のハーフエルフの彼女が背の低いドワーフに抱きつくと、ロックムートの顔が彼女の胸に埋まる形となる。まだ成長期だが、もう既にしっかりと自己主張しているその胸に。
「ロックムートさん、だぁい好き♪」
そして、身体を話すとロックムートのおデコにキスをした。
「お?おう」
彼は顔が熱くなるのを感じた。しかし、フォーリィがそれに気付く事はなかった。彼女はすぐに工房に入ると、予備として作成してある特徴の違うバネやオイル・ダンパーを手に取って、キラキラとした目で丹念に確認し始めた。
「これ、売れるわね。ねえ、バネとダンパーをそれぞれ四つをセットにして、毎日一〇セット作れる?」
「作れるか!!」
フォーリィ無茶振りだった。
◆ ◆
「という訳で、タイヤを作ります」
お尻の痛みが解消されたフォーリィは、更なる乗り心地改善を求める事にした。
「何が『という訳』だ?それにタイヤって?」
もはや彼女の言動にいちいち動じては身が持たないとばかりに、彼女の意味不明な単語の説明を求めるロックムート。
「タイヤとは、車輪にゴムを巻いた物よ」
「ゴム?何だそれは?」
「え?ゴムって無いの?」
フォーリィは今までの行ったことがある場所を思い出してみる。確かにゴムは見た事がなかった。
ひょとしたら、この世界にはゴムが無いのだろうか。
「だから、ゴムって何だ?」
「ゴムは程よく柔らかくて衝撃を吸収する素材だけど」
「衝撃を吸収?それって、こんな物か?」
ロックムートが作業台から一枚の厚みのあるシートを取ってフォーリィに渡した。
「何だ、あるんじゃない」
それはまさしくゴムのシートだった。
「そいつはスライム・シートだよ」
「これもスライムかぁぁぁ!」
この世界では結構スライムが使われているようだった。
「黒スライムにモイト・ヤニを加えて煮込んだ物だ」
モイトは地球で言うところの松だ。
「これくらいの硬さならタイヤの外側に使えそうね。後はチューブか……ねえ、もっと柔らかくて伸びるように作れる?」
「さあ、分かんねえな。そんなもの必要なかったし」
聞くところによると、物を束ねたりするには紐を使うので柔らかいゴムは特に必要としなかったらしい。
「ねえ、ゴムの加工を専門に扱っている工房はないの?」
「ねえな。必要なら自分達で作るし」
「むうぅぅ」
残念そうに頬を膨らませるフォーリィ。
こうなったら自分で作るしかなさそうだった。
これでフォーリィはお尻の痛みから解放されました。
次回は、この世界ならではの発明と発見があります。




