15 ハーフエルフっ娘、洗濯機の爆誕とお尻のピンチ
「ねえねえ。あなたの妹さん、また凄いものを売り出したそうね」
ヴェージェが職場で休憩中、声を掛けて来たのは一緒に休憩していた彼女の同僚の一人、子持ちのエルフだ。
洗濯機の爆誕から五日、噂は瞬く間に王都中を駆け巡った。
既に購入した人達の感想は上上。そして洗濯機を購入した者達が洗剤のいい香りに包まれて仕事に行く事で、更に噂に拍車が掛かっていた。
ヴェージェは職場で妹の商品の宣伝などはしない。しかし、これだけ噂が広まっていたら同僚達の耳にも当然入ってくる。
「私、明日はお休み貰えたから予約に行ってくるわ」
楽しそうに話す彼女。
ヴェージェとしては、職場の親しい人達には融通してあげたい気持ちになるが、私的な事で妹の手をわずらわせる訳にはいかない。
それに、フォーリィが言うには彼女は販売にノータッチで、商品の開発や改良に集中しているらしかった。
「数日前から貴方がいい匂いで出勤するようになったでしょ?最初は香水でも使い始めたのかと思ってたけど、それ、洗濯機で洗っているからでしょ?」
「はい、洗剤に香りの成分が入っているから、衣服にいい匂いが残るんです」
「私、それを聞いて買う事に決めたのよ。それに、洗濯機があれば食後の洗い物をしながら洗濯も出来るから、家事が楽になるわ」
「でも、魔力供給しながら他の事をするのは慣れが必要ですよ」
ヴェージェもフォーリィに頼まれて、何度か洗い物をしながら洗濯をしてみたが、洗い物に集中するとどうしても魔力供給が途絶えてしまうのだ。
「何言ってるの。ながら仕事なんて主婦では当たり前よ。こういうのは使っていると慣れるものよ」
そう言ってコロコロと笑う。
ヴェージェは彼女のその明るさが好きだった。
「確かに……妹も洗濯しながら変な踊りをしていました」
「変な踊り?」
「ぶれいくダンス?と言ってました。片手を床に着けて、逆立ちするような格好で回転したり」
ヴェージェの言葉に、彼女は驚いたような、それでいてどこか納得したような顔をした。
「天才って、やはり私達凡人とは違うんだね」
その言葉に一切の悪意も、差別も感じられなかった。彼女は純粋に妹に感心していた。だからヴェージェも、自分達とは違う存在と捉える彼女に複雑な思いを抱えながらも、賞賛として受け止める事にした。
◆ ◆
「フォーリィさん。今日の予約注文は五三件です」
「げっ」
販売を委託している店の店主に言われて、ゲンナリした顔をするフォーリィ。
「一昨日は三三件、昨日は四七件、そして今日は五三件?洗濯機って平均的な月収の三倍以上するのよ。何でそんなに人気があるの?」
「これだけ便利な品ですからね。家でも妻が大喜びで、食後の洗い物をしながら洗濯してますよ」
この店の店主夫妻は共にハーフエルフだった。
フォーリィはこの店の他に二軒の店に販売を委託している。
サイクロン掃除機の販売が落ち着いてきたとはいえ、まだまだ人気商品だ。それに加えて洗濯機まで投入したため、一店舗では賄いきれなくなったのだ。
そして、全ての店舗で日に日に予約数が増えていた。
洗剤に関しては、今のところ販売委託している店での取り扱いが中心だが、少しずつ雑貨屋などにも置かれ始めていたし、新たに洗剤の生産に参入してきた工房も出てきていた。
フォーリィが洗剤生産や販売にノータッチで、権利も主張していないため、参加が楽なのだ。
洗濯機の生産に関しては、フォーリィ自身が各工房を回っていた。
そして、その工房の技術力や親方の拘りなどから、それぞれの工房にどのパーツを発注出来るか見極めた上で少しずつ生産量を増やしているのだが、予約数の伸びがそれを遥かに上回っていた。
そして当然のごとく、フォーリィの馬車での移動も増えていった。
「お尻が痛い」
夕食後、フォーリィがゲンナリした顔でお尻をさすっている。
「あまり効かないかも知れないけど、治癒魔法を掛けてあげるから」
そう言って治癒魔法を施している女性。姉と言っても通用しそうなほど若く、赤み掛かった銀髪の美人はフォーリィの母、アントゥーリアだ。
「何で馬車に直接車輪が着いてるのよ。振動がダイレクトに伝わって痛いじゃない」
「馬車って、そういうものよ」
優しく微笑む彼女に、フォーリィは頬を膨らませる。
「むぅ。誰も改善しようとは思わなかったの?」
フォーリィのお尻がピンチだった。




