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呆気ない相手(お遊び賊討伐・その②)

「――ほいっ! と。街道外れると魔物も出てくるようになるね。でも大丈夫! E級相当のソルジャーラットなんてお姉さんの敵じゃないから!」


 盾で一度防御してからのカウンターという、堅実な戦法でネズミ型の魔物――ソルジャーラットを倒したエイプリル。どこか自慢気だ。


「頼りにしてるよ。あっ、また一匹倒したみたいだ」

「……るー君のそれ(・・)見た後だと、お姉さん凄く間抜けみたいだよね……」


 一方のギルベルトはというと、空に巨大な剣を召喚し、その切っ先から雷を落とすという例のトンデモ魔法で自動迎撃しているのだった。


「な、なんかごめん。僕もちゃんと戦った方がいいかな?」

「気を使わないでるー君! それもっと悲しくなるやつだから!」


 魔物との遭遇戦を終わらせ、戦闘態勢を解除する。するとエイプリルは、またも剣の大英雄に質問を浴びせかけてきた。


「質問質問! 神雷剣で雷の魔法を使った時って、どうして巨大な剣が空から現れるのですかっ。こんな魔法、お姉さん見たことありません!」

「それは僕にも説明出来ないかな。僕が魔法を使うと、大抵剣の形を取る、というだけだよ」


 ギルベルトは神雷剣――刀身が短く、刃の青い剣を見せる。


「シンちゃん――コホン、神雷剣は、神から受け取った詠唱用の剣なんだ。だからこういう形状なんだけど……僕は雷の属性にも通じている」

「へーっ! 大英雄って、耐性もやっぱり高いんすか!?」

「一般的な耐性なら、軒並み高い方かな。特殊すぎる耐性は食らってみないと分からないけどね」


 ギルベルトは神雷剣をしまう。


「お姉さんは知っていたみたいだけど、英雄達の武器以外の特性とか、『属性』・『耐性』は、割と知られていないことだと思う。他の六人の英雄達も、大抵それに応じた切り札を持ってるみたいだし」

「いやいやっ、さすがの大英雄博士のお姉さんも、るー君の特性しか知らなかったし半信半疑だったよ。愛剣の特殊な形状からもしかしたら~、何て思ってただけで。へー、剣の大英雄が雷魔法を使うっていう逸話は、本当だったんだねっ」


 大英雄博士のエイプリルでも、知らないことはあるらしい。新たな発見に興奮を抑えられないエイプリルなのであった。


「――さ、お姉さん。敵の野営地(アジト)に着いたよ」


 そうこうしている間に、二人は山賊の野営地に着いていた。非常に簡単な作りというか、たき火を囲んだだけのキャンプだ。そこに四人の男達が座っていた。


「う、うぅ、山賊……D級のお姉さんには手の余る相手っ……!」

「そんなに震えてどうしたの、ネズミの時は震えてなかったのに。先行くよ」

「えっ、行くって真正面から!?」


 途端に震えだしたエイプリルを置いて、ギルベルトは正面から乗り込んだ。


「ん、ガキ? なんでこんなところにガキが――おいお前、俺達の縄張りに何か用か」

「うん。襲撃しに来た」


 ギルベルトはそうとだけ伝えると、早速手前の一人を木剣で戦闘不能に陥れていた。


「な、なんだこのガキ、つえぇ!?」

「エイプリルお姉さん、僕が全部倒しちゃうけどいいの?」

「え、えーっと……どうぞ」


 了承を得たギルベルトは楽しそうに笑った。それを見たエイプリルはこう呟く。


「るー君って、絶対戦うの好きだよね……」


 戦いを離れたいと言う割りに先陣切るギルベルト。

 どう見ても、戦うことが大好きとしか思えない姿なのだった。


「おらぁっ! ――って、木剣が俺の鉄斧を受け止めやがった!?」

「斬撃耐性高めの武器かもしれねぇ! べ、別属性をで攻めろ!」

「だ、ダメです兄貴! 俺の土属性魔法も真っ二つですっ!」


 次々襲い来る山賊の攻撃を、木剣一本で全て防ぐ剣の大英雄。

 彼の剣は、あらゆる『属性』攻撃を、その高い『耐性』で弾いていた。


 ――この世界には『属性』と『耐性』が存在する。


 『属性』とは、攻撃する際に宿る力の種類のことで、雷や火で攻撃すれば雷属性、火属性となり、剣で斬った時には斬撃属性となる。


 『耐性』とは、それらのダメージを軽減する防御能力のことだ。高い耐性を持つほどダメージは軽減され、例えば剣で切られても、四肢切断を免れたり、火だるまにされても炭にならずに済むといった具合になる。

 属性と耐性は必ずしも一人に一つというわけではなく、特に耐性はいくつも備えている者の方が普通である。先天的に備えていることも多いが、後から努力したり、装備で補ったりすることも容易に可能。特化すれば強いかというと、必ずしもそうではないというところが、強さを追い求める者を悩ませる要因にもなっていた。


 そしてこれら属性と耐性は、実質無限に存在する。雷や火のようなオーソドックスなものもあれば、全くポピュラーではない、未知の属性も存在したりするのだった。


「まぁ別に、お兄さん達程度なら属性耐性なんて関係ないけどね」


 軽い調子で言うギルベルトは、瞬く間に山賊達を退治していた。


「しゅ、しゅごい……私だったら勝てそうにない相手を、数秒で倒しちゃった……」

「あ、これかな盗まれた剣って。特徴がそれっぽいよ」


 エイプリルが呆気に取られていると、ギルベルトはすでに剣を見つけ出していた。


「ふむ……良い剣だが、惜しいな。修理というか、刀身を全て取り替えているみたいだな。前の刀身(かお)も見たかったが」

「あ、あれ、るー君の喋り方が子供っぽくなくなって……?」

「む……そうだな、こちらも説明しておくべきか」


 剣のことになると素が出てしまう剣の大英雄は、そのことについても説明しておこうと考える。切り出そうとした時、この場に先程の商人が現れた。


「す、すみません冒険者さん、やはりお一人で――しかもお子さまも連れている人だけを行かせるのは忍びなくて、我々も急いで追いかけて来たのですが……ま、まさか、お一人で全て倒してしまうとは」

「あ、あはは、倒したのは私じゃないんですけどね……」


 商人は五人のうち二人だけを馬車に残して、ギルベルト達を追いかけて来たようだった。戦闘現場を目撃されたわけではないので、エイプリルが倒したと思っているようである。


「はいおじさん、剣あったよ。――良い剣だね。大事にしてあげてね」

「こ、これです、これが父さんの剣です! ああ良かった、傷も付いていない」


 ギルベルトが剣を渡すと、商人は大事そうにそれを抱えた。剣が大好きなギルベルトだが、全てを自分の物にしたいと思っているわけではないのだ。ただちょっと、惜しい顔をしてはいるが。


「冒険者さん――それに、坊やも。本当にありがとうございました! これで心の支えも取れました、安心して家に帰れます」

「それなら良かったです! ……後はその、ちょっとばかりのお礼をしていただければ、ね……!」


 エイプリルはそれとなく代金を請求する。今は借金を背負う身、少しでも足しにしたいところだったが、彼女の表情はなんだかいやらしかった。


「す、すみません、お礼をしたい気持ちは山々なのですが、今は手持ちがなくて……商人でありながら、お恥ずかしい話です」

「い……いえいえ、全然いいんですよーっ! あったら良かったなー的な感じだったので、お気になさらずでオッケーです! ……はぅ……」


 さすがに彼女は、偽ギルベルトみたいな高圧的な態度までは取らない。交渉が決裂に終わり、がっくりするエイプリルなのであった。


 街道に戻ると、商人一行とは向かう先が異なるため、途中で別れた。捕らえられた山賊達だが、商人が馬車に乗せ、立ち寄る先の然るべき機関に突き出すとのことで、彼らに任せることになった。


「はぁ~、惜しかったなぁ。山賊捕らえたとなれば、ちょっとは私の評価も上がってそうだったのに、連れ帰る手段がないなんて」

「倒したの僕だけどね」


 夜が訪れ、街道の近くでたき火に当たるギルベルトとエイプリル。ちょっとした寄り道をしたこともあり、目的地の街まではもう一日はかかりそうだった。


「気分を切り替えて今日はもう寝よ寝よ! ――さっ、おいでるー君。今日もお姉さんの胸の中で寝ていいよ」

「ああ、そのことなんだが――君に話しておきたいことがある」

「なぁにるー君。っていうか、また口調が……」


 同じ毛布に招こうとするエイプリルに、ギルベルトはあることを切り出す。


「実は『俺』、中身はおっさんなんだ」

「……ほぇ?」

「おっさんなんだ。五〇のな」

「ほえぇぇぇぇ!?」

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