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大英雄の力(お遊び賊討伐・その①)

 それから二日後に、従来の後発組である冒険者パーティがアクトン村にやってきた。

 しかし、倒す予定だった魔物のボスはすでに黒焦げで、辺りには一〇〇匹を越える魔物の死骸まで転がっている始末。


 更には全身バキバキにされた、賊まがいの男達が縛られていたりと、全く理解が出来ない状況に、彼ら冒険者パーティは首を捻りまくっていた。


「無数の剣が空に浮かんで、そこから雷がピカーっ! て、ピカーっ! てなったんですよ!」


 エイプリルと村長が彼らに一連の出来事を話したのだが、特に村長のこの与太話には、ことさら首を捻る冒険者達なのだった。


 とにかく自分の仕事は終わったと、エイプリルは後始末を冒険者パーティに任せ、引き上げることとなった。無数の死骸をそのまま放置することは衛生的にも危険なので、彼らは引き受けてくれたものの、この村で起きたことには最後まで首を捻り続ける彼らなのであった。


 ――そんなこんなで数日が経ち、ギルベルトはエイプリルに手を引かれながら、グレンデールへと繋がる街道を旅していた。 


「ところでるー君! 七人の大英雄が仲悪かったって、本当ですか!」

「と、唐突だね。どうだろう、仲間同士になったら一緒に飲んだりはしてたけど、敵になったりしたら普通に命の取り合いしてたし――まぁそこそこかな」


 この世界に名を轟かす大英雄は、ギルベルトを含めて七人いた。主に使う武器によって呼称された七人は、それぞれ別の国だったり、または大義だったりで敵対することも多かった。


 だが、誰一人斃れることはなかった。故にこそ大英雄なのである。


「それ、そこそこなんだ……スケールが違うなぁ……」


 命の取り合いが普通と言われたエイプリルは、価値観の違いに驚く。


「急にそんな話なんて聞いてどうしたの? むしろお姉さんの方が詳しそうなものだけど」

「大英雄のことが好きだからね!」


 大英雄博士の本領発揮といったところだった。


「えっとえっと、次は聖剣の特性――あれ? あの人達どうしたんだろう?」

「立ち往生しているみたいだね」


 街道を旅する二人。停車したままの馬車と、それを囲む三人の旅人が視界に入ってきた。


「すみませーん、どうかされました?」

「おお、冒険者さんかい? いやどうもこの先で山賊が現れたらしくてなぁ。大事な商品を運んでるから、ちょっとここで様子見してるってわけですよ」


 彼らはどうやら商人らしい。山賊出没の情報を聞いて待機中とのことだった。


「うっ、山賊……る、るー君、危ないから私達もここでちょっと待とうかっ」

「分かった。ところで一つ聞きたいんだけど――」


 少年は、少し離れた岩陰を指さして言った。


「そこの岩陰で縛られてる人達は、何なの?」

「へっ? るー君何言って――」


 その瞬間、商人達が一斉に襲いかかってきた。相手は少年のギルベルトではなく、冒険者のエイプリル。隠し持っていたナイフで、彼女の方から無力化を図る。


「――はいおしまい。どうやら、この人達が山賊だったみたいだね」


 が、相手が悪かった。それは反応出来なかったエイプリルに対してではない。即座に状況を見抜いた大英雄が相手だったからだ。手にしていたナイフを全て木剣で破壊した後、賊は瞬く間に顎を砕かれ、気絶してしまうのだった。


「あ、ありがとうるー君……ひ、ひえぇぇ、お姉さん震える暇もなかったよ」


 ギルベルトはおもちゃの木剣を腰に差すと、先程指さした岩陰の方に向かう。そこには、本来の馬車の持ち主であろう縛られた商人一行がいた。


「た、助かりました! 帰る途中に回復薬の素材を取ろうと街道を少し外れたら、彼らに捕まって……!」

「……こ、この人達は山賊じゃないよね?」

「大丈夫だよお姉さん。そうだったら解放なんてしてないからね」


 捕まっていた商人と、その護衛ら併せて五人を解放するエイプリル。また騙されているのではと一瞬疑ったが、ギルベルトの一言で安堵する。


 見たところ彼らに怪我もなさそうだ。商品の確認をしに、馬車の方へ戻る。


「そ、それにしてもすごいね、るー君の剣――というか、特性? るー君が剣を聖剣とかみたいにしちゃうって特性(こと)だけど……やっぱり生まれた時から備わってるものだったの?」

「いや、いつからかは忘れたけど、いつの間にかそういう特性を持つようになっただけだよ」


 ギルベルトが敵の凶器を破壊したのは、村の物だったおもちゃの木剣・ウッディーだ。村を旅立つ時、子供達から餞別として受け取っていたのである。

 あげると言われた時のギルベルトの顔は、言うまでもない。


「そこはやっぱり文献通りだ。ちなみにその特性って、るー君が剣を手放しても残ったりするものなの?」

「いや、僕が握っている間だけだよ。手放した瞬間、剣は本来の性能に戻る。まぁ、数秒くらいは保つだろうけどね」


 商人の男性の後を追って馬車に戻る途中、エイプリルは聞く。大英雄博士の血が騒ぐのか、その目は輝いていた。


「はぁ……やはりアレは持って行かれてしまったか……」

「アレ? 何かなくなってるんですか?」

「はい……商品ではなく、私物なんですが……大事な物でして」


 馬車の積荷を確認し終えた商人は落胆した様子だった。

 そこでエイプリルは一つの事実に気付く。


「む、待てよ……持って行かれているということは、他にも山賊が!?」

「そうみたいだね。まぁ、僕はこれ以上手を貸すつもりはないけど」


 エイプリルは途端に震えだした。商人が続ける。


「冒険者を引退した父への贈り物として、考えたものなのですが……はぁ」

「うっ、こ、断りづらい雰囲気……でも、山賊退治なんて、この前D級に上がったばかりの私じゃ……」

「いいよ放っておこう。僕らには関係ないんだし」

「るー君、剣以外には本当に何も興味ないんだね……。でも、るー君は戦うの嫌なんだもんね。商人さんには悪いけど、ここは大人のお姉さんがちゃんと断らなきゃだね!」


 大英雄が乗り気でないなら、自分には手に余る相手だ。エイプリルは一言言ってこのまま立ち去ろうとしたのだが――


「父が大事に使っていた武器を修理したものなのですが……あ、ちなみに剣です」

「手を貸そうお姉さん。これは一大事だ」

「変わり身早っ!」


 剣大好きおじさんのギルベルトは、剣という単語一つで態度をころりと変えるのだった。

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