終幕間際のサプライズ
「みんな聞いてくれ! 街に入った山賊はさっきの天変地異であらかた片付いた! だがまだごく少数が残ってる! 無事な冒険者と騎士で共闘して、その残党を完全に排除するんだ、頼んだぞ!」
意識を取り戻したアプリコットが指示を飛ばす。一時後退していた冒険者と騎士団は手を組んで、最後の詰めに取りかかるのだった。
「ふぅ。しかしギルベェ、お前が建物ごと貫く威力の雷落としてくれればそれで済む話なんだが。非常事態だし、借金のことは考えなくてもいいんだぞ」
「シンちゃん……帰ったらぴかぴかにしてあげるね……もう二度と辛い目には遭わせないからね……」
「シカトかい」
ギルベルトは全く話が耳に入っていなかった。神雷剣に頬を寄せ、ブツブツと言っている。この男は本当に剣にしか興味がないのである。
「ま、まぁまぁボス。ヨハンは縛ったし、とりあえず私達は、ギルベェ君が生き埋めにした避難所の人達を助けに行きましょう」
ギルベルトは一度地下室に避難させられていたが、そこを脱出する際に建物で出入り口を塞いだ件がある。少年はヨハンとの戦闘直後にそれだけ伝えていて、他にも、困難に直面している住民を助けるために、冒険者達は行動を起こすのだった。
◇
一通りの人の救出と、山賊の残党退治を終えた一同は、空いたままの街の門に集まっていた。
「ここも全て片付いた。そっちはどうだ、アンナ、エイプリル」
「問題なしだよボス!」
「逃げた奴とか潜んでる奴とかもいるんでしょうけど……そいつらはいつか私が見つけ出して、必ず炙り出してやるわ」
「シンちゃん……」
報告の最後、欠けた剣を未だに気にするギルベルトはすっかり消沈した様子だった。
門周辺を固めていた山賊は、騎士団突入の時にほぼ殲滅されていた。この戦争における最激戦区の場所だ。
そんな壮絶な場に、似つかわしくない格好をした人物が現る。声を掛けられるまで、この場の誰も気付きはしなかった。
「すみません、道を伺ってもよろしいでしょうか」
「お安いご用だ、あたしはこの街のギルド長――って、何だぁ!? こんな状況であんた何聞いてくれてんだ!」
「救援……じゃなさそうね。一人だし、何より武器も鎧も……っていうか、えらく胸元ざっくり開いて、気合い入った『ドレス』よね、それ」
突然道を尋ねてきたのは女性だった。二〇歳のエイプリルより、一回りは上かもしれないくらいの、大人の色香を放つ女性。その服は大胆に胸元が開いて谷間が見える、白のパーティードレスだった。
「ここがグレンデールでよろしいのですよね。聞いた話では平和な街のはずですが、煙が見えてるので。戦争中かとお見受けしますが」
「どんな服で旅してるんだ……あたしが言えたことでもないが。まぁそれはいいとしてだ。戦争中と分かってるならどうして立ち寄った。あたしら冒険者ならまだしも、普通近寄らないだろ」
「大事な用がありまして」
丁寧な口調で、何だか掴み所のない会話をする女性。長くパーマがかった髪をアップスタイルでまとめ、眼鏡をした様は出来る女性といった雰囲気だ。切れ長の目と暗めの色の髪は、クールさを引き立てていた。
「変な女ね。実は山賊の仲間だったりして。……エイプリル、さっきから黙ってどうしたの?」
「う~ん、何かあの人見たことあるんだよなーって。見たことあるっていうか、こういう特徴した人の本を、何度も読んだことあるというか」
アンナはそれを聞いて、笑いながらこう言った。
「あんたが何度も読む本なんて、大英雄関連のものしかないじゃない。それがどう――」
「ああああああっ!! お、思い出したああああっ!!」
エイプリルは大声を出して驚き、ガタガタと震えだした。その時、別の叫び声が一帯に響き渡る。
「た、助けてくれぇ! 山賊が!」
「う、動くなよてめぇら! そこを退いて、俺を外に逃がせ!」
「山賊の残党! ちっ、人質を取られたか、ありゃ本物の住人だ!」
山賊の残党が一人、付近の建物から現れたのだ。住民の男性に短剣を突きつけて、盾にするようにして脱出を図ろうとしていたのだった。
「全くあいつらは同じ手を……エイプリル、私達で気を引いて――ってエイプリル、聞いてる!?」
「『ドレス姿で戦場を渡り歩く』特徴――あわわわわわ……! ままままま、まさか……あのお方は、本物のっ!!」
全く作戦を聞いていないエイプリルは、道を尋ねてきた女性に釘付けだった。
「時間に遅れる女は印象悪いですよね。仕方ありません、片付けますか」
門付近に立っていた女性は、門の防衛隊が持っていたであろう弓を拾い、その辺りに落ちていた矢を一本だけ拾うと、矢をつがえた。
「エイプリル、ちょっとこの非常事態に何を見て……って、ちょっとそこの女! 人質がいるのに、弓を撃つつもりじゃ――」
そして、迷いなく山賊目掛けて弓を放った。距離も遠く、人質とも密着していた山賊だけを射るのは、ドレスを着たような常人では至難の技だ。
「弓の大英雄・シルビア様!!」
「シンちゃん、シンちゃん……ん? シルビア?」
エイプリルは弓を射た女性の名を叫んだ。ギルベルトはその名前を聞いて、我に返る。
放たれた一本の矢は、人質も、山賊すらも傷付けなかった。狙いは山賊が持つ短剣だ。矢は寸分違わず短剣にヒットすると、その刃の部分だけがぼろぼろに砕けた。山賊の手すら傷付けずに、解決してしまうのだった。
大英雄ならば可能な、常人ならざる技だった。
「ぼ、ボス、アイツに凶器はもうないみたいですけど」
「か、確保ーっ! 人質最優先で確保しろーっ!」
山賊を取り押さえ、人質の安全を確保した後、アプリコットはその女性に礼を言う。
「た、助かったぞ、旅の人。まさか、あんな離れ業見せられるとはな。大英雄シルビアか……あんた、本当に援軍ってわけではないのか?」
「そんなどうでもいい理由で来たわけではありません。別の用事で大学都市から来ました」
彼女こそは弓の大英雄シルビアだった。アンナが大学都市にいるかもしれないと言っていたが、真実のようだった。そして援軍でもないのに、グレンデールにやって来た。
「じ、じゃあどんな用でやって来たのですかシルビア様っ! もしかして、大英雄同士引かれ合ったみたいな!?」
「エ、エイプリルお姉さん、僕に気付かれないようにしてほしいな」
この期に及んで正体を隠そうとするギルベルトは、エイプリルの背後に隠れて窺っていた。
「何しにですか。決まっています」
弓を地面に置いて、彼女は言う。
「――婚活です」




