呑気な男の子
「おい坊主、そうじゃない、もっと腰を入れて……こうだっ!」
「ふえぇ~ん、自分より年下に坊主って言われた~!」
分厚い鉄の扉の地下室に入れられたギルベルトは、剣を奪った少年二人を早々に負かすと、何故か剣の指南を始めているのだった。
「情けないぞ坊主! これならアクトン村の少年達の方が遙かにマシだったな。エイプリルお姉さんの指導の賜物か。……まぁ、そこまで褒められたものでもなかったが」
剣のことになると面倒臭くなる男、それが剣の大英雄ギルベルト。素の表情は隠すという設定を忘れ、こうやって頼まれてもいない指導役を買って出たのだった。
「あっ! おい剣を投げ捨てるヤツがいるかバカ、痛がってるだろ! ……おおよしよし、痛かったねウッディー……外の戦いが終わったら、きゅっきゅしてあげるからねぇ~」
「ふぇぇ~ん、こいつ頭おかしいよぉ~!」
あまりなハードトレーニングに子供は剣を投げ捨てた。石の地面に叩きつけられた木剣をすかさず拾ったギルベルトは、赤ん坊を抱っこするように両手で包み込む。
「俺ももう飽きた、やめるー」
「シンちゃんまで!? ……坊主共! もう一回指導してやるからそこに立て!」
神雷剣をも投げ捨てられてギルベルトは激怒した。周りは子供と女性ばかりで、この非常事態にも関わらずケンカする少年らを見て、少しだけ気が紛れてる様子だった。
だがその時、とてつもない轟音が頭上で鳴り響いた。今までに耳にしたことのない轟音に、それまでの空気は一変する。
「ね、ねぇ、今の音……もしかして山賊が中に入ってきたんじゃ……!」
女性の一人がそう言うと、不安の波は一気に伝播した。体を寄せ合って人々は震えていた。
「しまった、遊んでいる場合ではなかったんだった」
そんな中、一人だけ涼しい顔をする少年がいた。ギルベェこと、剣の大英雄ギルベルトである。神雷剣を腰に差した彼は、おもちゃのウッディーを右手にこう言った。
「そういうわけで、ちょっと行ってくる。みんなはここで大人しくしてるんだよ」
「行ってくるって、扉の開け方は――」
もちろんそんなことは知らないので、ギルベルトは木剣を横に一度払って、分厚い鉄の扉を意図も簡単に両断するのだった。
「おおぅ? おい見ろよ、なんか扉が開いたぜ!」
「ヒャハハ! 女がたくさんいるじゃねぇか!」
両断された扉の先には、すでに二人の山賊が侵入していた。門を突破したばかりにも思えたが、すばしっこいものである。
「この街の人間じゃなさそうだね。そこ退いてもらっていい?」
背後の女性達が極限の恐怖に襲われる中、ギルベルトはおもちゃの木剣で自分の肩を叩き、目の前の山賊に問う。
「はっは、ガキ、でけぇ口叩いてるとおめぇから殺――」
「退け」
ギルベルトは、山賊が喋り切る前に木剣を振るっていた。二人の男は竜巻に巻き込まれたかのように空を舞い、地下の天井を打ち破って彼方へとぶっ飛ぶのだった。
「お、ちょうど良い出口が出来たな。ここから行くか」
「ちょ、ちょっと待って! 鉄の扉も天井も壊されて、私達はどうやって身を守ったら――!」
呆気に取られていた彼女達だったが、一人がもっともな意見を言う。しかしギルベルトは空いた天井をずっと見上げていて――落ちてきた二本の剣をキャッチした。それは、先程ぶっ飛ばした山賊が手にしていたものだった。
「坊主。さっき教えたこと覚えいているな? お前達がこの人達を守るんだ」
そして、それを先程指南していた子供達に差し出すのだった。
「ぼ、僕達が、ママを……」
「ま、守れるに決まってるだろ! 山賊なんか俺がやっつけてやる!」
大切な人を守りたい。その一心で子供達はその剣を手に取る。おもちゃの剣とは違い、鉄の真剣。そんなものを、ギルベルトは躊躇なく渡すのだった。
「心配しなくていい、念のため地上の建物で穴を塞いでおくから。全部片付いたら開けに戻るから、早まった真似はしないようにね。――それじゃ、行ってくる」
ギルベルトはそれだけ言い残して、天井の穴からひとっ飛びで地上に出た。約束の通り、建物を切り裂いて穴を塞ぐ。実に簡単そうに捌いていたが――考えられない技だった。
「……ヤバイ、これってやっちゃいけないやつだったかな……き、緊急時だし借金増えたりしないよね……」
今さらになってそんなことで冷や汗をかくギルベルト。鉄の扉は山賊がやったことにしようと今から考えるのだった。
「火の手が上がっているな。門を突破されたのは火を見るより明らか、というやつか」
ギルベルトは木剣を片手に、戦いの嗅覚を研ぎ澄ませる。近くで、剣戟の気配がした。
「――さて。とっとと終わらせて平穏な生活に戻るとするか」
英雄とは窮地を救った者の称号。彼は、最も窮地に陥っている人の元へ向かう。




