A級冒険者・アプリコット
「後退だ、後退しろお前ら! 一度立て直せ!」
「ダメよボス、みんな混乱して誰が味方か見失ってる!」
防壁の中から街中へ脱出したアプリコットは周囲の冒険者に指示を飛ばす。しかしアンナの言うとおり、乱戦状態と混乱状態に陥った彼らには、満足にその指示は届いていなかった。
「こんな状況じゃ門はもう奪い返せない! 一旦後退を――くそ、ダメか! 冒険者の悪い癖だ、自分勝手に戦いやがって!」
冒険者は簡単にはやられはしなかった。侵入してきた多くの山賊を討ち取るが、引き際を見誤っていた。個々の能力は高くとも、統率の取れた戦略行動には慣れていないのだ。歯噛みしたアプリコットは、苦渋の決断を下す。
「ここにいるあたし達だけで後退するぞ! 無事な冒険者をかき集めながら、街の中で迎え打つ!」
「了解ボス! 魔力も全回してる……私が道を切り開くわ! 〝ファイアストーム〟!」
アンナが魔法で門からの追撃を振り払う。イムセル兄弟は門を破壊してから激しい抵抗に晒されて動けなかったが、その激しい抵抗をくぐり抜けたイムセルの配下達は次々と押し寄せてきていた。
「突破され始めてる……! 前線に取り残された冒険者達は……もう……!」
「考えるな、アンナ! 奴等に勝って、私達で取り戻す! いいな!」
アプリコットがアンナを一喝する。一番堪えているのは彼らに慕われていたアプリコットなんだ、と、歯噛みしているギルド長の姿を見て、アンナは自分を取り戻した。
「集まったのはこれだけか……! まだ街中には、エイプリルみたいに警戒の任に当たっているだけの奴もいるはずだ、探して合流しろ!」
山賊の襲来という非常事態には、およそ戦力にならなそうなエイプリルも動員されている。幸いなことに任務は街中の警戒なので、恐らくまだ無事だと思われるだろう。アプリコットはそれらとの合流を指示し、冒険者達は走り出そうとした。
「待ってボス、あなたは――」
だがアプリコットだけはその場から動かなかった。振り返らずに、その小さな背中で語る。
「あたしはここで、イムセル兄弟を迎え打つ」
大斧を片手にした彼女を、アンナは無謀だと止める。
「ボス、いくらあなたでも無茶よ! 敵はイムセル兄弟だけじゃない、その配下も数千といるのに、一人で迎え打つなんて――」
「お前があたしの心配をするなんて、偉くなったもんだ」
顔だけこちらに振り返ったアプリコットは、不敵な笑みを浮かべる。そして、こう宣言した。
「あたしはA級冒険者アプリコットだ。山賊集団の一つや二つ、一人で壊滅出来るレベルの女だぞ」
小さく、年端もいかないような見た目の少女。だがその背中は、誰よりも大きく見えていた。アンナはその迫力に圧され、まだまだ敵わないなと、苦笑いを浮かべるのだった。
「アンナ、後のことはお前が指揮しろ。白き魔女と謳われるお前なら、みんな付いて来るはずだ。――って、だ、誰だ今あたしの名前を呼んだ奴は!?」
「あなたですよボス。……分かりました、あなたの指示に従います」
自ら名前を言ったことにキレるアプリコット。いつもと変わらない彼女の様子を見て、アンナは最後にこう伝える。
「……これが終わったらボス、私のB級昇格の話、忘れないで下さいね」
「んむ。全部の書類すっ飛ばして、一番に処理してやる」
約束を交わして、アンナと他の冒険者達は散っていく。エイプリルらと合流し、上手くやってくれるだろうと、アプリコットは彼女達を信じる。
目の前の土埃から、無数の人影が映る。一人だけとなったアプリコットに向かってくる。
「さてと。ここまでやってくれた礼は、あたしの全力で返させてもらおうか!」
大斧を担ぎ上げる。少女の全身に、白い戦化粧が浮かび上がった。




