第9章:計画実行前日(下)
さくさくさく…
さくさくさく…
森の小道をランドは湖を目指して歩いていた。
とても静かで、とても懐かしい匂い。
この道はランドが、人間に追われ命からがら逃げてきた道。そんな思い出を噛み締めながらランドは歩いていた。
ふと、前方からクルシスの花の匂いがする。
湖が近い証拠だ。
湖に着くと、畔に咲いたクルシスの花を一生懸命に摘むプリムの姿が見えた。
「プーリームー!」
ランドは大声で呼び掛ける。プリムはランドの声に気づき振り向いた。
「ランド!」
プリムは手を止めてランドの方に歩みよる。手に持った籠の中には沢山のクルシスの花が綺麗に並べられて入っていた。
「どうしたんだ?急に花摘みなんて」
プリムは少し照れ臭そうにする。
「前に貰った花なんだけど…色々あって無くしちゃったから、今度は無くさないように一杯摘んでたの」
「そうか…じゃあ、頑張って摘んでくれな」
ランドは回れ右をして、帰ろうとするとプリムが呼び止めた。
「ちょっと待ってよ!それだけ?用があって来たんじゃ無いの!?」
「んー…別に」
実際、花摘みなど興味が無かったので無事でいたなら家で待ってても良いと思ったのだ。
「そうだ!ランドがクルシスと住んでた家を見てみたい!」
プリムの急な提案に少し戸惑ったが、ランドは快く引き受けた。
「じゃあ、こっちだ!来いよ」
そう言うと、ランドは紳士らしく手を差し出した。プリムは照れ臭そうに、差し出された手を握り歩き出す。
湖から少し離れた茂みの中をランドは歩き慣れた道の様に歩き出す。
プリムは何とかついて行く事に専念し、歩いていく。
しばらく歩くと、小さな洞窟があった。
ランドはそこで足を止めるとプリムの方を振り向いた。
「着いたよ」
プリムは頭にクモの巣など引っ掛け、息を切らしながらもランドの手を離し、頭のクモの巣を外し顔を上げた。
「入っても大丈夫?」
プリムは聞いた。
ランドは頷くと、先に洞窟に入って行く。
プリムは後を追い掛けるように中に足を踏み入れた。
穴の深さは2〜3m程度の小さな洞窟。
しかし、昔に何かが生活したような跡が今も残っていた。
洞窟の奥にはお墓が2つあった。
『かさんのはか』
『ろくすさのはか』
2つの墓にはこう書いてある。
「兄さん、母さん、ただいま!こっちは、俺の大事な人、プリムだ。よろしくな」
ランドはプリムの横に立ち墓にプリムを紹介した。
墓には、クルシスの花が植えられていた。しかも、とても珍しい色をした花だった。
「ランド…もしかして、字書けないの?」
プリムは墓に書いてある字を読みながら聞いた。
「えっ?間違えてるか?」
その質問にプリムは無言で、書き間違いを直した。
『かあさんのはか』
『ろく××さすのはか』
書き終えるとプリムは墓の前で手を合わせた。
ランドも一緒に合わせる。
そして、プリムは立ち上がり周りを見渡す。
壁に、何かが書いてあるので埃を振り払い壁の字を読んだ。
汚い字で間違いだらけだが、何とか読める。どうやら、日記?みたいな物であった。
『きょうは、ろさくすにいさんと、いっしょにかりでかけた。にいさんは、ごぶりんをごひきとうさぎをにひき。おれは、ごぶりんを1きひしかとれないかった』
プリムは自然と笑顔になる。小さい頃のランドの姿が見えてくる様だった。
端の方に枯れ葉が引いてある所があった。そこに、金色の毛と灰色の毛が少し落ちている。
ランドも立ち上がり入口に向かい歩きだした。
「俺、ここでルナ母さんの…俺の2番目?3番目?の父さんを殺したんだ」
ランドは座り地面を撫でた。プリムは返事をしなかった。
「父さんは、銃を構えて俺の目の前で母さんを殺したんだ。俺は、母さんを殺した人間の首を食い千切ってやった」
ランドは立ち上がり歩き出す。プリムもそれについて行った。
「外に出ると、何人もの人間が俺を囲んで銃を構えてる。俺は、ウルフになり人間を1人残らず殺した」
ランドは辺りを見回した。プリムは何も言わずに話を聞いている。
「俺の姿を見て家族に助けを求める者も居たが、俺は構わずに殺し続けた。その場に居た人間を殺しても後から後から人間がやってきた」
静かに聞いていたプリムは口を開いた。
「ランド…もう良いよ」
「俺は結局、人間に助けられ人間らしい生活に戻った。ただ、まだ心の奥底で人間に対する恨みは消えない…」
「ランド…」
「そんな俺が、この国を救う英雄だ?人間を助ける勇者だ?俺はただの殺戮者だ!明日、また人間を1人殺す!それも、昔の仲間だ!」
「ランド…もう良いから」
プリムは顔を伏せた。
「なあプリム…」
ランドは振り返りプリムを呼んだ。
「俺はコレでも人間か?それとも、化け物か?」
ランドは空を見上げて獣人化をする。
「ランドは人間よ!化け物でも狼でも無い!普通の人間!誰が何と言おうが、私はずっと一生ランドを人間と呼ぶわ!」
プリムは顔を上げるとランドの方を向き、力一杯叫んだ。
「そうか…ありがとうプリム」
辺りは少し日が暮れてきた。真っ赤な夕日がランドを照らした。
「プリム…ありがとう。さぁ、帰るかっ!」
ランドはまた回れ右をして獣人化を解いた。
「私だけじゃない…ソフィア以外はみんなランドを人間と思ってくれるわ」
プリムは静かに話す。
「ああ…ありがとう。…本当に…ありが…とうプリム」
プリムの前で泣くのは辞めようとしていたのだが、もうプリムに会えなくなると思うと自然に涙が出てくる。
プリムの方も急にランドが泣き出したので驚き訳を聞こうとしたが、必至に我慢しているランドを見て気付かないフリをしてあげる事にした。
森の入口に着く頃には、すっかり辺りは暗くなっていた。
家からは美味しそうな匂いがする。ランドは急に空腹を覚えた。
「ランド、もしかして凄いお腹が空いてるでしょ?」
ランドの思考を読んだかの様にプリムは聞いた。
「な…なんで、分かった!」
ランドは少し照れたように後退りをした。
「だって、今すっごいお腹がなったのが聞こえたよ」
プリムは笑う。
「違う!それは、何かの鳴き声だよ!」
ランドは何をそんなに隠したがってるのかがよく分からないが、必至に弁解をする。
「あーそう。じゃあ、ランドの分のご飯食べちゃおうっ」
プリムは急に家まで走り出した。
「ちょっと待ったプリム!別に満腹とは言って無いじゃん!」
後ろの方からランドの声が聞こえるがプリムは全力疾走をして家まで走る。
家の前まで着くと、ランドはすでにドアの前で待っていた。
「ふぅーやっぱり、勝てないかぁ」
少し息を切らせながら呟いた。
「まぁ、勝てたら逆に凄いんだけどね」
プリムが来るとランドはドアを開けた。
「ただいまー!」




