第10章:魂の拒絶
次の話でラストになります。
チュンチュン…
鳥達が目を覚まし、まだ日の昇らない朝方にランドは目を覚ました。
昨日の夜は、豪華な夕飯とルナ秘蔵の酒を振る舞われ一番楽しい時間を過ごした。
ランドは静かにベットから降りると隣で寝ているプリムの顔を見て、ソフィアの顔を見た。
2人は熟睡している。
ランドは音を立てずに、部屋から出た。
ソルとルルの部屋を覗き、最後にルナの部屋に入る。
「母さん…行ってきます」
寝ているルナにランドは声をかけるとまた音を立てずに部屋から出ていった。
そして、家を出て少し歩いたら振り返る。
丘の上に立つ小さな家。家族の家。
そして、もう戻って来れない自分の家。
ランドはその家を隅から隅まで見ると、城に向かって歩き始めた。
歩いていくうちに、日が昇り始めた。山と山の間から太陽が見える。
色々と思い出を思い出しながら歩いていくと、城が見えた。
その城の前に1人の男がランドを待っていた。
全身に鎧、大きな剣を掲げその男は待っていた。
「ランド…記憶が戻ったのか?」
その男──キッシュは言う。
「おかげさまでな」
ランドは軽く手を振り、答えた。
「そうか残念だ。なら、俺が今からすることを知っているな?」
「ああ!」
ランドは返事をすると、獣人化を始める。ウルフになった瞬間にキッシュに襲いかかった。
キッシュは重い鎧をしているのに関わらず俊敏な動きでランドをかわすと、剣を振りかざす。
ランドは振り下ろされる剣を片手でなぎ払うと、バランスを崩したキッシュの脇腹にパンチを1発入れた。
衝撃。
キッシュの全身に波紋が広がり鎧はバラバラに砕け散る。
「俺は、お前と遊ぶ為に来たんじゃ無い!本気でかかって来いキッシュ!」
キッシュを睨み叫ぶ。
「俺だって遊びじゃ無いさ!」
キッシュは獣人化を始めた。腕は丸太の様に太くなり、皮膚は黒い鱗が出てくる。
口は真っ赤に裂け目が青く光る。背中からは羽が4本生えてくる。
黒龍とグランドドラゴンの魂を持つキッシュ。
聖なる狼とその息子の魂を持つランド。
太陽が真上に昇る。城の方からざわめきが聞こえた。
城の前で、ドラゴンと狼が戦っているのを見れば誰だって驚く。
「ランド…俺はお前を殺す!」
キッシュが呟いた。
「キッシュ…俺はお前を永遠にぶっ殺す!」
ランドは吠えた。
「行くぞ!」
ランドは地を蹴りキッシュの懐に潜り込む。
「甘いんだよ!クソ犬が!」
キッシュは大きな口を開けランドの肩に噛みついた。鋭い牙がランドの肉に食い込む。
ランドはそれでも爪を突き出した。固い鱗に跳ね返されるが、それでも幾度と無く爪を突き出した。
キッシュはランドをくわえたまま首の力だけで、ランドを放り投げる。
地面に激しく叩きつけられ少し呼吸困難に陥った。キッシュはランドが倒れた場所に炎を吐いた。それを間一髪で避けると、キッシュから視線を外さない。
「どうしたランド?それで終りか?」
口から煙を出しながら、キッシュは聞く。
ランドは何も答えずにまた地を蹴る。
地面を砂埃を上げてキッシュに襲いかかる。
「何度も何度も…しつこいぞ!」
キッシュは手の届く範囲に砂埃が来るとその場所に炎を吐いた。
砂埃は炎を避ける様に2つに割れた。
「何!? 」
キッシュが驚いている隙にランドは背中に回り込むと斬撃を繰り出す。
斬撃がキッシュの背中を走る。そして、またランドの姿が消えると少し離れた所でまた砂埃が上がった。
「ちっ!スピード重視で攻める気だな!」
キッシュは砂埃が舞う場所に視線を投げた。
また砂埃がキッシュに向かい襲ってくる。
今度はキッシュが攻撃する前に4つに分かれた。
4方向からの攻撃。
キッシュは身を低くすると足を中心に1回転をした。グルリと回ると、巨大な尻尾が砂埃を払う。
「何度も同じ手を…」
頭上に衝撃が走った。4方向はただの囮。ランドはジャンプをし、キッシュの頭を上から強打する。
しかし、キッシュはそのまま上を向くとランドに向かい炎を吐いた。
さすがのランドも空中で避ける術を持っていなくそのまま吹き飛ばされる。
「ランド…今のは良い攻撃だったぜ」
キッシュはニヤリと笑った。しかし、その瞬間…
ブチッ!
鈍い音が聞こえ背中に激痛が走る。足下に羽が1本落ちていた。
「しゃべってる暇なんか与えない…お前を殺すまで」
いつの間にか後ろにいたランドの手は赤く染まっていた。
「貴様…!」
キッシュは尻尾を振り上げるとランドめがけて振り下ろす。
尻尾は地面に当たると、尻尾から小さな鱗の破片を飛ばす。
尻尾を避けたランドは油断していた。小さな鱗はランドの身体中に突き刺さる。
キッシュは動きの止まったランドを捕まえると地面に叩きつけた。そして、全体重をかけてランドを踏みつける。
ミシミシっと鈍い音が聞こえランドの体は"く"の字に折り曲がる。
更にキッシュは踏みつけようとするが、ランドは力を振り絞り足を受け止めた。
「ぐっ…おおおおおっ!」
受け止めた足をそのまま投げ飛ばす。
キッシュの体は宙に浮くとランドによって地面に叩きつけられた。
キッシュは直ぐに立ち上がりランドの方を向いたが時すでに遅し…ランドの飛ばした斬撃がキッシュめがけて飛んでくる。
キッシュは避けれないと判断すると、両腕を前に出しガードした。
耳元を斬撃が通り過ぎる音が聞こえる。
鱗が何枚か矧がされ微弱なダメージを負わされた。キッシュはガードを解こうとするが次々に斬撃が飛んできた。
「ちっ…このままでは」
キッシュはガードしたまま、ランドの姿を見ないで斬撃が飛んでくる方向に突進してくる。
ランドにとっては予想外の展開だったのだろう、斬撃を辞め避けようと足に力をいれた。が、血を流しすぎたせいか一瞬よろけた。
「ちっ!」
ランドは舌打ちをしたが、キッシュの爪がすぐそこまで来ていた。
ドラゴンの鋭い爪がランドの肩から脇腹をザシュっと音がすると血が噴き出す。ランドは体を支える様に半歩後ろに下がるが、さらにキッシュは爪を下から上になぎはらう。
「かはっ…」
ランドはそのまま後ろに倒れた。
霞む視界に写ったのは、キッシュの尻尾。
ドスン!と音がすると、ランドは全身に衝撃を走らせていた。
「かはっ…げほっ」
呼吸をするたびに口から大量の血が流れる。
キッシュはランドの頭を片手で持つと頭を持ったまま地面に何度も叩きつけた。
やがて、ランドの体から力が抜け辛うじて呼吸をするのが精一杯になる。
「ランド…どうだ?俺の力は!」
しかし、ランドは答えない。いや、答えられなかった。
「そろそろ、死んでくれるか?」
キッシュはランドを地面に叩きつけてから少し離れた場所に蹴り飛ばした。
キッシュは大きく息を吸い出した。ランドは視線だけは、キッシュから離そうとしなかった。
ポツン…ポツン…
ランドの体に冷たい物が降りかかる。
ポツン…ポツン…
ランドは空を見上げた。
先程まで晴天だった空が、曇り空になっている。
ランドは空に向かって手を伸ばす。
ポツン…ポツン…
雫がランドの掌に乗る。
「死ね!ランド!」
口から最大級の火球を吐くと、一直線にランドに向かって飛んでくる。
火球は回りの草を取り込みドンドン大きくなっていった。
が、ランドに当たる直前に雨は本降りになる。火球は勢いを失わずにランドに直撃した。
火柱は雲を突き抜け天高く燃え上がる。
「はっはっはっ…どうだ?塵も残らず消え去ったか!」
キッシュは城の方に視線を投げた。もう、邪魔をする奴は居ない。後は、己の計画を実行するのみ!
「お母様!見て!あの火柱!城の方から出てる!」
プリムは走っていた。
朝、目を覚ますとランドの姿が見えなかった。
1人で戦いに行ったランドに少し腹を立てながら城に向かって走っている。ソフィアは背中にルナを乗っけて走る。
城が見えてくる。何かが戦っているのが見えた。
城の兵士達が、大砲やら銃やらをドラゴンに撃って戦っていた。
「あれは…キッシュ?」
プリムは城の少し前らへんまで来て止まると呟いた。キッシュは城を破壊しようと、火球を貯めては城に向かって吐く。
大きな城は4分の1破壊されていた。
「お兄ちゃんはどこに居るの!?」
ソフィアは叫んだ。
プリムは回りを見る。嫌な予感がした。
「やっと、お姫様が登場したか」
キッシュは振り向いた。
ズシンと足音を立てて、向かってくる。
「プリムさん!危ない!」
ソフィアはルナを降ろすとプリムにとびかかった。プリムは、ソフィアに呼ばれるまでキッシュの存在に気付かなかった。
もう、すぐ側で爪を振り上げている…
「2匹目だ!」
2匹目?どういう事?1匹目は…
考えてる暇など無かった。爪は真っ直ぐにプリムに向かって飛んでくる。
プリムの目にはスローモーションの様に光景が写った。急に目の前に鮮血が飛ぶ。ルナが叫んだのが聞こえた。
プリムは顔を上げる。視界には、白い狼がプリムの前にいた。
ザシュ!
ソフィアは吹き飛ばされる。ソフィアの白い毛並が真っ赤に染まっていた。
「けほっけほっ……」
セキをすると口から血が出てくる。
プリムは立ち尽くしていた。何が起こったのか理解出来なかった。
「ソフィアちゃん!」
ルナはソフィアの元に駆け寄ると、傷口に手を当てて必至に血を止めようとする。
「王女…事態が理解出来て無いようだな。今、理解させてやる」
キッシュは大きく息を吸うとプリムめがけて火球を吐いた。
私…死んじゃうの?
目の前まで、火球が飛んできた。プリムは目を閉じて叫んだ。
「ランドー!!!」
火球はプリムに直撃をするとまた火柱を上げた。
「くぁっはっはっはっはっ」
キッシュは高笑いをする。が、急に激痛を覚えるので、背中を見ると最後の1本の羽がもぎ取られていた。
「何だと!?」
雨の中、ソフィアの片隅にランドは立っていた。
ランドはプリムを抱きかかえていたが、地面に降ろすとソフィアの頭を撫でた。
ソフィアは光に包まれて、傷口が癒えていく。
「ランド…こんなにボロボロで…」
ルナはランドの姿を見た。少し焼け焦げた後や、体についた爪痕。血は固まっていたが、雨で流される。
ソフィアの傷が完全に癒えるとキッシュに視線を戻した。
「貴様…どうやってアレから逃げたんだ?」
ランドは答えなかった。もう、喋る事も出来ないくらいダメージを負っていた。
雨の中、斬撃がキッシュに向かって飛んでくる。
「今更、こんなもん…」
キッシュは片手で斬撃を振り払おうとしたが、斬撃は雨を纏い鋭い刃の様になっており、キッシュの腕を切り飛ばした。
「何!?」
次々と斬撃がキッシュめがけて飛んでくる。キッシュは避けようとするが、回りの水が邪魔をするように感じた。
「何だ…コレは!」
キッシュの体に爪痕が付いてくる。鮮血を飛ばして、キッシュは悲鳴を上げた。
ランドは最後の力を振り絞り、動けないキッシュの懐に潜り込むと体を貫いた。
返り血が辺りに飛ぶ。
ランドの手の中には、キッシュの心臓が握られていた。まだ少し鼓動をしている。
ランドはそのまま握り潰した。そして、手を体から引き抜いた。
心臓の中からは、紫色の石と緑の石が入っている。
キッシュの体は、"再生"を始めている。
"破壊"は出来ない。
ランドは2つの魂を見つめている。もう後戻りは出来ない…
コイツが"再生"したら、もう倒す術は無い。
ルナはそんなランドの姿をじっと見ていた。もし、自分が代われたら…そんな事を思っていたが多分無理であろう。
魂を持っていない人間が魂を食べようとしても意味が無いと言うことをルナは知っていた。
ランドは意を決して2つの魂を噛み砕いた。そして、体に取り込む。
途中まで"再生"していたキッシュの悲惨な悲鳴が聞こえた。
「グァァァァ…ランドォォォ…」
「キッシュ…またな」
ランドは体が溶け始めたキッシュに向かって手を振った。
空は雲の間から太陽が顔を出してくる。雨はいつの間にか止んでいた。
眩しい…ランドは空を見上げる。太陽はランドを照らしてるかの様に出てきた。
「プリムちゃん…ソフィアちゃん…起きて!」
ルナは2人を揺り起こした。
「んっ…あれ?終わってるの?」
プリムは顔を上げて辺りを見回す。隣でソフィアも起きてきた。
「傷が…治ってる…お兄ちゃん?」
少し離れた所で、ランドは獣人化したまま立っていた。身体中に傷が残っていて立っているのもやっとの感じである。
「プリムちゃん、ソフィアちゃん。アレは私の息子よ…」
ルナは泣きながら話す。
「私の大事な息子よ…」
「お母さん!どうして泣いてるの?」
ソフィアはルナに駆け寄った。肩を支えるとルナは泣き崩れた。
「プリム…ソフィア……母さん…今までありがとう」
ランドは何度も礼をした。
「ランド…意味が分からない!どうして!?もう会えないみたいな事を言うのよ!」
プリムが叫ぶ。
ランドは目を閉じる。体の中で何かがざわめいている…。
体に4つの魂を入れ、次第に拒絶反応が始まった。心臓の鼓動がいつもより高く聞こえる。
ランドは顔を上げて獣人化を解くと、3人に笑顔で話す。
「俺は、また戻ってくる!必ず…だから、少しの間だけ待っててくれ!」
ランドの目から涙が溢れた。
ルナは泣くのを辞めて顔を上げた。最後の別れ…笑顔で送ってあげよう。
「ランド…早く帰って来なさいね」
精一杯の笑顔でランドを送る。
「お兄ちゃん、また何処かに行っちゃうの?なら、早く帰って来てね!」
「ランド…すぐ迷子になるからなぁ〜…。帰って来たら、とりあえず1発殴らせて!」
ドクン…ドクン…ドクン…
「ああ…またな」
ドクン…ドクン…
ランドは後ろを振り向くと歩き出した。もう、後ろを振り向く力も残っていない。
ランドは自分の手を見た。ヒビが入り今にも崩れそうになっていた。
身体中にもヒビが入ってきた。魂が拒絶しているのであろう…
次第に意識も無くなってくる。
歩く力も無い…
少し休もう…
ランドはその場に倒れた。力が入らない…
ランドは目を閉じる…
皆さん、ここまで付き合って頂きありがとうございました。次回は本当の最終話です。




