第3章:グリムドラゴン
第3章
ただ広い廊下をキッシュはなりふり構わず走る。その後をランドは追い掛けていた。廊下の脇には甲冑が立っていたのであろう…。爆音と振動で、甲冑は首が取れて倒れていた。
「なぁ!アイツって誰なんだよ!」
ランドは前を走るキッシュに向かって叫ぶが聞こえているのか無視して走り続ける。
その時だった。先の方で女の悲鳴らしき物が聞こえた。キッシュはその場へと向かう。
ランドは嫌な予感がしていた。嫌な感じや、変な臭いが立ち込めてくる。後ろの方でミサオが走ってくる足音が聞こえる。それでも、ランドはキッシュを見失わないように走る。
すると、キッシュが部屋の前で立ち止まっているのが見えた。ランドがおいつくとキッシュがランドに話しかける。
「よお、この部屋の中に居るものが何だか分かるか?」
ランドは扉に鼻を近づける。何だ?この臭いは…。ザリガニとドブ川の水を足して2で割った上にペンキの赤と黒を入れた様な臭い…。
「この部屋に何が居るんだ?」
ランドは逆に聞き返した。キッシュは
「見て驚くなよ」とニカッと笑うと扉に蹴りを入れる。
ドカッと言う音と共に、扉は吹っ飛び砕け散る。キッシュが部屋に入ったのでランドも部屋に入る。部屋の中は、タンスや壁がグチャグチャに砕けていた。目の前では、クリスが腰を抜かして立てないのか何かを見ている。ランドはその何かを見てみると…
そこには、何メートルもあるようなドラゴンが立っていた。口は横に大きく裂け、血を滴らしたような真っ赤な舌。口から垂れているヨダレは地面に落ちる度に、ジュッと言う音を立てて消える。目は小さいが、真っ直ぐとランドとキッシュを見透かしている。
「これは…」
ランドが驚き言葉を漏らす。
「これは、"グリムドラゴン"。古代竜の一種で、史上最強とも言われてる飛竜だ」
「何でそんな物がここに?」
「コイツは金属と人間に宿った魂が好きなんだ…。この家は、金属だらけ…その中に魂を持った人間が2人居ればどうなる?」
「……!」
ランドは声にならない声を上げた。
金属に、魂が2つ…。キッシュは自分とランドを囮にこのドラゴンを呼び出したのだ。
毎日の様にランドを歩かせていたのは、キッシュがお金持ちの家庭を狙っていたから…。声をかけられ、その人が身に付けている装飾品や何やらで目星をつけて、どーでも良い理由をつけて家に忍び込む。
キッシュの狙いは、結婚詐偽でも金では無い。たった1つ。グリムドラゴンの魂……。
「さぁランド。暴れようぜ!アイツを殺して魂を奪うんだ!」
キッシュはニヤリと笑う。
「ちょっと待て!お前!それ以前に"魂"を持ってるじゃないかっ!それ以上魂を体に宿せば、お前のからだは…」
ランドは必至にキッシュを引き止める。
「心配してくれてんのか?相棒。俺は、2つの魂を体に宿したいんだ!心配するな」
キッシュは笑うと、獣人化を始めた。
背中からは翼が生え、キッシュもまた口が横に裂けて黒い光沢の肌が出てくる。体は、今より少しだけ大きくなる。
「"青眼の黒龍"…。それがお前の力か…」
ランドは呟くと獣人化を始めた。金色の毛の狼。
ウルフは目の前のドラゴンを見据える。
グリムドラゴンは、更にヨダレを垂らしている。
「ランド!お前はスピードでアイツをかきまわせ!力は、俺に任せろ!」そう言うと、キッシュはグリムドラゴンに向かって突進していく。
キッシュは力任せにグリムドラゴンの両手を押さえる形になる。ウルフはすかさず壁を蹴りグリムドラゴンの頭上に飛ぶと後頭部に蹴りを入れる。たいして効いていないように、頭だけこっちを向けて口を開いた。ウルフは頭からバリバリと食べられるかと思うほど、デかい口を開けてくる。しかし、後ろを向いたグリムドラゴンに今度は前からキッシュが炎を吐いた。
グリムドラゴンは驚き、また前を向くが後ろから斬撃が背中を走らせる。
ウルフはやって後悔をした。
グリムドラゴンの皮膚は思ったよりも堅く、爪がはぎとられるかと思う。
舌打ちをして地面に下り立つと上から尻尾が襲いかかってきた。ウルフは右に避けると、下を向いたグリムドラゴンと目が会う。ウルフは殺気を感じて更に後ろに飛んだ。先ほどまでウルフが立っていた場所にグリムドラゴンは紫色の息を吐く。紫色の息は、地面に当たるとジュワッと言う音を立てて周りの物を溶かす。
「気を付けろランド!そいつの毒の息に触れると、溶かされるぞ!」
キッシュはグリムドラゴンの両手を掴みながら叫んだ。そういう事は先に言ってくれ!と言わんばかりに舌打ちをする。
いい加減、体の自由を奪われるのが嫌になったのかグリムドラゴンは暴れだす。しかし、キッシュは暴れるドラゴンをずっと掴む。グリムドラゴンの短い足が地面をドスドスと辺りの物を砕く。
また女の悲鳴が聞こえた。ランドは忘れていた。地面にはまだクリスが腰を抜かして居ることに。
グリムドラゴンもクリスの存在に忘れていたのか、クリスを見つけるとその場所に毒の息を吐く。
ウルフはクリスにとびかかった。毒の息は、思ったより早くクリスの所に到達する。
間一髪…、ウルフはクリスを抱えて部屋の中をゴロゴロと転げ回った。いや、間一髪の様に見えたが実際はウルフの右足に毒の息を喰らっていた。
ウルフの右足は、ジュウジュウと音を立てて焦げた肉の臭いが辺りを包む。
「………っ!」
ウルフは激痛で悲鳴を上げるが、声にならない。
「ランド!」
キッシュはランドの方を向き叫ぶが、叫んだ時に力が抜けた一瞬を狙い、グリムドラゴンはキッシュを投げ飛ばす。
まるで、ボーリングの玉のように周りを破壊しながらキッシュは壁を抜けて外の庭まで転がる。
「オイッ!そこに隠れて見てるのは気付いてる!ミサオ!クリスを連れて逃げろ!」
ウルフはドア――元はドアがあった場所――の外で息を殺してこちらを観察していたクリスの妹のミサオに対して叫んだ。
グリムドラゴンが吠える。周りでカチャカチャやられて、怒りを表したようだ。口からは、毒の煙が漏れながら1歩1歩ランドの方へと歩み寄ってくる。
まだ、ミサオがクリスを抱えて部屋から出る途中…ランドは痛みを堪えてグリムドラゴンの方へと跳ぶ。顔の前にいきなり狼が現れたので、グリムドラゴンは大きく口を開けた。ウルフはおもいっきり開いた口を上から殴る。
ガチン!と音を立てて、口がおもいっきり閉まると、口の上に足をかけ半回転しながら脳天に踵落としを決めた。
クラッと後ろに半歩ほどよろめくと、ギラッとウルフをにらみつける。ウルフは両手を伸ばして、グリムドラゴンの口に捕まると更に上へと跳ぶ。
グリムドラゴンもつられて上を向いた瞬間!首におもいっきりキッシュが噛みついた。
キッシュの持っているドラゴンの魂は、青眼の黒龍と言われてるが、通称グランドドラゴンと呼ばれている。
"グランドドラゴン"
"スカイドラゴン"
"ソニアドラゴン"
"ミスイックドラゴン"
この4体のドラゴンは、4龍王と呼ばれており、更にその上の強さを持っているのが
"グリムドラゴン"なのだ。キッシュの持つグランドドラゴンは、グリムドラゴンよりは劣るがグランドドラゴンの牙は、世界中の生き物より固いと言われている。
そんな牙がグリムドラゴンの首の皮膚を突き破り、青っぽい血が吹き出してくる。
グリムドラゴンは口を大きく開けて悲鳴をあげる。ウルフは天井を蹴り、グリムドラゴンの背中に舞い降りると素振りを始める。何度も何度も…。
やがて、スピードは早くなっていき最高のスピードになった時に背中に1発パンチを入れた。今まで打ってきたパンチの衝撃が時差となりグリムドラゴンに襲いかかる。
1発のパンチではたいしたダメージにならないが、数百発のパンチの衝撃が背中を押せばグリムドラゴンは前に出るしか無かった。
前に出た時、更に首の牙が肉に食い込んだ。グリムドラゴンは声にならない声を上げながら泡を吐いてくる。そして……
ついには、その場へと倒れる。キッシュはようやく首から離れた。ウルフも背中から降りると、目を閉じて意識を集中させる。再び目を開けた時には、目は青く光り右足の傷を癒す。
キッシュはそれを尻目に見てから、倒れたグリムドラゴンの体を引き裂く。体の中に右手を入れて何かを引きづりだした。
それは、綺麗な紫色の宝石…。それを、ひと飲みにする。そして獣人化を解いた。ウルフも右足が完治すると、グリムドラゴンの方へと歩み寄ると、キッシュが引き裂いた腹から肉に食い付いた。
「おい…ランド?そいつの肉に毒が入ってるぞ?」
キッシュは話す。が時すでに遅し…ウルフは強烈な腹痛と吐き気に襲われていた。
「まったく…お前の悪食癖は直って無いんだな…」
そう呟き倒れて泡を吐き獣人化を解いたランドを担ぎ部屋から出ていった。廊下に出ると、腰の抜けたクリスをミサオが介抱していた。
「お嬢さん方、中にいる化け物は片付いたよ…アイツの皮膚や鱗を売ればこの部屋の修理代くらいにはなるだろ」
そう言い残すとランドを担いだまま玄関へと向かった。
「ちょっと待ってよ!」
ミサオが叫ぶ。
「あなた達…何者なの?犬になったり、ドラゴンになったり…ネズミ取り株式会社のリーマンじゃないの?」
「悪いが、俺達は目的の為にアンタらを利用させてもらった只の旅の放浪者だ…」
「じゃあ…お姉ちゃんとの結婚話は…?」
「ああ…だから、それは嘘だ。詐偽でも無いぞ。金は要らないし、女も要らない。俺が欲しいのは手に入れた。ランドももう必要は無い。後は、俺の次の目的を遂行するのみ」
「目的…?」
「ああ…。グランドドラゴン、グリムドラゴンを倒し魂を手に入れた。俺は、史上最強になった。これで、クルシスランドを滅ぼす事が出来る。目的は、我が主人…王の抹殺!アイツを殺し娘も殺し…憎きクルシスランドを滅ぼす!誰も俺の邪魔する奴は居ない…」
ミサオは腰が抜けそうになる。肩が震えていた。キッシュの凄まじい殺気を素人のミサオでも感じる事が出来たのだから…。
「何で…そんな事をするの?」
ミサオは力を振り絞り聞いた。
「俺はコイツが嫌いだ…」と肩に乗せているランドを見る。
「嫌…コイツの事は好きなんだが、嫌いなんだ。コイツは、俺の兄弟達を殺したからな。だから、コイツの好きな国を滅ぼすと決めた。コイツを殺しても意味は無い。コイツは嫌いだけど、俺のゆういつの友人だからな。俺の相棒だ…だから、最後に決着をつけたいんだ…。俺は最強の力を手に入れた。クルシスランドを滅ぼす。コイツは阻止しに来るだろう。最後の決着だ」
キッシュは言い残すと、玄関まで歩き出す。それ以上、ミサオは何も聞いて来なかった。ランドは気を失っていて今の話を聞いていない。
もう少しで終わります。




