第4章:野生児
第4章
はぁ〜…。プリムは大きくため息をついた。ここは、クルシスランドの王宮の一室。
「ランド…捕まっちゃったのかな…。ランドが罪も無い人を殺すなんて…」特に誰に話すと言った感じでは無く呟いた。
プリムはここ3ヶ月、成婚の儀の為にありとあらゆる貴族達とのお見合いをしてきたが、今だに決まらなかった。それは、プリムがお見合いの日になると何処かへ出掛けたり、相手の顔を見るや否や殴りかかる等の横暴に出るために次々と破談していった。教育係も手を焼いているようだ。
プリムは適当に新聞に手を取った。一番最初のデかいニュースを読んだ。
「なになに…スイス・マキバオ家に巨大なドラゴン現わる…。ドラゴンは史上最強とも言われるグリムドラゴン…しかし、たまたまクリスさんのお見合いに来ていた旅の貴族がドラゴンを倒す…現場にいたクリスさんは語る…か」
プリムは新聞に目を近付けて読みふける。
「えっと…、クルシス・ランドさんと言う方が、私と結婚をしたいと言う事で家に訪問中に凄い音が…。私はその時に部屋に居て、腰を抜かしてしまったのですがクルシス・ランドさんが颯爽と現れて金色の犬に変身し…金色の犬!?」
プリムは驚いた。世界中魂を持つ人を探しても金色の犬の魂を持つ者は一人しか居ない…。
「金色の犬って、ランド?クルシス・ランドって名前を改名してるのね?んっ?お見合い…?結婚…?何よコレ!!」
プリムは新聞をグチャグチャにしてやろうかと思ったが、直ぐに諦めてまた文を読み出す。
「もう一人の方は、黒いドラゴンに変身をする。変身をした2人は、ドラゴンに襲いかかる。そしたら、私の方にグリムドラゴンが毒の息を吐いてきたわ。私は腰を抜かしていて動けなかった。すると、ランドさんが私をかばう為に跳んできたの。
間一髪、毒の息は避けきれたの!でも、ランドさんは右足に毒の息を喰らってしまった様で…私は妹のミサオに連れられて何とか部屋の外に出られたわ…。数分後、ドラゴンの悲鳴が聞こえてキッシュさんがランドさんを担いで部屋から出てきたの…お礼を言おうとしたんだけど、彼らは直ぐに何処かへ行ってしまったわ。何か、ミサオに話していたけど…」
プリムは一息に読み終りため息をついた。スイス・マキバオ家はクルシスランドの反対側にある諸国の貴族。新聞に出ていたクリスやミサオとは、何度か会った事がある。
「ランド…」
プリムは呟いた。彼とはもう何ヵ月も会って居ない。騎士団長がランドを追い掛けて行った。やはり、捕まった瞬間に殺されちゃうのかなとプリムは思う。
ランドが人を殺す訳は無い…あったとしても、何か理由があるハズだ。プリムはランドを信じていたかった。例え世界がランドを見放しても…私はランドを信じ続ける。そう思っていたかった。
その時、ドアがノックされた。プリムは新聞をたたみその辺へ投げ捨てると返事をした。
「どうぞ」
ドアを開けると姉妹が顔を覗かせた。昔見たことがあるマキバオ家の長女と次女…。先程、新聞に出ていた2人だった。プリムは2人を部屋に招き入れた。適当に座らる。先に口を開いたのは、ミサオだった。
「あのね!あのね!何かキッシュさんが、クルシスランドを滅ぼすって言ってたから慌ててお姉ちゃんと来ちゃった」
ミサオは常に明るい性格。しかし、話を突然始める為にプリムは意味が分からなかった。
「えっ…キッシュって誰?」
プリムは聞き返す。
「キッシュさんは、城で騎士団長をしてるって言ってたよ。我が主人を殺すとも言ってた!だから、ここに来てるかなって思って来たの!お姉ちゃんは違う目的で来たけど…」
ミサオはチラっとクリスを見た。
"違う目的"の意味をプリムは感じとった。
今の話を整理すると、騎士団長――キッシュはランドと一緒に行動をしている。つまり、キッシュはランドを追い掛けた訳では無い。何かしらの理由があり、ランドと一緒に国を出た。そして、キッシュは国を滅ぼす為に戻ってくるはず…と言うことは、ランドも戻って来る。クリスはランドに会いたいが為に、滅ぼされると分かっていながらも来たのだ…と。
「もしかしてクリスさん…ランドに惚れちゃったの?」
プリムは恐る恐る聞いてみると、クリスは小さく頷いた。ライバル出現?最終巻で…。
プリムは苦笑いをした。
この世間知らずのお嬢様が、生肉を食べる人間を見てもそう言ってられるのかと思う。大抵の人は引くだろう…。プリムも実際に見た時は、引いてしまったが今でも上手く(仲間として)付き合っている。ランドは普通の人間じゃ無いと言う事を知っているのだろうか。いや、知っているハズだ。獣人になるところを見ているのだから…。
「あれ?プリムは、ランドさんの事を知ってるの?」
ミサオが聞いてきた。プリムは
「まぁ…一応」と曖昧に答えて見せた。好きと言う表現は今は見せない方が良いだろう。と言っても、結局最後には見せてしまう事になってしまうのだが…。
そんな雑談をしていると、またドアをノックする音が聞こえた。
プリムが返事をする前にドアが開かれると、銀髪の男が顔を覗かせる。
「プリム様!只今戻りました!」
男は部屋に入ってきてプリムの前で膝をついた。
「罪人ランド・ウルフを先程、逮捕しまして今は牢屋に入れております!」
と顔を上げた。
「あれ?キッシュさん。戻って来たんだ。でも、罪人って何の話?」
ミサオは首を傾げて聞く。
「コレはコレは、ミサオ様にクリス様。先日はお世話になりました。グリムドラゴン討伐にご協力感謝しております」
キッシュは立ち上がると両手を開いてミサオに振り返る。
「ねぇキッシュ…ミサオから聞いた話なんだけど…」
プリムは単刀直入に聞き出す。
「クルシスランドを滅ぼすって聞いたんだけど?そして、パパも殺すと…」
「ハッハッハッ…そうですが何か?」
キッシュはまるで何も感じないように気さくに答えた。
「そしたら、城に戻って来ちゃいけないんじゃ無いの?」
「プリム様…私は騎士ですよ?任務を遂行して、帰城して何がいけないのですか?」
「だって、計画がバレたんだから戻って来たら捕まっちゃうじゃん」
「大丈夫ですよ。心配しなくても。まだ、計画は実行致しませんので。もう少しだけお時間を頂ければ必ずや実行しますので」
キッシュは白い歯を見せて笑った。
「別に心配なんてしてないわよ!あーもー!意味が分からない!!」
プリムは頭をかきむしり叫んだ。
「それより、プリム様の大事な彼が牢屋に入ってますよ。会いに行ったらどうですか?久しぶりでしょう」
その言葉を聞きクリスの肩がピクッと震えた。"大事な彼"…確かにそう聞こえた。クリスが顔を上げた。プリムはちょっと気まずそうに明後日の方向を見る。
「ほらほら、プリム様。牢屋にいる"大事な彼"が脱走する前に会いに行ってはどうですか?」
ピクッピクッと震えるクリスを尻目にキッシュは微笑んだ。
「あなた…なかなか良い性格してるわね…」
プリムは呆れた感じに言う。
「ええ…これが本当の私ですから。そうそう、牢屋の彼は罪人ですので、クリス様とミサオ様の越権はご遠慮願いたいのですが…」
とキッシュはクリス達の方を振り向き微笑んだ。
「何でよ?別に良いんじゃない?」
「いえいえプリム様、もし、あの罪人がこの2人に何かをしでかしてからだと遅いんですよ。なので、会いに行かれるのは王女様だけでお願いします」
キッシュはプリムに頭を下げた。
「本当に良い性格してるわね…」
プリムは頭をかきながら言う。キッシュは頷くと部屋から出ていった。後に残るのは気まずい空気だけ。
「ん…ん〜と…じゃあ、ちょっと待っててくれる?直ぐに戻るからさ…」
プリムは空気に耐えられなくなり、呟いた。
クリスに反応は無かった。ミサオも何と無くボーっとしている。プリムは苦笑いをしながら部屋を出た。
長い廊下、長いカーペット、壁には押さない駆けない喋らないと書かれたポスターが貼ってある。
久々にランドに会えると言うのに、嫌なモヤモヤ感がプリムを襲っていた。
まぁ、とにかくランドに会えるんだ。もう何ヵ月も会っていなかった彼に会える。そう何度も何度も心の中で繰り返しモヤモヤ感を吹き飛ばそうとしていた。
長い廊下をひたすら真っ直ぐに進み、地下への階段を下りてまたひたすら真っ直ぐに行く。途中で、門番が立っている。プリムは今日入った罪人との面会と言うと、一応護衛が2人付きランドの居る牢屋へと案内された。
と言っても、牢屋は3個ほど並んでおり、その内の2個は空き家になっている。
プリムはひょいっと牢屋のドアに付いている覗き窓を覗きこむ。薄暗い部屋の隅で、手にかけられた手錠を噛み千切ろうと頑張るランドの姿が見えた。
「ランド!!!」
プリムは彼の名前を呼ぶが、彼は聞こえているのにも関わらず返事をしなかった。
「ランド?」
プリムは再度、彼に呼び掛けたが返事は無い。
「ねぇっランドってば!」
プリムは苛つきを覚え、少し怒った様に叫んだ。だが、返事は無い。
「ちょっと…ドアを開けてちょうだい!」
プリムはイライラしながら護衛についた兵士に叫ぶ。しかし、兵士は少し困惑した表情で答えた。
「それが…部屋に入る者に対して噛みつく等の行為をして大変危険な人物なのです。もう、何人も襲われています…まるで、野生の狼のような感じで、危険なので開ける事は出来ません」
野生の狼…?プリムは違和感を覚えた。ランドはずっと手錠を噛みついている。しかし、何かがおかしかった。今までの彼はもっとほんわかとした空気を出しているが、今の彼は周りに殺気をほとばしらせ自分が人間と言うことを忘れているかのような感じであった。
「ねぇランド…私よ!プリムよ!ランド聞こえてるんでしょ?返事をして」
プリムは何度も呼び掛けたが、彼は手錠を噛み千切る以外の行動を示さなかった。
「王女様、大事な彼の様子はどうですか?」
不意に後ろからキッシュの声が聞こえて振り向いた。
キッシュは笑いながら近付いてくる。
「面白いでしょ?記憶を無くし野生の狼に戻られた人間を見るのは」
「記憶を無くした?どういう事よ!」
「ランドは、人間との生活で弱くなった。こんなひ弱なランドと戦っても面白く無い。だから、ちょっとだけ記憶を細工して昔のランドに戻ってもらっただけですよ」
キッシュは笑いながら首を振った。
「そう…私の弟達を殺した時のようなあの殺気を取り戻して欲しかった。その為には、ランドが人間と暮らした13年間の記憶を奪う必要があったのですよ」
まさか…ランドが記憶喪失!!プリムはまたランドの方へと振り向いた。
「ランド…ランド!」
プリムは力の限り叫ぶが返事はしなかった。それが、自分の名前では無いと感じているかの様に。
プリムはキッシュの胸ぐらを掴み叫んだ。
「何が目的よ!あなたの目的はこの国を滅ぼすだけでしょ!ランドの記憶を奪う必要は無いでしょ!返してよ!」
プリムの目に涙が溜る。
あの時とは違う…目をさましているのに、自分が誰なのか分かっていない。「王女様…勘違いをなさらないで下さい。私は記憶を奪ってなどいませんよ。記憶を無くさせたのです。彼が人間と過ごした13年間の記憶を消去したのです」
「同じ事よ!同じ…事じゃない…」
プリムはキッシュを突き飛ばした。そして、顔をうつ向ける。
「王女様…私は、後1週間程で計画に移る気でいますが、それまでに、その野生児をどうにかした方が良いと思われます」
そして、キッシュは頭を深々と下げ挨拶をすると地下牢から出ていった。
プリムは再度ランドの方を見た。ランドは手錠を外せない事に腹を立て、牢屋の中で暴れている。もうどうしようも無いのか…と思った時、ふとソフィアを思い出した。
あの日、ランドが失踪した時、一緒に彼女も居なくなった…。彼女なら、何とか出来るのかと思いプリムは顔を上げると走り出した。
時間が無い……




