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冷遇された後妻ですが、義理の息子を守っていたらいつの間にか家族になっていました  作者: 秋月 爽良


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第二十八の手 俺の家族に手を出すな

「どういうことだ! 報告しろ!」


 レオニスの低く鋭い声が、張り詰めた空気の中に響き渡った。


「失礼します!」


 額に汗を浮かべたふたりの護衛が、部屋の中へと駆け込んでくる。

 彼らはレオニスの前に跪いた(ひざまずいた)。


「報告いたします! 現在、屋敷は軍の兵士と思われる集団に包囲されております!」

「軍の兵士だと!? ……数は?」


「およそ50名ほどかと……!」

「理由は何だ?」


「彼らが言うには『国家反逆の疑いあり』、とのことです……!」


 報告する護衛の声がわずかに震えていて、私は息を呑んだ。


「母しゃま……」

「起きたの?」


 屋敷中の物音に目を覚ましたテオを抱きしめる。


「すぐに他の護衛たちを呼んで、屋敷を守れ! エリシア、君はテオを連れてウォルターの指示に従うんだ、いいな?」

「わ、分かったわ……」


 護衛のひとりが顔を青ざめさせ、転がるように部屋を飛び出していった。


「ね、ねぇ、あなた。相手は他に何か言ってなかった?」

「奥様、彼らは旦那様の身柄を拘束したい、と申しております」


「拘束って……」


 国家に逆らうなんて、戦場に行っていたレオニスがするはずないじゃない。

 誰が、こんなことを……まさか。


「レオニス、もしかして叔父様が……!?」

「ああ、間違いないだろうな……だが相手は軍の兵だ。いま抵抗したところで、こちらが完全に不利になる」


 彼は前方の扉を見据え、すでに覚悟を決めているようだった。

 冤罪(えんざい)──拘束されれば、覆すのには時間がかかる……きっと長い時間が。

 

 あの叔父はその隙を狙って、私たちを潰しに来る……!


「……旦那様」

「ふん、来たか。通してやれ」


 ウォルターがレオニスに耳打ちすると、彼はこれから誰が来るのか知っていたかのように、アッサリと答えた。


「……ずいぶんと手荒な真似をするんだな? ユリウス」

 

 ウォルターによって、丁重に部屋に通された男性に、レオニスが声をかける。

 ユリウスと呼ばれた男性は、気まずそうに苦笑した。


「すまんな、命令には逆らえなくてね」


 レオニスの知り合い……みたいね?


「ご夫人、夜分遅くに失礼します。私はユリウス・ダナート。レオニスの親友です……しばらく彼をお預かりしますが、どうかご安心ください」

「親友って自分で言うのはお前だけだぞ……?」


 ユリウスの短く整えられた透き通るような金髪は、丁寧にセットされていて、少し動いても乱れそうにない。

 愛嬌のある青い瞳は、思わず吸い込まれそうなほど魅力的だった。


「あ、はい……いや、心配しないわけないでしょう!? しかも、これが親友同士の会話なの……そうは聞こえませんけど?」


 私が言い返すと、ユリウスは一瞬きょとんとした後、レオニスに視線を移して苦笑する。


「いや、失礼。案外と上手くいってるんじゃないか? レオニス」

「まあな。だが、もっと俺を意識してもらうためには、活躍するところを見せないとな!」


 言い終わらないうちに、レオニスはユリウスの腰の剣を引き抜き、彼を壁の方へ突き飛ばした。

 今まさに、ひとりの兵士が後ろからユリウスを切り捨てようと、剣を高々と振り上げていた。

 

 レオニスは振り下ろされた剣を受け止め、強く弾き返すと、そのまま相手へ真上から剣を叩きつける。


「貴様ら、何者だ! 見覚えのない顔ばかりだな。俺を騙せるとでも思ったか!」

「……へっ、バレたか。じゃあ、しょうがねぇなぁ!」


「お、お前ら一体誰なんだ!」


 部屋の前まで乗り込んでいた20名近くの兵士たちが、鉄兜(てつかぶと)を脱ぎ捨てる。

 周囲の正規軍の兵士たちは、目を見張り驚きの声をあげた。


 兜、脱がない方がいいんじゃないの……危ないよ!?


「ユリウス、手伝え!」

「くそっ! 俺まで標的なのかよ!?」


 ユリウスは、レオニスが倒した敵の剣を素早く奪い取り、ふたりで背中合わせに立つ。

 彼らの周りをジリジリと敵が囲んでいった。


「こんな風に追い込まれるのも久しぶりじゃないか?」

「余裕すぎるんだよ……レオニスは。戦争だって、お前が早く終わらせたようなもんだろ?」


 あれ……レオニスってもしかしてスパダリなの?


「死ね!」

 

 レオニスは敵のひとりが飛びかかってくるのを華麗に避け、剣を横に振り抜いて相手を弾き飛ばした。

 軽く払ったように見えたのに、敵の体は大きく吹き飛び地面に転がる。


 ひとり、またひとりと敵は倒れ、その数は少なくなっていく。

 事情を飲み込めない正規軍の兵士たちは、ただオロオロとその様子を眺めているだけだった。


「おい! お前ら、どっちにつくんだ!? 今頑張れば、昇進は間違いなしだぞ!」

「は、はい!」


 ユリウスの一声で、正規軍兵士たちはようやく我に返り、慌てて戦いに加わった。


「ふぅ……これで全部か」


 ユリウスが最後の敵を斬り伏せ、皆が息を整える。


「危ない!」


 小さな「シュッ」という音がして、次の瞬間、視界を遮る大きな背中が飛び込んできた。

 私は反射的にテオを抱きしめたけど、目を開けるとその背中はレオニスのものだとすぐに気がついた。


「え……レオニス?」


 少しの沈黙の後、彼の体が小さく震え、こっちに向けた顔はわずかに青ざめていた。


「レオニス! おい、大丈夫か!?」


 大声で呼びかけながら、ユリウスが駆け寄ってくる。

 レオニスの左腕には、小さな針のようなものが刺さっていた。


「……レオニス?」


 彼はガクンと膝をついて、すぐに立ち上がろうとするけど、足に力が入らないようだった。


「お、俺の家族には、指一本触れさせない……!」

「レオニス、あなた……!」


 倒れ込む彼の大きな身体を、周りの兵士に手伝ってもらいながら何とか横たえる。


「くそっ、この野郎!」


 レオニスに膝をつかせた敵の男は、ユリウスが怒りを込めて斬り倒した。


「レオニス! レオニス!」

「まずいぞ、毒だ!」


 私はユリウスの声に、ハッと我に返る。


「それ以上動かしちゃダメ! 誰か綺麗な水を持って来て! それからお医者様を、早く!」

「君は……詳しいんだな」


 声がした方を見ると、横たわったレオニスが力なく笑って私を見上げていた。

 その声は、さっきまでの力強さが嘘のように弱々しい。


 額には汗がにじみ、唇の色が少しずつ青ざめていくのがハッキリと分かる。


「レオニス……!?」

 

 私が名前を呼ぶと、彼は小さく息を吐き目を閉じそうになる。

 ダメ……数値が下がってる、早く処置しないと。


「誰か……誰か、早くお医者様を呼んできて!」


 額の汗と青ざめた唇——目の前に表示される彼の数値は、さらに低下していくばかりだった。

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