↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷遇された後妻ですが、義理の息子を守っていたらいつの間にか家族になっていました  作者: 秋月 爽良


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/36

第二十七の手 今、いいとこなのに!

「母しゃま!」

「テオ!」


 マリネに抱きかかえられたまま、伸ばされた小さな手に思わず駆け寄り、力強く抱きしめる。

 ほんの少し会えなかっただけなのに、ずいぶんと長く、その温かさに触れていなかったような気がした。


「お熱も下がったようで、奥様を探しておられましたから」

「マリネ、ありがとう……テオ、ちょっとお熱測るわね」


 そっと額に手を当てると、全ての数値が緑色に変わっていた。


「下がってる……! よく頑張ったね」


 この子が無事で本当に良かったと、心から思う。

 柔らかな小さいほっぺを指でスリスリしながら、涙がこぼれそうになった。


「さあ、ソファに座ろっか」


 テオを抱きかかえたまま座ると、隣のレオニスと向かいに座っているカイルが、じっとこっちを見つめているのに気付いた。


「あの……ふたりとも、どうかしました?」


 テオもなぜか隣に座るレオニスから目を離さず、親子で見つめ合っている。


「いや、人の噂なんて当てにならないなと思いまして」

「ああ、あれですか? ふふ……勝手に一人歩きしてるから。でも私はこの子がいてくれて、すごく幸せなの」


 私はテオの背中をさすりながら、優しく抱きしめる。

 カイルは慌ててブンブンと手を振った。


「いやいや、俺は最初っから信じていませんでしたけどね? それに、奥様は十分魅力的な方ですよ」

「あなた、女性にモテるでしょ?」


「いやぁ、そんなことは……まあ、ありますけどね!」

「コイツは、自信過剰だからな……」


 カイルとレオニスの様子に、思わず笑ってしまう。


「めっ! 母しゃま、とっちゃだめ!」

「……テオ?」


 突然肩を小さな手でペチペチと叩かれて、レオニスは驚愕の表情を浮かべる。


「テオ、どうしたの?」


 不満げな顔を覗き込むと、上手く言葉にできないみたいで余計に機嫌が悪くなった。


「あ、もしかしてヤキモチ焼いてらっしゃるんですかね?」

「えっ?」


 カイルはニヤリと笑う。


「旦那、坊ちゃまにライバルと思われてますよ?」

「なっ……か、彼女は俺の妻だ」


 レオニスの言葉に、私はちょっとだけムッとしてしまった。


「あら? 干渉するなとおっしゃったのは、旦那様じゃないですか」

「そ、それは……いや、改めて君と話をしたい。ふたりにも、きちんと謝罪したい。どうか俺に時間をくれないか?」


 どう返事をするべきか、私はしばらく考え込む。

 この身体の持ち主のエリシアのためにも、逃げちゃいけない気がするから。


 ◇


「やだっ! いやあぁぁー!」


 テオが泣き叫ぶ声が廊下まで聞こえているのか、心配そうにマリネがそっと様子をうかがっているのが見える。


「大丈夫だから、ね? マリネと一緒にお部屋で寝よう?」


 テオは私の服を掴んで、絶対に放そうとしない。

 そばでオロオロしているレオニスは、困惑の表情を浮かべていた。


「ふたりに謝罪したい」


 レオニスが私たちに言った翌日。

 テオは、私のそばを片時も離れようとはしなかった。


「本当に申し訳なかった、君にもテオにも。簡単に許してもらえるとは思っていないが」


 私は離れようとしないテオを抱きかかえたまま、冷遇されたことについて、レオニスから謝罪を受けた。

 許すかどうかは別としてだけど。


 「あとは君の気持ち次第だが、俺はいつまでも待つ……もし君が他の人生を選ぶと言うなら、できる限りの援助はさせてもらうつもりだ」


 そう言って寂しそうに笑うレオニスが、なぜか少し気の毒に思ってしまった。

 ただ私も、自分についての噂を知っていたのに、弁解しようとしなかったし。


「いやぁ! 母しゃま!」

「困りましたね……どうしたらいいんでしょう、旦那様」


 どうしたんだろ……いつもはご機嫌なんだけどな。

 表示される数値はどれも緑色で、特にこれといった異常も見つからなかった。


「ううむ……テオが寝入ってから話をしたくても、いつの間にか目を覚まして君を探すからな」

  

 謝罪はしてもらったけど、子どもがいる前ではできない大人の話もある。

 それに今はレオニスの叔父の件もあって、みんな忙しい。

 

 全て終わってからでもいいと私は言ったけど、彼は案外頑固だった。


「それと、その……提案なんだが、聞いてもらえないか?」

「あ……はい。何でしょうか?」


「その言葉遣いを変えてもらえないだろうか。敬語はいらない、名前も呼び捨てでいい」

「よろしいのですか?」


「ああ、頼む」


 レオニスは気まずそうにそっと視線を足元に下げると、ポリポリと指で頬をかいた。


「そ、それからその……」

「なんで——あ……何?」


「お、同じベッドで寝る……というのはどうだろうか?」

「えっ?」


 私が目を見開いて驚くと、焦ったのか、レオニスは慌てて立ち上がった。


「い、いや、3人でだ! それに君が嫌なら無理強いはしない! ベッドももっと大きいものを作らせる……!」


 しどろもどろになる彼を見て、私は思わず笑ってしまった。


「その……駄目か?」

「うーん、この子が許可してくれるなら……どうしよっか?」


 私はもったいぶるようにテオの顔をのぞきこんで、小さな声でたずねた。

 このぐらいはお返しさせてもらうんだから。


 テオもレオニスの慌てる様子をキョトンとした顔で見ていたけど、私が微笑むとにこりと笑い返してくれた。


「ほ、本当か!? ありがとう、テオ!」

「この子はまだ何も言ってないけど?」


 レオニスは私の話を聞いていないのか、満面の笑みを浮かべ、テオの両脇を抱えて高く持ち上げる。

 飛行機のように優しく宙を泳がせ、クルクルと回った。


「きゃあ、きゃあぁ!」


 フワフワとした感覚が楽しかったのか、テオは嬉しそうに笑う。

 こんな人だったんだ……叔父の件がなければ、知らなかったかもしれない一面。


 レオニスを拒絶するのは簡単だ。

 でも結論を出すのは、少しずつ変わり始めた彼の話を聞いてからでも遅くないと思う。


 私も、いずれ話さなければならないことがある……それがいつかは分からないけど。


 ◇


「……よし、しばらくはこれで我慢するか」


 なんか今、後ろで聞こえたけど。


 結局、夫婦の寝室には大きなベッドが運び込まれた。

 真ん中にテオを挟んで、私たち夫婦は彼の左右で寝る形だ。


「それ、いつも使っているのか?」


 テオが眠ったあとも、私はいつものようにノートへ記録を続けていた。

 後ろから、レオニスがのぞき込んでくる。


「そう、毎日記録してるの。見てみる?」

「ああ」


 レオニスはノートを手に、私の隣の席に腰掛けた。


 以前なら、こんなふうに話すなんて考えられなかった。

 でも今は、不思議とそうするのが自然に思える。


「……ずいぶん細かく記録しているんだな」

「この子の体調が悪化する原因が、分からなかったから」


 そうか、と彼はつぶやいてページをめくる。


「君に任せっきりですまなかった……」

「もう謝罪は受けたけど?」


 私がふふっと笑うと、彼も苦笑する。

 夫婦ってこんな感じなのかな?


 レオニスはノートを閉じ、私の目の前に置いて姿勢を正した。


「言い訳に聞こえるかもしれないが、俺がテオと向き合わなかった理由を聞いて欲しい」

「ごめんなさい、少し聞いて知ってるの……」


「……いや、いいんだ。キアーナと俺は政略結婚で、彼女はここに来てしばらくすると、毎日のように俺を詰るようになった」

「キアーナ様は寂しかったんじゃないかって、そう聞いたわ」


 彼は軽く頭を振った。


「それもあるかもしれないが……彼女には恋人がいたらしい」

「え……そうなの?」


「その恋人が庶民で、キアーナの両親は付き合いを認めなかったそうだ」

「そうだったの……なんだか、あなたも彼女も気の毒だわ」


 そうつぶやくと、目の前のレオニスはふっと微笑んだ。


「君は貴族らしくないんだな……元々そうなのか?」

「え……ええ、そうね」


 笑って誤魔化すと、レオニスはさほど気にしていないようだった。


「キアーナの体調が目に見えて悪くなった頃には、彼女にすっかり嫌われていたからな……見舞いも拒絶されてしまった。君との結婚が決まったとき、その……噂を聞いて、関わらなければお互い傷つくこともないと思ったんだ」


「そうだったの。それで初対面でああ言ったのね」


 うんうんと妙に納得している私が不思議なのか、レオニスは首を傾げる。


「君は怒らないのか……?」


 私は、きゅっと唇を引き結んだ。

 今、話してもいいのかな……本当のエリシアじゃないって。


 彼は心を開いてくれたから、今度は私の番ね。


「私、本当はね――」

「旦那様、大変です! 屋敷の周りが……包囲されています!」


 扉が激しく叩かれ、ウォルターの叫ぶ声が屋敷に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。