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冷遇された後妻ですが、義理の息子を守っていたらいつの間にか家族になっていました  作者: 秋月 爽良


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第二十六の手 旦那様、先に言ってください

「ねぇ、どうかしたの?」

「あっ、奥様……」


 数日後、報告を待つ間、テオの様子を見に行こうと廊下を歩いていた私は、オロオロと落ち着かない様子のメイドたちが気になって声をかけた。


「じつは最近、不審な人物が屋敷の周りをうろついているんです」

「そうなの?」


 話を聞いてみると、屋敷の外で不審者の影がちらつき始め、後を付けられた者もいるらしい。


「旦那様に言って警備を強化してもらうわね。でもなるべく外出しないで。他の人たちにも伝えてくれる?」

「は、はい! ありがとうございます!」


 メイドたちは、嬉しそうに頭を下げる。

 私はすぐに踵を返し、レオニスの元へ向かった。

 

 ノックをして返事を聞く前に部屋へ入ると、彼は目を細めて窓の外を見つめていた。

 その顔は普段の冷静さに加えて、警戒心を強く帯びているように見える。


「旦那様……」

「分かっている。もう報告は受けているし、対策も済ませてある」


「何か仕掛けてくるのでしょうか?」

「表だって何かするとはさすがに思えないが……証人をこちらが押さえているのには、気付いているだろうからな」

 

 レオニスはきっと、使用人を押さえたあとで叔父を追及するつもりなんだろう。

 証拠は多ければ多いほどいいから。


 私は、窓から見える屋敷の門の方に目を向けた。

 よく見ると、一台の馬車から降りた女性が門番と言い争っている。


「旦那様、あれを見てください」


 彼は私のそばに身体を寄せると、目を細めてじっと様子をうかがった。


「何だ? 口論しているようだが」

「屋敷に用事でしょうか……必死になにかを訴えているようですね」

 

「むう、しかしな……」


 泣きながら懇願している彼女が可哀想で、話だけでもと言った私に、レオニスは渋い顔をした。


「旦那様がいらっしゃれば大丈夫でしょう? それとも私が行って来ましょうか?」


 結局女性はレオニスの部下たちに周りを囲まれ、屋敷内の応接室へ連れてこられた。

 我ながら、何て無謀なことをしたんだろうとは思う。


 ソファに座る目の前の女性は、涙を拭いながら顔色を赤くしたり、青くしたりと忙しかった。


「あの、どうされたんですか?」


 レオニスとふたり並んで、ソファに腰掛ける。

 彼は難しい顔をして、彼女を見据えていた。


 恐ろしかったのか、女性はしばらく言葉を絞り出すことができなかった。


「た、助けてください……彼らが私たちを監視しているんです」

「誰に監視されているんだ?」


 彼女は震えながらも、言葉を続ける。


「い、言えません……夫が商品を納めに行ってから、まだ戻ってきていないんです」


 彼女は男性の名前を口にする。


「旦那様……こちらの女性は、あの男性の妻なんじゃないでしょうか?」

「彼は証人としてこちらで拘束している」


「じゃあ、あの人は生きているんですね!? あの……せめて一目だけでも夫に会わせてもらえませんか? 無事を確かめたいんです」


 顔を上げて嬉しそうに笑った彼女は、私には夫を案じる妻にしか見えない。

 ただ、許可するかどうかはレオニスが決めることだ……私は彼の言葉をじっと待った。


「……いいだろう。準備をするから少し待ちなさい」

「あ、ありがとうございます!」


 彼はウォルターに何事かささやくと、テーブルの上に用意されていたお茶を一口飲んだ。

 女性はすごく喜んで、何度も私達にお礼を言う。


「旦那様、準備が整ったようです」


 執事に案内され、兵士たちも含め、数人で商人がいるという地下室へ向かう。

 私の隣にはレオニスが張り付き、さらに数名の護衛がその周りを固めていた。


「こちらでございます」


 ウォルターによって扉が開かれると、ひとりの男性がこっちを振り返った。


「えっ? あれ、あなた……ムガッ」


 思わず声を上げた瞬間、レオニスの大きな手で口を塞がれ、後ろへぐいと引っ張られる。


「静かに……!」

「あなた! 無事だったのね!」


 そう言いながら女性は駆け出すと、男性に飛び付いた。

 彼女の袖口から銀色のものが滑り出す。


「……うぐっ!」


 彼女は男性をナイフで突き刺すと、身を翻して素早く部屋を飛び出した。


「追え! 追うんだ!」

「はいっ!」


 レオニスの命令を聞いて、周りの兵士たちが一斉に動き出す。

 私は口を塞がれたまま、呆然とその光景を見つめることしかできなかった。


「うぐぅ……うごぉうあ!」


 声を出したくても出せない、レオニスに口を塞がれているから。

 男性が刺されたことに動揺して、必死にレオニスの手を剥がそうともがいた。


「アハハハ、甘すぎるんじゃないの? これで証人は消えたわ!」


 彼女は笑いながら兵士たちの間を華麗にすり抜け、あっという間に私たちの目の前から消えてしまった。


「だ、旦那しゃま……?」

「……ああ、悪い」


 刺された男性を直接見るのが怖くて、顔を両手で覆いながらガタガタと震えていた。


「大丈夫か?」


 落ち着かせるように、彼がそっと私を抱きしめる。


「は、早く彼に手当を……あなた、最初から彼女が怪しいって分かってたんですか!?」

「ああ、そうだ」


「教えてくれれば良かったのに……! 私のせいで、カイルさんが刺されちゃった!」


 やつ当たりだとは分かっていたけど、恨めしそうにレオニスの顔をじっと睨む。


「俺も急に思い付いてな……説明する暇がなかったんだよ。それに、心配しなくても大丈夫だ」

「そうですよ、奥様。俺はこんなにピンピンしてますよ!」


 後ろから聞き覚えのある声がして、私は驚いて振り返った。


「えっ、カイルさん!? あなた刺されたんじゃないの!?」


 私は無理矢理レオニスの腕を引き剥がした。


「急に呼び出されたんで慌てましたよ。ほら見てください! 鉄板を仕込んでたんで怪我ひとつありません。それと奥様、俺のことはカイルと呼び捨てにしてもらえると嬉しいです」


 彼が無邪気に胸を張って言うけど、私はその明るさに戸惑った。

 分かってたつもりだけど、こういう世界なんだ……。

 

 彼の無事を確認できたことで少しだけほっとしたけど、それでも胸の中の叔父への不安と怒りが消えていない。


「分かったわ、カイルね? あなたたち、最初からこういうつもりだったんでしょ……無事で良かったけど、心配だから無茶はしないで」

「……とりあえず、部屋へ戻るか」


 ばつが悪そうな顔をするレオニスに促され、3人で廊下を歩く。

 カイルは鼻歌を歌いながら、リズムに合わせて歩いていた。


 その外れた音程に、私たちは思わず苦笑する。


「閣下。女は逃がしましたが、監視を付け泳がせています」

「そうか。ご苦労」


 ソファに腰掛けると、報告のために兵士のひとりが部屋へ入ってくる。


「上手く引っかかってくれて良かったですね? 旦那」

「……ああ、そうだな。エリシア、君のおかげだ」


「私は何もしていませんから。しかも、敵をわざわざ屋敷の中に招き入れたし……責任を感じてます」

「いやいや、それが良かったんですよ。これで相手は油断しますから」


「ふたりとも、ありがとう……」


 笑顔を作ろうとはしたけど、言葉を続けるのがやっとで、手はいまだに震えていた。

 ふたりは肩を落とす私を慰めてくれる、本当に反省しなくちゃ。


「……まだ怖いのか? 手が震えている」


 レオニスはそう言うと、そっと私の手をとろうとした。


 コンコン——。

 扉をノックする音が響いて、テオがマリネに抱きかかえられたまま、顔を覗かせていた。

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