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冷遇された後妻ですが、義理の息子を守っていたらいつの間にか家族になっていました  作者: 秋月 爽良


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第二十五の手 レオニスの本気

 夜も更け、報告を待つ部屋の中は、しんと静まり返っていた。

 私は机に突っ伏しそうになりながらも、資料に目を通し続ける。


「……え?」


 背中に気配を感じて振り返ると、落ち着いた色合いのケープが私の肩を覆っていた。

 視線を上げると、すぐ後ろに立つレオニスが、腕を組んで私を見下ろしている。


「根を詰めすぎだ……君が倒れたら、テオが悲しむだろ?」

「あ、ありがとうございます」


 へえ、意外……こんな気遣いもできるんだ。


 声は相変わらずぶっきらぼうだったけど、なぜか胸の奥が少し温かくなる。

 自分自身の変化に苦笑しながらも、そっと肩に触れた布の感触を確かめるように生地を撫でた。


「閣下、調査班からの報告です」


 扉の外から兵士の声が聞こえてくると、私は思わず立ち上がってレオニスのほうへ視線を向ける。

 彼は机の上に資料を広げ、落ち着いた表情で頷いた。


「よし、入れ」


 朝から続々と調査班からの報告が届き始めていて、兵士のひとりがレオニスの前にひざまずく。

 私は緊張しながら、隣で耳をそばだてていた。


「……旦那、ちょっといいですか?」


 落ち着いた声に振り向くと、ふたりの男性が扉の側から中を覗いていた。


「どうした? カイル」

「おい! 中に入れ!」


 ルディに背中を蹴飛ばされ、顔面蒼白の男が転がり込んでくる。

 彼はガクガクと小動物のように震え、視線を泳がせていた。


「彼は?」

「例の商人ですよ。直接問い質した方が早いと思って連れてきました」


「おい、どういうことか話せ」

「いっ! いたた、痛いですって! 私は何も知りませんから!」


 ルディが商人の腕を後ろに捻り上げると、彼は顔をしかめ悲鳴をあげた。

 側で見ていたレオニスは、イラついたようにすらりと剣を抜いて、商人の首元に当てる。


「……話せ。嘘は吐く(つく)なよ?」


 うわ……剣抜いたよ、この人。


「おっ、旦那。気合い入ってますね」


 カイルは慣れているからか、茶化すような態度で特に気にもしていない。


「ひ、ひいっ……お許しください! わ、私は子爵から、言う通りにすれば取引を優遇すると言われたんです!」


 子爵って、まさか……。

 思わず声が出そうになって、慌てて口を押さえる私の横で、レオニスの表情も固くなっていた。


「でも途中からおかしいと思って断ろうとしたんです! でも家族を殺すと脅されて……脅されてっ……!」 

「……その者の名を言え」


「フ、フォルスター子爵です」

「なんだと?」


 フォルスターって、あの神経質な人だよね……レオニスの叔父の。

 でも何のために、彼があんなに小さいテオを狙うの?


 もっと話を聞き出さなくっちゃ。


 商人は身体をブルブルと震わせ、しどろもどろになっていた。

 私は水差しからコップに水を注ぎ、そっと差し出す。


「ねぇ、落ち着いてゆっくり呼吸してみて。誰に何を脅されたのか、順番に話してくれないかしら?」


 優しく話しかけ、ニッコリと微笑むと、商人はほっとした表情を見せる。


「……気持ちは分かりますけど、旦那様も少し落ち着いてください」

「わかった」


 レオニスは眉尻を下げ、ため息を吐くと、剣を鞘に納めてくれた。


 これぞ飴と鞭ってやつでしょ? 

 覚悟しなさいよ……テオを苦しめたこと、絶対に許さないんだから!


 ◆


 隣のテーブルでは、ノエルたちが帳簿を並べて照合し続けてくれていた。


「なぁノエル、やっぱり、ここの数が多すぎないか? 納入した薬草の量が、帳簿と一致してないよ」

「こっちの記録もだ。それに、これ……いつからだ? ずいぶん前からじゃないか――」


 ノエルの言葉に、商人を尋問していたレオニスたちの視線が一斉に集まった。

 マリネは昔の納品記録を手に取って、ふたりの側に座った。


「この帳簿だと……キアーナ様がいらっしゃった時から、怪しい納入があったみたいね。まさか、この頃からだというの?」


 3人は顔を見合わせて、複雑そうな表情を浮かべていた。


「キアーナ様がお亡くなりになったのも、これが原因なんじゃないのか……?」


 ニコラスがぼそりと呟くと、部屋の中が静まりかえった。

 

「おい、これ全部同じ使用人が担当しているぞ? こことここ、そっちにも署名がある」


 冷静に帳簿を見比べ続けるノエルの声には、ほんの少し怒気が込められていた。

 彼の言葉に、顔を真っ青にしたニコラスが慌てて立ち上がる。


「だ、旦那様……すぐに、ご報告したいことがございます!」


 ◇


 ニコラスたちの報告を聞いて、レオニスはすぐに執事のウォルターを呼びつけ、署名をしたという使用人の行方を確認していた。


「旦那様……」

「実家に戻ると言って、すでにここを辞めているそうだ。今、部下たちに追わせている」


 鋭い目をしたレオニスは、低い声で吐き捨てるように言った。


「……そうですか、見つかるといいんですが」


 これは現実に起こっていること――淡々と指示を出す彼の横顔を、私は見つめるしかなかった。


「……それと、調査に必要以上に干渉してくる兵士たちがいるらしい。あれは……叔父の指示かもしれん」

「叔父様がどうやって?」


「今は子爵だが、元は辺境伯の直系だからな。軍内部にも知り合いがいるだろう。密かに監視をつけさせてある」


 ここまで来たらもう引き返せはしない、覚悟を決めるしか――。

 私は震える胸を落ち着かせたくて、机の上に置いてある資料をぎゅっと握りしめた。


「おい、商人の方はどうだ?」

「コイツもなかなかのクズですね。以前から請求を水増しして、浮いたお金を懐に入れていたようです。それを子爵に気づかれて、協力するよう脅されていたと供述しています」


 カイルの言葉に、レオニスは眉間にしわを寄せる。


「……だれか、そいつを地下室に放り込んでおけ!」


 皆が不安げに見守る中、レオニスは冷徹に言い放った。

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